終わりの君へ、始まりの君へ



太陽が高度を増すにつれ、星の明かりしか無かった夜空の闇が青く澄み渡っていく。
分厚い大気を持つ地球ならではの、空の青さを仰ぎ見てガライは思う。
やはりここは地球上なのだと。

(この俺に殺し合い―――壊し合いの儀式をしろだと? 笑わせる)
ガライは幾多の星々を侵略してきた、フォッグの王子である。
ガライ自身もまた、数え切れない異星生物を壊してきた。
だがそれらは全て、フォッグの繁栄の為に行ってきたことだ。
訳の分からない地球の壊し合いの儀の生贄に選ばれる事など、納得が行くものでは無い。
だからガライは壊し合いの儀の内容について、考えない様にしていた。
フォッグ・マザーに奉げる生贄を捜す事に専心すればいいと、自分に言い聞かせていた。
だが壊し合いの儀で最初に出会った相手に、フォッグの王子である自分が手傷を負わされた。
(ヨロイ元帥と言ったか、この星の生き物とは思えん程の力を持っていた。戦闘能力はアギトやズーをも上回るだろう)
ガライとヨロイ元帥の戦いは客観的に見れば、ガライの一方的な勝利だったが
後になって思い返してみれば、ヨロイ元帥の強さは決して侮れるものでは無かった。
勝負の天秤が向こうに傾いていれば、敗北しないまでも今以上の深手を負っていたのは間違い無い。
(壊し合いの儀の性質上、俺とヨロイ元帥だけが突出して強いとは考えない方がいい。
 例え生贄を確保したとしても、俺自身がこの戦いを生き残れなければ意味が無い……)
懸念材料はそれだけでは無い、ガライはこの戦いで初めてデイパックを開け中に入っているメモを読む。
(やはりルール上は一人だけしか生き残れないという事か……だがこの儀式のフィールド上には、
 壊し合いの儀の生贄以外に、フォッグ・マザーに奉げる生贄になりそうな生き物は居ないらしい。
 ならば俺と生贄の両方が生き残る為には、首輪を外す必要がある)
思考と共に意識も首もとの金属の感触に行く、おそらくは地球の技術で作られた首輪の感触。
外すにはこの星の生き物の手を借りなければならない。
(首輪を外すには一時的にとは言え、この星の生き物を信頼して身を任せる必要がある………
 この俺が? この星の脆弱な生き物の力を借りなければならないだと!?)
脆弱な地球の生き物の助力を必要としている事が、ガライの自尊心を傷つける。
(生贄を捜すのは止め、俺一人で勝ち残る事を考えるべきか……)
自分一人だけなら勝ち残る自身はある、だがそう考えてもガライの気分は晴れない。
(壊し合いの儀に乗るしか無いという事か、神崎士郎と呼ばれた者の命令のままに……)
無意識の内にメモを強く握り締める。
フォッグ・マザーでも無い者に戦いを強いられ、フォッグの王子としての誇りも無い破壊を行う。
ガライには到底受け入れられる事ではない。
(フォッグの兄弟達の餌に過ぎない人間の走狗となって、戦えというのか!?ふざけるな!!)
己の内から湧き出る怒りのままにメモを両手で握り締め、メモは両端からの力に耐え切れず勢い良く破れた。  
「フッ……フフフフフフ」
ガライは今まで経験した事の無い自身の激情に、思わず自嘲の笑いをこぼした。
戦闘経験の豊富なガライであったが、フォッグ・マザーから引き離され爆弾入りの首輪を填められた経験は勿論無い。
その事がガライに、かつて無い不安と焦燥を与えていた。
(どうやら俺にも動揺があったらしいな……壊し合いの儀に乗るか否かは、焦って結論を出さなくとも問題はあるまい。
 俺が壊し合いの儀の中でどんな行動を取ろうと、最終的な結果は同じ事だ。
 フォッグが生贄を得て大孵化が行われれば、神崎士郎も他の者も全て食い尽くされるのだからな)
自分の気持ちを落ち着かせ、ガライはデイパックの中身を確認する。
この戦いを勝ち残るのが容易では無いと分かった以上、役立つ支給品が有るか確認しなければならない。
中に有ったのは食料、水、地図、名簿、方位磁石、「当たり」と書かれた紙そして
(剣か、妙な形をしているが使えん事はなさそうだな。後は……カードか?使い方は分からんが一応持っておくか)
他には武器になりそうな物も見当たらず、剣以外の荷物をデイパックにしまい込む。

ガライは立ち上がり自身に芽生えた僅かな不安を押しつぶす様に、強く足を踏みしめ歩き始めた。
しかしその足は数分後、放送の声により止められる事になる。


【ガライ@仮面ライダーJ】
【1日目 現時刻:早朝】
【現在地:海岸J-5】
[時間軸]:本編開始前
[状態]:軽症
[装備]:装甲声刃@響鬼
[道具]:ラウズカード(スペードのJとQ、ダイヤの3とQ、クラブの3と4)
[思考・状況]
1:フォッグ・マザーへの生贄を探す

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2018年03月24日 09:58