歩みの行方




 麻生勝はネオ生命体である。望月博士の助手であった彼は、ネオ生命体ドラスを生み出すための実験体として、改造された。
 しかしドラスの暴走を恐れた望月博士の願いにより、人類の自由と平和のため、ドラスを倒すのであった。
 今は仮面ライダーZOとして、日夜悪と戦い続けている。
 その彼が転送された場所が、ネオ生命体として生を受けた森と似た場所だったのは、皮肉であった。
(俺は二度生まれ変わったようなものだ。最初はネオ生命体として、そして……)
 ――お兄ちゃん! ……ライダー!―――
 去り行く時に聞いた、望月宏の声を胸に秘める。続けて力強い一歩を進めた。
 仮面ライダーの思いは一つ、人類の自由と平和を護ること。
 味方はいない、敵は多い、首輪は外れず、神崎は未知数。
 だがどれも仮面ライダーの決意を鈍らせるには、足りなかった。
(待っていろ、神崎。皆を救いお前を倒す!)
 麻生勝はまさしく、仮面ライダーであった。

 麻生勝が決意を固め、歩み始めたころ、園田真理は恐怖に押し潰されそうになっていた。
 何度もオルフェノクと対峙したことがあるとはいえ、身近で人の首が飛ぶ光景を見れば、当然の反応である。
 しかし彼女はその恐怖心に、立ち向かっていた。
(負けるな、私! こんな馬鹿みたいなこと、巧と草加君が何とかしてくれる)
 彼女が思いを馳せるのは、無愛想で猫舌だが根は優しい乾巧と、たくましく成長した幼馴染の草加雅人である。
 真理の知っている2人は、オルフェノク絡みの事件を解決していった。
 ならば今回も、2人を頼るのは当然だった。
 そこまで考え、一つのアイディアが浮かぶ。
(そうだ、私にもできる事がある。あの2人と一緒にこんなことを止める人を探すことだ)
 頼ってばかりでいられない、自分も何かの役立ちたいと願う真理は決意を固める。
 しかし、その健気な思いも聞こえてくる足音によって崩れ去った。
 彼女の脳裏に浮かぶのは、同窓会の夜、次々と倒れる仲間たちと、狼のオルフェノクにつかまれた恐怖だった。

 麻生が5分ほど進むと、静かな森に変化が起きる。自分を見つめる視線を感じ、警戒する。
 そのまま進み、視線の主が油断するのを待つ。息を大きく吐き出した気配を確認し、茂みへと跳躍した。
 姿を確認するため、地面へと押し倒したとき、麻生は後悔した。
 彼が押し倒した人物、それは十台半ばの少女だった。
「いやっ、放して!」
 少女が必死で暴れる。だが、ネオ生命体である麻生はビクともしない。
 その事実が少女を追い詰めていることは、とっくに気づいていた。
「待ってくれ! 俺は危害を加える気はない! 信じてくれ!」
 安心させようと必死に訴える。しかし彼女の混乱は深まるばかりだ。
(このままでは駄目だ。何とか彼女を落ち着かせねば)
 決意をし手を離す。その瞬間、逃げ出そうとする少女の手前にデイバックを放り投げる。
 少女がこちらを向くのを確認し、背中を向け手を上げる。
「俺はその中に何が入っているのかは、知らない。その中か、君の支給品に武器があるなら持つがいい。
それで俺が信用できないなら、殺してくれても構わない」
 彼の頭に保身はなく、ただひたすらに少女の心に安息が訪れるのを、願って言った。

