企てる男、燃え上がる男
「―…はぁ、はぁ…。」
息が切れる。疲弊しきった身体も悲鳴を挙げていた。
それでも胸に秘められた憎悪の炎は消えることは無い。
寧ろ時が経つにつれて、その炎の勢いは増していた。
―…参加者を全員皆殺しにして…真理を生き返らせる。
新たなる目標に向けて冷徹な戦士は、千切れそうな足を引き摺って歩く。
「仮面ライダーキックホッパー…貴様は俺の真理を守れなかった。」
近くに居ながら、真理を見殺しにしたのだ。
「クククッ…一番に貴様を殺してやる…!」
言うなれば礎。
真理を守れなかった罪、命を以って償わせる。
草加の表情が快楽に歪んだ。何故か笑みさえ浮かんでくる。
―…この島に居る参加者全員の命を足しても君の命には叶わない。
それは分かっている。
だが、安心してくれ。
今しばらくの辛抱だ。沢山の生贄を捧げ、必ず君を生き返らせて見せる。
「…君は俺が守る。」
―…仮面ライダーキックホッパーも、乾巧も必要無い。
闇を切り裂き、光をもたらすのは俺だッ!
そう呪詛のように呟きながら、草加は進んで行く。
やがて、眩しい朝焼けと共に市街地に辿り着いた。
沢山の建物が並んでいる。
いい加減、身体も限界だった。
今のままでは戦うことは出来ない。
邪悪な闘志に満ち溢れた草加自身にも、それは分かっている。
今戦っても、返り討ちに遭うのが関の山だろう。
ならば、今は身体を休めることだ。
万全とはいかなくても、傷の治療ぐらいはしたい。
「さて…。」
静観とした市街地を歩きながら辺りを見回す。
一般の家庭なら治療具ぐらい有る筈だ。
出来れば、今誰かに遭うのは避けたかった。
だが、もし不測の事態が起きて、誰かと出会うなら単純な馬鹿が良い。
簡単に騙され、自分を信じてくれるお人好しだ。
今までの経緯から言っても、草加は自分の立ち振る舞いには自信があった。
菊池啓太郎に取り入り、巧を悪人に仕立て挙げ、精神的に追い詰めたこともある。
誰かに襲われた…と言って相手を丸め込む事も出来るだろう。
そのまま利用するというのも上等手段だ。
一時的にでも利用できる道具は利用するべき。
「真理を助ける為には…俺一人では厳しい。」
爆発しそうな程の激しい怒りを抱えながらも、草加は冷静だった。
現在の状況を判断し、これからの事を淡々と画策する。
自分一人で勝ち抜く事は難しい事、協力者が必要な事。
既に理解していた。
使えそうな人物を集め、暫くは行動を共にする。
―…但し、あの
秋山蓮のようなゴミは要らない。
オルフェノクを初めとする人外な連中にも用は無い。
全うな人間であり、自分を好いてくれる者。
そして、戦う力を持つ者。
全ては真理を蘇らせる為だけに切り捨てる駒だ。
恐ろしい程冷静に思考を巡らせながら、市街地を覚束ない足取りで進んでいった。
その後ろ姿には一部の迷いも無い。
++
ガタックゼクターとの激戦を終えた後、
南光太郎もまた歩みを進めていた。
放送で促されていたエリア、H-10。
其処には良い物があると言っていた。
武器か、脱出をする為の鍵か。
それは現在では知る事は出来ないが、光太郎の胸には僅かな期待が燻っていた。
しかし。
「待てよ?…クライシスが俺達に有利な物を配置するというのは…。」
到底有り得ない話である。
こう言って参加者達をかく乱する罠かもしれない。
そう、光太郎は思い立ったら一直線。
巡らされた考えは一つの結論に行き着く。
「おのれクライシス…!俺達を罠に嵌めるつもりだな!!」
静かな市街地に光太郎の声が響き渡った。
そして、気がついた。
こうしてはいられない。
誘いに乗った人々が今、苦しんでいるかもしれないのだ。
「急がなければ…!さっき襲い掛かってきたクライシスの刺客も居る。
また罪も無い人々が犠牲になってしまう!」
先刻入手した用途不明のアイテムをデイバッグに放り込み。
気合一発、両頬を叩く。
「よし!」
―…目的のエリアまで猛ダッシュだ!
しかし、
「みんなぁ! 殺し合いなんてもうやめてー!!」
その意志は少女の大きな声で止められることとなる。
「なんだ!?」
どうやら北側の山頂からのようだ。
先刻ほど前に己が使ったマイクのようなものだろうか。
少女の叫びは続く。
「殺し合えって言われたからって、人を殺すなんておかしいよ!
