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ただ、死ぬのなら君と一緒に

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だれでも歓迎! 編集

 そのニュースが発表されたのはちょうど1ヶ月前。特番を組まないと有名あのテレビ局を加えた全てのテレビ局が一斉に番組を切り替えた。
 どの局のアナウンサーも事態を信じられないという表情で原稿を読み上げた。
「今から一ヶ月後の深夜12時。巨大な隕石が地球に落石するという事実が発覚しました。隕石の軌道をずらすことは不可能で、絶望的な状態です。これについて科学者達は……」
 テレビ嫌いの僕がこれを見ていたのは本当に偶然だった。もし見ていなければ知らずにこの日を迎えていたかもしれない。
 いや、それはないか。そのニュースの放送後、町中、いや地球上全てがこの話題でもちきりになった。
 半信半疑だった僕達はその一週間後に発表された隕石との距離、隕石の大きさ、スピード等、詳細な情報を前に信じざるを得なくなった。
 理系の僕だが、あいにく地学は履修していない。専ら物理と化学が専門なのだ。
 だからと言ってこの事件を物理学的点から述べるほどの学はない。たかが大学入試を目前に控えた高校三年生。
 その入試も、もう受けることさえできないのだが。嗚呼、こんなことならもっと遊べば良かったかな。
 何はともあれ、後5時間で地球最後の日。


 ──ただ、死ぬのなら君と一緒に


 時計の針がカチカチと進んでいる。時計をチラと見ると午後19時を少し過ぎたことを示している。
 テレビのリモコンをとり、スイッチを入れる。何度か番組を変えるが、どれもいつも通りのプログラムを発している。
「こんなもんか……」
 スイッチを切るとリモコンを投げ捨てた。当然と言えば、そうなのかもしれない。
 いきなり地球が終わるまで後5時間と宣告されるのと後1ヶ月と宣告され、その最後の5時間とではわけが違う。
「ご飯できましたよー」
 双子の姉、翠星石がリビングに顔を出した。
「今日は何?」
「貴女の好きなオムライスですよ」
 食欲をそそる匂いのデミグラスソースがかかった半熟卵のオムライス。
 付け合わせはマカロニのサラダ。
「最期、ですからね」
 そう言いながら彼女は寂しそうに笑った。
「本当に落ちると思う?」
 銀のスプーンにたっぷりオムライスを掬いながら問う。
「どうでしょうね」
 彼女もまた掬いながら言った。
 カチャカチャとスプーンが皿に当たる音だけが響く最後の晩餐。

 もはや悲しいという感情はなかった。いっそ僕達だけ、ともなれば不幸になれたかもしれない。
 しかし、この地球上に住んでいる全ての人間が絶滅するのならば、これが運命だったのだと諦めるしかない。
「お風呂入れますか?」
「ん、そうだね。入っちゃおうか。裸で死にたくはないし」
 午後8時30分。いつもなら深夜近くに入る風呂だが、今日はやめておこう。
「一緒に入る?」
「なっ、……」
 案の定、顔を真っ赤にさせて断ろうとする姉──いや、恋人──の口を口で塞いで、額をくっつけて言う。
「入ろう?ね?」
 両頬を両手で包み込み、額に一つキスを落とす。
「ぁぅ……」
 まだ渋っている恋人にもう一つ念を押すと、観念したように小さく頷いた。
 お気に入りのバニラの香りの入浴剤をたっぷりのお湯に垂らす。
 ふぅ、と息を漏らし、目の前の恋人の肩口に顔を埋める。
「ふふ、くすぐったいですよ」
 僕に抱かれている状態の彼女は少しだけ身動いだ。
 長い沈黙。しかし、決して苦痛ではない安らかな時。
「最後、なんですねぇ」
 その沈黙を破ったのは翠星石の感慨深げな一言。

