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『アルバス・ダンブルドアと七崩賢の魔族』


(キャラ) アルバス・ダンブルドア、アウラ




深夜の空は墨を溶かしたような闇に沈んでいた。月は雲の向こうに隠れ、ただ島のあちこちに灯る無人の看板の光だけが生気のない色を地面に落としている。
スクランブル交差点を模した広場はあるが信号機はただの飾りで、周囲を取り囲むビル群は作り物。歪んだ地形、歪んだ都市、歪んだ島。
ゲームが始まってから、まだそう長くは経っていない。
交差点の中央で、二つの人影が向かい合っていた。

一方は、長身の老人だった。銀色の長い髪と、同じく長く伸びたひげ。半月形の眼鏡の奥で、ブルーの瞳がやけに若々しく、まるで悪戯を企む少年のように輝いている。深緑の、いささか時代がかったローブを纏い、右手には木製の杖を提げている。佇まいには気品と余裕があり、およそこの状況にそぐわない静けさをまとっていた。
この老人の名はアルバス・ダンブルドア。
かつてホグワーツ魔法魔術学校の校長を務め、名前を呼んではいけないあの人ことヴォルデモート卿が唯一恐れた魔法使いとして知られていた。
数々の学術的栄誉を独占し、闇の魔法使いゲラート・グリンデルバルドを一騎討ちの末に下しニワトコの杖の忠誠すら勝ち取った、その世代における最強の杖の使い手。

この老人は一度死んでいる。

最後の記憶は塔の上だった。教え子の一人であるドラコ・マルフォイに武装解除され、かつて自らが目をかけたセブルス・スネイプの放った緑の光を浴びて、夜空へ落ちていく感覚。
あれが最期のはずだった。分霊箱を探す旅の途上、指輪に仕込まれた呪いに蝕まれ、余命が幾ばくもないと悟った上での計算し尽くした死。
たが目を覚ませば、見知らぬ教室で若い女の声が命の授業を説いていた。あのときの困惑をダンブルドアは今でも持て余している。
死者が死者のままでいられないというのは、存外に厄介なことらしい。
右手に提げた杖にも、彼はいまだ小さな違和感を覚えている。かつて彼が最後に手にしていたのは、ニワトコの木でできた、セストラルの尻尾の毛を芯とする、死の秘宝の一つニワトコの杖だった。
だが今この手にあるのは、それではない。もっと古く、もっと馴染み深い、彼が若い頃に使用していた自分本来の杖だ。ニワトコの杖ほどの底知れぬ力はないが、これはこれで十分すぎるほどに使い慣れている。


「随分と、余裕そうね」


声がした。老人の対面、数メートル先。
そこに立っていたのは、少女のように見える何かだった。薄紫色の長い髪を三つ編みに結い、頭頂部からは大きく湾曲した二本の角が伸びている。顔立ちは幼さを残しているが、まとう空気はあまりに古くあまりに冷たい。人間で言えば十代半ばにも見えるその容姿の内側には五百年以上という途方もない時間が眠っていた。
彼女の名は、アウラ。
魔王直属の幹部、七崩賢の一角を占める大魔族であり断頭台のアウラの異名を持つ。
彼女の操る魔法はただ一つ『服従させる魔法(アゼリューゼ)』。互いの魂を天秤にかけ、魔力の多寡によって支配権を決定づけるという、単純にして絶対的な力だった。
五百年という歳月のすべてを彼女はこの一つの魔法を磨くためだけに費やしてきた。魔力量こそが魔族にとっての唯一絶対の序列であり、アウラはその頂点に限りなく近い存在の一人だった。


「余裕というほどのものでもないのじゃよ」


ダンブルドアは穏やかに答えた。声には老人らしい掠れがあるが、その奥には尽きることのない胆力が滲んでいる。


「わしは少し前まで死んでおったのじゃ。生き返るというのは、なかなかに得難い経験でな。多少のことでは驚かんだけの余裕くらいは、死んだおかげで身についたのかもしれんな」


「死んでいた、ですって?」


アウラの片眉がわずかに動いた。侮蔑とも興味とも取れる反応だった。彼女にとって死とは絶対的な終着点であり、それを軽々しく口にする人間種を、彼女は今まで見たことがなかった。


