傷、血、泥―――■■■■ ◆s5tC4j7VZY


You aren't supposed to give up the hero who is in your soul.
Nietzsche

―――次は 君だ

それは、少年に向けられた言葉。
平和の象徴からの言葉。
悪の帝王からの言葉。
少年は言葉から逃げない。
その言葉をまっすぐ見据える。

”困っている人を遍く救う者”へとなるために。

彼は歩みを止めない。

たとえ、その身が傷、血、泥に塗れようとも。

これは、僕が最高のヒーローになるまでの物語だ

☆彡 ☆彡 ☆彡

1章 個性社会とSTONEWORLD

「つまり、個性が日常としている世界では、全人類が石化したという事実はないというわけですね。緑谷クン」
「はい」

袈裟の男によるポイント制の殺し合い。
2人は現在、B-5の温泉にいる。
互いに情報交換をする最中、2人は互いの認識のズレに気づいた。

「しかし、個性ですか……個性というのは、あの袈裟を纏う男のようなことも行うことは可能なのですか?」
「……確かに集団を操る個性などもありますが、殺し合いを強要させてかつ、条件を達成させた者の願いを叶えるとなると……」

質問に答える少年。
少年の名は緑谷出久。
緑がかったくせ毛にそばかすの無個性だった彼は憧れのヒーローであるオールマイトより個性ワン・フォー・オールを受け継いだ。
そして現在は、死柄木並びにオール・フォー・ワンを止めるために日夜休まず捜索を続けていた。
次々と自身に向けられた刺客を倒し続けると、ようやく手に入れた情報。
潜伏先へ突入したが、残念ながら空振りに終わり場所ごと爆破され、その直後この殺し合いに参加させられた。

ブツブツブツブツ……
(あの袈裟の男が言ったことが脳が真実だと訴えかけてきた。それって、もはや言霊に近い……そんな芸当ができる個性といったら”新秩序”(ニューオーダー)並みの個性じゃないと実現不可能だよな……だけど、そこまで強力な個性を有しているなら、ヒーローにせよ敵(ヴィラン)にせよ、とっくに知られているはず。というか、オール・フォー・ワンが見逃すはずもないし、そもそ……)
ブツブツブツブツ……

手を口にあて呟きながら考えるが、答えは出てこない。
その姿を見た青年は収穫なしと判断したのかやれやれといった風にため息をつく。

「どちらにせよ、あの袈裟の男は私達の世界の住人でないことは確かです」
「……STONEWORLDですか」

青年の名は氷月。
氷月の世界はある日、空から眩い光が降り注いだことによって世界中の人類が石化する怪現象に襲われてしまう。
氷月もその怪現象から逃れることはできず石化してしまうが、およそ3700年後に奇跡の水と称される硝酸とアルコールの混合液により解除され自由の身となった。
その後、彼は自らの石化を解除した獅子王司の右腕として司の目指す”人が人から奪わない理想郷(シャングリラ)の実現のために力を貸していた。
……表向きは。

「ところで、緑谷クンの個性は一体どのようなものですか?」
「僕の個性は知られると、周りに害がおよぶので……」

申し訳ありませんといった風に氷月に頭を下げる。
緑谷が受け継いだワン・フォー・オールの秘密はそう簡単に教えることはできない。
死柄木にオール・フォー・ワンがその力を狙っているのだから。

「ふふふ……まぁ、仕方がありませんね。私たちは出会ったばかりなのですから」
「いえ……、それよりも死柄木には十分気を付けて下さい」

自分が止めなくてはならない。
緑谷は氷月に気を付ける敵(ヴィラン)の情報を伝える。

「ええ。他にはトガヒミコにマスキュラーにステインでしたか」
「はい。一人ひとりとても危険な個性を有しています。無理に戦おうとはしないでください」
「わかりました。いや、ヒーローからの忠告痛み入ります」

氷月は頭を下げてお礼を伝える。

「それでは、僕は他の場所へ向かいます」
「緑谷クンも気を付けてください」

氷月の言葉に頷くとマスクを被り、背を向けて立ち去ろうとする。

―――ビュッッッ!!!

