宿敵

 壁に刺さった一振りの剣。カブトムシを模したパーフェクトゼクターと呼ばれるその剣は自分の前で対峙する二人の男を見ていた。
 赤いプロテクターを身に纏い、自分と同じくカブトムシを模した電気の戦士、仮面ライダーストロンガー。
 白いマントを羽織った、トランプを武器とする魔人、ジェネラルシャドウ。
 お互いがお互いを宿敵とする二人は、決着をつけるべく、相手の隙を窺っていた。
「エレクトロファイヤー!」
 先に動いたのはストロンガーだった。必殺の叫びと共に、常に電気を帯びたストロンガーの手が地面へと触れる。
 それと同時に大量の電気が火花をまとい地面を走っていく。
「甘いわ」
(エレクトロファイヤーは地面に電気を走らせる技。それを知っていれば避けるのはたやすい)
 ジェネラルシャドウは地面を蹴り、軽々と避けると、そのままシャドウ剣を構え、ストロンガーへと向かっていく。
 だが、ストロンガーもそれを予期しており、左手でそれを払うとカウンター気味に拳を打ち込んだ。
「うぬっ」
 ジェネラルシャドウの右胸へと命中する拳。ストロンガーは攻撃の手を緩めず2発目、3発目と立て続けに拳を繰り出していく。
(やるなストロンガー。だが……)
「はっ!」
 ストロンガーの5発目の拳、それがジェネラルシャドウに命中する直前、ジェネラルシャドウの身体はトランプとなって霧散した。
 すると、ストロンガーを囲むようにして、5枚の巨大なトランプが出現する。
「フフフフッ、どれが本物かな?」
 それぞれのトランプの影にはひとりずつ、ジェネラルシャドウの姿があった。
(トランプとシャドウ分身の合わせ技。どのシャドウが本物か?この技を眼にした相手は混乱し、最後は自分の勘を頼りに攻撃するしかなくなる。
 しかし、それが落とし穴。どれを攻撃しても結果は一緒、トランプから吹き出る炎に身を焼かれ、最後は爆発するトランプと共に吹き飛ぶしかないのだ!)
 だが、そんなジェネラルシャドウの思惑を余所に、ストロンガーは至って冷静だった。
「シャドウ!同じ手は食わぬぞ。この中に本物はいない……トォ!」
 トランプから炎が噴き出す直前、一度、その技を受けた経験があるストロンガーはジャンプし、トランプ包囲網の外へと飛び出す。
「次はこれだ。カブトキャッチャー!」
 電気を利用して、相手の居場所を見つけ出す技、カブトキャッチャー。
 ストロンガーが発した電気の波は隠れるジェネラルシャドウの場所を知らせる。
「そこだシャドウ、トォ!」
 再びストロンガーは空中高く飛び上がる。そして、前方へ回転することにより、体内の電気エネルギーを全身に行き渡らせた。
 限界まで高められた電気エネルギーに灼熱した身体は赤く輝く!
「くらえっ!ストロンガー電キッーーーク!」
 虚をつかれたジェネラルシャドウにまともにストロンガーのキックが炸裂する。
「ウォォォォッ!」
 あまりの威力にジェネラルシャドウの身体は地面を抉り、壁へと叩きつけられる
「ヌ……ヌゥ、やるなストロンガー」
(身体が震える。これがストロンガー電キックか)
 蹴りこまれた瞬間に身体に流れこむ10万ワットにもなる電気エネルギーはジェネラルシャドウの身体にセットされた様々な機械を焼き、生身の部分を痺れさせる効果を与えていた。
(奇械人程度ではひとたまりもあるまい。さすがはストロンガーよ。だが、解せぬ。あの技は初めて使ったはずだ)
 トランプとシャドウ分身の合わせ技。ジェネラルシャドウにとっては切り札のひとつ。
(にも関わらずストロンガーは『同じ手は食わぬ』と言った。一体どういうことだ)
 自分の切り札があっさり破られたことにジェネラルシャドウは疑問を抱く。
「どうしたシャドウ、これで終わりか」
(今は考える時間ではないな)
 悠然とこちらに迫るストロンガーに対して、再度構えをとるジェネラルシャドウ。
 だが、考え事をしていたジェネラルシャドウからかなりのダメージを受けたと判断したのか、ストロンガーは構えを取りつつ言葉を紡ぐ。
「……シャドウ、もし、潔く負けを認め、今後悪事を働かないと誓うなら、命は助けよう」
 その言葉はストロンガーにとって、自分の名を思い出させてくれた宿敵へのせめてもの感謝の気持ちであった。それが……
「馬鹿な。貴様を殺すことが俺の生きがいだ。お前が死ぬか、俺が死ぬか、選択肢はふたつしかない!」
 それが絶対に否定されるとわかっていても。

