続いてのライブ審査。
競走ウマ娘のレースは興行的な側面もある。
自分が応援している子がセンターで歌って踊るところを見たい、とレース場に何度も足を運ぶファンも多く
競走ウマ娘をアスリート兼アイドルと評されることもある。
自分が応援している子がセンターで歌って踊るところを見たい、とレース場に何度も足を運ぶファンも多く
競走ウマ娘をアスリート兼アイドルと評されることもある。
国民的ヒット曲「うまぴょい伝説」をはじめ、熱いものから華やかなものまで様々な楽曲があり、時にはウイニングライブの楽曲を踊りたいあまり有名芸能事務所のスカウトを蹴って中央トレセンを受験する者もいるくらいだ。
正直なところ、レース審査を通過したら落ちる者は多くはない。
とはいえ、ウイニングライブの性質上、課題曲の全てのポジション覚えて、歌えて踊れる必要がある。
これはウマ娘の高い身体能力をもってしても簡単なことではなく、ライブ経験のない子は立ち位置を覚えるので精一杯であることは想像に難くない。
とはいえ、ウイニングライブの性質上、課題曲の全てのポジション覚えて、歌えて踊れる必要がある。
これはウマ娘の高い身体能力をもってしても簡単なことではなく、ライブ経験のない子は立ち位置を覚えるので精一杯であることは想像に難くない。
しかし、応援してくれるファンの立場からしたら、推しがレースで勝ったのにライブの出来が悪かったら残念に思うだろう。
レースは一期一会だ。競技者たるウマ娘にとっても、ファンにとっても。
そのレースによってポジションが決まるウイニングライブもまた、一期一会なのだ。
そのレースによってポジションが決まるウイニングライブもまた、一期一会なのだ。
ライブ審査では課題曲の1.2.3位のパートを全て覚え、その場でポジションを指示され即席のメンバーで合わせる課題曲審査と、
自分の得意な曲でソロライブを行う自由審査がある。
自分の得意な曲でソロライブを行う自由審査がある。
課題曲審査は入学後のレース生活の模擬体験であり、
自由審査は課題曲では表現しきれない受験者の魅力をアピールする機会となる。
自由審査は課題曲では表現しきれない受験者の魅力をアピールする機会となる。
ファンの心を掴むには、走り以外でも個性や自己アピールも大事なのだ。
ソロライブは模擬レースと同じく他の受験生に公開で行われる。ライブに観客がいないなんてあり得ないからだ。
違うのは…目の前にいるのは自分のファンではなく、ライバルたち。
「オレのソロライブ、あれ使っていいよな?」
緊張感が高まる中、背の高い芦毛のウマ娘が指差したのは…
線の細い体から有無を言わさず繰り出される超絶技巧のスティック捌き。
演奏後にうっすら額に浮かんだ汗を拭い、記録用のカメラに向かっていたずらっぽくウインクして退場。
ラル様、という悲鳴のような歓声が上がる中、
クリソベリルを思わせる瞳の煌めきと雨上がりの朝の森にいるような爽やかな香りを残して……
その鮮やかな手口に、「【トレセン入試】乃木坂を聴きに来たはずが顔が良すぎるYOSHIKIが出てきた【イケメン尊死】」なんてスレが立ったとか立たなかったとか……
審査員は、そういえば以前にも、地元名物の音頭を完璧に踊った怪物がいたし、魂を揺さぶる演歌で会場を盛り上げたお祭り娘もいたなぁと思い出していた。
で、どうするのこの空気?アイドルオーディションやめてバンドのオーディションやってた気がしてきた。もうこの子が優勝でよくない?
