致死量にいたる病【Mixing is Dangerous】 ◆Il3y9e1bmo
午前五時のことである。
日本呪術界御三家の自称次期当主、禪院直哉と血の悪魔パワーの二人組は、とりあえず拠点を探すため、南下していた。
禪院直哉に引っ立てられていたパワーは相も変わらず、時々直哉の方を恨みがましげな目で見るが、その度に直哉はパワーの腹に蹴りを入れていた。
「うう~~~~……痛い……。痛いんじゃあ! このままでは腹痛で死んでしまう~~」
「アホか、この程度の蹴りで死ぬかい。分かったらはよう、俺が朝まで寝るんにええ場所探さんか」
めそめそと泣き言を繰り返すパワーに、正直言って直哉は若干辟易していた。
直哉が嗜虐心をくすぐられ、暴力を振るいたくなるのはもっと気の強い女だ。
こちらがいくら殴っても屈さず、最後までこちらを睨みつけているような――――
気づくと、もう陽が上りつつあった。
太陽が山の端から見え隠れし、雲の切れ間から時々日光が差し込んでくる。
それをちらりと見、直哉は大きなあくびを一つした。
「しっかし、全然他の参加者と会わんなあ。誰でもええからさっさとパワーちゃんに殺してもろて、俺が楽できるようなルール追加したいわ」
「お、お腹が痛いだけじゃなくて減ってきたんじゃ……。もうペコペコじゃ……。歩けん……」
パワーはそう言うなり、その場に座り込んでしまった。
「どしたん、パワーちゃん。そんなに減っとるんやったらそこら辺の草でも虫でも何でも食べればええやん。あ?」
直哉はニヤつきながら座り込んだパワーの髪を鷲掴みし、そのまま無理やり上を向かせた。すると、半泣きのパワーが何かに気づく。
「か、観覧車じゃ! ……そ、そうじゃ思い出したぞ! あそこには遊園地があって、豪華なホテルもあるんじゃあ!」
「……? ほんまか、それ」
直哉が半信半疑で聞く。この女の話は話半分……いや2割くらいで聞くのがいいと、これまでのやり取りでそう判断していた。
「ほ、本当じゃあ! ワシはそこでデンジを殺したんじゃ!」
「ほーん」
直哉はそう言うと、懐から支給品のルールブックを取り出した。
パワーから強奪したものだ。そこの地図のページを開く。
「確かに、遊園地はあるみたいやなあ。まあ、遊園地なら休めるところくらいあるか……。
よっしゃ! パワーちゃん、今からそこ行くで。休憩ついでにそのデンジ? とかいうのヤツの死体があるか確かめたるわ」
直哉はまごつくパワーを他所に、意気揚々と遊園地に向かうことを決めた。
――数分後、二人は遊園地に到着する。
大きな観覧車が目印のそこそこ大きめのテーマパークのようだ。
園内には、メリーゴランドやジェットコースター、コーヒーカップなどの遊具が多数存在していたが、やはり参加者の姿は無いようだった。
「……チッ、人っ子ひとり無しかい。それで、パワーちゃん。デンジくんはどこで殺したんや?」
「え! えーっと、あっちじゃったかのう? それとも、こっちじゃった気もするが……」
すると直哉の言葉にパワーが急にしどろもどろになりはじめた。
「は? ……ホンマに嘘やったんかい。この分やったら他の三人殺しもかなり怪しいなあ。こんなところまでえらい歩かせてくれて、どう落とし前つけてくれるんや?」
直哉はニコリ、と微笑みを浮かべたままパワーに問う。
「ひ、ひいいいいいいい……」
直哉がパワーの頭に手をかけ、そのまま力を徐々に強めていく。
ギシギシという音と共に、あまりの激痛にパワーが白目を向いた。
(で、デンジ……アキ……助け……)
パワーが意識を手放そうとする、まさにその時だった――
「いやいや、マジだってマキマさん! この辺からパワーの声がしたんすよ!」
正義のヒーロー・チェンソーマンと、その飼い主の美女が姿を現したのだ。
「げえッ! パワー、何やってんだよ! だっ、大丈夫かよォ~~~~!?」
急に現れた二人組に驚き、振り向く直哉。
そこには、いかにも知能の低そうな顔の金髪の少年と、ミステリアスな雰囲気を漂わせる赤髪の美女が立っていた。
