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そして君はきっと私の肩を抱く。

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rozen-yuri

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 え、と濁音がつきそうな私の驚きの声は静かな図書館に響いてあちらこちらから睨まれるような羽目になってしまった。
 私にそんな声を出させた張本人は確信犯なのかにやにやと笑っている。
「それ本気で言ってるの?」
「え、何がぁ?」
 外はぱたぱたと雨が屋根を叩いている。
 湿気で髪が鬱陶しいと珍しくポニーテールに結っている彼女はシャーペンをもった右手を顎に当て、悪戯気に微笑んだ。
 彼女が眼鏡をかけるのは勉強するときの印。期末テストぎりぎりの七月最初の方はまだまだ梅雨が続いていた。
 窓側に面したこの席からだと雨の中小走りで帰っていく生徒たちの姿がよく見える。
「あ、またいるわよぉ」
 水銀燈が校庭を見つめながら楽しげな笑顔で呟いた。
「"あいあいがさ"」

 ──そして君はきっと私の肩を抱く。


 それは彼女の一言から始まった。
 梅雨の晴れ間と言われた本日の朝。久々に見た太陽は今までより輝いていて、夏に一歩ずつ近づいているのが実感できた。
 天気予報士も今日は一日中晴れるでしょうと豪語した日だったのに。
 ちょうど最終授業が終わったころにぱたぱたと降り始めた。
 置き傘している子もいたが、持ってきていない子の方が多くて、みんなは入れて入れてと友達と一緒に傘に入って帰路に着いて行った。
 テスト前だからと図書館で一緒に勉強していた彼女はそれを見て呟いた。
「あ、あいあいがさよぉ」
 その言葉につられて校庭を覗けば何組かのあいあいがさをしている姿が目に入った。
 2人だけでなく、中には1つの傘に3人も入っている傘もあった。
「あれ、"あいあいがさ"ってどういう漢字だっけ?」
 そう言うと彼女は私を馬鹿にしたような表情を浮かべた。
「へぇー、文系クラスのあなたが漢字を私に聞くなんてねぇ」
 にやにやと小馬鹿にしたような表情を浮かべながら彼女はノートにすらすらと書きこんだ。

 そして、至る冒頭。
 彼女がノートに書き連ねた文字は私の常識からは大きく外れていた。
 "愛合傘"。
「何か間違ってるぅ?」
「私の考えが正しければ、ね」
「でも、漢字思い出せないんでしょう?」
「まぁね」
「じゃ、おとなしく私の考えでファイナルアンサーにしましょうよぉ」
「でもあなたの考えじゃ"あいあいがさ"をしてる2人は全組愛し合ってることになるわよ」
「強ち間違ってないかもよぉ」
 ほら、と指さした先にはバカップルの蒼星石と翠星石。
 折り畳み傘という小さな空間にくっついて歩く姿はいかにも楽しげな様子で、肩が出てしまって雨に濡れているというのに幸せそうな表情。
 あ、蒼星石が翠星石の肩を抱いた。
「あれはねぇ、『肩が濡れてるよ』ってそれを防ぐように見せて肩を抱く作戦よぉ」
 聞きたくなかった作戦を聞かされて、蒼星石の妙につやつやした表情が怪しく見えてしまう。
「"愛し合ってる者達が1つの傘を分け合う"からこその"愛合傘"よぉ」
 もう外の風景に興味がないのか理系クラスの彼女は私がとても解けそうにない方程式に目を移している。
 これ以上、口論しても仕方ないと判断して私も自分の英語が連なっているノートに目を移した。
 そこで、ふと思い出した。

 今日は英語の勉強をしようと思って電子辞書を持っていたんだった。鞄から電子辞書を取り出そうとして、やめた。
「どうしたのぉ?」
「え、あぁ。ううん、何でもないわ」
 まぁ、いいか。と珍しく思えたのは湿気が高かったせいにして。
「そろそろ帰る?」
 と問いかければ眼鏡をはずしてこちらを見上げた。
 眼鏡を外したのはもう勉強モードを解除した証拠。
「でね、真紅」
 楽しげに笑いながら彼女はこう続けた。
「私、傘持ってないのよぉ」
 それを聞いた私は、ふぅと息を吐いてこう返した。
「私は折り畳み傘しかないわよ?」
「いいわよぉ。小さな傘で愛合傘、となれば」
 ニッと笑った水銀燈の瞳が先ほどの蒼星石の表情を彷彿とさせた。


終わり

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