『『人斬り少女』、命の授業に参加する』
(キャラ) シュリネ・ハザクラ、イゾウ
鞘から抜いた刀を上段に構え、振り下ろす。
重心と重さを確かめながら、右脇に構えて、横薙ぎに振るい抜く。
続けて二度、刀を縦横に振るうと、少女は満足したのか、刀を鞘に納めた。
「はあ…。とんでもない事に巻き込まれたけれど、闘う事は出来るね」
周囲を見回すも、何処も彼処も見知らぬ街並みだ。
生まれ育った故国を離れ、遥か異郷へと旅した身でも、この様な街並みは目にした事が無い。
「何処なんだろうね…此処」
殺し合え。と言われて放り出された街の一角に有る公園で、空を見上げて佇む少女。
華やかな柄の衣服と、艶やかな長い黒髪を彩る五片の紫花の髪飾り。
腰に帯びた黒鞘の一刀の柄に手を掛けて立つ姿は、可憐と呼んでも誰も異を唱えないだろうが、真っ直ぐに背筋を伸ばして立つ姿の何処にも隙は無く。烈しく盛る戦意に満ちた眼差しが、その様な脆弱さを伴う感想を抱かせない。
見惚れる程に優美でありながらも、触れれば切れる鋭さを併せ持つ姿は、名工に鍛えられ、確かな技を持つ職人に研ぎ澄まされた名刀利剣の様だった。
名をシュリネ・ハザクラ。故国では数多くの人を斬り、己が仕える主人すら斬り殺した大罪人として知られる少女で有る。
「命の授業…か」
今までに、数えるのも億劫に成る程に、人を斬ってきた少女は苦笑を浮かべた。
命の価値は、知らない訳では無い。
愉楽のために殺しを行う様な外道を働かず、その様な外道に対して憤る心も有る。
だが、所詮は人殺しだ。
仕事だから。襲われたから。殺そうとしてきたから。
理由は千差万別で、此方が非が有る訳では無いが、それでも人殺しには違い無い。
刃を振るい。鎬を削り。肉を裂き。骨を断ち。血を流し。生を終わらせる。
殺し合いの中に身を置く事を選んだ以上、死ぬ覚悟はとっくに出来ているし、死ぬ覚悟だって有るが。命の授業とやらは、そういうものでは無いのだろう。
「“死因百パーセントの予期せぬ死”…か」
森口とかいう女が言っていた事はサッパリ判らないが。予期せぬ死ならば、受け入れる覚悟は当に済ませている。
シュリネは人殺しだ。より詳しく言うなら“人斬り”だ。
刀剣を交わし、刃の下を潜り抜け、生命を奪い合う。
対峙した相手の意図を読み取り、戦意を感じ、相手の目論みの上を行って、斬る。
或いは、相手の戦意が昂らぬ内に、備が整わぬ内に、機先を制して、生命を制す。
修羅界の悪鬼達が如き所業を日常として行い、その尽くを制して生きてきたシュリネにとって、予期せぬ死を迎えた死者とは見慣れたもので、いずれ自分もその内の一人に加わるだろうという事は、至極当然に弁えている。
だからこそ、“予期せぬ死”などと言われても、動じる事など無い。
殺し合いの場に於いては尚更だ。
「わたしはまだしも…ね」
自身の生死に巡らせる思いなど無い。刃を交わすに足る剣者が居れば、それで良いとは思うものの、己の生死に関しては、力及ばなければ死ぬだけだと達観している。
だが、それは、己一人の場合だ。
雇用主で有るルーデシアが巻き込まれているとしたら、話は別だ。
ルーデシアと交わした契約に誓って、シュリネ自身の心に従って。
何としてでも合流して、護り抜かなければならない。
「ハインは…一人でも大丈夫だろうけれど」
ルーデシアはそうでは無い。
戦う力を持たない上に、殺し合いの場で生き残るには、あまりにも不向きな精神を有している。
人としての美点で有る優しさと気高さが、血で血を洗う戦場に於いては欠点と成り果てるのだ。
だからこそ、最優先でこの事態に巻き込まれているかどうかを確認して、巻き込まれているのならば、護らなければならなかった。
