アットウィキロゴ
ローゼンメイデン百合スレまとめ@ウィキ
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

ローゼンメイデン百合スレまとめ@ウィキ

貴女のために

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

 しん、と静まり返った桜田家のキッチンでカチャカチャと夕食の準備をする音だけが響く。
 かつては笑い声や物音がリビングから聞こえて来て賑やかだったのに、その音を立てる者はいない。
 だが決して無人な訳ではない。
 明かりの灯ってない薄暗いリビングに、のりだけが俯いたまま座っている。

「のりさん、晩ご飯の用意出来ましたよ」

 テーブルの上に料理を並び終えて巴が呼びかけると、のりはゆっくりと顔を上げる。
 その表情はかつてとは違い、生気の抜けた虚ろなものだった。

「巴ちゃん…いつもごめんね…」
「いいんですよ。好きでやってるんですから」
「…ありがとう…」

 力の無い笑みを浮かべるのりに、姿勢を低くして視線を合わせる。
 眼鏡の奥の目には薄っすらと涙が浮かび、今にも零れ落ちそうだ。

「…軽々しくいつまでも落ち込まないでとか、元気出してとは言いません。…ただ、一人で背負い込まないで下さい」
「巴ちゃん…」
「のりさんは何も悪くない。だから、自分を責めないで下さい」

 のりの背中に手を回し、その体をしっかりと抱きしめる。
 そうすると体が小刻みに震えているのが巴に伝わってきた。

「それに…私はのりさんを独りにしません。ずっと支えますから」
「あ、ありが…と…!」
 子供をあやす様に背中を擦り、のりを包み込む。
 だがその表情は哀れみや同情とは掛け離れた、暗く歪んだ笑みだった。

(だって、その為に桜田君を殺したんだから…)

 ほくそ笑みながら振り向いた先には、ジュンの遺影と骨壷が置かれた後飾りが飾られていた。

―※―※―※―※―

 二学期を少し過ぎた辺りから、真紅達や巴の協力によってジュンは学校へ再び通うようになった。
 のりはようやくジュンが脱引き篭もり出来た事に、真紅達、そして当然巴に非常に感謝してくれた。

「巴ちゃんもありがとう。巴ちゃんが毎日来てくれたから…」
「いえ、私はほとんど好きでやってたものですし…。桜田君が復学できて、私も良かったです」

 しかし、実際はジュンが復学しようがどうなろうがどうでも良かった。
 目的は全てのりのため。そして、のりに好感を持たれるため…。
 その為に、ジュンを利用しただけに過ぎない。要は道具と一緒だった。
 そして無事に――まあ計画の延長線上で――ジュンは学校に戻る事が出来、のりに大層気に入られる事が出来た訳だ。


 だがこれは当然真紅達や巴だけでなく、姉であるのりもずい分頑張ってきた。
 だから、ジュンは巴や真紅達だけでなく、のりにも感謝をするべきだった。
 しかし…。

「ねえ、ジュン君…」
「うっさいんだよドブス!」

 実際にのりに掛けられるのは、罵倒としか聞こえない言葉ばかり。
 そこに、感謝の文字など一欠けらも無い。

「あのさ、もうすぐテストじゃ…」
「そんなの関係ないだろ、放っとけよ!」

 雛苺と遊んでいる時に聞こえる、ジュンののりに対する罵声が巴の耳に届く。
 その度に巴の心にドス黒い感情が沸き上がり、奥歯をグッと噛み締める。


 のりさんはあなたのためにと思っているんでしょう、何でそれが分からないの…。
 いつもそんな事ばかり言って、少しはのりさんの気持ちを考えた事はあるの…?
 あなたがどれだけのりさんに辛い思いをさせたか分かってるの…!?
 引き篭もりをやめさせる為に、どれほど苦労したか分かってるの…!?
 感謝の一言も言わずに、一体何様のつもりなの…!!