 しばらくは沈黙が空間を支配する。冷えきった空気で真理は頭を落ち着かせた。
 恐怖心は薄れない。自分の死の瞬間を思い出したからだ。
 真理は二度死んだことがある。一度は流星塾の同窓会、二度はつい最近の話だ。
 しかも二度目にいたっては、信頼していた澤田によって死をもたらされたのである。
 親しい者の前では必死に取り繕っていたが、裏切られた事実に真理の心は悲鳴をあげていた。
 感情の爆発に任せ逃げたとき、辛うじてとどまらせたのは、麻生の不器用さに誰かを思い出したからである。
「あなた、そんな無防備で怖くないわけ?」
 警戒しながら尋ねる。我ながら腰が引けているのが情けないと思うが、格好のことなんていってられない。
 たった一つの判断を間違えただけで、自分は死体になりかねないのだ。慎重になる。
「そうだな。最後になるかもしれないなら言わせてくれ。俺は君が怖くない。俺が怖いのは人類を裏切ることだけだ」
 真理は目を見開き、初めて巧が心のうちを吐露した言葉を思い出す。
(最後になるかもしれないから言っておく。俺は人に裏切られるのが怖いんじゃない。俺が人を裏切るのが怖いんだ)
 警戒心が緩み、麻生を信じ始める自分に苦笑する。
(あの馬鹿と同じこと言われただけで安心しちゃうなんて、私も安い女になったかな?)
 巧の言葉から勇気をもらうように、不器用な背中を見せる青年へ声をかける。
「私、訳が分からなくなってて、その、ごめんなさい!」
「いや、俺の方こそ驚かせてすまなかった。君がいるとは思わなかったんだ」
「ううん、仕方ないよ。それよりいつまで背中を向けている気?」
 背中を向けながらも、苦笑してるのが分かった。子ども扱いされたようでムッとする。
「俺は麻生勝。この戦いを止める為に戦っている」
 こちらを向き手を差し出す。自分の養父のように大きい手を握り返す。
「私は園田真理。美容師の卵」
 戦いを止めると言い切る麻生の誇りと対等に立つため、少し恥ずかしかったが自分の夢を語る。
 一瞬だが麻生の瞳に羨望の色が見え、首を傾げる。 
「そうか、なら生きてここを脱出しないとな。そうすれば君はいい美容師になる」
 真理の疑問を誤魔化すように、麻生に希望を語られた。おそらく触れられたくないことなのだろうと思い、会話に乗る。
「当たり前よ。絶対生きて美容師になるんだから。ところで麻生さんの知り合いはここにいる?」
「いや、まだ確認していない。園田さんは……」
「真理でいいよ」
「じゃあ真理ちゃんはこの島に知り合い入るのか?」
 その質問に待ってましたと言わんばかりに答える。
「うん、絶対この戦いを止めようとする2人がいる」
 続けて乾巧と草加雅人の容姿と、彼らがベルトを使ってオルフェノクと戦っていた事実を伝える。
 巧の説明には猫舌で無愛想だと強調することを、忘れない。
「2人なら麻生さんの力になってくれる。見たところ麻生さんは普通の人だし、オルフェノクみたいなのと戦えなさそうだから、
絶対2人の力が必要になるよ」
 2人を紹介する真理に麻生は静かに微笑んでくれた。昔、養父に友達を紹介したことを思い出し、懐かしくなる。
 だが真理が思い出に浸れたのは、名簿に目を通した麻生の表情を見るまでだった。

「望月博士にドラスだと? 馬鹿な!」
 望月博士はドラスと共に消えたはずだった。なのにこの島に連れてこられている。
 虚偽の情報ではないかと一瞬疑うが、神崎が自分に嘘をつく理由が見当たらず、名簿を真実と確信した。
「このドラスという化け物には気をつけてくれ。一度仮面ライダーに倒されているが、凶悪な奴だ」
「仮面ライダー?」
 「化け物」の部分に不安がよぎる様子を見つけたあと、可愛らしい顔に疑問を浮かべられた。
 彼女は仮面ライダーの都市伝説を知らないのだろう。
「君の知り合いのように戦える正義の味方さ。昔、俺は彼と共に戦ったことがある」
 嘘をつくのは心苦しいが、なるべくなら自分のことを人としてみて欲しかった。
 それに「化け物」の単語に好ましくない反応を見せている。
 怯えた子供のような表情をされるなら、嘘つきになる方がマシだった。
「その仮面ライダーはこの島に来てるの?」
「あ、ああ、もちろんだ。おそらく彼もこの戦いを止めるために戦っているだろう」
 誰なのか教えて欲しいという真理に、少し迷いながら名簿を適当に指す。
「瀬川耕司、名簿では君のすぐ上だな。彼ならこの戦い止めるために動くだろう」
 この名を選んだ理由は、真理の名前の近くにあり、目についたからである。
 せめて瀬川耕司なる人物がゲームに乗っていないよう祈る。
 希望を見つけ顔を輝かす真理を見つめ、心が温まった。
 移動することを提案し、真理が同意をする。
 出発のため、名簿を納めようとする真理の荷物を見つめたとき、荷物に拡声器が混ざっているのを発見する。
「もしかして真理ちゃんの支給品はそれなのか?」
「こいつ以外には入ってなかったし、そうみたい。あのコートの人もなに考えているんだろうね? こんなもので殺しあえってさ」
 真理が荷物から拡声器をとりだす。彼女の反応はもっともだが、自分は違う。
「それを譲ってくれないか?」
「別にいいけど、こんなものもらってどうするの?」
「この戦いに反対をしている同士を呼びかける」
 迷わず告げる。真理は信じられないものでも見たような顔をしていた。
「もちろん君が話した2人か、信頼できる人物に君を預けてからの話だ。そのあと俺が一人でやる。危険だからな」
 呼びかけをすれば、集まってくるのは仲間だけとは限らない。むしろゲームに乗ってしまった者が多く集まるだろう。
 だが、真理のような一般人を、殺人者の目から逸らすことが出来るのなら、望むところである。
 そして呼びかけに応じるような人間なら、たとえ自分が倒れてもその遺志を継いでくれる。
 一人っきりの戦場を決意し、真理から拡声器を受け取ろうとした。