「人間って本当にわけがわからない。まあいいわ」


アウラの視線が、すっと細くなる。
彼女がここに来て最初にやったことは、周囲の索敵でも地形の把握でもなかった。目の前に立つ老人の魔力量を、正確に計測することだった。これは彼女にとって、呼吸をするのと同じくらい当たり前の手順だ。相手の魔力を見誤れば、アゼリューゼは諸刃の剣となって己に返ってくる。
五百年かけて積み上げてきた自分の魔力量を上回る者になどそうそう出会わないと知りながらも、彼女は常に、まず測ることから始める。

老いた人間の魔法使い。それなりの魔力だが量で言えば自分に遠く及ばない。人間という種族の限界だろうとアウラは結論づけた。所詮、寿命の短い生き物が生涯かけて溜め込める魔力になど限りがある。

だが、この判断には一つの見落としがあった。

アウラの目にはダンブルドアの魔力量全てが見えていない。いや、正確に言えば見えなくされていた。
全参加者の首には一つの輪が嵌められている。首輪と呼ばれるその装置は単なる爆発物ではない。参加者の中でも強者に部類される存在に制限を課している。
それが魔族という種族全体に対する制限なのか、七崩賢に課せられた枷なのか、それともアウラ個人にだけの制限なのか。
それを知る者は主催者しかない。
もし彼女がフリーレンとの戦いを経て、自らの魔法によって死亡後に蘇生されてからこの場に来たなら、あるいは違和感に気づけたかもしれない。
一度でも己の見立てが外れるという経験をしていれば、五百年分の慎重さがもう一段階、深く働いたかもしれない。
だが今この場に立つアウラは、まだその敗北を知らない。
アゼリューゼによって己が支配されるなどという事態を彼女はただの一度も経験したことがなかった。
だからこそ彼女に迷いはなかった。


「服従させる魔法(アゼリューゼ)」


天秤の両端に二つの魂が乗せられる。
この儀式めいた光景をダンブルドアは奇妙な既視感を持って眺めていた。魂を天秤にかけるという発想そのものは、彼にとって初めてのものではない。死の秘宝を巡る旅の中で、彼は魂というものの重さと軽さについて、随分と長い時間考え続けてきた。妹アリアナの死。友人であり、かつて恋をした相手でもあるグリンデルバルドとの決別。ヴォルデモートという、魂を割いてまで永遠を求めた哀れな青年。
魂の価値を天秤にかけようとする者を、彼は何人も見てきた。そして、その天秤がどれほど傲慢な代物であるかも彼は知っている。

天秤が揺れる。
本来であれば、アウラの目算通りの結果が出るはずだった。老いた人間の魔法使いなど、五百年を生きた大魔族の敵ではない。天秤は迷わず彼女の側に傾き、老人の魂は服従の枷にかけられるはずだった。
だが天秤は老人の側へ傾く。


「――は?」


アウラの余裕に初めてひびが入った。


「う、そ」


彼女の声から余裕という余裕が消え失せた。


「これは何かの間違いよ。私が、この私が」


天秤の裁定は絶対だ。アゼリューゼという魔法そのものが五百年間彼女に絶対の勝利しかもたらしてこなかった、その根拠そのものが、今この瞬間、彼女自身を飲み込もうとしていた。


「ありえない」


膝から力が抜けアウラはその場に崩れ落ちる。角のある頭を垂れ荒く息をつきながら、彼女は信じられないものを見るような目で目の前の老人を見上げた。


「500年以上生きた大魔族である私が……人間なんかに」


声は震えていた。怒りなのか、恐怖なのか、それとも五百年生きてきた自負が音を立てて崩れていく困惑なのか、彼女自身にもわからない。ただ確かなのは、天秤の針が完全にダンブルドアの側で静止し、二度と動かなくなったという事実だけだった。