帰りたいから殺すの? 守りたい人がいるから殺すの? ただ殺したいから殺すの? 怖いから殺すの?
それじゃ、誰も救われない! ただ言われるままに殺し合ったって、あのコートの男が約束を叶えるはずが無い!
私たちは力を合わせて、ここから脱出しなくちゃいけないんだよ! 殺し合ったって帰れるわけが無いよ!
そして何も力が無くて脅えている人! 私もそうだった! でも、危ないとき何度も助けてくれた救世主がいる!
私の夢を守ってくれた巧、ファイズがいる! 私を助けてくれた麻生さん、仮面ライダーがいる!
他にもカイザの草加くんや、もう一人の仮面ライダー、瀬川さんって人がいる!
だから諦めないで! ファイズは、仮面ライダーは……」
自分でも、闘志が再燃していくのが分かった。
「闇を切り裂いて、光をもたらす! こんな殺し合い、ぶっ壊してくれるから、脅えないで自分と戦って!
私たちにあるのは闇だけじゃない! 希望だっていっぱいある!
だから、強く! 正しく生きて! 諦めないで! みんなぁーーー!!」
しかし、少女の懸命な叫びは無慈悲な銃弾と共に中断された。
暫く何が起こったのか理解できなかった。
ただ、名も知らぬ少女の短い悲鳴だけが、残酷な事実として残されているだけであった。
正義感の塊のような男、
南光太郎。
身体が怒りに打ち震えていく。
そこから先の叫びは最早聞こえてはいなかった。
「許 さ ん ッ!!」
不屈の正義の炎が燃え上がり、怒りは言葉となって辺りに響き渡った。
少女の仇を取るために山頂へ向かおうと駆け出していく。
見上げた正義感。
誰もが賛同し、共に戦うことを誓うだろう。
しかし、惜しむらくは彼が向かっていった方向に悪魔が居ることだ。
―…そう、その先には手負いの
草加雅人が居た。
この出来事は少々前の事である。
この間に草加は着々と足を進めていた。
++
身体が休ませてくれ、と悲鳴を挙げている。
疲労で視界が霞んできた。
流石に一服入れるかと壁に背中を預け、物影に隠れる草加。
待ち望んだ安楽に心身ともに歓喜の声を挙げる。
―…その時、此方へ向かってくる人影があった。
足音からして走っているようだ。
物陰に隠れている以上、そう簡単には見つからないだろう。
上手く遣り過ごせる筈だ。
だが草加は、これを好機と考える。
(少し様子を伺うか…。)
壁の端まで移動し、顔だけを覗かせて駆ける相手に視線を遣った。
暫くして現れたのは若い一人の男。
外見からして、同い年か年下のようだ。
どうやら急いでいるらしい。
息を切らしながらも前だけを見て走り続けている。
その姿には欠片も迷いを感じられない。
(迷いの無い復讐者か…。はたまた揺ぎ無い正義の持ち主か…。)
判断に迷うところではある。
だが、今は味方が欲しかった。
焦りでは無く、草加の直感的な判断。
数多のオルフェノクと戦い、培ってきた直感である。
―…奴なら、仲間になってくれる…と。
顔を引っ込め、過剰とも言える息を切らし、苦悶に満ちた表情で壁に背を預けた。
「誰か…居るのか…?」
通り過ぎ、露になった男の背中に声を掛ける。
勢いよく振り返った男は驚きの表情を浮かべて、此方へ駆け寄って来た。
「大丈夫ですか!?」
―…お人好しめ。
こういった男が真っ先に死ぬ。
それがこの戦いだ。
だが、今は状況が違う。
優勝するための贄が必要だ。使えるものは何でも利用する。
男の問いに苦悶の表情を崩さずに応えた。
「ああ…。大丈夫だ…。」
そう言って立ち上がろうとするが、身体に力が入らずに膝が落ちる。
「くそッ…!」
膝を殴りつけて身体に喝を入れるが、動かない。
その様を傍らに居た男は心配そうに見つめ、やがて思いたったように草加に肩を貸した。
「無理しない方が良いですよ!取り合えず、何処かの建物へ避難しましょう。」
「ああ、すまない…。」
心底申し訳なさそうな表情で相手の肩を借り、覚束ない足取りで手短にあった建物へ向かって行く。
伏せられた顔の下で、ほくそ笑む。
全て演技であった。
確かに疲労で身体は限界に近い。だがこれ程では無い。
計画通り、とばかりに歪められた妖しい笑みは男に悟られず。
知っているのは見詰め合っている地面だけ。