☆彡 ☆彡 ☆彡

2章 個性VS研鑽せし者

―――ザッ

「……」

背後からの槍の一突きは宙に浮くことで躱した。
”事前に攻撃がくることを予測できた”から行えた行動。

「……なるほど。私の悪意に初めから気づいていたのですね」
「はい」

毅然と答える。
そう、緑谷に受け継がれたワン・フォー・オールには様々な個性が付与している。
その一つが危機感知(4th)
氷月の奥底に宿る殺意を危機感知はしっかりと見逃さなかった。
出会った当初から。

「それに……あなたの眼は静かに燃えていました」

想起されるのはオールマイトの言葉。
氷月の眼は”思想”を抱いている。
それは、丁寧な言葉遣いをしていようと、到底隠しきれぬほどの。

「なるほど……いや、確かに仕留めたと思ったのですが、個性というのは凄いですね」
(得意の獲物ではありませんが……まぁ、問題ないですね)

氷月に支給されたのは大戦槍という巨大な槍。
”海賊艦隊提督”首領(ドン)・クリークが駆使する武力。
本来は管槍というスピード重視の槍術が戦術である。
獲物が槍だが、流派とはかけ離れた武装された槍である大戦槍は一見不利でしかない。
しかしそこは、研鑽を重ねた槍術。
巧みに使いこなす。

紙一重で鋭い刺突を避け続ける。
研鑽を重ねて培った槍捌きを緑谷は紙一重で避ける。
危機感知には”予測”も兼ねてある。
槍術の達人である氷月の槍捌きを躱すことが出来るのはそのためだ。

「どうして、殺すという道を選んだ氷月」
「間引くためですよ」
「ッ……!!」

淡々と答える氷月。
しかし、その口調に瞳は名は体を表すと如く冷たく冷酷。
平然と”間引く”と口に出せることに体が一瞬だが戦慄する。

「緑谷クン。君の話からすると、君の地球も私の地球とそう人口は大差がないそうですね」
「それが、何を……」
「70億にもなる人口を地球で支えるにはもはや絶対に無理。ならば誰を生かすのか…??答えは一つ『選別』。なぜなら脳の溶けた無能たちを残しては彼らを養うために結局は『奪われる』凡夫には全員消えてもらう。それが合理的なんです」

優秀な個体のみによる統治。
それが、氷月が望む新世界。

「優秀な個体を決める権限をお前が持つのか!」
「そうです。優秀な者が持つ責任です」

緑谷の怒りを涼しげに受け流す氷月。
さも当然といわんばかりの態度。

「それに、君の世界には、無個性者がいるらしいですが、正にその存在が間引く正当性を物語っているじゃありませんか」
「ッ!?」
「個性社会での無個性など正に無能でしかない。そう……本音をいえば、私は君は”そっち側”だと思っていました。私の勘も落ちたものです」

氷月は緑谷の持つ異質な雰囲気は感じていた。
しかし、その鑑識眼が、緑谷は”無個性”だと訴えてきていた。
故に氷月は迷った。
だから、相手の手腕や行動を見つめる理知にヒビが入った。
また、ヒト種族の特権である世代を超えた積み重ね。
地道な研鑽を根底からひっくり返す”個性”という存在は氷月にとって受け入れがたい力でしかない。
それらの要因が氷月を動かした。

「氷月!!!!!」

その言葉を否定するかの如く脱兎の勢い。
氷月のいう選別はとうてい緑谷には受け入れられない。
それに個性があるから必ずしも幸せとは限らない。
個性によって苦しむ人がいたからこそ、そこにオール・フォー・ワンはつけ込んで勢力を拡大した。
個性を持ちながらも挫折を味わい、夢であったヒーローとは違う道を選んだ者もいる。
そして、個性社会が死柄木を生んだ。

(ふふ……ヒーローと言ってもやはり人ですね。こんな挑発に簡単に乗るとは)

ほくそ笑む。
勝利を確信したからだ。
怒りに任せた人間など脳が溶けている。
大戦槍を振り上げる。
そう、大戦槍には槍らしからぬ武力が隠されている。
それは、強く撃ちこむことで”大爆発”を起こすことができる。
触れることだけでも爆発を起こすことも可能だが、緑谷のスピードでは触れさせることが難しいと判断したため、戦略を変えた。

「これで、終わりです」

あくまでも淡々と告げる。
だが、その声はヒーローを地に堕とす神の鎚。
振り上げた大戦槍をその勢いのまま振り下ろすッッッ!!!

―――だが、氷月の神の鎚は振り下ろされることはなかった。

ギチギチギチ……

「なっ!!??」

今まで、どのような場面でも表情を一切変えなかった氷月の顔が目を見開き狼狽する。
それは、緑谷の腕から放出された鞭。
黒鞭。
ワン・フォー・オールの歴代継承者の一人の個性。
黒い鞭状のエネルギーが大戦槍を拘束する。
それにより大戦槍が爆発を起こすのを防いだのだ。

「槍使いのお前が振り上げた。だから突く以外の攻撃がくることを予測できた」
数多のヒーロー・敵を見て観察していた緑谷の眼は氷月の企みに気づいた。
そして、素早く胸下へ潜り込む。