トレセンの入学試験中であることをすっかり忘れて呆けていたファン一同、いや審査員と受験生は、
ゆっくりと舞台に降り立った天使に気が付かなかった。
それは、過去も未来も消え去ったような
それでいて、一閃の光が空を切り裂くような
それでいて、一閃の光が空を切り裂くような
囁くように歌い始めると、熱狂冷めやらぬ様子だった客席は、静まり返った。
讃美歌だというが、歌っている本人も天使のようだ。
今日のために用意したのだろうか、真っ白のノースリーブのワンピースから見える肩は驚くほど華奢で腰は折れそうなほど細い。それでいて背が高くて脚が長くて見惚れてしまう。
背中に靡かせた絹のような髪は光に透けて金に輝き、傷ひとつない白磁の肌に、頬は桜色に淡く染まっている。伏し目がちなまつ毛はたっぷりと長く、花びらのような可憐な唇から紡がれる歌声はこれまでの傷ついた思い出を全て癒してくれるようで…
今日のために用意したのだろうか、真っ白のノースリーブのワンピースから見える肩は驚くほど華奢で腰は折れそうなほど細い。それでいて背が高くて脚が長くて見惚れてしまう。
背中に靡かせた絹のような髪は光に透けて金に輝き、傷ひとつない白磁の肌に、頬は桜色に淡く染まっている。伏し目がちなまつ毛はたっぷりと長く、花びらのような可憐な唇から紡がれる歌声はこれまでの傷ついた思い出を全て癒してくれるようで…
朗々と歌う姿に後光が差して見える。
花が綻んで、視界が薄紅色に色付いていく。
アカペラのはずなのに、オルガンの伴奏が、教会の鐘の音が聴こえてくる。
花が綻んで、視界が薄紅色に色付いていく。
アカペラのはずなのに、オルガンの伴奏が、教会の鐘の音が聴こえてくる。
三女神は、トレセン学園に天使を遣わされたのだろうか?
いいや、すらりと伸びた脚は、鍛えられたウマ娘のものだ。
彼女は天使の羽ではなくその脚でこのトレセン学園の地に降り立ったのだ。
いいや、すらりと伸びた脚は、鍛えられたウマ娘のものだ。
彼女は天使の羽ではなくその脚でこのトレセン学園の地に降り立ったのだ。
サクラグローリアです、ありがとうございました。
はにかむように小さな声で言うと彼女はステージを後にする。
一瞬だったようにも、100年経ったようにも思えた時間を経て、しかし、観客の誰の目にも見えていた。
近い将来、ウイニングライブのセンターが誰になるのか。
はにかむように小さな声で言うと彼女はステージを後にする。
一瞬だったようにも、100年経ったようにも思えた時間を経て、しかし、観客の誰の目にも見えていた。
近い将来、ウイニングライブのセンターが誰になるのか。
時空飛んで 次元も超えて
舞い散る花びらを従えている
そんな夢が、満開の桜が、見えてしまった。
舞い散る花びらを従えている
そんな夢が、満開の桜が、見えてしまった。
審査員席では、ベテラントレーナーが頭を抱えていた。
颯爽と現れたロックスターの熱狂ライブ会場から打って変わり、天使降臨の奇跡を目撃してしまった我々、受験生と審査員は、すっかり戦意を喪失してしまった。
こんな子とレースで勝負しなければいけないなんて、しかもそれをレースだけでなく、ライブ審査で感じさせるなんて。今年の新入生は規格外だな。
それでも審査は続けなければならない。
次の順番の子が少々可哀想だが、実際のレースではみんな同じ条件というわけにはいかないのだ。
枠順での有利不利もあるだろうし、天候の得意不得意もある。上の世代と戦うことも、海外の有力者と戦うこともあるだろう。
プレッシャーに負けたなんてなんの言い訳にならない。
入学試験を続けなければ。
「続いて、シンボリレクイエムさん。
シンボリレクイエムさん?……いない?」
もしや、前二人に気圧されて逃げたか?