服従の天秤は支配者の名を刻む。
今この瞬間から、アウラという大魔族の魂はアルバス・ダンブルドアという一人の老人の意のままになる。


「――さて」


ダンブルドアは、崩れ落ちたアウラの前に、ゆっくりと歩み寄った。

「これは、驚いたのう。君の方がわしを従わせるつもりだったのじゃろうな」


「……っ」


アウラは答えず屈辱に唇を噛んだ。だが、その体は意思とは無関係に、ダンブルドアの言葉を待つようにこわばったまま動かない。


「試しに聞いてみようかの。今、わしが立ちなさいと言ったら君はどうする?」


「……」


答えたくない。答えたくないのに口が勝手に動く。


「……立つ、わ」


その通りにアウラの体はゆっくりと持ち上がった。膝が震えている。屈辱で、あるいは初めて味わう、支配される側の感覚に対する生理的な拒絶反応で。


「なるほど。実に興味深いのう」


ダンブルドアはまるで珍しい植物標本でも観察するかのような口調で呟いた。もっとも、その瞳の奥にある光は単なる知的好奇心だけではない。
この老人は、生涯を通じて観察するという行為の裏に、常に判断するという冷徹な思考を隠し持っている。


「一つ、教えてほしいことがあるのじゃが。君はどのような存在なのかのう。さきほど魔族という言葉を使っておったね」


「……知って、どうするの」


「知らねば、どう扱うべきかもわからんじゃろう?」


ダンブルドアの声音は、あくまで穏やかだった。だがその奥に、有無を言わさぬ圧力が滲んでいる。
アウラはその圧力の正体を正確に理解していた。命令だ。服従の天秤によって刻まれた主従の絆が彼女の意思とは無関係に答えることを強制している。


「……魔族は――」


言葉がこぼれ落ちるように出てくる。
話を聞き終えたダンブルドアの表情に、初めてはっきりとした翳りが差した。


「……それは随分と恐ろしい話じゃな」


「恐ろしい? 何が」


「人間の形をして、人間の言葉を話し、人間の感情を装いながら、その内側には人間とは決して分かり合えぬ何かがある。それが恐ろしいと言っておるのじゃよ」


ダンブルドアは立ち上がり、静かに周囲を見渡した。深夜の闇の中、ビルの輪郭が墓標のように並んでいる。


「わしはな長い人生の中で、随分と多くの恐ろしいものを見てきたつもりじゃった。アロマンチュラという人語を解する大蜘蛛。目が合えば石になるバジリスク」


「それが何?」


「それらは皆、恐ろしくはあっても理解の及ぶ範囲におった。彼らがなぜ人を襲うのか、なぜ恐怖を撒き散らすのか。じゃが話を聞く限り君たち魔族は違うようじゃ」


ダンブルドアの声が、わずかに低くなる。


「君たちは、理解されることを前提としておらん。人間の姿と言葉を借りながら、その実、まったく別の論理で動いておる。それはもう危険な生物というより、もっと根本的に相容れぬ何かじゃな」


アウラは何も答えなかった。答える気になれなかった、というのが正確なところだろう。この老人が何を考えているのか彼女には測りかねた。

沈黙がしばらく続いた。
彼女の言うことが真実であるならば魔族という存在は人間社会に対して致命的な脅威でしかない。
この場でアウラを殺す。今ならアバダ・ケダブラする必要もなく自害を命じれば済む。
それは決して不合理ではない。事実、彼はこれまでの人生で、幾度となく大局のためにという言葉のもとに非情な決断を下してきた。ハリーという少年の運命さえもその天秤に乗せたことがある。

だが――


(いや。それは、違うのう)


ダンブルドアは静かに首を振った。
彼が今まで下してきた冷酷な決断には、常に一つの前提があった。相手が人間であるということ。あるいは、人間と同じ理屈で判断し、選び、悔い、変わりうる存在であるということ。
ヴォルデモートでさえ、彼は最後まで、どこかで改心の可能性を捨てきれずにいた。実際にそれが叶わないと悟るまでには長い長い年月がかかったが。
だが目の前の彼女は違う。改心も贖罪も対話による理解も、その前提が最初から崩れている相手に対して殺すという判断を下すことに、はたしてどれほどの意味があるのか。
ダンブルドアは自嘲するように口の端をわずかに歪めた。
彼はかつて、力ある者を前にすると判断力を失うという弱さを、自らの過去から学んでいる。若い頃のゲラート・グリンデルバルドとの出会い。栄光と権力への渇望に目が眩み、妹の死という取り返しのつかない代償を払った、あの夏の記憶。
以来、彼は己の判断力の限界について、常に一歩引いた場所から自分自身を疑うことを習慣にしてきた。
今、目の前にいる少女の姿をした怪物を、勢いのままに殺すことは果たして本当に、正しい判断なのだろうか。それとも、ただの安易な処理に過ぎないのだろうか。
ダンブルドアはアウラを殺さないことに決めた。
だが、それは同時に、もう一つの決断を意味していた。


「君を解放するつもりはない」


ダンブルドアは静かに、しかしはっきりと告げた。
アウラの表情が初めて明確な感情を映した。怒り、それに近い何か。


「服従させる魔法とやらで人を縛るというのは、わしの趣味には合わんのじゃ。本来であれば、こんな真似は好ましいとは思わん」


ダンブルドアの声には確かな苦さが滲んでいた。これは彼にとって決して気分の良い決断ではない。誰かを鎖につなぐという行為は、彼が生涯かけて忌避してきたことの一つだ。
魔法界における隷属や支配の歴史を、彼は誰よりも深く知っている。屋敷しもべ妖精たちの境遇、純血主義者たちの傲慢、そして自分自身がかつて、力の弱い者たちを平然と踏みにじる思想に魅了された過去。


「じゃが君を野放しにすればバジリスクの比ではない被害が出るじゃろう。わしはそれを見過ごすわけにはいかんのじゃよ」


ダンブルドアは右手をゆっくりと差し出した。


「これは、わしが預かろう」


「……っ、それは私の――」


「今この瞬間から、わしの管理下にあるものじゃ。安心したまえ。無闇に振り回すつもりはない。ただ君という存在を制御する手綱として必要なだけ使わせてもらうのでな」


服従の天秤は抵抗もなくダンブルドアの手に収まった。
アウラは、それを黙って見ているしかなかった。憎悪と屈辱がない交ぜになった目で、彼女はその光景を睨みつけていた。

夜はまだ深い。零時から始まったこの命の授業は、四十八時間という残酷な時計の針を、今ようやく動かし始めたばかりだった。


「行くとしようかのう。腹が立つのはわかるが、まずはこの島がどういう場所なのか、状況を整理する必要があるのでな。君にも、多少は手伝ってもらうことになるじゃろう」


ダンブルドアは天秤を懐に収めると、静かに歩き出した。振り返ることなく、しかし当然のようにアウラがついてくることを前提とした足取りで。
服従させる魔法により否応なくアウラの足を動かす。彼女は歯を食いしばりながら、その後に続いた。


「……勝手なことばかり」


「年寄りの我儘だと思ってくれて構わんよ」


ダンブルドアは口の端にわずかな笑みを浮かべた。だが、その笑みの奥にある思考は、決して呑気なものではなかった。
この島には、彼が今まで出会ったことのない種類の脅威が、まだいくつも潜んでいるだろう。
五百年を生きた大魔族の少女は、その最初の一体に過ぎない。


「聞いておきたいのじゃが」


ダンブルドアは、歩きながら独り言のように呟いた。


「君のような存在が、この島には他にもいるのかね」


「……知らないわよ、そんなの」


アウラは苦々しげに答えた。
服従の天秤に縛られた体は、今は彼の言いなりになるしかない。だが心まで屈服したわけではない。五百年を生きてきた矜持と執念が彼女の内側で静かに燃えている。
いつか必ず天秤を取り戻す。
そして目の前を歩くこの人間を跪かせてやる。
アウラはそう心に誓いながら老人の背中を睨みつけていた。
深夜の闇が二人の影を音もなく包んでいる。支配する者と、される者。しかしその関係が、この先四十八時間、果たしてどちらに転ぶのか。
それを知る者は、まだ誰もいなかった。



【アルバス・ダンブルドア@ハリー・ポッターシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:杖、服従の天秤
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~2
[思考]:殺し合いには乗らず、主催者を打倒する。
1:アウラを殺さず、解放せず管理下に置く。
2:他の参加者と接触する際は、まず対話の余地を探る。


【アウラ@葬送のフリーレン】
[状態]:服従の天秤によりダンブルドアに隷属中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~2
[思考]:服従させる魔法の支配から逃れる手段探す。
1:表面上は従いながら天秤を取り戻す隙を窺う。
2:状況を把握して、いずれ主導権を奪い返す。







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最終更新:2026年08月03日 20:35