高校生の恋愛なんて、後で考えたら可愛いもんだ。俺と朝倉の恋愛だって同じだった。そう思いたい。
高校一年の5月だったかな?クラスメイトだった朝倉が、俺を呼び出したのは。
こんな冴えない奴が、何だってこんな美人から告白を?返事は勿論OK。感極まった朝倉からキスされて、それを谷口に見られて冷やかされたな。
それから、自宅の喫茶店のメニューを考えるのに朝倉も手伝ってくれた。朝倉は
「いつか、看板のケーキを作る時は、キョンくんの一番近くにいる人に名前を決めさせてね。」
と言い、俺もそれを了承した。それは、朝倉以外にないと俺達は思っていた。妹には冷やかされたがな。
朝倉との付き合いは本当に順調であり、夏には想いを通じ合わせ、朝倉の幼なじみでルームメートの長門から苦言を受けたな。
朝倉と過ごした高校生活は、本当に楽しい時間だった。今でもそう思う。
暗雲が立ち込めたのは、三年生の時か。朝倉の夢は、学校の先生。兵庫の大学でも良かったが、実家のある京都の大学に行く事になった。
朝倉の実家と長門の実家は仲が良く、兵庫に外部受験をした理由は、娘達の自活能力を養う為だったという。
そして、大学は京都の実家から通うとなっていた。これは親御さんとしては当然の考えだろう。俺は朝倉に別れを告げた。
このまま一緒にいたら、朝倉が苦しむ。だからだ。
結果、朝倉は京都の大学を受験し、見事に合格した。この頃、俺と朝倉の間に会話はなく、会っても気まずい時間ばかりが過ぎていっていた。
時間だけが徒に過ぎ、卒業式を迎える。卒業式に出る気になどならず、俺は教室に戻った。
朝倉に、他の人と同じように押し流され通り抜け、忘れられてしまう位なら、自分から消えてしまえ。そう思ったからだ。
しかし。教室には先客がいた。
「……朝倉……」
「……キョンくん……」
手を繋いで床に座り、ただ何をするわけでもない。お互いの体温を感じ、二人で座っていた。
触れた手から伝わる体温が生々しく、肩越しに感じる鼓動が、やたらとリアルに感じる。
とても優しく、そしてとても寂しい時間。どうしようもない別れ。朝倉は京都に帰り、俺はこの街に残る。
朝倉と目が合う。朝倉は、涙を流しながら言った。
「離れてしまっても忘れないで。どんな時でも覚えていて。」
それが俺達が交わした、最後の言葉だった。
桜なんて咲かなければいい。このままずっと時間が止まってしまえばいい。そう真剣に願った。しかし、時間は容赦なく流れ……。
今も、朝倉を忘れてなんていない。どんな時でも覚えている。
しかし。俺は、朝倉よりも好きな人に出会った。そいつは朝倉とは対極とも言える奴だが。
仮面を被った、不器用な妹の親友。
「くっくっ。キョン、御招待ありがとう。」
「すまんな、佐々木。感想を頼む。」
ずっと暖めていた、看板のケーキ。それを佐々木に出す。
「わぁ、美味しそう!」
俺は前に進む。お前に出来なかった全てを、佐々木に捧げよう。
「こいつをウチの看板にするから、お前が名前を決めろ。」
END
最終更新:2013年04月01日 01:32