『さぁレースは第4コーナーに差し掛かります、ここで集団最後方から仕掛けてきたサクラグローリア!じわじわポジションを上げていく』
初めてレースに出たときのことは、今でも鮮明に思い出せる。なんとかトレセンにはいれて、そこでの模擬レースで一位を取ったときのこと、そしてそこでトレーナーさんと出会ったこと。
『トリプルティアラサクラグローリア!ぐんぐんとスピードを上げていく!』
そこからいろんなレースに出た。メイクデビュー、芙蓉ステークス、阪神ジュベナイルフィリーズ、 チューリップ賞に桜花賞、フローラステークス、オークス、秋華賞そして、ジャパンカップ。
いろんなウマ娘がいた、いろんな夢、想いがあった
いろんなウマ娘がいた、いろんな夢、想いがあった
『最終直線に入り先頭を行く〇〇〇〇〇〇〇〇〇!このまま逃げ切れるか!中山の直線は短いぞ!』
−桜が落ちるまであと310m−
ウマ娘はいつだって多くの想いを載せて走る。
誰よりも早く走りたいと思う子、一族の悲願のために走る子、理想を示し続けるために走る子もいれば、単に走るのが好きな子もいる。
走るために生まれてきたと言われる私達のもつその脚は、それ以上に多くのものを運んでいる。
ならば私の走る理由は−
『女王が直線一気で〇〇〇〇〇〇〇〇〇に迫る!〇〇〇〇〇〇〇〇〇に並…ばない!並ばない!〇〇〇〇〇〇〇〇〇をかわしたー!』
違和感はあった。当然だろう、雨の降りしきる重馬場しかも私の走りは追い込み、ゴールドシップみたいに壊れないほうが異常なのだ。
散らない桜はないし、不変のものなんてない。壁に当たって散っていった夢のなんと多いことだろうか。
『サクラグローリア先頭!サクラグローリア先頭!2バ身!3バ身!圧倒的末脚で〇〇〇〇〇〇〇〇〇を突き放す!レースは残り100mを切った!』
−桜が落ちるまでまであと100m−
覚えているでしょうか、あの夏の線香花火を。
その日はあいにくの雨で花火大会がなくなってしまった日だった。
火花を散らして地面に落ちたあの花火を見てあなたはこっちのほうがいいって言ってくれた。
「打ち上げ花火は観客も会場も要る、それに晴れてないとできない。でも線香花火ならこうやって二人でもできるだろ」
『サクラグローリア、5,6バ身の差をつけ今1着でゴォール!
サクラグローリアァァ!!!』
− 桜が落ちるまであとー −
「考え直さないか?」
登録前のトレーナー室であなたはそう、言ってくれた
「安心してください。あなたに、ファンの皆さんに、いつもどおり栄光を示します」
嘘、たしかにはじめはそうだった。
応援してくれるファンのため、私に負けたウマ娘たちのためそう思っていた。
夢を叶えるということは、誰かの夢を散らすこと。
彼女たちからしてみれば、さしづめ私は春の嵐のようなものだろうか。レクイエムやパストラルだってそんなふうに感じているのだろう。
トレーナー
たしかにあなたが私を思う気持ちもわかる。
みんなで祝った誕生日、プレゼントのあの時計は、そういうことでしょ?
嬉しかった、誰かのためにいられるということが
怖かった、誰かの思いを背負うということが
それでも、いや、だからこそ
私は、あなたのために走りたいんだ
桜は散ってもまた次の春に咲く。嵐のあとには虹がかかる。聖なる栄光は朽ち果てず、ずっと人の心に残り続ける。
待ってろ、レクイエム、パストラル、私は絶対に来年戻ってくる。
こんなこと言うのはお門違いかもしれないけど、私のいない間はあなた達にずっと勝ってて欲しい。なんてったってハナ差で一着を取られたかもしれなかったのだから
『やはり強い! 強すぎるっ!!
1年を通しG1の舞台を彩り続けた桜が!
決して散ることのない、栄光の万年桜が!
今、年末の有馬記念にも咲き誇りました!!
ああ、すごい…凄い光景です!』
雨の降るなか遂に桜は、中山の地に落ちた。