「ホントだ。パワーちゃんいるね」
「あそこの着物の男がパワーにアイアンクローかけてたんすよ! ぜってえアイツ、悪いヤツっすよ!!」
知り合いであるらしいパワーの無惨な姿を見ても全く顔色一つ変えない美女と対照的に、金髪の少年が騒ぎ立てる。
「ゴチャゴチャうるさいなあ。これは殺し合いやで? 俺が他の参加者をどうしようと勝手やん。そんなキンキン叫ばんとってや」
すると、先程、マキマと呼ばれていた女性がこちらへ歩み寄ってくる。
すわ攻撃かと臨戦態勢を整える直哉の脇を素通りし、マキマはしゃがみ込んでパワーの顔を覗き込んだ。
「パワーちゃん。大丈夫? そんなにボロボロだけど、どうしたの?」
「い、痛いんじゃあ。その男に急に襲われたんじゃあ……。ワシはただ、皆で殺し合いをしないで済むように仲良くしようとしておっただけじゃのに……」
パワーの言葉に、直哉は目を剥いた。この女、先に襲いかかってきたのはそちらではないか。
なのにいけしゃあしゃあと「襲われた」など、どの口が言うのだ。先程の言動から照らし合わせてもきっと異常なまでの虚言癖があるに違いない。
「そうなんだ。大変だったね」
だが、マキマはそれを信じたのか、あろうことかねぎらいの言葉をかけ、パワーの頭をよしよしと撫でた。
「マキマちゃん……やったか? 分かっとると思うけど、そいつとんでもない嘘つきやで。しかも殺し合いに乗っとる。
悪いことは言わんからさっさと離れたほうがええと思うで?」
しかし、直哉の言葉は再び無視された。マキマはパワーに肩を貸すと、そのままベンチの方へ運び始めたのだ。
ここまで女性に無視されたのは初めてのことだ。直哉の額に青筋が立つ。
だが、一方で直哉の心には別の感情が芽生えていた。それは嗜虐心だ。
自分をコケにした気の強い美女に鼻血を流させ、地べたに頭を擦り付けさせる。これほどの快感があるだろうか。
「……ちょっと待てや。アンタ、あんまり舐めたマネしたら――」
「デンジ君、後は頼んだよ」
マキマはまた直哉を無視した。三度目だ。
直哉の中で、決定的な何かが切れた。
「ッッ!! ブチのめしたる! このアマッ!」
マキマの方に向かって一直線に走り出す直哉。
だが、マキマに頼んだ、と言われていた少年のデンジが直哉の前に立ち塞がる。
「待て! テメーはこのデビルハンター、デンジ様が相手してやるぜェ~!」
――だが、『投射呪法』で速度を上げ始めた直哉を止めることなど当然できない。
「邪魔やッ! このキンバエが!」
胸のスターターロープを引く間もなく、拳一つで遊園地の向こうまで殴り飛ばされる。
投射呪法。1秒間の動きを24分割したイメージをトレースすることで、ある程度の物理法則や軌道を無視した動きを行うことができる直哉の生得術式だ。
――そして、それは彼の触れた対象にも適用される。
直哉の手が、マキマに触れる。
するとマキマの姿がぶれ、まるでアニメーション制作時に使うセル画のように変化した。
「死ねッ!」
直哉がそのままマキマを殴り飛ばす。
マキマは何もすることができないまま吹き飛び、園内の花壇に体ごと突っ込んだ。
「……はあッ、はあッ! 死んだか……?」
直哉はやってしまったという顔をした。
頭に血が上っていたとはいえ、少々強く殴りすぎたか。
まだ死んでいないなら先程の少年と一緒にパワーに殺させるだけだが。
「ふーん、強いね。あなた」
考え事をしていた直哉の耳に、女性の声が響く。
見ると、そこには先程吹き飛ばしたはずのマキマが平然と立っていた。
「……なっ、はあ!?」
そんなハズはない、と直哉は驚く。
呪力を込めて攻撃しのだ。死ぬところまではいかなくとも、気絶していないのはおかしい。
ましてや、傷一つ無いなど――
「呪術師かッ! お前ェ……!」
直哉がマキマを見据える。
今度は油断しない。この女は明らかに危険だ。直哉の直感がそう告げている。
