20-653「教室にて、2」

-[[20-566「始業式にて、1」]] の続き
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「教室にて、2」
佐々木から論理学の講義を受けた始業式を終えて体育館から退場、
出入り口に一番近かった一年生諸君から教室に帰還する運びとなった。
一刻も早く自宅へリターンしたい俺としてはこの時ばかりはまだ幼い顔つきをしている
一年生諸君が羨ましいね。
ようやく我々3年生まで退場の順番が回ってきたので一分一秒を争うような勢いで、尚且つ
列を崩さないように出入り口へと闊歩する俺。
ふと横を向いたら佐々木がこっちを見ていて、俺と目が合った瞬間慌てたように目を逸らしたのだが、
これはどういった意思表示だろうか？何分で目が合うか、とかいう実験の統計でも採っているのか？
体育館から出れば、五月蝿い体育教師の目は光っていないので当然の如く列も乱れる。
周りから異常視されないほどの適度な高スピードで階段を降り、教師含め7番目くらいに教室に入った―
途端に、横からぬっと佐々木が出現、
「君は早く自宅に帰りたいあまり歩調を早めていたようだったが、それは無駄にしかならないね。
このクラスの全員が揃わないと帰ることは出来ないのだからね」
むぅ。何やら納得してしまう。
確かに全員揃わないと帰りのＨＲも始まらないし、それは即ち帰れないということを意味している。
「先程も述べたが、無駄な行動は極力慎んだほうが良いね。
昼間の睡眠をしたら、夜に眠れなくなる。
それにより次の日も寝不足に陥るのだ。そんな無限ループに陥るくらいなら、
昼間の睡眠を我慢し、夜に早く眠りループを断ち切るほうがよっぽど有意義だと僕は思うね」
佐々木にしてはところどころ考えながら喋っているような気がしたが、まぁ佐々木だし気のせいだろう。
それより、あれか？お前は俺に昼寝をするなと？
「平たく言えばそうなる。
活動がしやすい昼間に睡眠し翌日の寝不足の原因を作るよりも、昼間に活動して、
活動のしにくい夜に睡眠の時間をとった方がよっぽど有意義だ」
夜だって活動は出来るぜ。
「･･･とはいえ、活動は限られる。
人間は光の下で生活するほうが得意なのさ。本能的に闇を怖がるのもそのせいだろうね」
ん？一瞬言葉が詰まったな。もしかしたら初めて佐々木を論破できるかも知れないぞ。
「とにかく、光の下で活動するほうがよっぽど健康的なのさ。
夜は眠らないと、体にも悪い。昼夜逆転人間は人生を健康面でやや損している気がしてならない」
やっぱ佐々木を論破するのは無理だな。
「よって、昼間は外出したほうが家で眠っているよりも有意義なのさ。
そう、例えば―」
そこまで言って、佐々木は少し言葉に詰まった。
頬がほんのりと上気している上に視線が定まっていないが、体の調子でも悪いのか？
健康について長々と説教をしておいてそれはどうなんだ？
「例えば？」
「･･･映画を、観に、行くとか」
とは言ってもな。
今月は欲しいものが結構あるんだ。映画に行っている金は無い。
「そ、それは奇遇だねぇ。先程も言ったが僕は映画のペアチケットを持っているんだ。
僕は一緒に行く相手が居なくて困っている、君はお金が無くて困っている。
ということは、僕と一緒に映画を観にいくというのが、君の健康面にも関わる大事な問題なのさ」
そこまでいつもより早口でまくしたてると、ハッとし、俺から目を逸らした。
「･････い、嫌なら、構わないが」
なんかおかしいぞ。やはり佐々木らしくない。
頬は赤いし、視線は全く定まっていない。質の悪い夏風邪か？
国木田だけじゃなくお前もか佐々木。
「いや、僕は全くもって健康体だ。
健康には気を使っているんでね。･･･それで？」
それで、とは？
「･･････映画、観に行くのかい？行かないのかい？」
まぁ、行っても良いが、やはり眠いぞ。
アクションやホラー系の映画でなくラブストーリーだったりしたら上映中に睡魔に敗北してしまう
自信があるぜ。まぁ、佐々木に限ってラブストーリーは無いか。
とはいえ佐々木の顔を見ていると、なにやら断るのも悪いような気がして―
「あぁ、良いぜ。何時からだ？」
「良いのか？！」
いつになく大声を上げた佐々木にクラス中の視線が集まる。
こら、そこの女子、ニヤニヤしながらヒソヒソ話をするのはやめろ。
俺たちは別にそんな関係ではないし、これからそんな関係に昇華しようとも思ってないぜ。
「じゃあ1時に駅に集合だ。3時30分から観る」
待て、近所って言わなかったか？
何故駅に集合する、電車を使う必要はないだろう？
それに3時30分なら3時集合でも充分に間に合うんじゃあないか？
チケットだって取ってあるんだろう？
と、色々な疑問が沸いてきたが、さすがにこれ以上佐々木との会話を続けてくると
あとでお調子者の男子が冷やかしてくるので、「はいよ」とだけ返事し、会話を断った。
1時か･･･はてさてどんな映画なのか。

「放課後、3」に続く