 ジュンの家から帰り自分の家に着くと、裏庭に置いてある練習用の人形へと竹刀を打ち込むのがいつからかの日程になっていた。
 部活以上に竹刀に力を込め、思いっきり人形へと振り下ろす。
 ジュンに対する苛立ちを、怒りをぶつけるために、竹刀を何度もその人形へと打ち込んだ。

――黙れって言ってんだろ!――

 頭の中で木霊する、あの忌々しい声。

「お前が黙れ…!」

――触るな、バカのり!――

「このっ…! このっ、このっ、この、この、このこのこのっ!!」

 バシンッ。
 怒りに任せて何度も叩いていると、不意に手に伝わる感触が変わり、見てみると竹刀が真ん中から折れてだらしなく垂れていた。
 しばらく呆然とそれを眺めていたが、発散し切れなかった苛立ちが沸きあがってきてそれを人形へと思いっきり投げ付けた。
 人形に当たった竹刀は跳ね返ってそのまま地面に落ち、巴も地面へとへたり込んだ。

「なんで…なんであんな奴が…!」

 忌々しい。邪魔な存在。何故あんな奴がのりさんのように素敵な人の弟なのか…。
 そう思うと、やるせなくて腹立たしくて仕方が無かった。自分がどれほど求めても手に入れられなかったというのに。
 ジュンに怒鳴られた後に見せる、悲しそうな顔…それが目の奥に焼き付いて離れない。

「寄生虫…あんな奴、ただの寄生虫と同じ…!」

 のりに寄生して蝕み、ただただ栄養のみを吸い取り続ける寄生虫。
 巴から見れば、ジュンはそんな存在でしかない。
 深く息を吐いて心を落ち着かせると、だったら、と巴は狂気を帯びた笑みを浮かべる。

「寄生虫は…駆除しないとね…」

 その翌日、巴は窓の外を眺めながら放課後の教室にただ一人残っていた。
 もう放課後になり三十分は経過している。もうそろそろだろう。
 あらかじめジュンの下駄箱に“放課後、三十分ぐらい経ったら教室に来て”と手紙を置いておいた。
 それもラブレターと見まがう様な可愛らしい便箋で。それで来ないはずが無いだろう。
 実際は、逆の事が起きるのだが。
 そう一人クスクス笑ってると、教室のドアが開く音がした。
 そこには予定通り、ジュンの姿が。

「待ったか?」
「ううん。いいから、こっちに来て」

 巴に手招きされ、大人しくジュンはこちらへとやってくる。
 その顔は緊張しているのか、夕日のせいもあるだろうが赤い。恐らく愛の告白、とでも想像しているのだろう。
 誰がこんな奴に好意を抱くのだろうかと、そう思うとおかしくて仕方が無い。

「…なあ、柏葉、話って…」

 トチリながらも話を切り出したのはジュン。それに巴は、少しして向き合うと口を開く。

「…あのね桜田君。…私、ずっと前からあなたに言いたかった事があるの…」

 そこで間を置き、息をゆっくり吐いてその目を見る。
 まるで汚い物を見るような目で。

「なんであなたみたいなのがのりさんの弟なの?」
「…は?」

 あまりの態度の変化に状況が飲み込めないのか、ジュンは間抜けな表情を浮かべる。
 それに間髪入れず、巴は続けて行く。

「あんな素敵なお姉さんなのに…どうしてあなたはそんなどうしようもない人間な訳?」
「か、柏葉、何言って…」
「私はね、はっきり言ってあなたが学校に戻ろうがどうなろうがどうでも良かったの。のりさんと会う口実の為だけにあなたを使ってたの

よ」
「そ、そんな…嘘だろ…?」
「何? 私があなたみたいな暗い人間になびいてると思ってた? 妄想も程ほどにしてくれない?」

 唖然としたジュンに、更に巴はヒートアップして行く。

「大体、あなたはのりさんのことをどう思ってるの? のりさんはあんなにあなたの事を思ってるのに、あなたときたら文句ばかりで!」
「ぼ、僕は…」
「あなたがのりさんに怒鳴る度に、本気であなたを殴ってやろうかと思ったわ! それを抑えるの、どれだけ大変だったか分かる!?」
「や、止め…!」
「前にのりさんが風邪で倒れた時もあなたは何もしないで…! あなたみたいな寄生虫がいるからのりさんは無駄な苦労をしてるのよ!! 分かる!? ねえ!!」

