夕日を見ると、ときどき僕は君を思い出す。

  ビルから出たとたんに、冷たい風が思いっきり僕を直撃した。寒すぎる。雪が降ってもおかしくないくらいだ。マフラーを巻きなおし、ポケットに手を突っ込んで歩き出す。時計を見るといつのまにか五時を過ぎていた。
 なんだか妙に疲れている。何かを忘れたまま日々をすごしているような気がしてならない。今日はもうそのまま帰ろう。重たい足取りで、僕は駅へと向かった。

  電車の中は比較的空いていた。それでも、座席はみないっぱいで、僕はつり革につかまって流れゆく風景をぼんやりと見つめていた。

  突然に大きな夕日が目に飛び込んできた。

  窓越しに朱の光が差し込んできて、僕の頬を照らす。もう何年も前のことなのに、鮮やかに記憶がよみがえってくる。




  彼女は長い綺麗な髪の毛をしていた。くるくるとよく表情を変えた。柔らかなアルトで僕の名前を呼んだ。

  「俊樹くん、ごめんね。待った?」
  「いや、大丈夫だよ。行こうか」
  僕の学校の近くにある本屋がいつも僕らの待ち合わせ場所だった。学校が違う彼女とは、それでもなるべく一緒に帰るようにしていた。

  帰り道はいつも夕日に照らされて朱かかった。その中を、僕らは手をつないで歩いた。初めのうちはとてもぎこちなくて、照れくさくて、でもなんだかそれがすごくよかった。僕らはお互いに赤くなった頬を、夕日でごまかしていた。
  憧れの風景はまさにそんなイメージだったから、僕はそれだけで本当に本当に幸せだった。みつめあって、話をするだけで満たされた。



  いつの間にか年月は流れて、僕らは別れた。いつのまにか、ただそばにいるだけではだめになっていた。彼女とちゃんと向き合うことから逃げているうちに、彼女はどこかへ行ってしまった。
  今年の冬はとても寒いらしい。元気でやっているだろうか、風邪などひいてないといいけどな…夕日を見ながら、僕はそんなことを思った。


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 bian co nero の「君がいた風景」からイメージして
書いた話です。雰囲気が出ているといいんですけどねー。


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  • 切ない・・・ -- 輪 (2007-01-10 21:57:30)
  • 輪さん、コメントありがとうございます。切なくなっていただけて嬉しいです。 -- 如月沙羅 (2007-04-29 18:54:34)
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最終更新:2009年06月07日 15:46