死んだのにイキテルマン(×2) ◆jU59Fli6bM
「はぁ、はぁ、はっ……!」
行けども行けども、木、木、ひたすら木。
そう、さっきやっと分かったことだが、ここは深い森の中だった。
鬱蒼と草花が生い茂り、月の明かりを遮るように立ち並ぶ木々のおかげで辺りは真っ暗。
そして、その中を私は夢中で走っていた。
切り傷を作り、左手で右の腕を押さえながら、ただひたすら。
後ろを振り向きたくなかった。転ばないように、ぶつからないように、一心不乱に足を動かす。
すると、前方に見えたのは、木々の間を縫ってうっすらと差し込んでくる光。……光だ。
よかった、出られる……!
その光は私の心の隅々にまで注がれるようだった。
暗闇の恐怖から解放されるのと引き換えに、私はついほっと気を抜いてしまう。
だから、気づかなかった。
「きゃ!」
「おわっ!?」
がつっ、と足元から音が聞こえた時にはもう遅かった。
私の体はわずかに宙を舞った後、地面へしたたかに打ちつけられる。泥の上に転がり
しかし、そんなことがどうでもよくなるほど、私は焦っていた。
今確かに声がした。誰かにぶつかってしまったんだ。
……どうしよう、殺し合いに乗ってる人だったら!?
それだけで頭が一杯だった。私はすぐに体を起こし、その場から立ち去ろうと――
「お、おい、どこ行く!? ぶつかっておいてそれはねぇだろッ!」
――する前に、大声で呼び止められた。
体がびくっと跳ね、私は足を止める。火照った体が初めて、夜の冷やされた空気に触れたように感じた。
振り向いて顔を上げると、そこにいたのは気に寄りかかって立ち上がる男の人が。
暗くてよく分からないけれど、その逆立った髪とは、柄が悪いように思えた。
そしてやっぱり怒っている気がする。……でも、それは殺気ではないような気もする。
少なくとも、先ほど感じられたようなものとは違った。
それでも不安で恐る恐る口を開く。
「……あ、あなたは、殺さないの?」
すると、その人が顔をしかめるのが分かった。
「バカ言うな、誰がそんなことするか!俺はな、何でお前がそんな急いで走ってるのか、それが気になっただけだ」
段々と冷えてきた頭でその言葉を聞く。そして、また私は焦った。しまった、と思った。
最初にぶつかったのは私、悪いのは私の方だったのに、なぜ逃げようとしてしまったのだろう、と。
「ごめんなさい、動揺してしまって。私……、私は……」
そこで初めて、私は自分の身体に目を向ける。
逃げる前にできた切り傷に加えて、服は落ち葉と泥だらけだ。
周りからは水の流れる音が聞こえる。ここを抜けた先には川があるらしい。
私は今まで走ってきた道を見た。そこには先ほどと何も変わらず、ただ闇が広がっている。
よかった、逃げ切れたかもしれない。
私は安堵感をかみ締めながら、未だはぁはぁと漏れる息を抑えて口を動かした。
「私……、森の中で襲われたの……。暗いから火をつけたら、いつの間にか……
、後ろにいて……」
一旦言葉を切り、私は事の詳細を伝えようと次に口に出す言葉を探す。
すると泉から湧き出る水の如く、先ほどまでの出来事が鮮明に蘇ってきた。
鎧を着た、大きな男の人だった。
あの時はただ暗いから、不安だから明かりをつけたけれど、あっちにとっては格好の的だったのだろう。
撃った魔法はいとも簡単に――今思えばあれはサイレスの類に思えた――封じられて全く歯が立たず、
他に使える武器も道具もない私は逃げることしかできなかったのだ。
「……それで、ここまで逃げてきたって訳か」
「そう、だから、ここにいるのは危険よ。あなたも気をつけ――」
「お前、名前は何だ? 俺は
無法松、松でいい」
「え?」
何で今、名前を?
唐突な質問に思わず目を丸くする。私は、戸惑いながらも答えた。
「ティナ、だけど……」
「ティナか、この森を抜けるつもりなら、俺も一緒について行ってもいいか?