 それは悲しんでるわけでも腹立ってるわけでもなく、ただこの状況をナレーションしているようで。
「早かったですねぇ」
「18年、だね」
 数字にしてしまえば長かったが、実際過ぎてみればこんな呆気ないものだったのか、と寂しくなる。
「ごめん」
「何がですか?」
「裸で死にたくないって言ったけど」
 体制を変えて、お湯の中に沈まない程度に翠星石を押さえ込んだ。
 ちらりと頭の片隅で思い出す。お風呂の準備やご飯の片付けやらをしてようやく入ったのが9時30分過ぎ。
 多目に見積もってもあと二時間ほどで、地球滅亡。愛し合う時間としては少ないくらいかもしれない。
「裸で死ぬことになるかもしれないね」
 それが、僕の理性が切れる直前の言葉だったことを覚えている。
 僕の短い髪から汗とも湯とも分からない水滴が彼女の滑らかな肌の上をすべる。
 日にあまりやけない白肌が、湯の暖かみでほんのり桃色に染まる様はなんとも扇情的で。
「スる気、ですか」
「だめ?」
「構いませんよ」
 そう言って、僕の首にすがり付いた腕が少し震えているような気がした。
「最後、ですから」
 あんまり最後って言わないでほしい。君を感じれなくなるなんて、怖くて怖くて。

 その考えを振り払うように彼女を強く抱き締めて、首筋に唇を滑らせる。
「ん、……」
 普段ならこんなとこでさせてくれることなんかなくて、ベッドに移動させてくれと懇願するのに。
 焦れているのは、彼女も一緒なのかもしれない。先ほどから最後を強調するのも、そんな思いからなのだろうか。
「あ、……ひっ」
 彼女を膝に乗せて、目の前の柔らかな胸に顔を埋める。
 僕の呼吸がかかるだけで少しだけ体がひくついている。
「そ、うせ、……」
 プロポーションのよい体のラインをなぞり、双丘に手をかけ、めちゃくちゃにもみしだく。
「っ、……やぁ、んっ」
「綺麗だ。翠星石、綺麗だよ」
 手をずらし、翠星石の一番奥に指を沈め込む。熱い風呂の中なのにそこはそれ以上に熱くて。
「あ、っ……はっ、あああっ」
 体を弓のようにしならせた彼女は、僕の肩を掴んでいやいやと首を振る。
「のぼせ、そ、です。……熱い、です」
「僕ものぼせそう」
 完全に熱に冒された頭で、なんとか笑顔を作る。興奮からか、熱さからか分からない汗が頬を伝う。

 彼女の口を貪って、噛みつくようなキスを交わす。このまま、食べることができたらいいのに。
「やぁぁ……も、おかしく、な、る……」
「大丈夫。僕しかいない」
 ぎゅうと彼女を強く抱いて、赤子をあやすように背中を上下にさする。
「おかしくなって。もっと淫れて、僕だけを欲しがって」
「ああああっ……」
 耳を犯すようにそう囁いて、彼女の深くへ指を進める。
 人差し指と中指で中を犯して、親指で突起を潰して。空いてる手で胸の飾りをつまみ上げる。
「や、だめっ。蒼せっ……ひぁぁぁっ」
 おかしくなり始めたのは僕なのか、彼女なのか、それとも二人ともなのか。
 苦痛ではない熱気と、反響する彼女の甲高い声と。ぐちゃぐちゃに脳ミソが溶けそうなほどに。
「あああ、蒼せ、石っ……だめぇぇ、あ、ああ、……やぁぁぁ」
 目を見開き、口は酸素を求めて開ききって、お世辞にも綺麗な姿には見えないのに。
 それでも、こんな姿が愛しいなんて自分はどうにかなってしまったんだろうか。
「翠星石、……綺麗だよ」
 びくんびくんと太ももが大きく痙攣しているのを見て、犯す指を早く動かす。

「イって。翠星石、……愛してるよ」
「私、も……愛して、あ、ああっ、あ、あぁあぁぁ!」
 びくびくと体を大きく痙攣させながら翠星石は果てたと同時に気を失った。
「大丈夫?」
 問いかけてみても返事はなく、眠ったように目を瞑ったまま。
 もう二時間たつんだろうか。このまま地球が滅亡するなら、翠星石の最後の記憶は自分のこと。
「生まれ変わっても、また一緒だよ」
 ぎゅうと翠星石を抱き締めて、そのまま眠るように僕も意識を手放した。
 それが僕の最後の記憶。


終わり

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