しゃらん、と足首につけた鈴が鳴る。
 ふわり、と右手に持った扇が弧を描く。
 満月の月明かりの下、女は静かに舞っていた。
 その目から静かに涙をこぼしながら。

 二度、三度、白い手を翻す。
 身にまとう白い衣が揺れる。
 一度宙に舞い、静かに地に足をつける。

 耳に聞こえるはずのない楽の音が響く。
 今もなお愛しいひとの奏でる銀浄琴の音。

 ―後悔などしていない。
 私は姫巫女。
 ただ一人の人すら愛することを許されぬ定め。
 ともに逃げようと、この手をとったあのひとの
ぬくもり。
 静かな情熱の炎を燃やしながら、ひたと私を見
つめたあの瞳。
 「お慕いしております」と告げたあの唇、柔ら
かい声。
 どれほど、この身を預けたかっただろう。その
情熱に。
 あのまますべてを捨てて逃げることができれば
よかったのに。
 しかし、私は選んだのだ。
 このまま姫巫女として一生を終えることを―

 しゃらん、と足首につけた鈴が鳴る。
 ふわり、と右手に持った扇が弧を描く。
 夜の闇が涙を隠してくれることを願って、女は
舞う。
 ただひたすらに愛しい人を想いながら。

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 一青窈さんの曲「月天心」よりイメージした短編です。
短編というよりもはや詩のようですが(笑)


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最終更新:2006年07月24日 01:54