「個性が一人に一つは嘘だったというわけですか」
「申し訳ないけど……」

自分と同じ個性を持たない者。
その相手に個性を使うのは、躊躇われる。
しかし、目の前の相手は戦うことでしか止められない相手。
自分の躊躇が他の参加者の命が脅かされる危険がある。
なら、歩みを止めるわけにもいかない。
意を決して拳を振るう。

SMASH

「オ゛…ア゛……!!」

個性は1%だけの使用。
だが、勝負あり。
氷月は痛みに耐えきれず、殴られた鳩尾部分に手を押さえる。
大戦槍がガランと地に倒れ、脚もガクガクと震える。
敗北を悟ったのだろう。
視線を緑谷に向ける。
パクパクと口を動かす。
呼吸をなんとか整えると、何とか声を絞り出す。

「……そうそう緑谷クン。キミに一つだけ伝え忘れていることがありました……」

意識が朦朧とする最中、氷月は緑谷に語り掛ける。
どうしても……どうしてもこれだけは伝えたいという気迫。

「キミは一度、風呂に入った方がいいですよ。これじゃあ、まるでヒーローというより、STONEWORLDの脳が解けた原始人と変わらない」

そう言うと、ドサリ……と倒れこむ。

☆彡 ☆彡 ☆彡

終章 ■■■■

「……」

倒れた氷月を見届けると無言で自身の体臭を嗅ぐ。
鼻を衝く臭いに顔を顰める。
これでは、確かに指摘されたことを否定できない。
チラリと温泉へ視線を向ける。

「とりあえず、温泉に浸かるか……」

本来なら、一刻も早く死柄木とオール・フォー・ワンを止めなきゃいけない。
皆が安心して暮らせるように。
だが、この袈裟の男による殺し合いの舞台。
ポイント制による殺し合い。
気絶させた氷月をこのまま放置させるわけにもいかない。
緑谷は焦る気持ちを押さえつつも一旦、休息を選択した。

傷、血、泥、―――殺し合い

それでも、彼は歩みを止めない。

これは、僕が最高の■■■■になるまでの物語だ

【B-5/温泉/1日目・未明】

【緑谷出久@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:焦燥 脳が溶ける匂い 目の周りにくま
[装備]:傷、血、泥のコスチューム@僕のヒーローアカデミア、ミッドガンドレット@僕のヒーローアカデミア
[道具]:基本支給品一式×2(氷月の含む)。ランダム支給品3(氷月の2つ含む) 大戦槍@ONE PIECE
[思考]
基本:袈裟の男による殺し合いの打破と死柄木並びにいるであろうオール・フォー・ワンを止める
1:まずは、温泉に浸かる
2:拘束した氷月をどうするか……
3:一刻も早く死柄木を探し出して止める
4:トガヒミコ/マスキュラー/ステインも同様に探し出して止める
5:かっちゃんに轟君とはできたら顔を合わせたくないな……
6:エンデヴァーさんもいるのか……
[備考]
※参戦時期はNO316話後~NO317前。
※個性が日常ではない世界があることを知りました。
※名簿には載っていませんが、オール・フォー・ワンがいるのではと推測しています。

【氷月@Dr.STONE】
[状態]:負傷(小)、気絶
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考]
基本:ポイントを貯めて願いを叶える
1:???
2:脳が溶けている参加者を中心に殺してポイントを稼ぐ
[備考]
※参戦時期はZ=79前。
※緑谷から危険人物について教わりました。(死柄木、オール・フォー・ワン、トガヒミコ、マスキュラー、ステイン)
※自分とは違う世界があることを理解しました。

『支給品紹介』

【傷、血、泥のコスチューム@僕のヒーローアカデミア】
緑谷出久に支給。
緑谷のヒーローコスチューム。
現在のコスチュームは傷、血、泥に塗れている。

【ミッドガントレット@僕のヒーローアカデミア】
緑谷出久に支給。
オールマイトがアメリカから取り寄せた圧縮サポートアイテム。
幅広く身体を補強するが、あくまでも持久性特化のテストサンプル。
100%の出力には耐えきれる力はない。

【大戦槍@ONE PIECE】     
氷月に支給。 
ドン・クリークの武力の一つである大槍。
触れると爆発をする。撃ちこむ威力が大きいほど爆発の威力も大きくなる。
触れると爆発する槍だが、ルフィ曰く刃が破壊されたら棒つき爆弾。
本来は1tもの重量があるが、羂索の手により鍛えた成人男性ならなんとか振り回せる重さとなっている。


前話 次話
一番強いヒーローの 投下順 ドライフラワー
一番強いヒーローの 時系列順 ドライフラワー

前話 登場人物 次話
START 緑谷出久 ひび割れは案外すぐ近く
START 氷月 霜を履んで堅氷至る


最終更新:2022年10月31日 23:05