偉大な何者かになりたかった。
危なげなく、隙もない、王者の走り。
完璧なレースプランニングでターフに君臨する、永遠の皇帝。その姿に、どうしようもなく心動かされた。憧れた。どうしようもなく、憧れてしまった。ああなりたいって、思ってしまった。
立ち振る舞い、話し方から真似をした。本当はバ群なんて苦手なのに、わざとポジションを下げて皇帝の真似をした。皇帝の真似をしていれば、いつか皇帝になれる。なんて、思っていたのかもしれない。今思えば、随分と滑稽な話だ。誰かの後追いで、誰かの心を動かすなんてできるわけないのに。
トレセン学園に入学して、様々な出会いがあった。理想の皇帝たる生徒会長シンボリルドルフ、私と同じように皇帝に憧れながらも、私と違って自分を見失わずにターフを駆けた本物の天才トウカイテイオー、スピカのみんな、そして──私のライバルだって勝手に決めた、サクラグローリア。
危なげなく、隙もない、王者の走り。
完璧なレースプランニングでターフに君臨する、永遠の皇帝。その姿に、どうしようもなく心動かされた。憧れた。どうしようもなく、憧れてしまった。ああなりたいって、思ってしまった。
立ち振る舞い、話し方から真似をした。本当はバ群なんて苦手なのに、わざとポジションを下げて皇帝の真似をした。皇帝の真似をしていれば、いつか皇帝になれる。なんて、思っていたのかもしれない。今思えば、随分と滑稽な話だ。誰かの後追いで、誰かの心を動かすなんてできるわけないのに。
トレセン学園に入学して、様々な出会いがあった。理想の皇帝たる生徒会長シンボリルドルフ、私と同じように皇帝に憧れながらも、私と違って自分を見失わずにターフを駆けた本物の天才トウカイテイオー、スピカのみんな、そして──私のライバルだって勝手に決めた、サクラグローリア。
入学のときから彼女は目立っていた。
ウマ娘の中でも一際美しい容姿、中等部離れした絶対的なプロポーション。声は高すぎもせず、低すぎもせず、聞く者の耳に心地よい。努力では決して獲得することのできない、生まれ持った圧倒的なカリスマのようなものがあった。当たり前のように経歴も華やかで、名門ビクトリー倶楽部出身。多くの同期はあの子と戦うくらいなら、と、入学早々にデビューの時期の調整を考え始めていたくらいだ。
皇帝に憧れていた私はそのカリスマ相手に突撃した。皇帝なら並び立つであろう存在に目をかけないわけがないから。
すぐに、並び立つだなんて無理なんじゃないかと思ってしまった。実力に自信がなかったわけではないし、自分もシンボリの名を持つウマ娘である。にもかかわらず、圧倒された。容姿は皇帝のそれとは違うのに、どうしてか皇帝を幻視した。突撃したことで見えてきた、似ても似つかない、彼女の素を知るまでは。
ウマ娘の中でも一際美しい容姿、中等部離れした絶対的なプロポーション。声は高すぎもせず、低すぎもせず、聞く者の耳に心地よい。努力では決して獲得することのできない、生まれ持った圧倒的なカリスマのようなものがあった。当たり前のように経歴も華やかで、名門ビクトリー倶楽部出身。多くの同期はあの子と戦うくらいなら、と、入学早々にデビューの時期の調整を考え始めていたくらいだ。
皇帝に憧れていた私はそのカリスマ相手に突撃した。皇帝なら並び立つであろう存在に目をかけないわけがないから。
すぐに、並び立つだなんて無理なんじゃないかと思ってしまった。実力に自信がなかったわけではないし、自分もシンボリの名を持つウマ娘である。にもかかわらず、圧倒された。容姿は皇帝のそれとは違うのに、どうしてか皇帝を幻視した。突撃したことで見えてきた、似ても似つかない、彼女の素を知るまでは。
彼女は不器用だった。とにかく不器用。生きていけないくらいではないが、生きていくのに苦労しそうな不器用さ。容姿や纏うオーラに反して自分に自信がないことも知った。初めは謙遜かと思っていたが、違った。本当に自信がないのだ。気にしすぎ、不安症だと言ってやったけど、そうだねと頷くばかりでちっとも変化はなかった。
そんな、いろんな意味での不器用さ、真面目で素直な人柄からすぐに彼女はクラスの人気者になった。ぐっちゃん、などと呼ばれてみんなに愛されていた。舐められていたとも言う。はじめの頃に抱いていた畏怖を忘れてしまっていた。皇帝を幻視し畏れた、私でさえも。
そんな、いろんな意味での不器用さ、真面目で素直な人柄からすぐに彼女はクラスの人気者になった。ぐっちゃん、などと呼ばれてみんなに愛されていた。舐められていたとも言う。はじめの頃に抱いていた畏怖を忘れてしまっていた。皇帝を幻視し畏れた、私でさえも。
メイクデビュー、私は敗北した。あまりにも鮮やかだった。理屈も理論も置き去りにしたような、鮮やかな追い込み。
その時、我々は思い出した。圧倒的な才覚への恐怖を。戦いもせず屈服させられた屈辱を。皇帝を幻視した、その事実を。
その時、我々は思い出した。圧倒的な才覚への恐怖を。戦いもせず屈服させられた屈辱を。皇帝を幻視した、その事実を。
結局、私は皇帝にはなれなかった。散々だった。皇帝に目をかけて貰っていても、駄目なものは駄目だった。
オークスも秋華賞もあと少しというところで差し切られたし、それ以外のところでグローリア以外に負けてしまった。皇帝になるどころか、何者にもなれなかった。偽物には相応しい結果だ。そうだろう? マックイーン
「何を言うかと思えば貴方──今度はグローリアさんのことを考え過ぎて真似していますの? 相変わらず似ていませんし、自虐も大概になさい」
……え?
「偽物だとか、本物だとか。そんなことはターフの上では些細なことです。気にする暇があったら努力なさい。それこそシンボリルドルフさんやグローリアさんのように。できるでしょう? 貴方なら」
いや、その……
「できないとは仰いませんよね?」
ひっ……できます!
「よろしい」
「では、そろそろ失礼致します」
あぁ、うん。話を聞いてくれてありがとう。少し気持ちが楽になったよ
「それは結構。では、最後に一言だけ」
「──シンボリルドルフさんの真似をする、その選択をしたのは間違いなく本物(貴方)ですわ。これを本物と言わずなんというのですか」
…ッ!!
「では、さようなら」
立ち去ろうとする彼女へ、思わず声を掛ける。
「……マックイーン!!!」
「……なんですの?」
彼女は振り返らない。肩越しにこちらに視線を向けてくる。
「今度メロンパフェを作るから味見してくれないか!」
「……考えておきますわ」
相変わらずの令嬢然とした態度だが、尻尾が大きく揺れていたから、きっと喜んで貰えていただろう。
「本当に、ありがとう!!!」
                                
