70-227「佐々木さんのキョンな日常 最終章 真相~再生その1~」

 「キョン君」
 国立K大の校舎にて、二日間行われたセンター試験は、ようやく終わった。俺も長門も、まずは一息だ。
 「とりあえず、一度塾に戻って答え合わせをしようか」
 「うん。国木田君も来るんでしょう?」
 「ああ。いまからメ-ルを送信しておくよ」

 国立K大。
 ここを目標に決めたのは、俺達の仲間では5人。俺、長門、古泉、涼宮、そして佐々木。
 国木田は東大を選んでいた。
 「鶴屋さんとは少しの間離れることになるかもしれないけど、合格したら、しっかり勉強してくるよ」
 鶴屋さんと朝比奈さんは、現在は地元の武甲河女子総合大学で学んでいる。卒業してからも、北高の俺達の部室に
二人で顔を見せてくれる。
 佐々木は、試験のために日本に戻ってきているが、試験会場は新しい親父さんの実家の近くの大学だ。
 お互いに試験に集中するために、ここ一ヶ月はメ-ルを少しやり取りするだけにしているが、それでも、早く佐々木
に会いたい、そう思う。約束のあの日、卒業式の日が待ち遠しい。
 が、今は目の前の試験に集中するべし。前期日程の日時は2月24日から、そして合格発表は3月6日。卒業式は3月1日。
 気が抜けない日が続くが、やはりこの試験には合格したい。そして、佐々木とともに、K大で学びたい。

 ”キョン、君と僕の心が変わらなかったら、卒業式の日に、想いを伝え合おう”
 その約束を胸に、佐々木が側にいない2年間、俺は努力してきた。そうすると、勉強の面白さというものがわかるので、
学習意欲というものが出てくる。
 塾や学校で、国木田や長門 、時には涼宮も交えて、良きライバルとして、良き協力者として、俺達は学んで来たのだ。

 ちなみに他の仲間や友人達がどういう進路を希望しているかというと、朝倉は鶴屋さんたちと同じ大学、谷口は専門学校
、谷口の彼女の周防はそのまま光陽の大学部に進級するらしい。中河は、スポ-ツ推薦が受けられそうで、また、古泉の婚約
者の橘は、古泉の実家近くにある女子大を希望しているそうだ。
 皆それぞれ(まだ合格もしていないが)、道は分かれて、違った未来を歩んでいくが、古泉が言ったとおり、俺達はどこに
行っても大事な仲間だ。

 「キョン。解答速報を見る限り、君も長門さんも足切りされるような点数ではないことは確かだね」
 「お前もこの点数だったら、まず、第一段階は軽く突破しているんじゃないか?」
 国木田と答え合わせをしてみたが、どうやら第一段階は突破しているようだ。
 そうこうしているうちに、佐々木、涼宮、古泉からメ-ルが立て続けに来た。
 三人とも答え合わせをやったらしいが、どうやら第一段階は俺達と同じく突破したようだ(正式な発表及び平均点発表はまだ
先だが。三日後には中間がでるので、一つの目安にはなる)。
 俺も長門も、とりあえず、ホッとする。落ち着いたら、少し腹が減ってきた。
 「国木田、今からごはん食べに行かないか」
 「あ、ごめん。実はこのあと鶴屋さんと朝比奈さんと食事する約束をしていてね。何でも大学のサ-クルの人たちと一緒らしい
んだけど、僕も同席してどうぞ、て言われたんで」
 ・・・・・・相変わらず、年上の女性にモテるな、国木田。鶴屋さんとの仲が知れ渡っても、国木田は女子人気が高いのだ。

 結局、俺は長門と二人で食事に行くことになった。


「それにしても、入学試験て疲れるよな」
 彼ーーキョン君の言葉に、私も頷いた。
 「模試をやるのとはわけがちがうからな。高校入試の時も疲れたけど、大学入試は百倍くらいの差がある」
 「人生掛かっているようなところがあるからかな」
 「確かにそれは言えるかもな」
 彼と向かい合ってお喋りしながら、注文した料理を待っている。私達を知らない人の眼には、私達はどんな
ふうに見えるのだろう?

 食事の後、店の外に出ると、雪が降り始めていた。
 センター試験の日は雪が降る事が多いと聞くが、昨日も降って今日の朝も降り、街中といえども雪が解けずに
残っていた。
 凍った地面に足を滑らせない様に二人でゆっくり歩く。そんな私達の上に雪は降ってくる。
 降り積もるこの雪の様に、彼への想いも積もり、溶けない雪のように彼への想いが消える事もない。
 「試験、合格すればいいけどな。そしたらまた皆で大学生活を楽しめるな」
 それは私も同じ願い。

 もうすぐ佐々木さんは戻って来る。おそらく彼女はK大に合格するだろう。そして、彼の所へ戻って来る。
 私だけの彼との時間も少なくなっていくだろう。彼女が居ない二年間、彼の側に一番居たのは私。
 本当は傍にいてはいけなかったのかもしれない。でも、後悔はしていない。
 彼に信頼されている私。佐々木さんでもなく、涼宮さんでもない、彼の友人としての私。

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 ”優希”。彼から与えられた私。彼に愛され、愛した私の姿。
 この記憶が私に与えるもの。彼への想い。そして誓い。彼の時はもうすぐ近付いている。
 ”未来”が大きく変容している。情報量体の分解・混沌。時空系列のほころび。
 情報統合思念体が”力”の保持者、”鍵”、そして私達を観察し、出した結論は――
 おそらく天蓋領域の出した結論も同じ答え。『周防九曜』、そして『朝倉涼子』。
 異なる情報生命体が同じ進化を遂げるならば、その答えは言うまでもない。

 終わりの時、そして始りの時がやってきたのだ。

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 彼は、いつものように、私をマンションまで送ってくれた。
 「それじゃ、長門。今日はお疲れ様」
 「お疲れ様」
 「残りの試験頑張ろうな」
 「うん」

 雪の中を帰る彼の姿を、私はしばらく見送っていた。

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最終更新:2013年04月29日 14:15
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