いや、シンボリ一族がまさかそんなことはなかろう、名門ゆえにプライドは高い。敵前逃亡などせぬはずだ。しかしまだ入学前のポニーちゃん、まだまだ脆いかもしれない、本当にどうしたんだろう、そもそもこの状態で試験を続けられるのだろうか?
「…あれ、もう始まってますか?」
ざわつく審査員席に、当のシンボリレクイエムが現れ、時計をみて、ステージをみて、また時計を見て、顔を真っ青にした。一時間間違えた、と。
「あーー!よく確認してよー!!言ったじゃん!!」
付き添いで来たらしいトウカイテイオーの言うことは最もである。
「大変申し訳ございません!すぐに準備させていただきます!!」
直角に礼をしたのち、テイオーに背中をぱちんと叩かれて、バタバタとステージへ駆け登っていく。
どうやら入学試験は続行できそうだ。
前二人と比べると小柄な、生真面目そうなウマ娘だ。顔立ちは可愛らしい感じだし、これまでと比べてオーラのようなものは普通だろうか。
センターの位置に立って一呼吸。前奏が流れ出す。
「光の速さで駆け抜ける衝動は
何を犠牲にしても叶えたい強さの覚悟」
これは、シンボリルドルフが、トウカイテイオーが、クラシック戦線で歌った…
「時には運だって必要と言うのなら」
華奢な体のどこにそんなエネルギーがあるのか。
激しく踊り歌いながら、昼から夜にかけて移ろう空のような色の瞳が客席を射抜く。
「宿命の旋律も引き寄せてみせよう」
そしてテイオーステップ。そう呼ばれる激しくも軽やかで華麗なステップを既にものにしている。…流石にまだウインクする余裕はないか。それでも。
「winning the soul 」
この曲は自分のものだ、と全身で叫んでいる。
届くかどうかじゃなくて、獲りにいくんだと。
つまりそれは、クラシックの冠は自分が獲ると宣戦布告をしたに等しい。
クレストキングダムと呼ばれたウマ娘は他人にはそれほど興味を持たない性だったが、王座を他者に渡してなるものかと、目を獰猛に光らせる。
へぇ…負けてられないね。のちに皐月賞を勝つ運命のウマ娘は、薄く微笑みつつも静かに拳を握る。
トロイメライは微睡むようにしていた目を見開く。
センター。あの場所へ行きたいな。いつか絶対に。
「儚い現実に嘆いた言葉は思いを宿して
一歩踏み出した」
シンボリレクイエムは、火をつけてしまった。
会場全ての、ライバルに対して。
「鳴り止まない胸の奥で待ち侘びた鼓動
届かなくても笑われても進め」
真ん中から見る景色は広くて、気持ちいいな。しらなかった。
ルドルフさんは、いつもこんな景色をみていたのか。
「握りしめた悔しさの残像は
ゴールへ導くストーリー」
やるじゃん。緊張する暇もないんじゃ、逆によかったかもね。
トウカイテイオーの呟きは誰にも聞こえない。
「掴め 今を変えたいなら 描いた夢を未来に掲げ」
蹴り上げるように、射抜くように、暗雲を振り払うように。
漆黒の髪を振り乱して、魂を燃やして叫んでいる。
「恐れないで 挑め!!」
会場のボルテージは最高潮だ。
鎮魂歌なんておだやかなものじゃない。
むしろ、眠らされた魂を全力の鞭で叩き起こすものだった。
シンボリレクイエムのパフォーマンスは、前の二人とは違う形で客席の心を捉えていた。
「涙さえも強く胸に抱き締め
そこから始まるストーリー」
彼女のこれまでにはどんなストーリーがあったのだろう。
そして、これからどんなストーリーが始まるのだろう。
彼女の、いや彼女たちの
果てしなく続く物語は………
入学が楽しみだな、という声には優しさが混じる。
そうですね、ルドルフ会長。
面接試験をするまでもないだろう。
あの子たちがレース場で競い合うのが楽しみだ、と審査員たちは顔を綻ばせた。