付き合って一ヶ月して手を繋いだ。三ヶ月でキスをした。
遅いペースかと思われるかもしれない。しかし、そういう雰囲気が苦手な彼女には丁度いいペース。
部屋を見渡しながら、手を払う為にパンパンと二回手を打った。
「片付け良し!シーツ良し!知識も良し!」
女の子同士のためのバイブルを机の引き出しにしまいこむ。
付き合って一年。よく待った、と自分を誉めてやりたい。
華奢な体とかさらさらと流れる黄金の髪を見る度に沸き起こる欲望を抑えるのが大変だった。
「さぁ、どっからでもいらっしゃぁい、真紅!」
と、叫んだ途端インターフォンが鳴り響き、心臓がビクリと跳ねた。
たたっと階段を駈け降り、玄関のドアを開けた。
「いらっしゃぁい、真紅」
「いきなり開けるのは無用心だと…」
「はいはぁい、ごめんなさぁい」
いつものやり取りを軽く受け流し、部屋へと案内する。
今日は決戦の日。
──体を重ねるということ
「適当に座ってぇ」
「えぇ」
そう言うと、ベッドの足側に座った。これも実は長い間かけてそこを定位置にした。
これなら自然の流れでベッドに飛び込める。
オレンジペコの紅茶を振る舞う。真紅に紅茶を出すときが一番緊張する。今日は更に、だ。
もしここで受け入れられないと、帰るまで紅茶の話しかしなくなる。それだけは避けたい。
「どう?」
ゆっくりとカップに口づけ、口に流し込むと喉がコクリと鳴った。
「おいしいわ」
気に入ってもらえれば極上の笑顔も付いてくる。これが見たくて紅茶を振る舞うのだ。
「CDかけても良い?」
「いいわよ」
CDをセットし、再生ボタンを押す。
真紅の好みに合わせて、それでいてムードの出るやつ。
何にしようか散々悩んだが、結局真紅の一番好きな歌にした。
「あら」
「好きでしょ?」
「えぇ」
表面上は何でもないフリをしているが、実は心臓がバクバク言っている。
さりげなくいつもより距離を近付けて腰かける。ベッドの軋む音が耳にまとわりついて困る。
「良い唄よね」
「えっ?え、えぇ、そうねぇ…」
チラリ、と真紅を見るとどこを見るわけでもなくぼぉっと唄に聞き入っているようだった。
「私も、こんな感じだったわ…」
途端に右肩に重みを感じて見てみると、真紅が頭を預けてくれていた。
「ごめんなさい、何もできなくて…」
ふと、下ろしていた手のひらに手を重ねられ、驚いて見ると、真紅の真っ直ぐな視線とぶつかった。
そこで何のことかピンときた。
両親を突然の事故で失った。自暴自棄になって堕ちるとこまで堕ちた。
醜い傷を、手首に何度も刻み込んだ。両親のもとへ行きたくて。
「真紅…」
手首の傷痕は消えたけど、この子はまだ私の変わりに傷を負っていたのだ。
「おバカさぁん」
きゅう、と胸が痛む。この子はこんなにも私を思ってくれているのだ。
愛しさのあまり彼女をぎゅ、と抱き締めた。
「貴女にはどれだけ感謝してるか分からないのよぉ?」
仄かに甘い香りが鼻腔をくすぐる。愛しい子がすぐ近くにいてくれる嬉しさ。
どれだけ私が落ちても見捨てることはしなかった。いつも私を気にかけてくれていた。
「ありがとう、真紅…」
「水銀燈…」
柔らかな頬に口づける。恥ずかしそうに頬を染め、俯く姿がどうにもかわいくて、衝動的に押し倒した。
「水銀燈…?」
何が起きたか分からない、というように不安げに瞳を揺らす。
「真紅、…いい?」
何が、とは言わないでも、きっと伝わるはず。ここで拒否されたら、やめようとまで思えた。
何のことか察したようで、視線を反らすと、本当に小さく首を縦に振った。
ゴクリ、と生唾を飲み込むと、真紅とその名の通り赤く熟れた唇を重ねた。
唇の僅かな隙間から舌を入れると、深くまで追う。
最初はほとんど応じてこないが、幾度も舌を吸い、歯列をなぞると少しずつ応え初めてくる。
ここまでは既に経験済みの行為。脇腹を撫でていた手を少しずつ胸の方へ寄せる。
なるだけ怖がらせないように、もう片方の手は指を絡めて握っている。
「…っ」
息を詰めたのは私の手が胸を撫でたから。自分の手で真紅が乱れると思うとそれだけでゾクゾクする。
「っん…」
ほとんど平らに近いその膨らみをゆっくり揉みしだき、Tシャツの中に手を滑らせる。
唇は首筋に移り、形のいい鎖骨に沿って舌を這わせる。
予想よりもすべすべで柔らかくて潤いのある素肌は誘うように手のひらに吸い付いてくる。
Tシャツをまくりあげ、ブラジャー付近の肌に口づける。
「やっ…」
ビクリと真紅が震え、吐息を熱のこもった漏らした。感じてくれているのだろうか?
