龍蛇激突
闇夜を切り裂き、市街地を目指してひたすら走る。
仲間が必要だ。それも腕が経ち、信頼できる仲間が。
遺跡で対峙した二人のライダー。
数分手を合わせただけだが、その実力はスペシャル。
カブト…いや、下手したらそれ以上かもしれない。
混乱に乗じて一旦身を退いたが、それは完全調和の為。
この島がさっきの二人のような実力者で溢れているとしたら…脱出は容易ではないだろう。
あれだけの腕を持ちながら完全調和に反するとは御し難いが仕方ない。
強力な仲間を集めて再度対峙し、始末するまでだ。
ライダーは俺だけで充分。
この俺がパーフェクトハーモニーで脱出に導く。
―…その為にも今は仲間を集めなければ。
幾らかの時が経ち市街地も目前といったところで身体に異変が起こる。
黄金色と漆黒に包まれた肉体から力が抜けていく妙な感触。
思わず足を止めて異変を探る。が、この感触はよく知っているものだった。
変身を解除する時と同じもの。
手先からたちまちと戦闘スーツは消え失せていき、生身の身体に戻ってしまった。
「やはり…な。」
さっきのワーム同様、変身には制限時間が有るのだろう。
それがどれくらいかの具体的な時間は分からないが、10分かそこらだろう。
間違いなく神崎の仕業だ。奴の思惑は察するに余りある。
何故なら常に変身状態で居ようとする者が現れるから。
幾ら思考を凝らし、工夫しても生身でライダーに対抗するのは難しい。
これは力を持たない者に大きなハンデとなる。
―…ならば。
「―…変身。」
ザビーゼクターを一度取り外し、再度装着して一捻り。
もう一度変身を試みる。
だが何も起こらない。これも予想通りだった。
変身時間に制限が有るなら、こうなることは容易に想像出来る。
また直ぐに変身することが出来たら何の意味も無い。
しかし問題は…そこでは無かった。
次に変身出来るまで、どれくらいの時間が経てば良いのか。
見当もつかない。1時間?半日?
―…あるいは1日か。
なんにせよ致命的な痛手であることは間違いない。
先ほど己の脳内で描いた通り、生身でライダーやワームに襲われたら手の打ち様も無いからだ。
なら、今自分に自分に出来ることは、一つ。
早急に市街地を目指し、有志を募ることだ。
こんな所で死ぬつもりは無い。身体を休めつつ時間の経過を待つのも良いだろう。
兎に角、考えるのは後だ。
男、
矢車想は市街地を目指して再び駆け出した。
今は見ぬ希望の光、完全調和を求めて。
幾らかの時が経ち、走り続けてる内に背後に気配を感じる。
殺気とも言える禍々しい気配。
ワームから発せられるものと酷似している。
―…後をつけられている?それも実力者。
まさか、いつの間に…。
嫌な汗が背中を濡らす。妙に喉が乾いている。
嫌な予感が拭えない。
もし今襲われたら一溜まりも無いだろう。
何故なら今の自分には戦う術は無い。
未だに変身は出来ないから。
それがライダーだとしたら即アウト。一般人でも得物を持たれていたら勝ち目は無い。
だが、襲ってこないところを見ると武器は持っていないのか?
走り続けながら背後の気配を伺う。
もはや市街地は目と鼻の先だ。
「(―…どうする。)」
落ち着け、こんな時こそ完全調和。パーフェクトハーモニーだ。
もしかしたら善人かもしれない。
共に戦ってくれる仲間かもしれない。
説得次第では仲間に引き入れることも出来る。
まずは相手の出方を伺うのが吉。
逃げるかどうかはそれからでも良い。
「―…俺をつけているのは誰だ?」
足を止めて背を向けたまま、姿見えぬ相手に語りかける。
相手の気配も少し後ろで止まる。
「まずは冷静になれ。こんなバカげた戦いをする道理は無い。
どうだ?俺に力を貸してくれないか?」
この間にも相手が銃を持っていたらアウトだ。だが襲ってくる気配は無い。
大分厳しい賭けだったが、どうやら勝ったらしい。
試してみる価値は有った。
「(やはりパーフェクトハーモニー。完璧だな。)」
思わず表情が綻び、身体から緊張感が抜けていく。
だが耳に飛び込んで来たのは聞き覚えの有る台詞。
「――…変身。」
その言葉に、心臓が跳ね上がる勢いだった。
一気に嫌な汗が吹き出、身体が一気に強張る。
「―…なッ!」
まさか…ライダー!?バカな!
何故だ!何故、今の言葉を聞いて変身することが有る!!
浅はかであった。コイツもゲームに乗った人間だったらしい。
勢いよく振り返るが、眼に映ったのは協力者の姿では無かった。
怒り狂った凶悪な殺人鬼。もはや目前に迫っている。
紫色の蛇を思わす見覚えの無いライダー。大きく手を広げて駆け出して来る。
その距離10m。
「ウアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
魂を揺さぶる咆哮。蛇に睨まれた蛙のように動くことが出来ない。
逃げろ!逃げなければ死ぬぞ!!
