禪院家次期当主登場! ◆XqBfegeW1c
その男は、臨戦態勢を取っていた。
だからこそ、この奇襲に対応できたのだろう。
標的を見つけた野獣のような獰猛さで襲いくるそれに、カウンターで掌打を見舞う。
顔を打たれ、鼻から血を吹き出した襲撃者が、その血を刃のように変質させて再度の攻撃を図る。
だがその動きはピタリと止まる。男が身体を回転させ、その喉元に蹴りを叩き込むまで1秒。
倒れ伏す襲撃者を睨みながら、男は不機嫌そうに呟いた。
「ドブカスが……」
◇
「頼むーーーーー!!殺さんでくれーーーーー!!」
「そんな事言われてもなぁ……」
史上最悪の術師・羂索が始めたバトル・ロワイアル。
その会場の片隅の小屋に、手足を拘束された女とそれを見下す男が一人。
だがその間柄は必ずしも被害者と加害者というわけではないようだ。
「君ホントにもう4人も殺しとるん? にしては弱すぎやろ」
「ほ、本当じゃあ……デンジとアキ、”モンキーDルフィ”に“おにまいつじむざん“という奴を殺してやったんじゃぁ~」
薄い胸を張ってドヤ顔をする女、パワーを疑わしげな表情で見る男。
彼の名は禪院直哉。日本呪術界御三家・禪院家の次期当主を自負する呪術師である。
ぎゃあぎゃあと喚くパワーを無視しながら、直哉は思考に耽り始めた。
殺し合いに巻き込まれた直後の彼は混乱していた。
遥か格下と見下していた女に敗北を喫した記憶。
更に目下の、名前すらろくに認識していない下女に刺殺された記憶を抱えながら。
呪術的に考察するならば、今の自分は呪霊の可能性が高い。
この殺し合いの舞台ですら、己の認識内で展開されている茶番劇ではないのかと疑った。
だが身体を動かした感覚は明らかに生前の、しかも万全の自分のそれ。
加えて先程殺し合いのルールを説明した男……その姿を己は知っている。
特級呪術師、夏油傑。人類最強の呪術師、五条悟に階梯だけならば並ぶ程の男。
彼の口から出る『縛り』という言葉の重みを直哉は芯から理解していた。
(俺の頭ん中の出来事やとすりゃ、それこそ縛りなんて言葉は出さんやろ)
正統な呪術師として特に意識の高い直哉である、そこは自分自身に確信を持っていた。
つまりこれは現実……死の直前、あるいは死後の自分が万全な生身を持って存在している。
そう認識した直哉は、前向きに現状を好転させようと己の方針を定めた。
いかなる手段を用いても生還し、怨敵・禪院真希を滅殺する。
意趣返しに呪力を使わないやり方で殺害し、呪霊化させてもう一度祓(ころ)してやる。
その暗い情念が呼んだのか。突如襲いかかってきた自称最強の悪魔、パワーを返り討ちにして今に至るのだ。
「許してくれぇ~~~!!!! もうお前は殺そうとせんからぁ~~~!!」
「やかましいわゲロカスゥ!」
「ギャッ!」
全く大人しくする気配のないパワーの顔面を張り飛ばし、横転させて腹部に幾度となく蹴りを叩き込む。
直哉の経験からして、殴打の際の感触は確かにただの人間のものではないと判断できた。
軽く呪力を込めてみても祓えない事から、呪霊でもない。悪魔という自称は満更嘘ではないようだ。
サンドバックとしては悪くないが女として使うのはやめておいたほうが良さそうやな、と考えながら足を振るい続ける直哉。
数分後、ようやく静かになったパワーの髪を掴んで身体を引きずり、加減なく壁に頭を叩きつける。
「パワーちゃん、人殺しはアカン事やろ? なんでそんな事したん、教えて?」
「……」
「俺が喋れいうたら喋らんかい!!!」
「……ワシはやりたくなかったんじゃぁ~~~、マキマの命令で……」
「そらひどいな。もうそんなやつの言うこと聞かんでええで。これからは俺が命令してやるさかい」
直哉はパワーの言を何一つ信じてはいない。