 麻生の言葉を聞き、数秒経つと沸々と怒りが沸いてくる。
(自分一人で何でも背負うってわけ?)
 彼が自分を心配しての発言であることは、充分承知している。だからこそ余計に腹が立ってしょうがなかった。
(大体巧や草加君だって一人で背負いすぎる。いつも私は蚊帳の外だ)
 だから決めた。麻生には徹底的に関わろうと。
「真理ちゃん?」
 黙る自分に心配そうな顔をする。
「やっぱりこれは渡せない」
「なにを言っているんだ? 真理ちゃん」
「そんな危なっかしいことするのに放っておけるわけ無いでしょ! これを使いたいっていうなら、私も一緒にいく。
よく考えたらこいつが当たった私は幸運かもね。巧や草加君を呼びかけれるかもしれないんだし」
「駄目だ! そんなことは危険すぎる! 考え直すんだ」
 麻生の大げさな反応を見てウンザリする。
 真理だって馬鹿ではない。殺し合いの起きている島で、自分の居場所を教えるような真似は自殺行為だと分かっている。
 だが真理は引くつもりは無い。上唇を舐め、意思を込めた瞳で彼を見つめる。
「だったら私一人でやる」
 宣言し、木に登る。可能性は低いが、麻生が無理矢理奪うのを防ぐ為だ。
 自分の行動に疑問を浮かべているだろう。太い枝に腰を下ろし、拡声器を取り出す。
「ここで呼びかける。麻生さんは危険だから下がっていて」
 恐怖心が沸き起こるが、深呼吸をして無理矢理押さえ込む。拡声器を口に当てようとしたとき、手をつかまれる。
 そばには自分を止めようとする麻生がいた。どうやら跳躍してきたらしい。
 彼の身体能力の高さに驚きながら、睨む。
「……分かった、分かったからもうやめてくれ」
「それって、一緒に呼びかけてくれると言うこと?」
 顔を顰められながら、頷かれる。少し不満だったが、とりあえず納得する。
「じゃあ、早速……」
「いや、ここで呼びかけるより、C-6辺りの丘でやったほうが効果が高いと思う。ひとまずそこまで移動しないか?」
 地図を指されながら言われて、納得する。木を降り、身体についた木屑を払う。
「これは私が持つ。いいでしょ?」
 隙があれば自分を誰かに預け、一人で呼びかけるだろうと察知し、先手を打つ。
(ごめんなさい、麻生さん。でも私は後悔だけはしたくない)
 複雑な顔をする麻生に心の中で謝る。
「それじゃ行こうか。真理ちゃんは俺のあとをついて来てくれ」
 前を行く麻生について行く。
(きっと大丈夫。巧や麻生さん、みんなで力を合わせれば、こんな戦い止められる。頑張れ、私。ここが踏ん張り時だ)
 真理は胸に希望を秘めた。

 仮面ライダーと夢を持つ少女。
 二人が通る、歩みの行方は誰も知らない。



【麻生 勝@仮面ライダーZO】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:樹海B-1】
[時間軸]:本編終了後
[状態]:健康。
[装備]:なし
[道具]:未確認
[思考・状況]
1:園田真理を信頼できる人物に預ける
2:仮面ライダーとして戦う
3:戦いを止めよう呼びかけるためC-6の丘の頂上を目指す
4:ドラスを再び倒す
5:望月博士を探す

【園田 真理@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:樹海B-1】
[時間軸]:35話復活直後
[状態]:健康。
[装備]:なし
[道具]:拡声器
[思考・状況]
1:戦いを止めよう呼びかけるためC-6の丘を目指す
2:巧、草加に会いたい
3:麻生 勝が危なっかしくて放っておけない
[備考]:復活直後なので、巧がオルフェノクなのを知りません。
 また、同窓会の記憶が一部だけ戻っています。

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最終更新:2018年03月22日 23:24