無意識に体がガクガクと震え出す。胸を中心に全身まで熱が広がる。
瞼をぎこちなく開くと真っ白な世界に男の人が立っている。
「おいで、翠星石、蒼星石」
すいせいせき。そうせいせき。
それが何かは分からなかったが椅子から降り、覚束ない足取りで男の元へ向かう。
まだ固まっている関節がギシギシと音をたてる。
己の歩く音に混じって、もう一つ、足音が聞こえた。
「イイコだ…」
ほぼ同時に着いた二体の人形を抱きかかえながら、頭を撫でる。
まだ意識がぼぅっとしている。分かったのは誰かに抱かれていることと、目の前に蒼の服をまとった少女人形がいる、ということだけだった。
──過去とか 未来とか 現在とか
この世で覚醒してから、私達は双子と教えられた。 それと同時に、庭師であると。
人の心の成長を少しだけ手伝うのだと。
「鋏だけでは傷つけることしかできないです」
「如雨露だって雑草を増やすしかできないだろう」
双子だからと最初は同じミーディアムのところに着き、同じマスターと契約している。
「おめぇなんかと一緒にいるのはやです」
「こっちの台詞だよ」
同じマスターでいる限り、ゲームを行うことさえできない。相手を傷つけるということは、マスター、そして自分を攻撃することになるから。
「また喧嘩してるの?」
「マスター…」
「志津…」
美しい漆黒の髪を棚引かせた志津という名のマスターがポツリと呟いた。
「仲良くしなさい。貴女達は姉妹なのでしょう?」
姉妹なんかじゃない。戦う為に産まれてきたのだ。ようするに敵なのだ。
チラリとお互いを見たがすぐにいーっと歯を剥き出して威嚇しあった。
その様子を見て悲しげに眉を寄せる志津を見ると辛かったが気にしなかった。
「きりしたん?」
食事時に志津が口を開いた。聞き馴染みのない言葉に疑問符を浮かべる。
「えぇ、この国の外には他に国があり、そこの国で栄えている宗教の信者よ」
よく分からない言葉も多かったが、志津がそのきりしたんであることは分かった。
「でね、そのきりしたんは迫害を受けてるの。分かる?殺されちゃうの」
「何故ですか?」
私のその問いに困ったように微笑むと、どうしてでしょうね、と答えた。
その時は何故私達にその話をしたか分からなかった。
「秀吉様の使いが来たぞ!」
家の扉をガラリと開け、一人の男が志津に向かって叫んだ。
志津は一瞬の内に私達を抱え、押し入れの中に入れた。
「いい?もし見られても絶対に動いちゃ駄目よ!」
そう言うと乱暴に押し入れの襖を閉めた。
やがて家の扉が乱暴に開かれ、がやがやと大人数が来たらしい。
「きりしたんがいると聞いてな」
大人の男のしゃがれた声が響く。
乱暴に閉めた為に跳ね返った襖の隙間から少しだけ様子が伺えた。
男は何やら板を床に置き、踏め、と志津に言うが、志津は悔しそうに首を振った。
「っ…!」
思わず出そうになった声をあわてて自分で塞いだ。腹に刀を突かれている志津の姿。
やがてずかずかと一人の男がこちらに来て、襖を力任せに開いた。
「やはりか…」
動かないように努めたが、男は私の首元を掴むと持ち上げた。
「茶色の髪にこの服は、西洋のものだろう」
ようやく床に置かれ安堵したのも束の間、今度見えたのは口元に嫌な笑みを浮かべ、刀を振りかざしている男の姿。
「いやぁぁあっ!」
「レンピカ!」
叫ぶと同時に蒼星石のその声が聞こえ、鋏で刀を止めた。
「うわぁぁぁぁぁあっ!」
男達は腰が抜けたようで、尻餅を付くと、這いつくばって逃げていった。
「あ、ありがとです…」
蒼星石はその声も聞こえてないようで、志津の方を見つめている。
そこでハッと思い出した。志津は腹を刺されたのだ。
「志津っ!」
「マスター!」
ほとんど同時に志津の元へ駆け寄った。おびただしい量の血が、床に広がる。
「すいせ、せき…そう、せ、せき…」
力のない腕で、私達の頭を交互に撫でた。
涙を溢しながらにこりと微笑む。
「わたし、からの…最期の、お願い…」
そこでゲホッと志津が咳き込むと同時に少量の血が溢れた。
「仲良くし、なさい?…たった二人の、家族でしょう?」
「志津…」
「私には、家族がいない。父は戦…で死ん、しまった。母は、私の産まれ、と同…時に」
だから、と志津が呟く。
「なかよ、く…」
そう言いながら瞼が閉じられた。
「志津?…し、…志津!!」
もういくら名を呼んでも、返事はなかった。
「すい、せ、せき…」
名を呼ばれ振り替えれば、ガクガクと崩れそうな蒼星石。
マスターがいなくなったから、力の源がなくなってしまい、私も眠るのだろう。
蒼星石は私を助けるために力を使ったため私より早いのだろう。
「蒼星石っ」
崩れそうになった体を抱き締め、支える。
「すい、せ、…せき、ごめ、んね…」
蒼星石の腕が私の頬へ伸びてくる。
「今ま、で…ひどいこ、と、言って…」
どうやら私も限界らしく、視界が霞んできた。
「ほんと、は…大好、きだよ?」
力の入らない手で精一杯抱き締める。
「次、目覚めるときも…一緒に…」
ガクン、と首が項垂れ、動かなくなった。
「私も…大、好きで、す…よ」
もう聞こえないだろうが、言わずにはいられなかった。
「ずっと、…一緒…です、よ」
その瞬間、意識が飛んだ。
次、目覚めたときに隣に君がいることを望みながら。
終わり
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