真夜中二時過ぎの公園、普通なら誰もいないはずの時間、場所。
だがそこに、公園の明かりに照らされた人影――金糸雀――が一人居た。
黄色を基調としたコートに身を包んだ彼女は、冷えてかじかんだ手に息を吹きかける。
それから手を擦り合わせていると、何も聞こえていなかった耳に足音が聞こえて来た。
その方を見ると、蒼星石が駆け足で駆け寄ってくるのが見えた。
駆け足で金糸雀に近付くと、蒼星石はその勢いのまま金糸雀を抱きしめた。
「ごめん、遅くなって! こんなに冷えちゃって…」
「…私は大丈夫かしら。蒼星石は?」
「僕も大丈夫。…翠星石には悪いと思ってるけど…」
「……みっちゃん…ごめんかしら…」
蒼星石の腕の中でボソリとつぶやいた金糸雀の言葉を聞いて、蒼星石は少し体を離した。
「…今ならまだ引き返せる。僕は強要しないよ」
「…いいえ、このまま行くかしら。後悔はしないから…」
「金糸雀…怖くない?」
「…蒼星石がずっと一緒なら、何も…」
「そう…」
金糸雀の額を撫で、そっとキスをする。
唇を離すと金糸雀の手を握り、確かめ合うようにもう一度見つめあう。
「じゃあ行くよ」
「ええ…!」
それだけかわすと二人は公園を出て行った。その目にもう迷いは無い。
二人ともお互い好き合っていたし、将来を誓い合っていた。
だけど。
金糸雀の場合はみつが、蒼星石の場合は翠星石がそれを許さなかった。
二人とも恋路を妨害し、あの手この手を使って別れさせようとしてきた。
そして最後の妨害…金糸雀が引越しさせられる事だった。
それを聞いたのは昨日の夜。翠星石が秘密でみつと電話をしていたのを偶々聞いたのだ。
「…そう。金糸雀を連れて遠くへ…。分かったです。蒼星石には黙っておくです」
それを聞いたとき、蒼星石は深い絶望に包まれたのを覚えている。
その夜、蒼星石は翠星石に隠された携帯を見つけ出して隠れてメールを打った。
『金糸雀、引越しするって本当なの!?』
その返事はすぐに返ってきた。
『私もさっき知って…蒼星石と会えなくなるのは死ぬより嫌かしらぁ!』
『僕も嫌だよ…! 何でみんな分かってくれないんだ…!』
そんなメールのやり取りをしていると、蒼星石の中で一つの覚悟が生まれてきた。
『…僕も金糸雀と分かれるのは死ぬより嫌だ…。…それなら…』
次の深夜、蒼星石は翠星石に気付かれぬように家から逃げ出した。
もう会うことの無いであろう姉に後ろ髪を引かれつつ…。
そして今、二人は暗い街中を早足で進んでいる。
この時間だと人の通りなんてほとんど無い。いるのは二人とたまに通り過ぎる車だけだ。
蒼星石が金糸雀の顔を見ると、その表情は怖さのせいか強張っている。
「…大丈夫?」
「大丈夫かしら」
「分かった」
たまに通り過ぎる車のライトが二人を照らす。他の明かりはほとんど無い。
それからどれくらい歩き続けたのだろう、二人は暗い山道へと入り込んでいた。
その道に、金糸雀は見覚えがあった。
「…この道…見覚えが…」
「あと少しだよ」
蒼星石は金糸雀の手を引いて道を行く。
山に入ったということもあってか、街中より温度が下がったように感じられた。
更に先へ行くと茂みのはれた場所に出た。
そこには大きな湖があり、満点の夜空が写り込んでいて幻想的な雰囲気を醸し出している。
「…ここは…思い出したかしら」
「そう。僕らが初めてデートした場所だよ」
まだお互いが初々しかった頃、蒼星石が偶々見つけたこの湖。
ほとんど人が来ない場所らしく辺りは手入れされていないが、それが気に入ったのだ。
そこに金糸雀をデートで連れて行ったのだ。金糸雀もそこを気に入ってくれて嬉しかったのを覚えている。
そしてそこで、初めてのキスをした…蒼星石はそのことを思い出していた。
「何だか、全てが懐かしいね…」
「…二人の大切な思い出かしら…」
二人は向き合うとしばらく見詰め合ってからキスをした。
唇を離すと、蒼星石は決心したように口を開く。
「ずっと、一緒だから」
「何があっても、絶対離れないかしら」
「僕も、何があっても金糸雀を手放さないよ」
蒼星石は金糸雀を強く抱きしめ、そしてそのまま冷たい湖の中へと身を投げた。
水音だけが、辺りに静かに響き渡る。
冷たい水の中なのに、不思議と二人は暖かく感じた。
それは感覚が麻痺してしまったからなのか、強く抱き合っているからなのか。
どちらにせよ、二人に恐怖は無い。
あるのはこれで本当に二人がずっと一緒になれたという幸福感のみ。
誰も追いつけない場所へと、二人一緒に逃避行できたのだから…。