最悪、死ななければいい。両手両足をもいでも最後のトドメさえパワーにやらせればいいのだ。
「ぶち抜いたる! 最高速度で!!」
直哉は再び投射呪法を発動し、マキマの周りを高速移動し始める。
投射呪法は重ねがけすればするほど速度が増す。
今、直哉の速度は亜音速を超えていた。
「おおー、速い速い」
だが、マキマは平然としている。
あの禪院真希ですらカウンターの体勢を取っていたのに、それすらせず、ひたすら自然体で佇んでいる。
「クソッ! なんなんや、この女ァ……!」
だが、直哉はもうヘマをする気はない。
脹相、真希と来て三度目の正直だ。
徐々に距離を詰め、マキマに近づく。
「喰らえやッ!」
マキマに触れ、再び投射呪法を発動。セル画状態になったマキマを二度打ちの打撃で撃ち抜く。
例えマキマの術式が攻撃の瞬間的な無効化だとしても確実にダメージを通せる必殺の攻撃である。
マキマは立ち上がって来れないはずだ。
これでもし立ち上がって来れるのなら彼女は人ならざるもの、悪魔か何かに違いない――――
――しかし、直哉の希望的観測は見事に砕かれた。
まるで映像の逆再生のように、マキマがそのまますくりと何事も無かったかのように復活してきたのだ。
「ぱん」
マキマはそのまま人差し指で作った指鉄砲を直哉の足元へ向け、撃ち出した。
ガォン、と直哉の足元がまるで空間を削り取ったかのように小さく抉れる。
「ぱん、ぱんぱん」
マキマが次々と撃った指鉄砲により、遊園地の周囲は細かい穴だらけになった。
「これでさっきの高速移動はできないね」
そう、禪院直哉の投射呪法は加速前にイメージをトレースする必要がある。
だがここまで不規則に穴が空いていては24FPSの動きを作り、なおかつ地面を高速移動することはできない。
「クソッ! ……クソがああああああ!!」
「じゃあね、バイバイ」
歯噛みする直哉に向け、マキマは指鉄砲を向ける。
――ぱん。
直哉は死への恐怖で目を瞑ってしまう。
しかし、直哉の身体に穴は空いていない。
「なーんてね。びっくりした?」
恐る恐る目を開く直哉に、マキマはいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「あなたには、デンジくんを殴った罰として私の犬になってもらいます」
マキマが本当か嘘か分からないようなことを言い、直哉は自身の耳を疑った。
「これ。私に支給された使い切りのUMAムーブの核らしいんだけど、これで別の場所に移動させてあげるから、他の参加者をたくさん殺して私にポイントを譲るルールを追加してね」
マキマはデイパックから野球ボール程度の大きさの球を取り出した。
「いい? これは契約です。分かったら返事して?」
マキマは直哉の目を覗き込む。そこには地獄の底よりも深い深淵が広がっていた。
「……は、はい」
直哉は心から恐怖し、思わず返事をしてしまう。
「オッケー。じゃあね、バイバイ」
マキマは先程の脅しと同じ言葉を繰り返し、UMAムーブのコアを空に掲げた。
間もなくして空間にヒビが入り、サイコロを模した巨大な手が放心状態の直哉を掴む。
――そして、直哉の姿は何処かに消えた。
「よし、あとはパワーちゃんだね」
マキマは何かいいことを思いついたかのように、手をぽんと打つ。
「パワーちゃん、起きて」
「ムニャムニャ……。お腹いっぱいじゃ……もう食べれないんじゃ……」
「起きて」
マキマはパワーの頭をつつく。
「ハッ! ま、ままま、マキマ……! ……さん!」
夢から覚めたパワーは、あまりの驚きにベンチからひっくり返ってしまう。
「パワーちゃん、大丈夫? 怖かった?」
マキマはパワーの顔を拭きながら彼女を気遣う素振りを見せる。
その言葉に、パワーは涙ぐみながらこくりと頷く。
「じゃあパワーちゃん、もし良かったらなんだけど――」
マキマはパワーに「誰も他の人がいない場所に行く?」と聞いた。
「そ、そんな場所があるのか……ですか?」
パワーが目を輝かせながら尋ねる。
