「……なぁ、ボス」
「……なに」
「……オレ、歌えるのかな。……センターで」
「……なに」
「……オレ、歌えるのかな。……センターで」
ティアラ路線のG1初戦、桜花賞。レース後の控室。
背中にもたれかかってくる質量に、いつもの軽やかさはなりを潜めている。
背中にもたれかかってくる質量に、いつもの軽やかさはなりを潜めている。
「……この競技のプロとして率直に言う。
君が彩Phantasiaでセンターに立てる可能性が最も高いのは、桜花賞だ」
君が彩Phantasiaでセンターに立てる可能性が最も高いのは、桜花賞だ」
「……そうだよな」
爆発的な速さ、切れる末脚。それは彼女の美点だけれど、ライバルとなるサクラグローリア、シンボリレクイエムと比較して、それを維持するスタミナはどうか。
オークス。秋華賞。今後のレースは距離が長すぎる、今はまだ。それは向き不向きの問題で、決して優劣の問題ではないのだけれど。
「何を気にしているかわからないけれど。パストラル、君は可愛いよ」
「うん。……は?」
「どこのポジションにいたって君の魅力が揺らぐことはない。でも私は、君が舞台の中心でこそ最も輝くことを知っている。それを私だけが知っているのは、多くの君のファンにとって損害だ」
自由に、さわやかに、ターフを駆ける最速の風。
あとちょっと、ほんの数メートル。ゴールが手前にあったらと思わずにはいられない。
あとちょっと、ほんの数メートル。ゴールが手前にあったらと思わずにはいられない。
パストラル。君は可愛い。だからって、戦績まで可愛く収まってやる必要はないんだ。
それに今回のレースを見て確信したことがある。
「この競技のプロとして率直に言う。
今の君の実力ならマイル・スプリント路線を争える。
シニアのお姉様方相手の厳しい道には違いないし、やるかどうかは君次第だけどね」
自由で気まぐれで、目を離したらどこかに飛んでいってしまいそうな君を、私の希望で縛り付けたくはないけれど。
「私は、……見てみたいな」
君の本能スピードを。
「……ははっ」
ボスのご命令のままに。
背中に感じる声は少し湿っていたけれど、気づかないフリをした。
                                