 その時、遺跡が轟音と共に揺らぎはじめる。
 その轟音は風の音、そして、聞こえてくる方角は自分が辿って来た道から。
 ストロンガーの脳裏にひとつの答えが浮かぶ。

 ―――逆ダブルタイフーン

 V3の最強の技にして、使えば3時間の変身不能という最大のリスクを背負う技。
 その技が使用されている事実は即ち、V3の危機を告げていた。

「……一気に決着をつけるぞ、シャドウ!」
「来い、ストロンガー!」
「チャーージアップ!」 
 ストロンガーの声に呼応して、胸のSのマークが回転する。その回転が内臓された超電子ダイナモを発動させ、ストロンガーの身体に超電子の力を漲らせていく。
 だが、ストロンガーの角が銀色に煌くことはなかった。
 チャージアップストロンガーへその姿が変わろうとする直前、胸のSマークが今度は逆回転を始める。
 すると身体に漲っていた超電子の力は瞬く間に消滅し、それどころか電気エネルギーまでもが失われていく。
「うぉぉぉぉぉっ!」
 爆発。ストロンガーの身体から火花が飛び散り、粉塵を巻き上げる。
「ストロンガー!」
 遺跡に響き渡るジェネラルシャドウの声。
 しばらくして粉塵がおさまると、中心にいたのは、ストロンガーではなく、倒れ伏した城茂だった。
「ば、馬鹿な、チャージアップが出来ないとは……はっ」
 茂の瞳に白いブーツが映る。見上げるとそこには宿敵の姿。
「首輪は超電子ダイナモにまで影響を与えたか。ふん、余計な真似を」
 茂の首にシャドウ剣が突きつけられる。
 ジェネラルシャドウの言葉で、茂は理解する。単に自分たちに言うことを聞かせるために付けられていたと思っていた首輪が自分たちの能力まで制限していたのだ。
 だが、その事実に気づくのは遅すぎた。今、茂の命は眼の前の男の一撃で終わろうとしている。
(先輩、済まない。俺が未熟なばっかりに)
 自分の行動を悔い、茂は死を覚悟する。

(これで終わりか。なんともあっ気ない幕切れだ)
 ジェネラルシャドウは思案する。
(殺し合いに正々堂々という言葉はない。例え今回のように首輪という制限をかけられていたとしても、それに気付かなかった馬鹿が悪い)
 このゲームが始まって八時間あまり、気付く時間は充分あった。それに気付かなかったのは怠惰という他ない。
(だが、なんだ。この虚しさは。普段の俺なら笑って止めを刺すはずだ。それが何故?)

「……どうした、止めをささないのか」
「っ!」
 ジェネラルシャドウの蹴りが茂のあごを捉える。
(俺はこんな決着など望んでいない。俺が望むのは……)
「城茂。貴様の命、一旦は預けよう」
 ジェネラルシャドウはシャドウ剣を鞘へと納め、踵を返す。
(この世に生を受けて、初めて出会った至高の強敵。全てを失った俺の生きがいとなる男。そんな男をこんな形で葬るのは俺の誇りが許さない)
「明日の午前9時。午前11時に禁止エリアになる場所で決着をつける。それまでに己の力をしかと確かめておけ」
 ジェネラルシャドウはトランプを弄びながら、その場を去っていった。

「ちっ、いてぇなぁ。思いっきり、蹴りやがって」
 そう言いながらも、茂に恨みの心はない。むしろその一撃が「喝」になり、茂に立ち上がる力を与えた。
 茂はディパックを担ぎ、風見の元へと走る。
「情けねえぜ。今日はあいつに感謝することばっかりだ。だが、だからこそ……決着は俺の手でつける」

 V3はもういない。城茂の行く先には今以上の絶望と悲しみが待っている。
 だが、宿敵との邂逅は彼に揺るぎ無い信念を与えた。

 彼は正義の戦士、仮面ライダーストロンガー
【城茂@仮面ライダーストロンガー】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:遺跡E-3】
[時間軸]:デルザー軍団壊滅後
[状態]:胸の辺りに火傷。2時間変身不能。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:明日、ジェネラルシャドウと決着をつける。
2:風見と再会し、謝罪する。
3:仲間を探す(仮面ライダーキックホッパー優先)。
4:殺し合いを阻止し、主催者を倒す。
5:自分に掛けられた制限を理解する。
※首輪の制限により、24時間はチャージアップすると強制的に変身が解除されます。
※城茂の支給品、パーフェクトゼクターは遺跡E-3の壁に刺さっています。
 制限により、パーフェクトゼクターは自分で動くことが出来ません。
 パーフェクトゼクターはザビー、ドレイク、サソードが変身中には、各ゼクターを呼び出せません。
 また、ゼクターの優先順位が変身アイテム>パーフェクトゼクターになっています。

【ジェネラルシャドウ@仮面ライダーストロンガー】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:遺跡F-3】
[時間軸]:37話前後
[状態]:多少の打撲。痺れ少々。2時間戦闘不能。
[装備]:シャドウ剣、トランプ内蔵ベルト
[道具]:ラウズカード(ハートの10、J、Q、K)
[思考・状況]
1:明日、ストロンガーと決着をつける。
2:ストロンガーの言葉(同じ手は食わない)に疑問。首輪の制限も含めて考えてみる。
3:スペードのA、クラブの8が暗示するものを探す。
4:ジョーカーを倒す。
5:他の参加者は手段を選ばず殺す。

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最終更新:2018年11月29日 17:19