HUNTER×HUNTER ◆iDqvc5TpTI
ただ、暗闇だけが広がっていた。
歩けども、歩けども、闇は晴れず、どこにも辿りつくことは無い。
それでも、何かから逃げるように光を求め、止まることなく進み続けた。
声が、聞こえた。
いつか、どこかで聞こえた声だった。
それまで自分以外には闇しか存在しなかった世界で、初めて他者を感じられたからか。
俺の足は自然とその声が聞こえる方へと進んでいた。
誰も、居ない。
前を、左右を、後ろを見渡せど、誰も、
「可哀相に、疲れてしまったんだねぇ」
「!?」
居た。
「生きるのなんて、つらい事なかりだ。こっちへおいで」
「父さん? ……母さんなの?」
死んだはずの母さんが。
殺されたはずの父さんが。
いつの間にか、俺の後ろに立っていた。
いや、父さんたちだけじゃない。
「ようっ、エルク」
「ジーン! 俺は……」
「わかっているさ。お前は俺達を殺した痛みを背負っていける程タフじゃない。生きるのなんかやめちまえ。楽になるぜ」
俺がこの手で殺した親友が。
「エルク、待っていたわ。此処で、一緒に暮らしましょ。此処はいいわよ、静かで」
好きだったのに助けられなかった少女が。
失った、全てが、そこには、あった。
きっとここは幸せな世界なのだろう。
それでも俺は、この幸せな夢に沈むわけにはいかなかった。
「ミリル、そうはいかないんだ」
ガルアーノは、俺達から全てを奪った奴はまだ生きているのだ。
故郷の村を焼き払ったアーク一味もだ。
俺は、あいつらを殺してみんなの仇を討つまでは死ねない!
「貴方は私の言いなりにならなきゃいけない筈よ。だって、私を殺したのは貴方だもの。ずーっと信じて待っていた貴方に殺された私の気持ちが解る?」
何も言い返すことはできない。
ミリルは、ずっとあの白い家で俺が助けに来るのを待っていてくれたのに。
逃げ出して、見捨てて。
俺は、そのことすら忘れていたのだ。
助けに行くと。必ず助けに行くと約束していたのに!
「私は、貴方を元の世界に戻しはしない」
――来たれよ…… 炎を操り闇を照らす者よ…… 人間に未だ幻想をいだく者よ…… いざなおう…… 真実を知らしめんために……
ああ、だから、これは俺への罰なのか、ミリル……。
◇
眼を覚ました時、エルクは遂に自分が死んで地獄に落ちたのだと思った。
さしずめ玉座に座しているあの男は、俺を裁く閻魔なのだと。
そんな彼の認識は半分ハズレで、半分当たりであった。
彼は死んではおらず、されど、ここは地獄だ。
命を握られ、殺し合いを強要される世界。
これが地獄で無いというのなら、是非とも他の呼び方を教えてもらいたい。
「何でも望みを叶えてやる、か」
オディオと名乗った魔王の言葉を思い出す。
奴の言う通りなら、優勝さえすればどんな願いでも叶えてくれるらしい。
ジーンやミリルを生き返らせることも可能かもしれない。
それはとても甘い誘惑で、けれど、エルクは否定する。
無理だ。
玉座の間に集められていた人間には
シュウと
リーザ、彼の仲間の姿もあった。
幼い少年、少女の姿もあった。
いくら願いを死んでしまった大切な人達を蘇らす為とはいえ、エルクには彼らを殺すことなんてできそうにもなかった。
もうその手は血で汚れてしまっているというのに。
なんて、偽善。
夢の中の彼らの言葉はいつまで経っても消えてはくれない。
蘇生の可能性を不意にした今、彼をより強く攻め立てていく。
「ちくしょう、俺は死んじまった方がいいってのか」
首筋に手を伸ばす。
そこには彼の命を脅かす無骨な枷が確かに巻きついていた。
これを引っ張れば、死ねる。
魔王に立ち向かった男のように。
命を繋ごうとした僧侶のように。
あるいはあの時のミリルのように。
爆発して、彼は死ぬ。
逝くのにあまりにも適した状況に、自然と渇いた笑みが零れそうになり、次の瞬間、凍りついた。
「死ぬのは貴様の勝手だが、その前にあたしの質問に答えてもらおうか」
「誰だ!?」
振り返った先には女がいた。
薄汚れたマントと緑の髪を風になびかせて。
「……通り名だが、抱いて逝くにはそれで十分だろう?」
眼帯の女は自らの名を告げた。
◇
目の前に広がる光景にカノンは絶句していた。
その驚き様は魔王オディオによる宣告を受けた時や、名簿で『ある名前』を見つけた時と勝るとも劣らないものだった。
草木が覆い茂っているのだ。
これだけでは何のことかわからないかも知れないが、彼女の世界の住人からすれば驚くなと言う方が無理である。
カノンが本来住んでいた世界――ファルガイアの大地は枯れ果てていたからだ。
ところがどうだろう。
今、彼女が進んでいる森の木々は、行けども行けども途切れない。
ファルガイアにも全く緑が無かったわけでは無いが、これほどの範囲に渡って広がっている場所をカノンは知らない。
「馬鹿なッ、異世界だとでも言うのか!?」
思い返せばあの魔王もそれを匂わせることを言ってはいなかったか?
