闇中寓話 ◆2dNHP51a3Y


「……結構面白いね、これ。」
「でしょ! でしょ! 少女漫画だからって男の人は避け気味だけどちゃんとしたバトル展開も在るから男の人も読みやすくて!!」

この私、出雲風子は、物珍しそうに眺めながら『君伝』の感想を呟いた継ぎ接ぎ顔の男の人に、思わず早口になってしまっていた。
『不運』が取り柄の私がこんな幸先の良い感じ、というのは何故か逆に心配したくなる所だけど、こんな人当たりのいい感じの出会えたのは良かったかも。

「なーにニヤニヤしてるのかな?」
「あ、ご、ごめんなさいっ! でも何だか嬉しそうですね真人さん、もしかして『君伝』気に入ってくれたんですか?」
「いや、君がそんな良い笑顔するからちょっとね、こんな殺伐とした舞台なんだ。君の存在が程良く気を和らげてくれるのは良い兆候だと思うよ。」

この継ぎ接ぎ顔の人は『真人』さん。私がこの殺し合いの会場で初めて出会った参加者の一人で、ちょっと私の力のせいで迷惑かけちゃったと言うか、いきなり触れてきた自分の非ということで真人さんの方も謝ってはくれたんですけれど……。

「……ん? どうしたの? またこの怪我の事? だから、こんなの怪我の内に入らないって、だから気になくても良いんだよ?」

真人さんが私に触れて、そのせいで私の『不運』が発動して、真人さんの腕には降ってきた木の枝が刺さった時の怪我が……ってあれもう治ってる?

「ははっ、だから気にしなくても良いって言ったじゃないか? ある意味これも君の『不運』と同じような体質かもしれないね?」

いや傷が簡単に治るって言われても……。もしかして真人さんも自覚が無いだけで私と同じ否定者だったりするのかな? 『不傷』の否定者、とか。

「そういうことだから余り俺の事は心配しなくていいからさ。『不運』も君に直接触れなければいいって君が教えてくれたんだし。」
「そ、そう言われても、うん……。」

謝罪ついでに直接触れなければ『不運』は発動しないぐらいの情報は真人さんには教えてあげた。実際はもうちょっと複雑なんだけれど、不用意な事故な防ぐぐらいならこの程度でいいかな。
教えすぎて今後の枷になることは避けたいからそれ以上の事は伏せたけれど。

「ねぇ風子、せっかくだから一つ質問してもいいかな?」
「質問ですか? 私に答えられる範囲なら……」
「――人に「心」があると思う?」

真人さんの突然の問いかけに、私は一瞬黙ってしまいました。
余りにも難しい哲学的な質問で、余りにも突発的で呆気にとられたのもあります。

「……いいさ、その答えは、次に俺に出会う時までにとっておいてよ」
「え?」


また会う時? 唐突過ぎる言葉に頭が追いつけていきません。
そんな言葉を真人さんは私に残したまま、私の前からいつの間にか消えていました。

「……何だったんだろ、真人さん。」

結局あの人の事は何も分からず終いで、また一人になっちゃったけど、ああいう優しい人も居るんだなと、思わずホッとしてしまいました。
……なんて感傷に浸っている暇はないかな。あの人が否定者なのかどうかは後で考えるとして、まずはアンディやみんなを探さないと。
アンディやシェンさんは大丈夫だって信頼してるし、リップさんも今の私の立場からして大丈夫。それにオータム戦で多分少しは通じたかも知れないし。
唯一どうなるかわからないのがファン。強さだけを追い求めたUNDER所属の否定者の一人。あの人だけがこの場所でどう動くか予想がつかない。

「……行かないと。」

待っててアンディ。それにシェンさんやリップも無事でいて欲しい。こんな場所で、私以外の不運に躓いてほしくないよ。




……面白い事をしてくれたじゃないか、夏油。
一人殺して5ポイント、50ポイントで対象者の願望成就と脱出。25ポイントでルール追加、と。
開示されたルールが単純では在るが、それ故に強固な『縛り』として科されている。

それと彼女、中々に油断できないね?
フェイントも兼ねて最初は普通に触れてはみたけど、振れた途端に僕の手に向けて木片が降ってきた訳だ。
害意に対して自動的に反応? もし無為転変を使ってたらその場合何が来るか分からなかったから使わなくて結果的に正解か。
彼女がこの現象を自分の『不運』と言い表した。もしその不運が呪術によるものなら開示という形で先手を取られたわけになる。
俺が本当に何者かは流石に悟られてはいないからいいけれど。
俺の『無為転変』は直接相手に触れなければ意味がない、彼女の『不運』は直接触れられない限りは発動しない。彼女、いつか俺にとって厄介な相手になりそうだな。

俺を助けた……と言うよりも俺を閉じ込めたのはこういう意図からなのかな、夏油?
でもいいさ、呪霊は呪いを振り撒くものだ。だから初心に還って狡猾に行こう、呪いらしく、人間らしく。

それに虎杖悠二、あの時は負けて情けなく逃げ出したけど、今度はそうは行かないさ。
だから学ばないと、他の世界の知識からインスピレーションを得て、更に俺を発展させて。
そして俺が新しい呪(オレ)に至ったその時、今度こそお前を殺してやるよ、虎杖悠二。



……そういえばこれ(君伝)、彼女に返すの忘れちゃったか、まあいいや。


【B-6/森の中/1日目・未明】

【出雲風子@アンデッドアンラック】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品2
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:アンディやみんなを探す。
2:あの人(真人)、一体何だったんだろう……?
[備考]
※参戦時期は最低でもUNDER側に向かった後

【真人@呪術廻戦】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品3、君に伝えて@アンデッドアンラック
[思考]
基本:狡猾に行こうか。呪いらしく、人間らしく。
1:この殺し合いの中で楽しみ、新たなモノを学ぶ。
2:彼女(風子)はちょっと警戒対象かな?
3:虎杖悠二、今度こそお前は殺してやるよ。
[備考]
※参戦時期は15巻から

『支給品紹介』
【君に伝えて@アンデッドアンラック】
出雲風子に支給。著作・安野雲のSF長編少女漫画の金字塔、全101巻。
このロワで支給されたのは第一巻のみ。


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最終更新:2022年01月28日 14:34