僕らはよく図書館前にある桜の木の下で待ち合わせをした。
付き合いだしたのは冬のことだった。北風の中を、君はよく僕を待っていてくれた。僕はいつも約束より十分は遅れた。理学部からは待ち合わせ場所に行くまでに十分かかるのだ。君は、遅れてきた僕を早々に見つけると駆け寄ってきて、
「待ってたんだからあったかいコーンスープおごって」
とよくねだった。つないだ手はとても冷たくて、僕はいつも申し訳ない気持ちになったのを覚えている。
春がきて桜が満開になると、君はその下で本を読みながら僕を待つようになった。君の長くて綺麗な髪が、柔らかな春の風に揺れていた。夢の中のような儚い景色に、僕は見とれて、なかなか君に声をかけられなかった。僕に気づくと君は、手招きをして僕を隣に座らせて、二人で一時間くらい話をしたっけ。
夏になって、君は僕を待たなくなった。せみが生きる喜びを歌い上げる中、僕は木陰で汗を拭きながら君を待っていた。時々は来ないこともあった。理由を聞いても
「暑かったから」
とか
「ちょっと用事が入っちゃって」
とか言うだけで、よくわからないままだった。今考えると、あのときから君は迷いはじめていたんだろうな。
木々が葉を落とし始めた初秋のころ、君は僕を桜の木の下に呼び出して静かに言った。
「ごめんね、もうあなたとは付き合えない」
うつむいた君の頬を、涙が
ひとしずく伝った。
僕は何にもいえなくて、ただ君を見つめていた。
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最終更新:2006年07月23日 16:44