春嵐 ◆sANA.wKSAw


「うおぉおおぉおおおお~~ッ! な、何故だ……」

 鬱蒼と茂る木々。
 野山の中を珍妙奇怪な生物が駆けていた。
 情けない声をあげながら、在りし日の面影がわずかに残るばかりのデフォルメされた肉体から汗の雫を散らす。
 明らかに人の法則では説明のつかない存在であるにも関わらず、彼は今土埃やら草葉やらに塗れながら必死に走っている。
 何のためにかは続く彼の言葉を聞けば分かるだろう。
 運命を狂わせる恐るべき邪神『狂乱』のナプタークは野ウサギのように追われる身分へと堕していた。

「何から何まで絶対に間違っているッ! 何故…何故この吾輩がこんな目に遭わねばならぬのだァ~~ッ!?」

 思えば最初からおかしかった。
 どこぞの邪教の者とも知れない縫い目頭の男が宣言した『死滅跳躍』なる死亡遊戯。
 ナプタークは紛れもない邪神であったが、しかし羂索の遊戯に積極的に加担するつもりはあまりなかった。
 理由は単純にして明快。
 どこからどう見ても羂索は胡散臭すぎた。
 身なりも振る舞いも言っていることも全部胡散臭い。
 こんな男が願いを叶える力なんて大それたものを持っているわけがない。
 きっと頭がおかしいのだろうということで納得した。縫い目もあったし。
 そう高を括ったナプタークはさっさと顔見知りの一人と一柱。
 宿敵の『破滅』と彼の居候先の家主と合流し、こんな陰気な場所からはおさらばしてやろうと思っていたのだったが……。

「チッ」

 現在ナプタークを追い回す"狩人"と行き逢ってしまったのはその矢先だった。
 最近は何かと絆され気味とはいえナプタークは由緒正しき邪神である。
 その人物を一目見た瞬間に概ねのことは分かった。
 こいつはろくでもない。
 殺し合いと聞けば喜び勇んで屍山血河を築き上げようとする、文字通りの人でなしだと。
 零落したこの体で無用な争いは避けたい。
 そろりそろりと見つかる前におさらばしたかったナプタークだったが……ついうっかり足元の小石を踏んでしまい、気付かれ、今に至る。

「雑魚の分際でちょこまか逃げ惑ってんじゃねえよ。手間取らせんな下等生物」
「な…何だと若僧が! 吾輩を誰だと心得ておる! 吾輩は第五柱『狂乱』の……!」
「知らねぇよ。俺は手間取らせんな、って言ったんだぜ」

 ゾッと寒気を覚えたナプターク。
 丘を転がり落ちることになるのも厭わず前方へ跳ぶ。
 その判断は正解だった。
 次の瞬間には彼がいた地点は追跡者の剣戟によって撫で切りにされていたからだ。
 それも、ただの剣ではない。
 黒光りする禍々しい稲妻を纏った、そこにある命を壊し滅ぼすことに特化した魔剣。

「ぐ……ッ」

 斜面を転がり落ちたことで全身が痛い。
 ナプタークはもう這々の体だというのに追跡者は苛立った様子でこそあるものの疲れた様子など一切なく、丘を下りてくる。
 月明かりを背負った彼の瞳に奇妙な文字が刻印されているのが見えた。
 上弦とかなんとか、その意味はナプタークには分からない。

“クソ…この吾輩が、こんな見るからに性根の浅い下賤の輩に……!”

 恐らくどこぞの邪教の手の者なのだろう。
 性根の浅さは少し見ただけで分かったが実力の高さは本物と認めざるを得なかった。
 現代の聖騎士団にすらこれほどやれる手合いは居るまい。
 長い封印から目覚め見る影もなく神威の零落した今の自分では、非常に不服だが敵わない相手だ。
 もっともその屈辱的な方程式を覆す手段が一つ、ナプタークにはあるのだったが……

「追いかけっこは終わりでいいのかよ。たかがヒトデがドブネズミみてぇに逃げ回りやがって」

 ザッ、ザッ。
 狩人が、鬼が下りてくる。
 捕食者の笑みを浮かべながらナプタークを見下ろす鬼。
 ナプタークの、恐るべき邪神の睥睨にも堪えた様子はない。
 それもその筈。
 今の零落したナプタークに威厳や恐ろしさといった概念はほぼ見て取れないのだ。
 結果狂乱の邪神は今、その偉大さを感じ取ることすらできていない三下によって刈り取られようとしていた。

「貴様…先刻から、言わせておけば……!」
「ハッ。何だよ一丁前に怒ったか? 人間の真似事は止しとけよ、見苦しいぜ」
「黙れ三下ァ! もう…もう堪忍袋の緒が切れたわ! 貴様が無学にも下等と嘲り笑った吾輩が如何ほど強大な存在であるか……見せてやるッ!!」

 ナプターク達邪神には権能と呼ばれる固有の能力がある。
 だがあまりに長い時間封印されていたことが災いし、その力の程は全盛期と比べると見るも無残だ。
 それに加えて(これは彼自身まだ知らないことだが)羂索の手により邪神二柱の力には一定の制限が課せられている。
 具体的に言うとナプタークは自らの権能を六時間に一度しか使用することができない。
 しかし今ナプタークは屈辱と怒りの絶頂にあった。
 後先など考えていられない。
 今は兎にも角にも、この舐め腐った小僧に目に物見せてやらなければ気が済まない……!

「あ? テメェ何を――」

 メキメキと音を立ててナプタークの口が開かれる。
 鬼、獪岳も彼が何か行うつもりらしいことは理解した。
 だが警戒心までは抱けなかった。
 どちらかというと訝しむ側面の方が強かった。
 それは紛れもなく油断と呼べる驕り高ぶった怠慢で。
 獪岳はその代償を、他でもない彼自身の体を以って支払うことになる。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ォォォォ――――ッッ!!!」


 邪神ナプタークの権能。
 "狂乱の咆哮"が、夜の闇を引き裂いて轟いた。

    ◆ ◆ ◆

「ぐ、ぁ、…………ッッ……!?」

 "狂乱の咆哮"。
 それは文字通り聞いた者に狂乱をもたらす。
 生物の上等下等を問わず、聞いたものの精神に介入して狂気を発生させる精神支配。
 自らを強者と驕り無防備な姿勢のまま咆哮を聞いてしまった獪岳。
 その体が後ろに大きく反り返り、過剰な自信で歪んだ顔は苦悶と困惑で染め上げられた。

「て…め、ぇ! 何しやがった、クソがアアア!」
「ふ…フフッ…! 吾輩を侮った報いだバーカ!
 人間崩れの分際で散々吾輩を貶しおった罪は重いぞ。己(うぬ)にも相応の恥辱で贖ってもらおうではないか……!」

 決まった……。
 我ながら惚れ惚れするほど綺麗に決まった……。
 一時はどうなることかと思ったがこれで一安心だ。
 封印による衰弱で咆哮の強さもずいぶん落ちぶれたが、輝かしい過去のナプタークと比べなければこれでも十分強力な権能だ。
 見るからに力だけの三下な獪岳(こいつ)が吾輩の狂乱に抗える筈もない。
 すっかり勝利を確信したナプタークの前で獪岳は砕けんばかりに歯を食い縛りながら、憤怒の形相でナプタークを見た。

「頭が痛ぇ…脳味噌にクソを混ぜられたみてぇな不快感だ……。
 遊んでやってれば付け上がりやがって……ブッ殺してやるよ、下等生物がア………!!」
「うんうん、そうだろうそうだろう。吾輩の『狂乱』はさぞかし堪え――――なんですと?」

 ナプタークの『狂乱』は凶悪な権能である。
 それは彼と犬猿の仲な第一柱の『破滅』でさえ認めるところだ。
 本来なら獪岳はすぐにでも膝を折り、ナプタークにこれまで働いた非礼を詫びていなければおかしかった。
 彼がそうするならば頭を二度三度踏んづけた上で家臣として使ってやるのもやぶさかではないと、ナプタークは既にそこまで皮算用していたのだ。
 なのに一向にその気配はなくそれどころか獪岳が自分に向ける殺意は先程より余計に燃え上がっている。
 これは、ひょっとして。

“あれ…吾輩もしかしてミスった……?”

 そんなナプタークの懸念は的中していた。
 とはいえこれに限ってはナプタークを迂闊と責めることはできない。
 獪岳に対して『狂乱』が正常に機能していない理由は、彼という存在の誕生にまで遡る。
 いや……正確には"新生"の瞬間にまで、というのが正しいか。

“…! そうか――此奴! 吾輩が手を下すまでもなく、既に……!”

 獪岳は鬼だ。
 しかし元々は人だ。
 人として生まれた者がある上位者の血を取り込み、新生した。変転した。
 羂索の遊戯盤に招待されたことで直接の支配こそ消失してはいるものの。
 鬼舞辻無惨という太原の血で汚染され、人間性なき鬼に『狂乱』した獪岳は既に超重度の精神汚染を負っているに等しい。
 だから汚染と汚染がぶつかり合って反発し合った。
 より月並みな言い方をするならば、喧嘩をした。
 その結果がこれだ。
 反発に伴う激しい頭痛と消耗が獪岳を苛む一方、ナプタークの狙いだった平伏は見込めずじまい。
 獪岳にとっては十分に予想しなかった最悪の展開だったろうがナプタークにとってはそれ以上の最悪だった。
 何しろ彼が獪岳にやったことは、実害を多分に伴う嫌がらせに留まってしまう。
 不快感と激痛をもたらされた獪岳は怒髪天を衝いたが。
 その怒りはナプタークを殺すという形で発散されるだろうことは言うまでもなく。

「ま…待て待て待て! 話せば分かる! ほら、人里まで出れば一皿馳走してやってもいいぞ! 吾輩こう見えて料理の腕には自信が……」
「死ねやヒトデ野郎がアアア!!」

 あ。
 ダメだ、これは死んだ。
 ナプタークは自分の判断ミスを悔やむと同時に走馬灯を見る。
 よりによってこんな奴に。
 これならまだ『破滅』の、マグ=メヌエクの手にかかる方がマシだった。
 死ぬのか吾輩は。
 今度こそ、封印などではなく本当に。

“く…! どうせ死ぬのならば、あの店の厨房で……”

 一皿作り終えて死ぬ……そんな幕切れが良かったなと。
 そんなことを考えながら月明かりを背に轟く銀閃を見上げたナプターク。
 だが今宵の彼が運がいいのか悪いのか。
 振り下ろされ、彼の体を細切れにする筈だった鬼の魔剣は中空で不意に静止した。

「何……!?」

 いや、止められた。
 月明かりのおかげでその正体が見える。
 剣を止めているのは細い、目で見取るのが難しいほど細い糸だった。
 蜘蛛の糸のように柔軟で絹糸のように繊細で、鋼糸のように硬い糸。
 それがナプタークの窮地を救ったのだったが。

「た、助かったのか……? ――ぶぼへぇえっ!? な、何をする貴様! 誰だか知らんがもう少し丁寧に扱わんかッ!!」

 次の瞬間ナプタークは手近な木の幹に、自分の命を救ったその糸でもって縛り付けられる羽目になった。
 思わず邪神にあるまじき悲鳴が出てしまうほどの勢いと衝撃。
 糸を操る者に彼を敬う気持ちなんてものがまったくないのはすぐに分かった。
 夜の野山の中に土を踏みしめる足音が響く。
 男だった。糸のように細い目をして、薄く甘い笑みを浮かべた男。
 その指先から糸が伸びている。
 男はこの場の何一つ恐れることなく悠然と足を進める。

「は、ッ…! 遊戯も始まったばかりだってのにツイてるぜ。まさか二匹目の獲物にまでありつけるとはなァ!」

 力ずくで糸を解いて体勢を立て直す獪岳だったが。
 彼の止めに横槍を入れた糸目の男はそのビッグマウスを胃にも介さない。
 男はその右手で自分の顔を覆うと。
 獪岳にもそしてナプタークにも向けていない独り言を喋り始めた。

「――この頃毎度思うんだが、神様とやらはひょっとして俺のことが嫌いなのかもしれないな……」

 あ? と眉を顰める獪岳。
 何だって? と同じ反応をするナプターク。
 そのどちらにも男は取り合わないし反応しない。

「思えばあの太陽めが俺の家に顔を出した頃からおかしくなり始めたんだ。
 昔は兄ちゃん兄ちゃんと俺にあどけない表情で微笑んでくれていた六美はあの馬の骨にうつつを抜かし始め、
 俺の失意を察したように六美を狙うゴミ…いやクソ……ウジ虫……青カビ……が増殖し出した挙句がこれだ。
 とうとう六美の、そして俺の家族の価値もわからないクズが涌いて狼藉と呼ぶのも憚られるような冒涜を働き出した」

 曰く。
 笑顔の起源は威嚇であるらしい。
 そしてそれはきっと正しいのだろう。
 声の主である男はその表情とは裏腹に溢れんばかりの激情を抱えていた。
 ナプタークの体を冷や汗が伝う。
 敵意剥き出しの獪岳にお前本当に大丈夫かと心配の思いさえ抱いた。
 男が、明らかにまずい匂いを醸していたからだ。
 邪神でさえ怯むほどの激しい怒りと極限のストレスがその細身の体の内側で煮え滾っているのがわかった。

「此処には俺愛用の義弟顔写真付きサンドバッグもない。
 よって必然、俺のストレスを解消してくれるのはお前達参加者だけとなるわけだが……」
「何言ってんだテメェ。阿片(クスリ)でもやってんのか?」
「返事をしたな。ならまずはお前からだ」

 触らぬ神に祟りなしという言葉がある。
 その点、獪岳は今明確にその愚を犯した。
 黙って嵐が過ぎ去るのを待ったナプタークとは違い、彼は触れてしまった。
 噴火寸前の活火山の火口にガソリンを抱えて近付くようなものだ。
 触れてしまったならもはや是非もなく。

「お前は今から俺の膾切り用サンドバッグだ。なるべく長く保ってくれると嬉しいぞ?
 具体的にはそこの謎生物が被る被害が当社比で二分の一ほどになる。動物愛護団体からのクレームケアも万全になるってわけだ」
「何言ってんのか分かんねぇんだよ…気狂いが。テメェこそ覚悟しとけ。
 俺は今最悪に気分が悪いんだ……楽に死ねると思うんじゃねえぞ――!」
「元気なのはいいことだ。サンドバッグは反応が大事だからな」

 過去最大に激怒した夜桜家長男。
 最強のスパイと謳われる怪物・夜桜凶一郎。
 彼による彼のためだけの八つ当たりが、狂乱の邪神をギャラリーにしてその幕を開けた。

    ◆ ◆ ◆

 獪岳は鬼となってまだ日が浅い。
 鬼殺隊士でありながら人を守ることを止め命恋しさに鬼へと成り下がった俗物。
 彼の血鬼術は他の上弦ほど巧みではなく、それを扱いこなす技量もまだまだ発展途上だが。
 それでも人間だった頃に会得した呼吸の技術を血鬼術と融合させて扱えるというのは破格だった。
 人が悪鬼を滅するために作り上げた剣技体系、枝の一本とはいえそれが人を殺すための魔技に変転したのだ。
 脅威でない筈がない。
 鬼も人も首を斬られれば死ぬその一点だけは変わらないのだから。

「死ねやオラアアアアアアッ!」

 雷の呼吸・肆ノ型――遠雷。
 踏み込んだ途端に獪岳が旋風となった。
 黒い、亀裂のような稲光を哭かせながら斬り込んだ刃は鬼殺のための刃に非ず。
 鬼狩りを狩るための業(わざ)と化した雷が凶一郎を斬り刻まんとする。
 しかし。

「ふむ。面妖な技術だな」

 獪岳の剣は突如虚空に結集した糸束により阻まれた。
 夜桜凶一郎のしなやかな白指が手繰るのは鋼蜘蛛と名付けられた鋼線だ。
 凶一郎を最強たらしめる、凶一郎を万能たらしめるその糸は死滅跳躍にあっても彼の手に。
 涼やかな顔で埋め合わせとはいえ上弦の血鬼術を防ぐ。
 獪岳は舌打ちをしたが、生憎とこの間合いは既に彼にとっての確殺圏内(キリングフィールド)。
 引き裂くような獰猛な笑みで口角を吊り上げ、次いで繰り出すは参ノ型・聚蚊成雷。
 か細い蚊の羽音も群れをなせば雷鳴に届く。
 言葉の大元である故事をなぞるように、獪岳が蚊となり無数の波状斬撃に打って出る。
 が……。

“チッ…! なんだこの糸切れ、異様に硬ぇ……!”

 獪岳がこれだけの手数で以って臨んでいるというのに一向に前線が上がらない。
 振るえば剣先が届く間合いで好き放題斬り込めてはいる。
 だがそれまでだ。
 どれだけ斬っても振るってもそこから先に進めない。
 凶一郎がわずかな指の動きだけで操っている鋼糸が、獪岳の剣を一発も漏らすことなく止めているからだ。
 既に放った斬撃の数は数十を優に超えているにも関わらずである。
 凶一郎は涼しい微笑を崩すこともなく上弦の力を得た獪岳に対処し続けていた。

「どうした? 前線が上がっていないようだが」

 内心の苛立ちを見透かしたような声が獪岳の神経をわざとらしく逆撫でする。
 黙れと叫び叩きつけた剣も糸に止められて、結局状況は何も変わらない。
 凶一郎の微笑は最初に現れた時から何も変わっていないが。
 今は間違いなくそこに嘲りの色が込められていた。
 心の器が割れていると称された獪岳。
 人間だった頃は常に不満と劣等感を抱え、鬱屈と憤懣の日々を送ってきた彼の精神はそれを鋭敏に感じ取る。
 ブチッ、と。
 獪岳の中の何かが切れる音がした。

「見下してんじゃねえ!」

 雷の呼吸・伍ノ型――熱界雷。
 人体を容易に吹き飛ばすほどの推進力を持った斬撃波。
 黒い稲光のビジョンを纏ったそれはまさに地から天へと伸びる稲妻に違いなかった。
 凶一郎の糸があまりの衝撃に千切れ、獪岳が怒髪天を衝いて懐に飛び込む。
 人間とは思えない凶悪な形相と歪んだ瞳。
 赫怒のままに獪岳は追撃する。
 その姿に在りし日の彼の面影などもはや微塵もない。

“俺は鬼になった! 人間を超えた! その俺が…こんな人間如きに遅れを取って堪るかよ!”

 雷の呼吸、弐ノ型――稲魂。
 高速の五連撃はまさしく疾風迅雷。
 すべて防がれる。
 凶一郎は何も特別なことをしていない。
 ただ指で糸を手繰り、獪岳の太刀筋に合わせて空間へ配置しているだけだ。
 それだけで何故か獪岳の血鬼術が次々潰されていく。
 斬鉄程度は苦もなく行える膂力を得ている筈の獪岳。
 なのにその彼がか細い糸の一本すら断ち切れない。

「これ以上見る価値はないな」
「ッ……テメェ」
「人間では考えられないほど高い身体能力に異常なほど低い体温。
 何か妙な薬物でも服用しているのかと思ったがもう裏は読めた。
 蓋を開けてみれば実に下らん。虹花の二番煎じとは芸もない」
「防ぐしか能のねぇ腰抜けが! 偉そうに寸評垂れてんじゃねぇ!」

 本来鬼にとって人間とは捕食対象以外の何物でもない。
 絆を紡がず、愛を知らず、後に遺すことを知らない彼らにとって全ての人間は肉の詰まった袋でしかない。
 ただ無様な叫び声をあげながら食い殺されるだけの被食者。それが人間。
 しかし今の獪岳はどうだろうか。
 一人の人間に感情を曝け出して歯を剥き殺意の限りを示している。
 それが狩る者の顔か。捕食者の顔なのか。
 獪岳よ、気付いているのか。
 その顔は。

「見下してんじゃねえぞ人間がアアアアアアアア!!」

 過去数百年。
 鬼狩りの剣士達に追い立てられては滅殺されてきた先人(おに)達のそれと同じであることに。
 黒雷叫喚。
 ささくれ立ち荒れ狂う獪岳の心を表出させたような異形の雷が姿を表す。
 血鬼術と融合した呼吸の奥義。
 絶技としての度合いが深まれば深まるほど、武術の粋は鬼の異能とよく交ざる。
 戯画の中にしか存在を許されない、雷神の怒りという迷信。
 それを現実のものとして引き起こしながら獪岳が轟かすは陸ノ型、電轟雷轟。

“避けられる訳がねぇ…! 穴埋めだろうが何だろうが俺は上弦だ!
 炎柱を屠り音柱を引退に追いやったあいつらと同じ領域に立つことを許していただいた!
 こんな人間の一匹、すぐにグズグズの肉片に変えて――”

 今の獪岳にできる最大の攻撃。
 一切のお世辞抜きに凶悪無比。
 彼の言う通り"柱"が相手だろうと致命傷を与えられる可能性のある抹殺の雷鳴。
 凶一郎の鋼蜘蛛によって編まれた鉄壁の布陣すら食い破る勢いで進む斬撃。

「で、話の続きだが」

 それを腕の一振りでかき消して凶一郎は説明に戻る。
 私語に興じる生徒を窘めて授業に戻る教師のような、そんな平然とした態度で。

「お前のような人間がそう堕(な)った理由には想像がつく。
 甘い言葉に乗せられたかなりふり構わず生きることに執着した結果かだろう。
 興味もないので有無を言わさず楽しい憂さ晴らしタイムと洒落込んでもよかったんだが…少し奇妙な呼吸法を用いていたからな」

 一通り観察させてもらったよ。
 凶一郎の声が夜闇の中で朗々と響く。
 つい先刻までは鬼神のように歪んでいた獪岳の顔。
 振り切った筈の人間という生き物に侮られおちょくられ、手玉に取られていることに怒り狂っていた筈の彼はしかし今。
 目を大きく見開いて、それこそまるで人間のように呼吸を乱していた。
 凶一郎のような対人観察に長けた本職でなくとも分かるほどあからさまな動揺。
 それを取り繕うことすらできないほど獪岳は揺れていた。
 自尊心の非常に高い彼がそうなるに足る事態だったとも言える。
 現状の獪岳が使える最大火力の血鬼術を、話の片手間でかき消されてしまったのだから。

「だが時間の無駄だった。モデルケースがお前では話にもならん」

 凶一郎は武術を使って戦うスタイルではない。
 しかし鍛錬の一環として一通りは納めていたし、取り入れられる箇所があれば自分の糸術(スタイル)にも遠慮なく取り込む。
 それに二刃へのいい土産話にもなりそうだ。
 そう考えて獪岳といういつでも捻り潰せる相手に対してわざわざ防戦オンリーの状況を保つ不合理をしてやっていたのだが……。

「剣であれ何であれ…基本を飛ばす凡人というのは実に見苦しいものだな。
 どんなに完成された技術であろうと、基礎なくして応用は実現し得ないというのに……」
「……あ゛?」

 結論から言うとそれも空振りだった。
 獪岳の剣を見て実際に受けて理解した凶一郎だ。
 彼には獪岳の剣士としての歪さがよく分かった。
 型自体はよくできている。
 流派としての完成度は文句のつけようもない。
 だからこそ獪岳が使った場合の不格好さが際立っていた。
 基礎となる技術が明らかに欠けた付け焼き刃と誤魔化しの剣。
 見苦しく、そして容易い剣だった。
 呆れたように溜息をつく凶一郎。
 しかしそれとは裏腹に……今の今まで閉口していた獪岳が本気の殺意を秘めた声を出した。

「テメェ。今、なんて言いやがった」
「言葉が難しかったか? ではもっと噛み砕いて率直に言ってやろう。
 お前は剣士として見苦しいほど落第だ。師範に頭を下げて基礎からやり直してきたらどうだ?」
「――――」

 殺す。
 こいつは殺す。
 腸を引きずり出して脳漿を撒き散らさせて殺してやる。
 獪岳の動揺と芽生えかけた恐怖が沸騰した自尊心を前に一瞬にして蒸発した。
 地雷だった。
 獪岳の地雷を、凶一郎はせせら笑いながら踏み抜いたのだ。
 『狂乱の咆哮』による頭痛なのか憤怒で頭の血管が切れた痛みなのかもう分からない。

「死ね!!」

 雷の呼吸。
 獪岳は鬼になった今もその技巧を残している。
 しかしそこには明確な欠けがあった。
 それは剣士として紛れもない欠陥。
 雷の呼吸においては全ての基本とされる初歩、壱ノ型"霹靂一閃"。
 弐から陸までの型を全て修めている獪岳だが、彼にはこれが使えない。
 基本ができない。
 最初の一歩がこなせないまま、踏み飛ばしたままその先を修めてしまった出来損ない。
 獪岳の最大の欠陥でありコンプレックスでもあるそれを詳らかに読み解いた凶一郎。
 彼に対する獪岳の殺意はもはや限界だった。
 力の限りで剣を握り、振り被って挑みかかる。

「話にならんと言った筈だが」

 その両腕が音もなく飛んだ。

 鬼には再生能力がある。
 羂索の細工で劣化こそしているものの、四肢の欠損程度ならば今以って問題にすらならない。
 だが腕がなければ剣は振れない。
 もしも獪岳がもっと自分の脳力を使いこなせていたならば。
 鬼としての性質に慣れていたならば、剣という発動体を介さなくても致死級の一撃を繰り出せたのかもしれないが……

「本当はもっとじっくり虐めてやるつもりだったんだがな。
 認めがたい真実を指摘されて怒り狂うお前の無様な姿を見ていたら……まぁ多少は溜飲が下がった」
「て、め――何処まで、もォ……!!」
「というわけでもういいぞ凡人。サンドバッグ役ご苦労だった。後は虫けらみたいに死ぬといい」

 獪岳は足で自分の剣を蹴り上げて口に咥える。
 それは殺意故か。
 それともこれから起こることを本能的に察して"生きる"ために起こした行動だったのか。
 定かではないが次の瞬間獪岳の体は夜空の遥か高くまで舞い上がった。
 いや。
 より正確に言うならば……ぶん投げられた。



「ッ――ォ――あ゛ァ゛――!」

 鋼蜘蛛を足に結びつけて遥か天空に放り投げる。
 凶一郎が獪岳に対して行ったのはそういう行動だった。
 規格外の強度と柔軟性を持つ鋼蜘蛛を、人類最強の糸使いである凶一郎が操っているのだ。
 飛距離は尋常なものではない。
 その代償に糸を結ばれていた獪岳の両足は千切れて吹き飛んだが、恨み言を叫ぼうにも凶一郎の姿はすでに彼方。
 鬼でなければ確実に失血死しているだろう損傷を負いながら、獪岳は人間流星と化して飛んでいく。

“巫山戯やがって…巫山戯やがって、巫山戯やがって!
 俺を嘲笑いやがった! 俺を……凡人だと! 出来損ないだと嗤いやがった!”

 心を引き裂く獪岳の絶叫。
 幸福の器が醜く壊れた少年は、誰かに見下されたり嘲笑われたりすることを当然認められない。
 自分が特別ではない存在だと。
 一流には程遠い凡人だと思い知らされることへの免疫が極端に欠けている。
 その上今の獪岳は鬼なのだ。
 鬼になって特別な存在になった。
 人間を超えた――そう思い上がっていた心に。
 夜桜凶一郎という真の特別、人類種の例外が刻んだ傷はあまりに痛すぎた。

“殺してやる…! 絶対に殺してやる……糞野郎がアアアアア!”

 息巻く獪岳、だがしかし。
 死滅跳躍における鬼の肉体は劣化している。
 首を斬られれば死ぬのはもちろん、そうでなくても過度なダメージには耐えられない。
 四肢の切断程度ならばまだしも。
 高度百メートル以上の超高所から地面に叩きつけられたなら。
 たとえ上弦であろうと耐えられない。
 ましてや成ったばかりの未熟な上弦である獪岳では到底。
 獪岳はまだ生き延びる術を持っているのか。
 それとも落ちる先に誰かがいて、更にそれが自分を助けてくれる奇特な人間であるという幸運に縋るしかないのか。
 そこのところはまだ定かではないが。
 確かなのは……この遊戯の中での獪岳もまた、決して特別な存在などではないということだった。

【B-7/那田蜘蛛山上空/1日目・未明】

【獪岳@鬼滅の刃】
[状態]:激怒、四肢切断(再生中)、激しい頭痛(狂乱の咆哮の後遺症)
[装備]:獪岳の日輪刀@鬼滅の刃(口で咥えている)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本方針:条件を満たすまで参加者を殺す。
1:糸目の男(夜桜凶一郎)に対する憎悪と怒り。わずかな恐怖。
[備考]
※参戦時期は無限城で善逸と遭遇する前です。

※夜桜凶一郎によって上空百メートル以上に放り投げられました。
 墜落までに手足の再生が追いついて着地できるのかどうかは後の書き手におまかせします。
※受け身を取れず地面に叩きつけられた場合、おそらく肉体の耐久度を超えたダメージによって死亡します。

    ◆ ◆ ◆

「おぉ、よく飛んだな~」

 上空めがけて射出した獪岳を見送りながら満足げに言う凶一郎。
 ナプタークはそれを木に縛りつけられた状態で、青ざめた顔で見ていた。
 なんだこいつは。
 なんだこの男は。
 彼が獪岳を赤子扱いで圧倒しているところから決着に至るまでの一部始終をナプタークは見た。
 その上で彼が凶一郎に対して抱いた印象は実に順当なものだった。

“や、ヤバい…ヤバすぎるぞ、この男……”

 先も述べたことだが、今のナプタークは本来のそれに比べて見る影もない程に弱体化している。
 思うまま狂気を振り撒いて混沌を描いた彼の強さは此処にはない。
 頼みの綱である狂乱の咆哮は獪岳に無駄撃ちしてしまい、凶一郎という新たな脅威に対する対抗策は皆無だ。
 ナプタークは大概自信家であるものの、しかしいくら何でもこの状況が自分にとって無理筋なことくらいは分かる。
 とにかく早く逃げなければ。
 あの男が加虐の満足感に酔っている内にこの場を離れなければ。
 そう思ってうじうじと身をよじらせるナプタークだったが。
 悲しきかな。ギュンッ! と突然凶一郎がその首を捻り、逃げようと悪戦苦闘している恐るべき邪神の方を見た。

「な…なんだその微笑みは! 吾輩は煮ても焼いても美味くはないぞ! 多分!」

 凶一郎が指をくいと動かした。
 すると、木に縛りつけられていたナプタークの体が宙に浮く。
 ぐるぐるに縛られたのはそのままに凶一郎の方へと引っ張られていく。
 やがてナプタークは凶一郎の人差し指から糸で吊り下げられる格好になった。
 まるでヨーヨーのように宙吊りにされ、汗を流すナプターク。

「……驚いたな。喋るヒトデなんて珍妙な生き物まで遊戯の駒にしていたとは」
「ヒトデではないッ! 先刻の小僧といい貴様ら、無礼が過ぎるぞ!?」
「ああこれは失礼。イソギンチャクの方が近かったかな」
「じゃ、し、ん~ッ! 吾輩は邪神だ! これでもな!」

 言葉を聞くなり、ナプタークを吊り下げる糸がお手軽回転遊具に姿を変えた。
 ぬわーッ!? と絶叫するナプタークを貼り付いた笑顔のまま振り回す凶一郎。

「海産物ジョークは結構だが時と場合を選ぶべきだったな」
「じょッ冗談ではないッ! あぁ~ッ可哀想なものを見る表情をしながら振り回すな!」

 なんか出る!
 本当になんか出る!というナプタークの懇願の甲斐あってか大回転のお仕置き(冤罪)は止まった。
 げっそりと青ざめてグロッキーになっているナプタークをよそに凶一郎は考える。
 邪神云々の話はもちろん信じていないが、ではこいつは何なのだろうと。
 夜桜家でもゴリアテという何かと規格外な動物を飼っているが、これの知能はゴリアテより更に高く見える。
 自分が来るよりそこそこ前から獪岳に追い回されていたようなのに生き残れていたことも特筆に値すると言えよう。
 邪神ではないにしろ、何か有用な力を持っているのは本当かもしれない。

 凶一郎は最終的にそう結論づけた。
 ……ナプタークが邪神なのは本当なのだが、どの道あと数時間は彼はそれを証明できない。南無。

「…話題を変えよう。あの男以外に参加者の姿は見たか?」
「ぜぇ、ぜぇ…。いや……見ておらん。あの小僧が最初だ」
「夜桜六美、夜桜四怨、……あと朝野太陽。これらの名前に聞き覚えは?」
「ないが……。よもや貴様、乗っていない参加者を探しているのか?
 ならば吾輩から出せる名前はあるぞ。振り回すのを止めるなら教えてやる」

 ほう。
 凶一郎は顎に手を当てる。
 凶一郎は別に乗っていない参加者を探していたわけではない。
 彼にとっての最優先事項はいつだって家族だ。
 この場で言うなら六美と四怨。しぶしぶ義弟の太陽。
 彼女達を探して合流することこそ凶一郎の第一目標だった。
 なのでナプタークの言葉は見当違いなのだったが、しかしその情報も有用ではある。
 死滅跳躍ルールに則って帰還する選択肢は凶一郎にはない。
 つまり、羂索を潰さないと元の世界に帰れないのが現状なのだ。
 その上で同じ道を志す者を多く確保できていれば当然状況の進め方が容易になる。
 凶一郎は大半のことを一人でこなしてしまえる超人だったが、それでも時には頼らねばならなくなるほど、マンパワーというのは偉大なのである。

「名前を聞いておこうか」
「マグ=メヌエク。吾輩と同じ邪神であり、『破滅』を司る存在だ」
「そうか…………」
「振り回す構えを取るな馬鹿ッ! 吾輩もう結構限界なのだぞ!?」

 これ以上はヒトデやイソギンチャクを通り越してホヤのようになってしまう。
 必死に制止を懇願しながらナプタークは説明を続ける。そうするしかない。
 ヨーヨーもしくは水風船と化した邪神の言葉に耳を傾ける凶一郎。

「吾輩の宿敵ではあるが…まぁ、今のあれならば乗らんだろう。
 願いを叶えるなんて甘言にホイホイ付いていく馬鹿とも思えんし」
「強いのか?」
「強い」

 ナプタークは即答した。
 彼の言葉について凶一郎は基本半信半疑の姿勢だったが、この言葉は信用できるとそう思う。
 あまりに迷いのない答えだったからだ。
 宿敵だと言っていたが、だからこそその実力は信用している……というところか。

「羂索とかいうあの縫い目頭がどれだけできるのか知らんが…マグ=メヌエクが本気を出したら敵にもならん。
 そのくらいの力がなければ吾輩の宿敵は務まらんからな。
 もっともそんなアレも、今ではすっかり現代の暮らしに順応していたが……」
「ふむ。ではそのマグ=メヌエクを絆したのが宮薙なる人物……とかか?」
「…よく分かったな。貴様本当に人間か?」
「実の父親に化物呼ばわりされたこともあるぞ」

 軽口を叩きながら思案を練る。
 マグ=メヌエクがどれほどのものかはまだ未知数だが、少なくとも戦力の一つとして数えて良さそうだ。
 宮薙流々については保留。
 優先して合流したい相手の一人として覚えておくことにする。
 邪神云々の話は信じていないものの、宮薙流々の死がマグ=メヌエクの変転を引き起こす可能性も否定はしきれない。
 乗らない人間の有力候補であることを抜きにしても優先して探すべきではある、だろう。

「ていうか貴様本当に乗っていないのだろうな?」
「どうしてそう思うか聞いておこうか」
「乗っていない人間の言動に見えんからだ」

 獪岳は明らかにろくでもない奴だったし、性根の浅い奴なのだろうとナプタークもそう思っていたが。
 それでも今のナプタークでは手も足も出ず狩られる側に回るしかないくらいの強さはあった。
 それをこの男は手玉に取ってあっさり倒してのけたのだ。
 傍若無人が過ぎる言動をしばしばしながら、そして自分をおもちゃのように振り回しながらニコニコ笑う優男。
 もしや…と慄くナプタークを凶一郎は小さく笑う。

「立場を明確にしておこうか。俺は乗っていない、これでもな。
 むしろあの羂索なる不埒者を足の先から寸刻みにしてやりたい気持ちでいっぱいだ」
「お、おう…そうか……」

 そうできる状況なら本当にやるのだろうなと悟り引くナプターク。
 ただ、凶一郎が一応は信用できる存在だと分かったのは大きかった。
 というのもナプタークにはこの遊戯で生き残っていける自信がまったくなかったからだ。
 というより、なくなった…というべきか。
 今の自分は狂乱の権能も使えず、眷属もいない丸裸の邪神(現代版)。
 もう一度獪岳のような輩に出くわしたら確実に死ぬ。
 そう分かるくらいの知能はナプタークにもあった。

「それはさておきだ。どうだ? 貴様が吾輩を護ると確約すれば、今挙げた二人への便宜を図ってやってもいいぞ?」
「それは頼もしい。弾除けとして存分に活用させてもらおう」
「話聞いてた?」

 ぶらーんと逆さ吊りにされたままのナプターク。
 しかし幸い、凶一郎は彼を同行させるつもりだったらしい。
 そのまま歩き出したことに安堵しつつ、だがこの扱いは不服過ぎたりもしつつ。
 なんとか生き残った…! と改めて生を実感するナプタークなのだった。

「そういえば…マグ=メヌエクとかいう奴もお前と同じく海産物めいた姿形をしているのか?」
「海産物というその呼称は実に不服だが……まぁそんなところだ。見ればすぐに吾輩の同類だと分かると思うぞ」
「そうか。……あぁ、ところで」

 草木を踏みしめながら歩く夜桜家長男。
 その指に吊り下げられた邪神(権能使用不能)。
 彼らは一旦の同行に落ち着いた。
 夜桜の超人は殺し合いに乗っておらず、狂乱の邪神も羂索の言葉を信じていない。
 最強に限りなく近い人類と最弱に堕ちた邪神の道中が始まった。


「宿敵だとそう呼んでいたが。そのマグ=メヌエクも、案外早々に脱落していたりするかもな?」

 凶一郎の軽口を、ナプタークは一笑。

「そんなわけがあるか。その程度の輩であったらば吾輩がとっくに殺しておるわ!」


【B-7/那田蜘蛛山/1日目・未明】

【夜桜凶一郎@夜桜さんちの大作戦】
[状態]:健康、少しスッキリ
[装備]:鋼蜘蛛@夜桜さんちの大作戦
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本方針:六美達"家族"と共に帰る。羂索は殺す
0:家族との合流。(太陽のこともしぶしぶ家族に含めている)
1:謎の生物(ナプターク)の同行をとりあえず許す。
2:宮薙流々、『破滅』(マグ=メヌエク)に興味。

【ナプターク@破壊神マグちゃん】
[状態]:鋼蜘蛛でヨーヨーみたいにされてる、『狂乱の咆哮』使用不可能(解除まであと数時間ほど?)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:願い云々に興味はないので早く帰りたい。
1:ええい下ろさんかああああッ!!
2:宮薙流々、マグ=メヌエクと合流したい。
3:あの若僧(獪岳)…あれは死んだかな……。


支給品紹介
【獪岳の日輪刀@鬼滅の刃】
獪岳に支給。読んで字の如く。
人を守る刃は人を殺す刃に変転した。

【鋼蜘蛛@夜桜さんちの大作戦】
夜桜凶一郎に支給。
極めて鋭利な鋼線。夜桜凶一郎の得物。


前話 次話
羽化 投下順 禪院家次期当主登場!
羽化 時系列順 禪院家次期当主登場!

前話 登場人物 次話
START 獪岳 感電
START 夜桜凶一郎 激闘開幕 童磨VSカタクリ
START ナプターク 激闘開幕 童磨VSカタクリ


最終更新:2022年11月16日 15:57