自分に言い聞かせて固まった身体を動かそうとするが、全く動かない。
この時、本能的に悟った。生きる世界の違う悪魔だと。
奴が悪魔なら己は地蔵。呆気なく蹴り飛ばされる。
鳩尾に受けた強力な一撃が全身に響き渡った。
胃にあったものが全て吐き出される。痛みと恐怖で動くことが出来ない。
遠慮無しにパンチ、キックの連打が放たれる。
し、死ぬのか俺は…。
「戦えェ!これはそういうルールの筈だ!!」
倒れこんだ目の前の獲物に対し、更に蹴りを浴びせる。
戦え!戦え!戦えェェェッ!!
何故戦わない!殺し合い、最後の一人になるまで戦い続ける。
そういうルールの筈だ。なのにこの男は
「バカげている。」
と抜かしやがった。ライダーの戦いも、そして今も!
何故こんな腑抜けが混じっているのか。理解できない。
俺を殴れ!向かって来い!!でないと面白くないだろォォ!!!
「イライラさせるなァ!!」
痺れを切らして強力な蹴りを再度見舞う。
やがて男は動かなくなった。死んだか、或いは気を失ったか。
つい先程、出会い頭に受けた眼の傷。
未だに乾かぬ鮮血が滴り、倒れている男の頬を濡らした。
アキラから受けた傷―…これからの戦いを期待するのに充分だった。
これからもこんなことが待っていると思うと胸が弾んだ。
久しぶりに楽しめると思った。
目の前の男がいつ殺し合いをするか楽しみにして追っていたのに。
死ぬ気で向かって来るんだろうと信ていたのに。
だが結果はこれだ。
満たされない感覚。今までの期待は塵と化し、鬱憤だけが残ってしまった。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
餓えた蛇は月夜に吼える。何を求める訳でも無く、ただ己の鬱憤を晴らさんとする為。
だが、靄は消え去ることは無かった。
―…イライラする…!
「誰か俺と戦えェッ!!」
胸の内を吐露するが如く叫ぶ。
その声に釣られてか、漆黒の闇から現れたのは一人の青年。
「―…戦いたいの?なら僕と遊ぼうよ。」
ゆらりゆらりと歩みを進めながら、締まりの無い表情を浮かべている。
見るからに戦えそうも無い。この惨劇の舞台に相応しく無い姿。
力の差は明確だろう。
だが、このイライラを晴らせるなら誰でも良い。
俺と戦え!!
「―…良いだろう。せいぜい楽しませろォォ!!」
首を捻りながら歓喜の声を挙げる。
今度は簡単に倒れるな。何度も何度も向かって来い!!
獣の本能が闘争を求めて再度咆哮を挙げた。
未だに穏やかな表情を浮かべていた少年の腰にはベルト。
遠くでハッキリとは確認できなかったが、月明かりに照らされて明らかになる。
―…コイツもライダーか。面白い!!
先程の男よりは期待できそうだ。
「ウガアアアアアアアアアッッ!!」
大きく広げた腕が漆黒の闇を切り裂き、全力で駆ける
もう寸前に迫ったところで異変が起こる。
対峙している少年の表情が変わった。
冷酷な残虐者。その冷たい表情は人としての感情を何も灯さぬ氷のよう。
そして己も先程発した変身のキーワードを、手に握られていた何かに向けて小さく呟いた。
「変身」
―standing by―
胸が高鳴る。最高だ!ここでもライダーと戦える!!
神崎、感謝するぜ。お前の企画にはいつも胸躍らされる!
発せられる電子音声。
左の腰に装着されているデルタムーバー。
ゆっくりと手に握られていたデルタフォンを挿入する。
―Compleate―
変身受領のサイン。
デルタドライバーから、少年の身体に走る銀色のライン。
ブライトストリーム。やがて発光が辺りを包み、銀の閃光が少年の身体を浸食する。
そして、デルタの力が少年の闘志を滾らせる。
今、変身は完了した。戦うことを止めない鬼神。
仮面ライダーデルタ。
凶悪な殺人鬼が身に纏う王蛇と、冷酷無慈悲な龍が纏うデルタの拳がぶつかり合い火花を散らす。
終わらない戦いを制するのはどちらか。
本能と本能の激突が今、幕を上げた。
【浅倉 威@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:F-3】
[時間軸]:本編終盤辺り。
[状態]:左目負傷。重傷と思われるが痛みが快楽となっている。
[装備]:カードデッキ(王蛇)
[道具]:カッターナイフ
[思考・状況]
1:今は戦うことだけを考える。
2:殺し合い?最高だな。
3:イライラさせるな。
4:弱い奴に興味は無い。
【北崎@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:F-3】
[時間軸]:本編中盤辺り。
[状態]:健康。戦意高揚。
[装備]:デルタフォン、デルタドライバー。
[道具]:不明。
[思考・状況]
1:面白そうなゲームだねぇ。
2:僕が負ける訳無いでしょ?
3:冴子さんでも探そうかなぁ。
【矢車想@仮面ライダーカブト】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:F-3】
[時間軸]8話 ザビー資格者
[状態]:気絶。強力な全身打撲。
[装備]:ザビーゼクター。
[道具]:アドベントカード(サバイブ)
[思考・状況]
1:市街地で仲間を見つけなければ。そしてパーフェクトハーモニー。
2:カブト、そして剣崎の抹殺。それが俺の使命だ。
3:剣崎のジャケットにBOARDとあったな………
4:完全調和に対する僅かな自信の揺らぎ。
※矢車はBOARDという名前に嫌疑(ワームの組織では?)
※矢車は気絶中につき、全ての思考が停止しています。
最終更新:2018年03月22日 23:32