カノンは考える。
『最後まで生き延びた者には褒美として、本来在るべき世界に帰してやろう』
わざわざ『本来在るべき』とつけているのだ。
ここが異世界だという考えは、あながち的外れなものではないだろう。
そもそも、このような場所がファルガイアにあるのなら、
渡り鳥として世界各地を周って魔を祓っていた自分が噂にすら聞いたことが無いというのは、いくらなんでもあり得ない。
一応最後の確認とばかりに彼女は花園へと向かうことにした。
草木以上にファルガイアに縁の無い施設だ。
実在すればここがファルガイアではない何よりの証明になる。
位置も現在地から近く、地図に記載されているくらいなら人も集まっているかもしれないと判断してのことでもあった。
彼女が彼を見つけたのはその道中のことであった。
濃い茶色の髪の毛を逆立て赤いバンダナを巻いた青年が、何か思いつめているのは直ぐにわかった。
こちらのことにも気づかない程真剣な位にだ。
時折耳に届く独白からも覇気は感じられず、故に危険人物ではないと見なし声をかけてみたのである。
無論、一時たりとも気を抜かず、いつでも全身に施したギミックを解放できるようにした上でだが。
「
アシュレー・ウィンチェスター、または魔王という男に出会わなかったか?」
「魔王? 何言ってんだ、それならてめえだってさっき会っただろが!」
それを聞きたいのはカノンも同じだ。
名簿に堂々と記載されている魔王という文字。
まさかオディオ本人が参加しているとは思えないが。
判断を保留しつつ、未だに眼を通していなかったらしい男に名簿を突き付ける。
知り合いの名前でも見つけたのか、男の顔に動揺が浮かぶも、カノンにとっては興味のないことだった。
――そう、例え殺し合いに放り込まれてもカノンがすることに変わりは無い。
「いや、俺が会ったのはあんたが初めてだ」
「そうか」
名簿を見終わった男の答えに、カノンは特に落胆はしなかった。
殺し合いに駆り出されてまだ間もないのだ。
初めから大して期待はしていない。
むしろ、次の問こそが本命だ。
「もう一つ。貴様の知り合いに『魔』はいるか?」
「……『魔』?」
「私は凶祓い(まがばらい)だ。モンスターや魔物、魔王といった『魔』を滅ぼす義務がある」
彼女は凶祓いだ。
そして、魔神を封じ、世界を救った英雄<剣の聖女>の末裔だ。
殺し合いに乗る気はない。
だが。
(『魔』はあたしの手で滅ぼすッ!!)
「そのアシュレーという奴も『魔』なのか?」
質問に質問で返されたことに苛立ちはしたが、アシュレーの場合は特殊なパターンだ。
男から情報を得るためにも、カノンは説明することにした。
「正式には奴自身では無い。奴に降ろされた魔神がだ」
「降ろされた? そいつが自分でモンスターになったんじゃないのか!?」
「……そうだ。負の念に満ちかねないこの世界では、いつあの悪しき魔神が目を覚ますのかわからない」
「だから殺すっていうのか!」
降魔儀式に巻き込まれただけの被害者。
アシュレーのことをそう捉える人間がいるのもわかる。
(それでも、あたしは『魔』を許さぬッ! この身に流れる『血』に誓ってッ!!)
『魔王』とやらがオディオと別人であるのなら、そちらも斬るまでだ。
『魔王』だけでは無い。
この殺し合いに潜んでいる全ての魔を殺す。
自らに流れる『英雄』の血を証明する為に。
彼女自身が英雄になる為に。
――この地には、本物の『英雄』が、<剣の聖女>がいるのに?
カノンの脳裏で、栗色の髪の少女が囁く。
捨て去ったはずの過去が、彼女を揺さぶる。
――ねえ、ここにも、あたしの居場所は
(黙れッ!!)
「<剣の聖女>の末裔であるこのあたしには魔神を駆逐する宿命があるんだよッ!」
「そうかよ。なら――」
心に浮かんだ迷いから眼を逸らし血に縋るカノンに、男はようやく引き延ばしていた答えを告げる。
「俺はあんたを放っておくわけにはいかねぇ!!」
「なッ!?」
紅蓮の炎による拒絶という答えを。
◇
らしくない。
全く以てらしくなかった。
母さんも死んだ。父さんも殺された。ジーンも、ミリルも、殺した。
助けたかった人達はもういない。
けど、守りたい人達も、殺したい仇も、それを為そうとする自分もまだ生きているのだ。
(リーザ、シュウ、待ってろ、すぐ行く! アークの仲間、お前は俺が殺す!)
