一番強いヒーローの ◆ylcjBnZZno
「くだらねえ」
ボム!と手に持ったルールブックを爆破し、デイパックに放り込む。
立ち上がった少年の名は爆豪勝己。
多くのヒーローを輩出した名門 雄英高校1年A組の生徒にして、この死滅跳躍に於ける参加者の一人である。
誰よりも強いヒーローとなるべく研鑽を積む彼は当然、このゲームの打倒を目指し行動を開始。与えられた手札を確認する。
(支給品は3つ。だがどれもすぐには役に立ちそうにねえ。
それよりも参加者だ)
既に確認した参加者名簿を思い出す。
爆豪と同じ雄英高校1年A組の生徒である緑谷出久に轟焦凍、それにNO.1ヒーローであり、轟の父親でもあるエンデヴァー。
彼らの名が載っているのを見たときは、やはり羂索なる前髪男の背後には『敵連合』がいるのだと思った。複数回にわたって行われた雄英襲撃のように、ヒーロー社会の崩壊を目論んでの活動だと。
しかし死柄木弔、トガヒミコ――『敵連合』の中でも主要メンバーと言える面々が名を連ねているのを見て、そう断定するのは早計であると判断した。
(『10人殺せばなんでも願いが叶う殺し合い』なんつー場を拵えて自ら乗り込んでくる……くらいはあり得るかもしれねえが)
始めに羂索の語ったことは事実だ。
普段の爆豪であれば「寝ぼけたことぬかしてんじゃねえぞイカレクソ前髪が!」と一蹴していたところであるが『述べた言葉はすべて真実』と宣誓された瞬間そんな悪態はつけなくなった。
『己の言葉を信用させる個性』などと疑う余地すらない。
林檎が赤いことを、炎が燃えることを、改めて教えられたかの如くそれが真実であると理解できてしまった。
だからこそ――
(そんなところにわざわざヒーローを招き込んで、平等な立場で競うなんざ考える連中じゃねえ)
『願いを一つ叶える』そんな力が手に入ったなら、おそらく彼らは自分たちで独占する。
仮に10人の命を捧げなければならないなどの制約があったとしても、わざわざヒーローの手に渡るリスクを冒してまでこんな催し物を開くメリットがどこにもない。
他にも多々あるがこうした要因から『敵連合』――少なくとも死柄木弔はこのゲームの運営との関りはないと判断した。
シロである以上彼らもまた、羂索の悪意に巻き込まれた『要救助者』だ。
もちろんそれはゲームに乗っていない限りは、だが。
(そもそもが人を人とも思わねえカスどもだ。こんな状況じゃさっさと10人殺して帰ろうとするに決まってらぁ。
それに似たようなこと考えるのは『連合』の連中だけじゃねえ)
名簿に載っている名前の内、爆豪が知っているものは8人。
それ以外の53人については全くわからない。
彼らがどんな事情を抱えているのかも。
例えば、参加者の中に家族や友人がいるとか。
誰が敵かもわからない状況で疑心暗鬼に駆られたとか。
普段の生活の中で強く憎んでいた相手と、たまたまこのゲーム会場で出くわしてしまったとか。
ゲームに乗る動機など想像すればきりがない。
(つまるところ、このゲームは昨日までの一般市民(モブ)共を敵(ヴィラン)に変える舞台装置ってわけだ)
そしてそれは時間経過と共に加速する。
6時間ごとに設定される禁止エリアによって参加者は移動を余儀なくされる。
そうするうちにゲームに乗った参加者が他の参加者と遭遇すれば戦いが起こり、死者も出よう。
ゲームに消極的な者も、そのようにしてかけがえのない人間が死ねば願いを叶える権利にすがり、ゲームに乗るかもしれない。
(結局、求められるのはスピードってわけだ)
『間に合わなければ落ちるのは成績ではない。人の命だ』
脳裏に浮かぶのはエンデヴァーの言葉。
それを現実にしないためにも死人が出る前にゲームに乗った輩を拘束、無力化し、ゲームに乗る理由を作らせないことが肝要だ。
現状この結界とやらを打ち破る手段に検討はつかないが、市民の安全を確保した後でならその方策もじっくり探せる。
『忌々しい六眼に介入されないためとはいえ、我ながら面倒な結界を作ったものだよ』
羂索は確かにそう言っていた。
『六眼』とやらが何かは知らないが、それの介入を怖れていた。
すなわちこの結界に干渉する手段は存在するということだ。
結界の内側にはNo.1ヒーロー エンデヴァー、外にはNo.2以下のヒーローが勢揃いしている。
これだけ大規模な拉致監禁行為に対し指を咥えて見ている彼らではない。
必ずやどうにかする方策を見つけ出すだろう。
そして指を咥えて見るつもりがないのは爆豪も同じだ。
(誰も死なせねえし殺させねえ。
ゲームに乗ったカス共は速攻とっ捕まえて、このクソ結界ぶっ壊して、クソ前髪ブチのめして、61人全員で生還する)
助けて勝つ。勝って助ける。
自分達の憧れた『あの人』ならばきっとそうする。
全員生還を為して見せるに決まっている。
だからそれがこのゲームで―――
(俺が目指す完全勝利だ!!)
地面に向けた掌から放たれた爆発が、彼の身体を宙に舞わせる。
「いくぞオラァ!!」
そして後方に向け直した掌が気勢とともに火を噴き、爆豪の身体を前方に吹き飛ばした。
夜空を裂いて飛ぶ爆殺神。
その望みが既に潰えていることを彼はまだ知らない。
【D-8/平原/1日目・未明】
【爆豪勝己@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品3つ
[思考・状況]
基本方針:完全勝利
1:とにかく他の参加者と接触する
2:ゲームに乗った参加者を一秒でも早く無力化する。
3:デクや轟の心配? するわけねーだろ死ね!!
[備考]
※参戦時期は早くともアニメ五期終了以降。詳細は後続書き手にお任せします。
最終更新:2025年08月11日 22:18