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【君に言えなかったことがある。】

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rozen-yuri

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【君に言えなかったことがある。】

 何気ない一言を、言い逃してしまったことはありませんか?

 言えなかったことを後悔していませんか?

 そんな擦れ違いの積み重ねで縛られた物語。

 少し聞いてみませんか?


 ──寂しい。君にそばにいて欲しかったこと。


 ピピピ、と冷たい電子音が部屋に響いた。
 あのお節介者、と心の中で毒づく。そのお節介者とは同室の真紅のこと。
 超のつくお嬢様学校は全寮制で同級生と二人組で一部屋に入る。
 今日はカレンダーの青色の日で記された日。とどのつまり土曜日、そして休日。
 只今の時刻は午前10時。健全な学生ならばまだ夢の中。少なくとも、私はそう考える。
 辺りを見回すと誰もいないのを良いことに、大きな欠伸を隠すことなくした。
 ここで真紅が傍らにいれば「行儀悪い」だの「レディとしつ相応しくない」だのお小言が並べられる。
 とりあえずまだ鳴り続ける目覚まし時計のアラームを少々乱暴に止めると、枕に再び顔を押し付ける。
 お嬢様学校と唱うだけあって部屋に揃えられている家具は良質のものばかり。
 特にこのベッドは低反発の素材が使われていて、胸の圧力でうつぶせに寝れなかった私もこれのおかげでうつぶせで寝る心地よさを知った。
 もう一眠り、と目を瞑るが何故か睡魔が襲ってこない。
 まだ頭はぼぅっと眠いのだが、目が冴えてしまったようだ。
「お間抜け真紅ぅ……」
 恨みがましそうに一つ呟いてベッドから抜け出した。

 うーん、と全身を伸ばして首をコキコキと鳴らす。
 真紅の勉強机──ありがたいことに部屋には人数分の勉強机が完備されている──を見るとメモが置かれている。
『昼頃帰宅予定』
 あぁ、そういえば出掛けに起こされてそんなことを言われた気がする。
 一緒に出掛けようとせびられたが結局めんどくさくて適当にあしらってしまったようだ。
 メモを手に取ると、くしゃと拳で丸め、ゴミ箱に放る。
 いささか酷い行為かもしれないが、これで真紅は私がメモを読んだと理解する。
 以前、良かれと思って置いたままにしておいたら、見てないのかと怒られた。
 それからというものこれを習慣にしているのだ。
「よくこんな朝っぱらから出掛けるわねぇ」
 チラリと真紅のカレンダーを見ると今日の日付に赤のペンで丸がうってある。
 何やらあるのだろうか。うん、何かあった気がする。その証拠に私の持ってるカレンダーにも丸がうってある。
 しかし、どうしても思い出ないので、あまり気に止めないことにし、クローゼットに向かう。
 帰ったら真紅に聞けばいいか。
 校内と言えども、パジャマで出歩くわけにはいかないので適当な黒いワンピースを手に取る。
 この時間なら食堂も空いているし、朝食に困ることもないだろう。

 部屋のドアを開けると隣室の二人もちょうど出てきたようだ。
「あれ、おはよう水銀燈」
「珍しい──ですね。水銀燈がこんなに早いなんて」
 妙な間があるのはそこで彼女が大きく欠伸をしたからだ。
「たまには、ねぇ」
「とか言っちゃって。どうせ真紅に起こされたんでしょ?」
「まぁね」
「で、真紅は?」
「買い物にでも行ったみたいよぉ」
「ふぅん、これから朝ごはん?一緒に行こうか?」
 断る理由もないので、目の前の双子──翠星石と蒼星石──を連れて食堂に向かう。
「何食べるですか?」
「Aセット」
「僕も」
 トースト二枚と卵のサラダ、コーヒーか紅茶がついて300円。味のことを考えても、まぁ安い方だろう。
「真紅は何買いに行ったの?」
「さぁ?出掛けに起こされたんだけどぉ、覚えてないのよぉ」
「君らしいや」
 ペロリと朝食を平らげてさして用事もないので自室に戻った。
「うーん、思い出せないなぁ」
 自室に入ると自分のカレンダーを見つめる。
 気にかかるのはカレンダーの今日の日付についた丸印。
 真紅とは違う予定だったのだろうか?しかし、わざわざ起こしたということは二人の用事だったはずだ。
「真紅も前々から何か言ってくれれば……」
 そこでふと気づいた。言いたくても言えなかったのだ。

 文化祭が近くて生徒会長を勤めていて大忙しだった真紅と、受験を間近に控えて塾に缶詰めだった私。
 お互い寮には寝に帰るような生活を行なっていた。
 挨拶程度ならまだしもまともに会話したのは……。
「7、8、9、10……あー、ダメ!それ以上覚えてないわぁ」
 記憶を辿り、指折り数えてみるが、二桁に入ったとこで数えるのを諦めた。
 ひょっとしたら2週間程まともに会話してないのかもしれない。
「そんなに会話してなかったっけぇ?」
 自分を決して奥手とは言わないが、恋人と寝食を共にしておいて全くそういうことをしてないのだ。
 それどころか会話もまともにしてないとは。
「はぁー……結構ショック」
 今までなんとも思っていなかったが、この状況を理解すると以外に凹んだ。
「真紅は気づいてたのかしらぁ?」
 そうかもしれない。だから今朝、あんなに一緒に行きたがったのかもしれない。
 ならば、悪いことをしてしまった。
 人一倍、他人に気を使ってしまう子だから自分にも構ってほしいとは言えなかったのだろう。
 そうと決まれば帰ってきたらまず謝ろう。2週間ほったらかしにしてごめん、と。
 そしたらカレンダーのこと訊いて、あぁ、でも忘れてたって知ったら怒るかな?
 じゃあとりあえずそれは保留にして、素直になれない性格をどうにかしてやろう。

「寂しいなら寂しいって言ってくれなきゃね……おっと」
 机に起きっぱなしにしていた携帯のバイブレータが着信を知らせる。
 サブ画面に表示されている名前を見るとどうやら真紅のようだ。
 大方、起きたかどうかの確認だろう。
「そういうとこお母さんみたいなのよねぇ……もしもし?真紅ぅ?」
『…………』
 おかしい。外からかけているのは分かるのだが、やけにガヤガヤと五月蝿い。
「ちょっと真紅ぅ?聞こえてるのぉ?」
『もしもし?』
「……!」
 聞こえて来たのは真紅の声ではなく中年の男性の声。
『金髪の少女の友人かい?』
 その男性が言う金髪の少女とは恐らく真紅のことだろう。
 頷いてもいいのだろうか。まさか、誘拐じゃあるまいな。
「あ、あんた誰よぉ…」
『警察の者だが』
 あぁ、一昔前に流行った詐欺か。しかし、何故そんな詐欺が真紅の携帯から?
「で、警察が何の用よぉ」
『金髪の少女が車に轢かれて重態なんだ。身元確認できるものを所持していないため、失礼ながら携帯で一番最近着信があった者に連絡させていただきました』
 携帯がスルッと手から滑り落ちた。
『直ちに来て身元確認して頂きたいんですが。場所は……あれ?……聞いてますか?……もしもし?もしもーし』



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