それでも彼女を殺さないのは、呪術的結界に囚われた状態で軽々しく術師の言葉に従う事への懸念が第一。
縛りにより発した言葉に嘘がないのは確定しているが、夏油は『殺し合いを途中で中断する事はない』とは言っていない。
極論すれば10人殺害して願いを叶える人間が出てくる直前に主催者側で殺し合いを切り上げる事も可能なわけだ。
それまでに殺し合いに乗った人間の魂を生贄にするなど、いかにも呪詛師がやりそうな事ではないか。
『最後に生き残った一人だけが生還できる』などと言わず、10人殺すだけで脱出できると匂わせる辺り実に怪しい。
「もう一度聞くけど、ホンマに4人殺しとるんやね?」
「ひゃ、反省しとるぞ? もうやらんからぁ蹴るのはぁ……」
「20ポイント貯めたんやろ? もったいないなぁ。あと一人、悪いやつに出くわしたら殺させたる。25ポイントになるやん」
「お、おぉ……」
「そしたらなんかええルールを二人で考えて足そうや。楽しみやね」
「ひぃぃぃ……」
カタカタと震えだすパワーをもう一度蹴り飛ばして、直哉は名簿を開く。
ずらりと並ぶ名前を眺めながら、自分の知る名を再度確認していく。
(デンジ、アキはアホ女の口ぶりからしてアホの知り合いやろな。嘘で殺してもええくらいの気が知れた仲かな。
これは多分きぶつじって読むんやないか? ウキウキDルフィくんと一緒で強そうな名前を適当に出しただけやろ)
(恵君がおるのは嬉しいな。サクっと死んでくれんかな? 東堂は厄介やな。
傑くんと組んどるらしい特級呪霊は渋谷で祓われたって上の人が言っとったが……)
(なんせ甚爾君がおるくらいや。俺自身の事もあるしな)
伏黒甚爾。かつて自分が憧憬し、今なお目指している強さの極点に立つ存在。
殺し合いの場に共にいる事、自分が優先的に狙われる可能性さえある因縁。
それらを含めても、直哉は湧き上がる童心を抑えきれないでいた。
(……にしてもなぁ)
ある名前に目を止めて、歓喜が一瞬で凍てつくのを自覚する。
このバトル・ロワイアルの主催者が呪術師であると知り、呪術の深奥を知る直哉だからこその戦慄。
(宿儺の器を蠱毒みたいなとこに突っ込むって、何考えとんねん……)
直哉は臨戦態勢を崩せない。
特級というその名以上に特別な存在。
その中でも更に埒外の驚異がこの会場のどこかにいるのを知っているからだ。
【B-7/那田蜘蛛山山中の小屋/1日目・未明】
【パワー@チェンソーマン】
[状態]:ダメージ(中)、拘束、恐怖(大)
[装備]:いつもの服装
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:生還する。
1.あと6人……無理じゃあ~~~
2.直哉の機嫌を損ねないよう立ち回る
3.デンジ、チョンマゲ、許してくれ……
[備考]
※自分の吐いた嘘(デンジ、早川アキ、鬼舞辻無惨、モンキー・D・ルフィを殺害した)を信じています。
※参戦時期は生前のどこか。詳細は後の書き手様におまかせします。
【禪院直哉@呪術廻戦】
[状態]:健康
[装備]:いつもの服装
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品×2~6
[思考・状況]
基本方針:生還する。
1.呪術的影響を考慮して殺し合いには乗らず、主催者の動向を探る。
2.どうしても殺す必要がある相手は、痛めつけたあとパワーに殺させる。
3.宿儺の器(虎杖悠仁)、腸相、真人を警戒。
4.甚爾君の戦う姿が見れるかもしれん……。
5.恵君は死んでくれたら嬉しいな。
[備考]
※羂索を夏油傑と認識しています。
※参戦時期は死後。自身もそれを認識しています。
最終更新:2025年08月11日 22:22