さもり物語

さもり物語とは、さもり帝国においてこれまで最上級禁書扱いとされてきた、さもり最大の歴史書である。
そこにはさもり帝国民が未だ知らぬさもりとオークに関する真実が眠っているとされているが、
長らくさもり帝国真理省によりその存在が隠され、研究はおろかその存在を語ることすら許されなかった。
近年になりようやくその研究を行うことが若干の制約はあるものの認められ、
現在は主婦さもがさもり物語の原書の解読作業を進めている。
さもり物語は口語体で書かれており、著者の語りが中心となっている。

現在までに解読できた部分については順次現代語に訳され、さもり出版会より書籍が発行されている。
その全文はさもり帝國大学中央図書館でも閲覧することができる。

以下に現在公開されているさもり物語を主婦さも公式Twitterより引用する。



第1章


今日はねえ、君、オークの話をしようか。これまで誰も語ってこなかったオークワードの話をさ。これはね、別に秘密というわけではないんだよ。ただ誰も語らなかっただけでね。語ろうと思えば語れたけど、あえてそれを物語ろうとしたさもりはこれまでにいなかった、それが真相なんだ。


さて、もう気づいている者もいるかもしれないけれど、そうなんだ、オークワードはさもりなんだよ。いや、正確に言えばオークワードもさもりだったんだよ。そう、あんなことさえなければ……。


それは遠い昔のこと、まださもりの国がほんのちっぽけで貧しい国だったころ、平和な国に1人の旅人がやってきた。彼は自らをワードと名のっていた。


ワードの遠い祖国は彼が生まれたころから続く混乱で荒れはて、民は散り散りにひとりまたひとりと国を去っていった。そして彼もまたそのひとりだった。食べ物も水も底をついた国から、小さな可能性をたよりに逃げだしてきたんだ。ワードはそう話していたよ。


おっと、もうこんな時間だ。今日の『さもり物語』はここまで。さて、おやすみなさい。


第2章


さて、今日もお話の続きをきかせてあげようか。この前はどこまでいったかな。ああ、ワードがやってきたんだったね。それじゃあそこから始めよう。


でもね、そのころさもりの国がどんなところだったか知っているかな。そうだね、ではここからはまず、そのときのさもりの国の話をしてあげようね。争いもなく平和なころの、さもりの国のお話だ。


さもりの国はね、山と川によりそうようにできたそれは小さな国だったんだ。おおきな、しかしそこまで高くはないなだらかな山なみがひとすじ続いていて、その山にそって広い川が流れていたんだ。


川は山にむかってゆるやかに曲がって流れていて、その流れの外がわでは山が川にけずられて高い崖ができていた。川が何度も流れを変えながらけずったんだろうね。その崖はたいらな土地が何段もかさなるようなかたちをしていたよ。


その崖のなかでもとりわけひくく広い一段に、さもりの国はあったんだ。


川をはさんだ反対にはひくい湿地と小高い丘がかさなりあうように広がっていてね、そのところどころにはちいさな森がぽつりぽつりとかたまっていて、それは自然のゆたかな土地だった。私たちは崖からかけた橋をわたって川の両岸をゆききしたものだよ。


春には丘にうつくしい花をつみにでかけ、夏には川で魚をとって遊び、秋には森でとれるたくさんのくだものやきのこやけものの肉、冬には1週間かけてふりつもる雪、どの季節も私たちをそれはたのしませてくれたものだ。


さもりの国の背後には高い崖があると話したね。じつはその崖には1か所だけほそく切りとおしたようにさけた狭い谷があって、山なみを切りわけるように道がむこうがわまで続いていた。その先は、見わたすかぎりどこまでも続く広い砂漠さ。


はても見えない砂の世界。だれもそこへ歩みだす者はなく、そのむこうがわになにがあるのかを知っている者もいない。そんな、あたり一面の砂世界さ。


ときおり、さもりの国に旅人がやってくることがあった。かれらはたいてい川にそってやってくるんだ。


そしてさもりの国をこうよんだものだ。


「果ての国」


そう、かれらにとってその山なみまでが「こちらの世界」、これをこえれば「むこうの世界」なんだ。つまりね、さもりの国は世界のふちにあったんだよ。世界のふちの、ゆたかな国。そこが私たちの、さもりの最初の国があったところなんだ。


おっと、もうこんな時間だ。今日の『さもり物語』はここまで。さて、おやすみなさい。


オークキン『さもり物語』さもり出版会,1992
最終更新:2017年04月29日 01:58