ここまで聞いておいて、怪我した女一人を見送るなんてできねぇからよ!」
そう言ってからその人……ええと、松は樹の幹から体を離し、威勢よく立ち上がる。
私はというと、その言葉に驚いて飛び上がりそうになっていた。
私は忠告になればと思って言ったつもりで、この返事は予想もしていなかったのだ。
この殺し合いの中、味方になってくれる人がいるなんて思ってもいなかったから。それも、初対面にも関わらず。
「……いいの?あなたも巻き込んでしまうかもしれないのに」
「殺し合いに巻き込まれた時点で、お互い様って事よ」
松の答えは、簡単だった。
そして、私達は並んで歩き出した。
森を抜け、その脇を流れる川にそって歩を進めていく。
綺麗な満月だった。森をさ迷っていた時には想像もつかなかった量の光が地面に降り注ぎ、
川はそれを受けてきらきらと瞬く。
それはまるで作り物なのではないかと疑ってしまうほどだった。
そしてその満天の星空の下、2人で荷物の中に入っていたものを確認する。カンテラを最小限に灯しながら。
どうやら私達がいるのはD-7、中央にある山のふもとらしい。
私が名簿と、松が地図とにらめっこしながら情報交換も進めていく。
「……エドガー、マッシュ、
シャドウ、セッツァー、ゴゴ……。
私達のところからも、こんなに来てたのね。それに、ケフカ……。この人には気をつけないと」
「そんなに知り合いがいるのか? なんと言うか、災難だな。こっちはアキラって奴だけだ、見かけたらよろしく頼む」
周り一帯に森林が続いていること、私の仲間が5人も殺し合いに参加させられていること、
あのケフカまでがいるということが分かり、私はそれらの文字に押されるように肩を落とす。
けれども、松と話していると、いくらか気持ちが軽くなった気がした。
「じゃあ、まずは森を抜けてここの神殿でも行ってみるか? 多分向こうの――」
「分かったわ。このまま川を辿ればいいのね?」
なぜか返事が帰ってこない。
不審に思って顔を地図から離し、そこでようやく私も気づいた。
「……何だあれ? 火事か?」
松の"神殿"に置かれた指が宙を移動して、脇の森林の奥を指す。
そこに見えたのは、真紅の炎を巻き上げながら燃える木々の姿だった。
川の急流が作る音と、横で光るカンテラの明かりで今まで気付かなかったのだ。
「私がさっき放ったファイアのせいかもしれない……。でも……」
でも、それにしては燃え広がるのが早すぎる。
まだ距離はあるけれど、火の手はもう私達の後ろを囲むように進んでいたのだから。
「お前、火を放ったって……、超能力が使えるのか?」
不意に松が尋ねてくる。私達は心なしか、だんだんと早足になっていた。
「……超能力? そのようなものかもしれないけれど……私のは魔法よ」
まほう?と松が首を傾げる。
どうやら松の知り合いに、心を読める人がいるらしい。確かに超能力と言えそうだけど、魔法とは別なのだろうか。
でも、私の魔法は、あの男の人が使った道具のせいで未だに使えないようだった。
これでは火を消すことはおろか、戦うこともできない。
まるで、モブリズの村にいた時に戻ってしまったかのように、私は戦う力をなくしていた。
段々と迫ってくる炎が、私の無力さを伝えているようだった。
「バカヤロウ逃げるぞ! 何をボーっとしてるんだ!」
そんなことを考えていると、ぴしゃりと松に怒られる。
刻一刻と、私達は火に追い詰められているのだ。もはや火の届かない場所まで逃げるしかない。
私達は早足をやめ、むこうに見える河原に向かって走り出す。そこは、川が緩やかなカーブを描き、長い河原を作ってい
る。
走りながら、私は何か心に引っかかるものを感じていた。
私のファイアではここまで燃え広がるのに何時間もかかるはず。だから、これは明らかにおかしいのだ。
まさか、と思った考えを振り払いながら、走ることに専念する。
「何か、ここから脱出できる物があればいいのに……」
「それだけどな、方法があることはあるが……」
「何? 何かある……の……」
松のいう"方法"が気になり、呼び止めようとしたその時。河原に着き、まだ燃えていない森を前にしたその時に。
「ん、どうし……」
見つけてしまった。いや、見つかってしまったのかもしれない。
揺れる炎のようにぎらぎらと光る目、飢えた獣のように歯をむき出して笑う口に。
先ほど襲ってきた、あの男に。
「来たな……、虫けら共が!」
逃げきれた? 私の魔法で山火事が起きた?
本当は、全然違っていたじゃないか。今まで私は、あいつの誘導通りに動いていたのだというの?