カノンの話に怒りを覚えるまでそんなことにも気づかなかった自分を叱咤する。
自殺してどうなる?
失われた命は帰っては来ないのだ。
そしてそれは、アシュレーという男の命も同じだ。
「そいつはまだ間に合うかもしれねえだろ! 自分の意識を保ってんだろ! 大切な人だっているんじゃないのか!」
「言ったはずだ、それがあたしの宿命なのだとッ! ジャマする者であれば何であろうと斬り捨てるッ!」
魔神を降ろされたという男と、モンスターに改造された子ども達の姿が重なる。
ジーン、ミリル、アルフレッド、名も知らない大勢の少年たち。
みんな、みんな、エルクが殺した。
今さらだとは思う。
これから先幾つの命を救っても、彼は罪から逃れられない。
その運命をずっと背負って生きていく。
それでも。
それが、誰かを助けたいと。
アシュレーを好きな人達を悲しませたくないと。
カノンに罪を背負わせたくないと。
もう二度と自分達のような悲劇を繰り返したくないと。
願ってはならない理由にはなりはしない!!
「血とか宿命とか、そんなてめえ自身がどこにもいねえ理由で殺すっていうのかよ!」
「黙れッ! 宿命を背負うことであたしは『あたし』を信じてこれたッ!
貴様にはわかるまい、あやふやな自分を抱え込むという不安を!!」
「分らないでもないからこそ、あんたを止めてえんだよ!!」
過去を無くしていた炎使いの頭上を、過去に縛られた女の刃が過ぎる。
カノンは速い。
エルクが知る中でも最速のシュウにも匹敵する。
炎を牽制に放ちつつ、エキスパンドレンジで夜道を照らし間合い開けようにも、一向に離れてはくれない。
支給品を確認し、何か武器になるものを手に取る暇を与えることなく、両の腕に展開した刃が振るわれエルクを襲う。
(あれが奴の支給品か! っち、あの物騒なものを受けるものが無くちゃ埒が明かねえ!)
まるで長年親しんだ獲物であるかのように、カノン本人の動きも熟練したものだった。
殺す気はないからと、加減が効く相手では無い。
僅かな躊躇の後、エルクは現状を打破するために勝負に出る。
「怒りの炎よ! 敵を焼き払えっ!!」
エクスプロージョン。
爆発の名を冠した炎は、先ほどまでのように渦とはならず、一瞬で炸裂し己が猛威を解放。
夜の闇に、紅蓮の華が咲き誇る。
「くッ!!」
火の粉と石が宙を舞う中、エルクの視界に爆発に呑まれるカノンの姿が映る。
無論、直撃しないよう、ややずらした位置に着弾させはした。
本命は爆炎ではなく爆風だ。
熱か衝撃で気絶してくれるのなら大成功。
そこまで上手くいかなくとも、吹き飛すことで距離は稼げたはずだ。
そう判断し、デイパックの中にエルクは手を伸ばす。
――カノンが、爆風に煽られるどころか、自ら爆発の中心に飛び込んだとも知らずに。
◇
『人間』に絶望し、『人間』であることを辞めた『魔王』は嘲笑う。
『英雄』に何の意味があるのだと?
かって『勇者』と称えた人物を、不要になればすぐに切り捨てるのが『人間』だ。
『英雄』など所詮人柱に過ぎないことを、彼は痛いほど知っていた。
だからだろうか?
『英雄』になる為に、『人間』を棄てた女に彼は与えた。
人ならざる者のにしか扱えないその二つの支給品を。
◇
パワーユニットファイアバグ。
ARMの一種と踏んだ支給品がカノンの義体(シルエット)に力を与える。
展開された魔力の障壁は見事爆炎から彼女を守り切った。
狩るべき男は目を見開き、慌てて回避行動に移ろうとするが、もう遅い。
マジックシールドの対魔力は強力だが、種が割れれば簡単に手を打たれてしまう。
代償として彼女を襲う疲労も無視するにはやや重い。
故に、カノンは一気に勝負に出る。
義体と義体に仕込んだ武器のリミッターを限定解除。
人の身では耐えられない圧倒的な速度でカノンは駆ける。
軋む機械の身体。
悲鳴を上げる人の心。
その全ての痛みを棄て去って、一瞬で距離を詰め、神速の連撃を叩き込む。
愛用の短剣は取り上げられてはいるが、構わない。
今の彼女の右腕には変わりとばかりに唸りを上げる獲物がある。
『勇者』の名を冠する回転衝角が!