 感情に任せて言うだけ言うと、少し心の方も落ち着いてきて巴はニヤリと笑みを浮かべる。
 それを見て、ジュンの表情が一層恐怖に染まる。

「…まあ、もう良いわそれは」
「柏葉…?」
「だって、桜田君はここで“事故死”しちゃうんだから」

 刹那、ジュンの体が窓の外に浮いた。
 言い切るや否や、巴がジュンの体を窓の外に突き飛ばしたのだ。
 ジュンの体は意外と軽かったのか、それとも打ち込みの成果か、あっけなく開け放たれた窓の外へと飛び出ていた。
 落ちながらジュンは巴に手を伸ばしたがそれを取るつもりなど毛頭無く、冷たい笑みを浮かべながら落ちる様を眺めていた。
 やがてジュンの体が窓から見えなくなると、背を向けてその周囲の机を幾つか倒しておく。
 言った通り、事故死に見せかけるために。
 それが終わると同時に誰かが落ちたジュンに気が付いたのか、誰かの悲鳴が窓の外から聞こえて来た。
 それを背に、巴は教室を後にした。
 ジュンに触れた両手を、汚れを落とすように払いながら。

 ジュンの死は計画通り事故死として片付けられ、葬儀も滞りなく行われた。
 その時ののりの様子は憔悴しきっていて少し心が痛んだが、これでもうのりを蝕む寄生虫はいないのだと思えば仕方ない事だ。

 更に、ジュンの死は意外な所にも影響が及んだ。
 彼と契約していた翠星石は正式に蒼星石のマスターと契約を交わし、雛苺はオディールというフランスの女性と契約を交わして桜田家か

ら居なくなったのだ。
 そして真紅は、新たなミーディアムを求め別の時代へと旅立っていった。
 こうしてジュンと真紅達で騒がしくも賑やかだった日々は、ジュンの死で一転、広い家にのりただ一人が残されてしまった。
 このあまりにも急で大き過ぎる環境の変化が更に拍車を掛け、結果、のりを精神的にボロボロにして引き篭もりにしてしまったのだ。
 正直ここまでなるとは思わなかったが、引き篭もりになったのは巴にとっては好都合だ。

 だって、これでのりを完全に一人占めに出来るのだから。

 それ以来、巴は毎日のりの家へと通うようになった。
 家事も食事も放棄したのりに代わり料理を作り、のりの世話や家事ををする…まるで通い妻になった気がして良い気分だ。
 最初はろくに口も利けなかったが、少しずつ心を再び開いて話せる様になって来た。
 そして今では、のりは完全に巴に依存している…。

―※―※―※―※―

「巴ちゃん…」

 不意に名前を呼ばれ、下を向くと潤んだ瞳で自分の顔を覗き込んでいるのに気が付いた。
 その潤みからは悲しみだけではなく、一種の情欲が感じ取れた。

「…不安、ですか」
「うん…怖い…」

 せっかくの夕食が冷めてしまうが、まあ良い。
 顔を近付け、その唇に自分の唇を重ね合わせてそのまま床に押し倒す。
 口を少し開けると貪る様にのりの舌が口の中に入り込んできて、自分の舌と水音を立てて絡み合う。
 一分近くして息苦しくなると、口を離してお互いしっかりと見詰め合った。

「ずっと傍にいて…もう…独りは嫌…」
「大丈夫です…あなたを独りにしません。絶対に…」
「巴ちゃん…嬉しい…」

 再びキスを交わし、口内を貪りあう。

(誰にも…誰にも渡さない…私ののりさん…)

 そう、思って。

終わり


名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー