時空を越えた同盟 ◆RTn9vPakQY
亡国の貴公子、北条時行が目覚めたのは、幸か不幸か既知の場所だった。
諏訪大社。日本最古級の神社の一つであり、時行が現在進行形で暮らしている場所だ。
しかし、普段とは雰囲気が異なる。深夜とはいえ静かすぎる、といったことではない。
その違和感の正体はすぐに判明した。景色の違いと、海の近さだ。
(この建物は確かに諏訪大社だ。
それなのに、そう遠くない場所に海がある……)
信濃諏訪での暮らしに慣れて来た今でも、鎌倉(こきょう)の海はたまに思い出す。
だからこそ、内陸の諏訪で嗅げるはずのない潮の香りが、違和感を生んだのだ。
袈裟を着た男の話といい、常識では計り知れない何かが起きている。
そのとき、時行の脳裏に浮かぶのは、ある人物の顔だった。
(頼重殿の仕業か……?)
諏訪頼重。諏訪大社の神官であり、北条高時の命で時行を保護した恩人だ。
自らを“本物の神”と嘘くさく語る頼重は、時行をただ庇護下に置いただけではない。
戦のいろはも知らぬ幼子を、足利から天下を取り返す英雄へと育て上げるため、あの手この手で導かんとしている。
そして、時行の成長のためならば、たとえ危険な場所――敵対する有力な武人の館――であっても放り込む。
清濁併せのむ頼重のことだ。この異常事態に一枚噛んでいてもおかしくない。
(……いや、流石に違うな)
そこまで考えて、時行は思い浮かべていた頼重の笑顔にバツをつける。
これまで頼重にされてきた無茶ぶりは、無茶でこそあれ目的は示されていた。
小笠原貞宗との犬追物においては、天下有数の弓の達人からその技術を盗むため。
帝の綸旨を盗み出す任務においては、盗人という邪なる者も郎党として使いこなすため。
いささか強引なきらいはあるが、それでも時行の成長を促す心は感じられた。
それと比べたとき、袈裟の男が語る内容はどうであったか。
(あの男は「殺し合いをしてもらう」と言った。
まるで目的が遊戯であるかのように……悪趣味が過ぎる)
頼重は武将であると同時に神官でもある。
神職に就く者が、人命を冒涜する遊戯を肯定するはずがない。
この殺し合いに関して、頼重は無関係であると、時行は結論づけた。
(しかし……ならば、この名簿はどういうことだ?
この私を“北条時行”だと知る人物は数少ないのに)
名簿には“北条時行”の名前が載せられていた。
諏訪大社に匿われて以降は“長寿丸”の名で通していたにも関わらず、である。
不可解なことはもうひとつ。名簿には「小笠原貞宗」と「五大院宗繁」の名前もあった。
前者はまだ理解できるが、後者は確実に死んだはず。
(死者が蘇るなど……ありえない!)
親族や近しい人物を何人も喪った時行にとって、死者が蘇る事実は肯定できない。
それを肯定してしまえば、時行の目的さえも揺らいでしまうから。
いずれにせよ、五大院については真偽を確かめる必要がある。
内心の動揺を抑え込んで、時行はそう決めた。
「……さて、どうしたものかな」
そろそろ方針を決めなければ、と時行はため息を吐いた。
名簿を見たところ、どうやら既知の名前は敵対した二人だけ。
諏訪頼重はもとより、郎党である雫、亜也子、弧次郎、ゲンバ、吹雪らは誰もいない。
つまり、神の如き不可思議な力も、鍛えられた武力も、智略謀略の類もその手にないということだ。
「頼れるのは己の逃げ上手のみ、か……」
はたから見れば時行は、年端も行かぬ童。
脱出を目論む参加者にしてみれば狙い目だろう。
当然のごとく、襲撃を受ける可能性は非常に高い。
そのことを客観的に理解した瞬間、時行はぞわりと総毛立つ。
「死ぬわけにはいかない……!」
逃げて隠れて生き延びて、足利尊氏を討ち取るその日までは。
その胸に秘めた覚悟を口にしながらも、時行の口元はどこか緩んでいた。
(……では、ひとまず逃げながら、殺し合わずに脱出する方法を探すとして。
やはり味方となる人物を見つけておきたいが……迂闊に動いては標的になる)
地図を眺める。この諏訪大社があるのは島の東側。人が居そうな場所へ向かいたい。
時行にとっては未知の単語が並んでいたが、かろうじて判別できる単語から行き先を決めんとする。
候補は“刀鍛冶の里”か“石神村”、あるいは“夜桜邸”。どこも現在地からはそれなりに離れている。
動けばそれだけ“鬼”に見つかる確率も高くなるが――。
(いや……とはいえ広い島の中。すぐに見つかることもないだろう!)
行動を起こす前から悲観的でいても仕方がない。
楽観的に自身を奮い立たせて顔を上げると、そこには巨大な男がいた。
自分の背丈の五倍近くある、筋骨隆々で棘のついた腕輪や防具を装着した男。
その姿を見た時行は、目玉が飛び出るほどの勢いで叫んだ。
「鬼ぃーっ!?」
□
ビッグ・マム海賊団の「スイート3将星」が一人、シャーロット・カタクリ。
寡黙にして苛烈な実力者であるカタクリの懸賞金は、なんと10億5700万ベリー。
懸賞金の金額は必ずしも強さによってのみ測られるわけではないが、そうであっても破格だ。
この殺し合いでも、カタクリがその全力を振るえば、ノルマを達成するのにはそうかかるまい。
いち早く脱出して、ホールケーキアイランドへと帰還する。
カタクリの評判を知る者であれば、誰しも彼の行動をそう予想するだろう。
もちろんカタクリ自身も、殺し合いの説明を聞いた直後はそのように考えていた。
しかし、名簿にある名前を発見したカタクリは、思考を転換した。
その名前とは、モンキー・D・ルフィ。
“麦わら海賊団”の船長であり、無謀にもビッグ・マムに喧嘩を売った男だ。
最悪の世代の一人。覇王色の覇気の使い手。そして何より、カタクリを打ち倒した男。
(麦わらか……)
ルフィの強さを、カタクリは認めていた。
悪魔の実の能力や覇気といった、単純な戦闘能力だけについてではない。
格上の相手を前にしても屈することのない意志の強さこそを、カタクリは買っていた。
(お前は殺し合いには乗るまい)
そして、ルフィが脱出のために10人を殺害するようなことはないと予想できた。
最後の勝負が決した後、カタクリが殺されることなく鏡世界(ミロワールド)に放置されていたのがその証拠。
ゆえに、カタクリはルフィのことを気にかけてしまう。
(この殺し合いで、あいつが生き残れなければそれまで……か)
海賊の世界とは、いつ死ぬか分からない環境である。
他の海賊との戦闘や海軍による襲撃、過酷な天候や海獣など、命を落とすリスクはそこら中に転がっている。
そう捉えれば、この殺し合いという環境も似たようなものかもしれない。
(しかし、この下らないゲームであいつが死ぬのは惜しい)
カタクリは素直にそう思う。
“おれは…海賊王になる男だ!!!”
強烈な啖呵を切った男を、このような殺し合いで死なせるのは本意ではない。
(それに、あの男が気に食わない)
殺し合いの
ルールを説明した袈裟の男は、明らかに面白がっていた。
今この空間は、噂に聞くドレスローザのコロシアムと似たようなものなのだろう。
多くの人間を集めて殺し合わせ、その様子を面白がる人物がいる。
そのせいで、ルフィが命を落とす可能性があるのだ。
カタクリは静かに一息つくと、心を決めた。
(この殺し合いを打破する)
冷静さを欠いていると思いつつ、それでもカタクリは決意した。
下らない殺し合いには乗らず、この場所から脱出する方法を考える。
あるいは、袈裟の男を打倒することで、殺し合い自体を破綻させる。
カイドウやドンキホーテ・ドフラミンゴの存在は気にかかるが、それでも決意は固い。
「早々と死んでくれるなよ……麦わら!」
対等と認めた相手のことを気にかけて、カタクリは歩き始めた。
「鬼ぃーっ!?」
(鬼か……子供にはそう見えるのかもしれないな)
数分後、たまたま発見した子供に驚かれてしまった。
どう話しかけたものかと、カタクリは慣れないことを考え始めた。
□
結果だけ述べると、二人は行動を共にすることとなった。
驚きのあまり叫んだ時行も、カタクリに戦意がないことを見て取ると、落ち着きを取り戻し。
それ以降は、お互いに情報や時代観で噛み合わない部分はありつつも、目的が同じことを確認。
殺し合いの打破のため、まずは味方となる賛同者を集めるという方針で一致した。
「ではカタクリ殿、貴方を我が郎党に……というのは変か。
ならば、同盟はどうだろう。我が逃若党と、カタクリ殿の……」
「ビッグ・マム海賊団とで同盟、か……いいだろう」
【C-7/諏訪大社/1日目・未明】
【北条時行@逃げ上手の若君】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:逃げながら、殺し合わずに脱出する方法を考える。
1.カタクリと行動する。
2.味方を集めるため、人が居そうな場所へ向かう。候補は“刀鍛冶の里”、“石神村”、“夜桜邸”あたりか。
3.小笠原貞宗、五大院宗繁を警戒。後者は死んだはずでは?
[備考]
※参加時期は34話以降。
【シャーロット・カタクリ@ONE PIECE】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを打破する。
1.北条時行と行動する。
2.殺し合いを打開するための策を考える。
3.モンキー・D・ルフィを死なせるのは惜しい。
4.カイドウ、ドンキホーテ・ドフラミンゴを警戒。
[備考]
※参加時期は897話以降。
最終更新:2022年11月16日 15:57