右方より大きく振りかぶられたドリルの一撃が、男の胴を打つ。
大振り故に、晒されるはずの隙を、機械の身体は強引にキャンセル。
地に崩れ落ち逝く身体に、左の拳を打ち込み、打ち上げる。
その神速の世界の中、男の腕が動き、デイパックから何かを取り出したのが見えた。
(かまわない。反撃される前に滅っするまでッ!!)
続けざまに左、右と鋼の鞭と化した回し蹴りで完膚なきまでに打ち据える。
距離をとるなどという愚は冒さない。
零距離で左のワイヤーナックルを叩き込む。
「っぐ、ちく、しょおおっ……」
それで、全てが終わった。
炎使いの身体が拳ごとワイヤーで飛ばされ、川に落ちたのは誤算だったが、
幸い彼が直前まで手していたデイパックはカノンの足もとに転がっている。
反撃に用いようといていたらしい何かは共に流されてはいったが。
「赦せとは言わぬ」
慣れない武器、慣れない補助動力源を用いての戦闘行為だった為か、確信は持てない。
元より機械の身体では手応えは曖昧にしか感じられない。
しかし、あれだけの攻撃を立て続けに見舞ったのだ。
生きてはいまい。
「これも、『英雄』の血を証明する為だ」
当初の予定通り、カノンは花園に向かうことにする。
戦いの最中放たれた炎は、夜の闇の中ではかなり目立ったはずだ。
このままここに残り、やってきた者達と接触することも考えたが、疲労した状態で、危険人物に会うことは避けたかった。
――本当に? 会いたくないのは、本当に危険人物なのか?
「一人この手で殺したんだ。今更戻れはしないッ! あたしも、あたしの身体もッ!」
再び浮上する迷いを振り切り、デイパックを拾い、カノンは背を向ける。
平野に、過去に、自らの本当の願いにさえ。
【B-9 平野 一日目 深夜】
【カノン@
WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:精神的疲労(中)、ダメージ(微小)
[装備]:勇者ドリル@サモンナイト3(右腕)、Pファイアバグ@
アークザラッドⅡ
[道具]:エルクの不明支給品1~2個(未確認)、基本支給品一式×2
[思考]
基本:『魔』を滅ぼす。邪魔されない限りそれ以外と戦う気はない。ただし、邪魔者は排除する。
1:アシュレーを見つけて討つ。
2:アシュレー以外の『魔』も討つ。(現時点:オディオ、魔王)
3:まずは花園へ向かい1、2の為に情報を集める。
[備考]:
※参戦時期はエミュレーターゾーンでアシュレーと戦った直後です。
※彼女の言う『魔』とは、モンスター、魔物、悪魔、魔神の類の人外のことです。
※勇者ドリル、Pファイアバグは機械系の参加者及び支給品には誰(どれ)でも装備できるよう改造されています。
※エルクの名前を知りません。死んだと思っています。
※エルクの発した炎がどのあたりまで見えたかは不明。夜なので目立ったかもしれないが、エリアの端なので。
◇
(待ちやがれ……)
遠ざかるカノンに手を伸ばす。
変な話だった。
本当に腕を伸ばしているのは、カノンの方だというのに。
(傷が、癒えている……)
全快には程遠いが、貫かれたはずの傷が塞がっていた。
自然と一人の少女の顔が思い浮かぶ。
(リーザ……)
『モンスター』とも心を通わすホルンの『魔女』が微笑む。
いつかの日のヤゴス島での夜のように、伸ばした手を彼女が握ってくれた。
(頼む、無事でいてくれ……)
意識が闇に呑まれる。
手の中で、何かが砕け散る音が聞こえた。
【B-9 川 一日目 深夜】
【エルク@アークザラッドⅡ】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:シュウとリーザを守り、オディオを倒す。
1:???
2:カノンを止める。
3:
トッシュを殺す
[備考]:
※参戦時期は『白い家』戦後、スメリアで悪夢にうなされていた時
※カノンからアシュレーの情報を得ました。
※どこに流されるかはお任せです。
アイオライト。
何の縁か彼の世界より持ち出された宝石がドリルに貫かれた彼の命を繋ぎとめた。
とはいえ、身体が回復した時に咄嗟にインビシブルを唱えていなければ、ガトリング・ワイヤーナックルで死んでいただろう。
アイオライトが救えるのは、あくまでも死に瀕したものであって、死んでしまったものは救えない。
その宝石の眠るバルバラードの地を訪れていない時間軸より呼び出されたエルクには知る由もないことだったが。
パリン。
制限により、回復能力を有する宝石はたった一度の使用で塵と化した。
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最終更新:2010年06月19日 22:47