シュリネは、ルーデシアを求めて、移動を開始した。
住宅街の路上で、シュリネは男と対峙していた。
おそらくは同郷と思しき装束の男は、腰に帯びた一刀に手をかけることも無く。シュリネへと戦意と愉悦の籠った視線を向けている。
「今急いでいるんだ。あなたの相手をしている暇は無いの。退いてくれると助かるんだけれど」
「そうもいかぬ。そとそろ江雪に食事を与えねばならぬのでな」
「食事って、わたしの事?」
「お主の血は、さぞかし美味であろうよ」
「刀なんかの食事になるつもりは、無いよ」
「…我が愛き江雪を愚弄したな」
「刀なんてものは、所詮は人を斬る為の道具でしょう。良く斬れて丈夫ならそれで善く。それ以上でも以下でも無い。
美しいだとか、愛しいだとか、そんなものは要らないんじゃないかな」
禁*(キン)ッ
返答は無く。男は無言で鯉口を切った、
総身から溢れる必殺の意志。シュリネを必ず殺すと、言葉を介さずとも、殺意だけで雄弁に告げていた。
応じてシュリネも支給品の刀を抜く。
怜悧な輝きを放つ刃は、目利きなど全く出来ない者であっても、秀れた名刀だと一見の元に知らしめる。
男が短く息を吐いた。自身の刀を何よりも美しいと信じる男をして、感嘆の息を吐かせるシュリネの刃。
「何と美しい…だが、江雪の美しさには及ばん」
「そう」
7mほどの距離を置いて対峙する両者の刃が、月明かりを受けて、妖しく輝いていた。
両者は、共に、不動。
激昂して抜刀したかの様に見える男ではあるが、凶人の様な印象に比して、沈着な気質を有しているらしい。シュリネの動きを確と見極めた上で、応じて動き、斬り殺す算段らしかった。
対するシュリネは、動けない。
シュリネの刀は、男のもつ刀と比べると、刀身の長さに於いては上回る。
だが、得物の長さが、そのまま間合いの有利に繋がるかといえば、そうはならない。
男はシュリネよりも二回りは身長が高く、その分間合いが長い。
迂闊に距離を縮めれば、シュリネの刃が未だ届かぬ距離から刀を振るい、シュリネを一方的に斬断しようとしてくるに違いなかった。
元よりシュリネの剣は、攻勢の剣だ。
自ら動き、相手の虚を衝き、或いは防御を崩して、斬り殺す。
その為にも、動いて間合いを詰めなければならないのだが、こうも手練れの相手に隙無く待ちに回られては、如何にも攻め難い。
油断無く落ち着き払った男の様子から察するに、シュリネの構えと体躯から、シュリネの間合いを把握し、攻め筋を予測して、予測出来得る全ての攻撃に対処する準備は出来ているのだろう。
全身を巡る血が、熱く、激しく、猛るのを感じる。
此処にいるのは人斬りの凶人で、人を斬る事に長けた強者だ。
シュリネの口元が、見る者がいれば惹きつけられ、それでいて恐れ慄く、獰猛な笑みを形作った。
地を蹴ってシュリネは駆ける。真っ直ぐに、男の反応出来ない速度で距離を詰め、刃を振るわせる事無く、斬る。
男の口元が、歪んだ凶笑を浮かべる。
シュリネの意図を精確に読み取り、間合いに入ると同時に斬断する。
駆けるシュリネは確かに速いが、男には刃を合わせる自信が有った。
シュリネが迫る。刀を右肩に担いでの疾駆。駆け易さと、疾駆により生じた運動エネルギーを、そのまま刀身に乗せる事を両立させた攻勢の剣。
あの速度に、体重が充分に乗った斬撃を放たれれば、受ける事は至難となるだろう。
だが、シュリネの剣は漢には届か無い。永遠に届く事は無い。
達者であっても見切る事が困難な疾駆を、男の眼は確と捉えている。
間合いに入ると同時に刀を振るい、シュリネを一撃で仕留める。
シュリネを斬り殺す光景を脳裏に描き、男の凶笑が更に深まり、唐突に消えた。
────何とっ!