小降りのブラジャーのホックに手をかけ、殊更ゆっくり外し、胸を露にした。
色の薄い突起がぷくりと膨れているのを見ると背中がゾクリとした。
「可愛い…」
「っや、…すいぎ、とっ…」
むしゃぶりつくように口に含むと、心もとないような声が上がる。
「や、っあぁっ…ひぁ…」
舌で転がしたり、つついたりしていく内に真紅の上がる声から刺々しさがなくなった。
「ふぁ…あっ…、んっ…」
甘さを含んだその声が酷く扇情的だった。その声に誘われて、タイトスカートをおみ足を撫でながらまくる。
病弱っぽさがない細い足はいつもより綺麗に見えた。
下着が見えるほどのところまでめくると、真紅から初めてストップの手がかかった。
「や、やぁ…すいぎんと…」
私の手を震えながら、押さえる姿には恐怖の色が浮かんでいた。
「怖い…?」
真紅も戸惑っているらしい。受け入れたい、けれども怖い、そんな顔色をしている。
「やめてもいいわよぉ?」
本心だった。無理矢理するようなことだけはしたくなかった。
真紅を起こさせ、膝に乗せて、柔らかく抱き締めた。
「無理はさせたくないのぉ。分かる?」
コクリと首を縦に振った。
「ううん、分かってないわぁ。まだ怖いんでしょぉ?」
頷きはしなかったが、顔には肯定の色が浮かんでいる。
「私には男性の生殖器がないの。だからねぇ、真紅の初めてがプラスチックのものになるかもしれないわぁ」
きっと知識はあるだろうから、具体名は伏せて、語る。
「もちろん、私の初めても真紅の手でしてほしいわぁ。でも、体を重ねるだけなら破ることはないのぉ」
柔らかい髪に口付けながら、ゆっくり語る。
「でも、私は真紅にしてほしいわぁ、その後体を重ねるときの負担も少なくなるらしいからぁ」
俯いている顔の両頬を救い、視線を合わせる。
「ここまで考えてほしいのよぉ」
真紅は難しそうな顔をしていた。それはそうだ、自分の初めてが玩具になってしまうのだ。
手を離すと顔が自然に俯いてしまった。迷っているのだ。
「今日はやめましょぉ」
そう言うと申し訳なさそうに真紅が顔を上げた。
「そんな顔しなぁいの。可愛い顔が台無しよぉ」
冗談ぽく頬をつつきながら言ったが真紅の顔は晴れない。
「いいのよぉ、別に。それが目的で一緒にいるわけじゃないんだものぉ」
額にキスを送り、服を着させてやる。
「っ今度は…」
真紅が私の手を掴み、話し始めた。
「今度は、覚悟、してくる…わ」
そう言った真紅の唇を奪い、愛情を伝えるようにきつく抱き締めた。
終わり
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