終わり
だがそこに、公園の明かりに照らされた人影――金糸雀――が一人居た。
黄色を基調としたコートに身を包んだ彼女は、冷えてかじかんだ手に息を吹きかける。
それから手を擦り合わせていると、何も聞こえていなかった耳に足音が聞こえて来た。
その方を見ると、蒼星石が駆け足で駆け寄ってくるのが見えた。
駆け足で金糸雀に近付くと、蒼星石はその勢いのまま金糸雀を抱きしめた。
「ごめん、遅くなって! こんなに冷えちゃって…」
「…私は大丈夫かしら。蒼星石は?」
「僕も大丈夫。…翠星石には悪いと思ってるけど…」
「……みっちゃん…ごめんかしら…」
蒼星石の腕の中でボソリとつぶやいた金糸雀の言葉を聞いて、蒼星石は少し体を離した。
「…今ならまだ引き返せる。僕は強要しないよ」
「…いいえ、このまま行くかしら。後悔はしないから…」
「金糸雀…怖くない?」
「…蒼星石がずっと一緒なら、何も…」
「そう…」
金糸雀の額を撫で、そっとキスをする。
唇を離すと金糸雀の手を握り、確かめ合うようにもう一度見つめあう。
「じゃあ行くよ」
「ええ…!」
それだけかわすと二人は公園を出て行った。その目にもう迷いは無い。
二人ともお互い好き合っていたし、将来を誓い合っていた。
だけど。
金糸雀の場合はみつが、蒼星石の場合は翠星石がそれを許さなかった。
二人とも恋路を妨害し、あの手この手を使って別れさせようとしてきた。
そして最後の妨害…金糸雀が引越しさせられる事だった。
それを聞いたのは昨日の夜。翠星石が秘密でみつと電話をしていたのを偶々聞いたのだ。
「…そう。金糸雀を連れて遠くへ…。分かったです。蒼星石には黙っておくです」
それを聞いたとき、蒼星石は深い絶望に包まれたのを覚えている。
その夜、蒼星石は翠星石に隠された携帯を見つけ出して隠れてメールを打った。
『金糸雀、引越しするって本当なの!?』
その返事はすぐに返ってきた。
『私もさっき知って…蒼星石と会えなくなるのは死ぬより嫌かしらぁ!』
『僕も嫌だよ…! 何でみんな分かってくれないんだ…!』
そんなメールのやり取りをしていると、蒼星石の中で一つの覚悟が生まれてきた。
『…僕も金糸雀と分かれるのは死ぬより嫌だ…。…それなら…』
次の深夜、蒼星石は翠星石に気付かれぬように家から逃げ出した。
もう会うことの無いであろう姉に後ろ髪を引かれつつ…。
そして今、二人は暗い街中を早足で進んでいる。
この時間だと人の通りなんてほとんど無い。いるのは二人とたまに通り過ぎる車だけだ。
蒼星石が金糸雀の顔を見ると、その表情は怖さのせいか強張っている。
「…大丈夫?」
「大丈夫かしら」
「分かった」
たまに通り過ぎる車のライトが二人を照らす。他の明かりはほとんど無い。
それからどれくらい歩き続けたのだろう、二人は暗い山道へと入り込んでいた。
その道に、金糸雀は見覚えがあった。
「…この道…見覚えが…」
「あと少しだよ」
蒼星石は金糸雀の手を引いて道を行く。
山に入ったということもあってか、街中より温度が下がったように感じられた。
更に先へ行くと茂みのはれた場所に出た。
そこには大きな湖があり、満点の夜空が写り込んでいて幻想的な雰囲気を醸し出している。
「…ここは…思い出したかしら」
「そう。僕らが初めてデートした場所だよ」
まだお互いが初々しかった頃、蒼星石が偶々見つけたこの湖。
ほとんど人が来ない場所らしく辺りは手入れされていないが、それが気に入ったのだ。
そこに金糸雀をデートで連れて行ったのだ。金糸雀もそこを気に入ってくれて嬉しかったのを覚えている。
そしてそこで、初めてのキスをした…蒼星石はそのことを思い出していた。
「何だか、全てが懐かしいね…」
「…二人の大切な思い出かしら…」
二人は向き合うとしばらく見詰め合ってからキスをした。
唇を離すと、蒼星石は決心したように口を開く。
「ずっと、一緒だから」
「何があっても、絶対離れないかしら」
「僕も、何があっても金糸雀を手放さないよ」
蒼星石は金糸雀を強く抱きしめ、そしてそのまま冷たい湖の中へと身を投げた。
水音だけが、辺りに静かに響き渡る。
冷たい水の中なのに、不思議と二人は暖かく感じた。
それは感覚が麻痺してしまったからなのか、強く抱き合っているからなのか。
どちらにせよ、二人に恐怖は無い。
あるのはこれで本当に二人がずっと一緒になれたという幸福感のみ。
誰も追いつけない場所へと、二人一緒に逃避行できたのだから…。
終わり