シュリネの行った事は至極単純。男の間合いに入る直前。獲物に飛びかかる捕食獣(プレデター)の様に跳躍する事で、男がシュリネを一方的に斬り殺せる間(キルゾーン)を強引に突破。
男が未だ動き出さぬ内に、身体ごとぶつかる勢いで、男目掛けて刀を袈裟懸けに振るっていた。
対する男は、地面に仰向けに倒れ込みながら刀を振るう。
シュリネの剣を躱しながら、シュリネに絶死の一太刀を送る。
刀に勢いはまるで無いが、肉を裂き骨を断つ威力は、シュリネ自身が齎してくれる。
シュリネが行った疾駆跳躍からの斬撃には、それ程の勢いが有った。
男の笑みが消える。
男の送った刃に、シュリネが刀を合わせてきたのだ。
鋼と鋼が激突し、片方の鋼が一方的に押し負けた。
未だ跳躍の途中では有るものの、渾身の勢いで振るわれた刃と打ち合う事など、力も勢いも欠いた男の刃では不可能
必然として、押し負ける。
咄嗟に地を蹴り、後方へと跳びながら、倒れ込む動きに急加速を加える。
喉元を掠めた鋒に、背筋に冷たい汗が走るのを感じながら、素早く身体を半回転させると、両手足の力を使って跳ね起き、頭上を跳び越していったシュリネへと、猛速で駆け寄った。
間合いに捉えると同時に、上段からの斬り下ろし。
駆け寄った速度が上乗せされた斬撃は、重さも速度も通常のそれを遥かに上回り、防御と回避を更に困難なものとしていた。
シュリネが振り向いたところで、受ける為の体勢を作る事が出来無い。結果、振り下ろされる刀の勢いを受け止められずに斬り殺される。
回避をしたところで、後背を取られた不利は変わらない。一気呵成に攻め立てて、シュリネを斬る。
刃と刃が交わり。火花が散った。
舞い散り、虚空に消えていく火花の下、男の振り下ろした刀身を、シュリネは角度を付けて受け流す。
方向を逸らされた刀身が、虚しく地へと向かうのを他所に、シュリネの刀が首を薙ぎに来る。
背を逸らす事で回避し、刃が過ぎざまに必殺の一刀を送ろうと目論んだ男だが、視界の端で、シュリネの持つ刀の刀身が伸びた様な感覚を覚え、総毛立つ。
シュリネが柄の握りを変え、柄頭を握る事で、間合いを伸張しているのだ。
背を逸らす程度の回避では足りぬ、その程度ではシュリネの刃圏から逃れられぬ。
絶死の危機を悟った男は、後方へ飛ぶ事で回避。
シュリネの刃が薄紙一枚分の差で、喉元を過ぎ去っていくのを感じながら着地を決める。
攻撃を捌かれ、後方へと退避した男と。
攻撃を捌いて、異形の握りによる必殺の一斬を回避されたシュリネ。
共に即座に次の動きへと移行できる体勢に無く。必然として両者の動きは刹那の間固着する。
僅かに一つ、短く息を吸うよりも短い間を置いて、立て直したシュリネが攻勢に出る。
横薙ぎに振るった刀身を後方へと流して、刀身を男の視界から隠しながら、男へと向かって前進。
間合いと太刀筋を構えによって隠す事で、男はシュリネの動きを読む事ができずに対応が遅れ、シュリネがシュリネの間合い入る事を許してしまう。
再度の横薙ぎを退がる事で躱し、追撃の袈裟斬りは、自身の刀でシュリネの刀身を払う事で防御。
払った刀でシュリネの首筋を薙ぎにいくも、しゃがみ込む事で躱され、反撃の一刀。低い位置から、男の喉元へとシュリネの切先が奔る。
身体を傾けて躱し、男の回避と同時に頸動脈狙いの横薙ぎへと変化した斬撃も仰け反って回避。
更なる追撃を避ける為に、大きく後ろに跳ぶも、足場を固める暇も無く、既にシュリネが接近。
地を踏みしめる脚はフラつき、上半身と下肢を結合する腰は泳ぎ、 凡そ攻撃を防げる状態では無く、回避を行える状態でも無い。
ならば迎撃する?無意味だ。こんな状態で振るわれる刀など、勢いも力も迅さも欠ける。
そんな攻撃など、容易く捌かれてしまうだろう。
絶対の窮地に在って、男が選択したのは、前進。