「おい、あいつが……そうなのか?」
「……そ、そんな……」
「貴様は炎を放てるようだが、まるで気付かなかったようだな。俺も同じことが出来るということにな!」
私の心臓が早鐘を打ち、汗が頬を伝う。
その男は炎を纏った槍を右手に持っていた。それを光らせながら、私達のほうへと歩いてくる。
勢いよくうねりを上げる川を背に、じりじりと追い詰められていく。
「歯応えの無い奴らだ。虫けらが一人増えようが同じ事……。自分の無力さを悔いて死んでいくんだな!」
一歩、また一歩、間が狭まっていく。
悔しい、と思った。こんなにこの感情が起こるのも、あいつの言うように悔いることしかできないのも。
やっぱり魔法も武器も無しではこの有り様だった。戦う事のできない魔導戦士など、何の役にも立たない。
前もその辛さを味わって、それを克服したはずなのに。
「ティナ……」
男が距離を更に狭める。その中で、不意に松が話しかけてきた。
何、と答えようとしたところで、私の腕に何か重みのあるものが落ち、囁き声を聞く。
「これで……川を渡れるらしいんだ。使ってくれ」
ヘルメットのようなその形は、見覚えがあった。
確か、マッシュ達が川に潜る時に使ったと言っていたものだ。ガウがよく自慢していたのを覚えている。
「……俺はな、死んだ人間だった。今更生き返った意味はわからねえが……。
お前を逃がして死ねるならそれはそれで悪くないかもな」
松は、死んでいたのに生き返った?それはあまり分からなかったけれど……。
後者は、よく分かった。守ること、そのために戦うこと。それは私にとっても絶対に譲れないことだったから。
「さあ、早く行けッ!」
「何だ、最初はお前か? まあ結果は同じことだ! 今のうちに命乞いの台詞でも考えておくんだな!!」
ねえ、ロック。力が無くても、人を守ることってできるかな? ……できるよね。
なら……
「え……」
私は手を伸ばして、松の頭にヘルメットを押し込む。そして割り込むように、松とその男の前に立った。
そう、私は誓ったんだ。戦う力を取り戻したあの時……。皆を守る為に戦う、と。
「松、私も、同じこと思ってた……。だから、ごめんなさい」
巻き込んでしまって、最後は勝手に決めてしまって、ごめんなさい。
それと、大切なことを思い出させてくれて、ありがとう。
「私の仲間にも、よろしくね」
私は思い切り手を突っぱね、その体が深い川の急流に呑み込まれるのを見送った。
……皆も、どうか無事でいてくれますように。
そう思って、再び前を向いた。何もかもそれが最後だった。
◆
眼下には物言わぬ肉塊となった少女の死体。それを照らすのは背後で赤く躍り狂う炎。
その辺りに撒き散らかされたのは、また例外もなく赤い、血。
鼻につくねっとりとした生臭さを味わうように、ルカはしばしの間それらを眺めていた。
「不思議なものだな。俺だけでなくあいつも、あの魔王とやらにもう一度生を与えられたということか……」
そう、彼もまた、死んだはずの人間だった。
自身の望んだ通りに悪を貫いた男は、この会場で目覚めた後も、いつもの感覚でいつも通り殺したのだった。
「だが、くだらんな……。再び得た命を他人の為に捨ててもいいとは。
弱い奴は死ぬ。逃げるだけの奴らに、生かす価値などありはしないわ!」
ルカは吐き捨てるように呟いた後、もう死体に用は無いとばかりに踵を返す。そして、河原の上を歩き始めた。
彼の目は横でごうごうと燃えさかる森さえも映さない。
ただ、名簿で見た名前が、
ルカ・ブライトを打ち破った人物の名前が、彼の思考を支配していた。
「優勝したら元の世界に帰れる、か……。あいつらを始末して再びあの地を踏めるというのなら、それも面白いな」
ふと、ルカの口から笑い声が漏れる。
単調に音を刻む足の動きとは裏腹に、その声は段々と大きく、どす黒くなっていった。
「ふはは……ふはははははは!!! 覚悟して待っていろ、討ちとったはずの俺に殺される運命を!
そして貴様らも思い知れ、俺の味わった絶望をなッ!」
【ティナ・ブランフォード@ファイナルファンタジー6 死亡】
【残り50人】
【D-7 川 一日目 深夜】
【無法松@
LIVE A LIVE】
[状態]健康、どんぶらこ
[装備]潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
[道具]基本支給品一式、不明支給品0~2(本人確認済)
[思考]基本:打倒オディオ1:ティナ……?2:アキラとティナの仲間を探す
[備考]死んだ後からの参戦です
※自分とティナの仲間について把握。ケフカを要注意人物と見なしています。
【D-7 河原 一日目 深夜】
【ルカ・ブライト@幻想水滸伝2】
[状態]健康
[装備]フレイムトライデント@アークザラッド2、魔封じの杖(4/5)@ドラゴンクエスト4
[道具]基本支給品一式*2、不明支給品0~3(武器、回復道具は無し)
[思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。
1:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た5人を優先
[備考]死んだ後からの参戦です
※魔封じの杖
使うと相手にマホトーンの効果、回数制限有り。普通に杖としても使えます。
※D-7北東の森林で山火事が起きています。周りのエリアにも広がる可能性があります。
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最終更新:2010年06月20日 20:56