「うん、あるよ。パワーちゃんの思ってる場所とはちょっと違うかもしれないけど」
頷いたマキマはデイパックから再び何かを取り出した。
巨大な試験管に詰まった黒いモヤのようなものだ。
「これは、ワープゲートです。ここを通ればパワーちゃんがもう一生怖がらなくていい場所に連れてってくれるはずだよ」
試験管の栓を外すと中のモヤが空気中に広がり、空間に人間大の黒い穴が開く。
「うおおおおお!! ワシはっ、もう怯えたくないッ!」
パワーはそう叫ぶと、喜び勇んでワープゲートに飛び込んだ。
寒い。息が苦しい。身体がふわふわする。
ワープゲートを通り抜けたパワーが最初に思ったのはそれだった。
――そして、それがパワーの考えた最後の全てだった。
上空1500メートル。そこに彼女は――血の悪魔は投げ出されていたのだ。
そして彼女は何も分からぬまま地面に激突し、そのまま息絶えた。
「さて、パワーちゃんも片付いたし、デンジくんを探しに行かなきゃ。きっと生きてるよね、私のヒーロー」
マキマは目を輝かせると、微笑んで観覧車の方へ歩き始めた。
【パワー@チェンソーマン 死亡確認】
【残り50人】
【C-5/遊園地/1日目・黎明】
【デンジ@チェンソーマン】
[状態]:ダメージ(中、回復中)、気絶
[ポイント]:0
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式。ランダム支給品1~3
[思考]
基本:マキマさんと一緒に10人ずつ殺してみんなで帰る。そしてマキマさんと……うっひょ~~~~。
1:出来れば悪いヤツを10人殺したい。
2:アキとパワーもまあ、心配してやってもいい。
3:痛ェ……。
[備考]
闇の悪魔戦前からの参戦です。
名簿をしっかりと確認していません。アキとパワーが参加していることはマキマさんから聞いています。
【マキマ@チェンソーマン】
[状態]:ダメージ(小?)
[ポイント]:5
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式。ランダム支給品1~3×2、ランダム支給品1、UMAムーブの核、黒霧の欠片
[思考]
基本:10人殺して『チェンソーマン』と一緒に帰る。
1:さて、どこに行こうか。
2:もう一匹犬ができた。ポイントを集めてもらおう。
[備考]
禪院直哉を恐怖心に付け込んで洗脳しました。
彼にポイントを集めさせて、献上させるルールを作るつもりです。
【UMAムーブの核@アンデッドアンラック】
「移動」を司るUMA、ムーブの核(コア)。
野球ボール程度の大きさだが、使用すると一度だけ対象を会場内のどこかへ移動させることができる。
【黒霧の欠片@僕のヒーローアカデミア】
敵連合の黒霧の身体を構成する霧状の物質の一部。巨大な試験管のようなものに入っている。
使用するとワープゲートが開き、一度だけ対象を会場内のどこかへ移動させることができる。
【禪院直哉@呪術廻戦】
[状態]:疲労(小)、恐怖(大)、洗脳
[ポイント]:0
[装備]:いつもの服装
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:生還する。
1:呪術的影響を考慮して殺し合いには乗らず、主催者の動向を探る。
2:どうしても殺す必要がある相手は、痛めつけたあとパワーに殺させる。
3:宿儺の器(虎杖悠仁)、腸相、真人を警戒。
4:甚爾君の戦う姿が見れるかもしれん……。
5:恵君は死んでくれたら嬉しいな。
6:ポイントを集めて献上せんと……。
7:あの女、クソッ! クソッ!
[備考]
羂索を夏油傑と認識しています。
参戦時期は死後。自身もそれを認識しています。
恐怖心によりマキマに洗脳されています。洗脳内容はマキマのためにポイントを集めることです。
会場のどこかに飛ばされました。どこに飛ばされたのかは後続の書き手にお任せします。
最終更新:2025年08月11日 22:23