前へと出る事で、シュリネの間合いを狂わし、戦機を乱して、シュリネの横を駆け抜け様に、横腹を裂く一刀を送る。
硬い音と共に火花が散り。窮地を脱した男と、男の一刀を防いだシュリネは、互いに背を抜けた状態で息を吸い、吐く。
共に二つ分の呼吸を済ませると、同時に振り向く。踏み込むのも、又、同時。
男の狙いは至極単純。シュリネとの体躯と膂力の差を活かした圧し斬り。
力と重さにものを言わせ、シュリネの持つ刃ごと、押し込んで、斬る。
────と、見せかけての、二段構え。
シュリネは男と鍔迫る事などせず、男の刀を捌きにくる。
真っ向からの力比べとなれば、シュリネに勝ち目など有りはしない。幾ら剣技に優れていても、単純な力比べとなれば、膂力の差と、体格差と、性差とを覆す事など、出来ないのだから。
シュリネは必ず男の刀を捌く。
裁かれる事を見越して、予め腰を落とし、確と大地を踏みしめて、下半身に不動の安定を持たせてある。
刀身を捌かれても、体が崩れる事は無い。
捌かれた刃は、即座に反転してシュリネを斬る。
体格差を活かして間合いの外から斬るという消極策では、シュリネを捉えられない。
シュリネが蓄積してきた武練と経験に、その様な消極的な攻勢では、男の刃は届か無い。
ならば、策を捨てる。技巧も捨てる。
策も技工もかなぐり捨てての蛮行こそが、シュリネへの最善手。
シュリネに勝るものを最大限に活かしに活かして、シュリネへの優位を取り、生命を奪る。
唸りを立てて、空間すら裂く勢いで振り下ろされた刀身は、鋼と鋼の激突する凄絶な響きを伴って、シュリネの刃と噛み合った。
男は勝利を確信する。
この巧者が、真っ向から受けるなどという、悪手を選んだ理由は判らぬが、鍔迫り合いになった以上、男の勝利は確定している。
純粋な腕力勝負で、シュリネは男には敵わないのだから。
────このまま押し切る。
この驚嘆すべき強敵を、愛き刀の食事とできる悦びに、男の口元に禍々しい笑みが浮かび────裂けた男の腹から血が噴き出し、臓物が盛大に転び落ちた。
半ばから断たれた刀身は、仰向けに倒れた男の視界に入る事が無かったのは、男にとっての幸運だったかもしれない。
「───ガハッ」
「良い勝負だったよ」
「な、何故?」
半分程になった刀を未だに握ったまま、男が訊いた。
「魔刀術────《水切》。刀身に魔力を纏わせて、切断力を高めたんだ」
男が必殺を確信した時。シュリネもまた、必殺を確信していた。
真っ向からの押し合いになれば、膂力と体躯で劣るシュリネは押し切られる。
にも関わらず、捌きも躱しもしなかったのは、刀身に漸く魔力を纏わせられた為。
何故か魔力を纏わせるのに異常に時間が掛かってしまったが、一度纏わせれば支給品の斬れ味と合わさって、シュリネの刀は万象を断ち切る妖刀魔刃と化す。
男の刀ごと、斬り殺す事など、容易な事だった。
「漸く魔力を纏わせた時に、あなたが正面から斬り掛かってきてくれて助かったよ」
刀を一振りして、刀身についた血を払うと、納刀して歩き出す。
今斬り殺した男への関心など、当に無くしたと、その表情が語っていた。
【イゾウ@アカメが斬る! 死亡】
[シュリネ・ハザクラ@『人斬り』少女、公爵令嬢の護衛になる]
[状態]:健康
[装備]: 童子桐安綱@おまもりひまり
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~23
[思考]
基本:生き延びる
1:ルーデシアが居るかどうか確認。居たら合流して護る
支給品紹介
童子桐安綱@おまもりひまり
源頼綱が酒呑童子を討った際に用いた日本刀。
並の刀なら一合でへし折る刃がとも撃ち合える程に頑丈で、使い手次第では岩すら斬る。
霊力の様なものを纏っていて、霊体の類も斬れる。
~~~~
最終更新:2026年07月26日 01:18