焦げ茶色の土は物言わず、ただ草加の笑みを見守っている。
やがて辿り着いた建物の中、階段付近に腰を落とす。
遠目から見ても少々目立つ大きなマンションの中。
ここまで草加を運んだ男は自分のデイバッグから水を取り出し、未だに身体を抑えて表情を歪める草加へ差し出した。
震える手で其れを掴み、封を切って口へ運ぶ。
上手く支えきれずに、水は勢いよく飛び出し、服を濡らした。
「有難う…。この島に君の様な男が居るとは思わなかったよ。」
幾ばくか落ち付いたのか若干穏やかな表情に変え、男の瞳を真っ直ぐ見る。
それに応えるように男も口を開いた。
「―…俺は
南光太郎と言います。当然の事をしただけですよ。」
当然と口にしながら真摯な表情で言葉を返した。
光太郎の様子に安心したように笑みを浮かべる草加。
「俺は乾巧。」
そして、ここで最上級の演技を打つことになる。
「―…仮面ライダーファイズだ。」
真理の放送を聞かなかった者は居ないだろう。
彼女が言っていた、闇を切り裂き光をもたらす…。
それを成し遂げる男の名。
それが仮面ライダーファイズ。
未だに納得はいかないが、形振り構ってはいられない。
「真理が言っていた…闇を切り裂き、光をもたらす者だ。」
草加は、ハッキリとそう言い切った。
++
目の前に居る、この男が仮面ライダーファイズ。
驚きの余り眼を見開き、壁に背を預けている
草加雅人という男に言葉を返した。
「貴方が…仮面ライダーファイズ…!」
胸の中が感動の心で満たされていく。
心強い味方と出会う事が出来た。
今だけは神様へ感謝する。
ありがとう、神様。
「ああ、俺がファイズだ。」
痛みに表情を歪ませながら草加は首を縦に振った。
衝撃の事実と共に、問いただしたい事もあることに気がつく。
そう、山頂に居た少女のことだ。
「彼女は…!彼女はどうなったんですか!?」
相手の肩を掴んでお構い無しに揺らす。
今の光太郎に疑いや、遠慮というものは無い。
…いや。、もとから無いというのが正しいかもしれないが。
「…真理は死んだ。―…真理は、俺の恋人だった…!」
相手の顔が反らされ、更なる衝撃の事実が明らかになる。
「死んだ…!?」
次いで、草加が放った言葉。
不甲斐無さと悲しみで一杯になる。
(乾さんは最愛の恋人を失ったんだ…。その悲しみは俺の比じゃない筈。)
何と言葉を掛けていいのか、重い沈黙が辺りを包む。
下手な事は言えない、言ったらいけないんだと光太郎にもそれは分かった。
しかし、沈黙は草加の言葉で破られることとなる。
「俺は許さない…!真理を殺した奴を、ここに居る悪人の全てを、そして…。」
憎悪と決意に満ちた表情で一寸溜める。
そして放たれた最も憎むべき名。
「仮面ライダーカイザ…。
草加雅人を…!」
あの乾巧がそう簡単にくたばる奴では無いことを草加には分かっていた。
化け物を認めなくてはならない、己の内心に怒りもあったが、これも今は些細なことだ。
もし放送で巧の名が呼ばれようものなら、動揺している相手の隙をついて殺す。
知り合いに会ったら、そ知らぬ振りで押し通す。
冷静に事を運ぶ自信があった。
不協和音を撒き、傷が癒えるまでは己の手は汚さない。
それが草加が考案した、この島での攻略法であった。
「待ってください!草加って名前…真理さんが味方だって口にしてました。
一体どういうことなんですか…?」
困惑しきった表情で言葉を返す光太郎。
光太郎の疑問は最もだ。
だが、その問いに対しても微塵の同様も見せずに草加は口を開いて見せた。
「
草加雅人は冷酷で残忍で…人の命をゴミ位にしか思っていない最低な奴なんだ。
他人を騙し、陥れることに喜びを感じる。俺も真理も…大分手を焼いていた。」
至って真面目な表情で嘘をしたて上げる。
その様を馬鹿正直に捉える光太郎。
更に草加の口八丁は続く。
「草加は真理に脅しを掛けたのかもしれない。―…自分のことも言わなければ殺す…と。」
「何て奴だ…!そんな奴が居るなんて…!!」
いとも簡単に騙されてくれた。
草加は内心で舌を出す。
ここまでアッサリと上手くいくのには少々拍子抜けしたが…。
我ながら、自分の演技力に惚れ惚れする。
「クライシスの仕業か!!」
しかし草加の耳に飛び込んで来たのは理解不能な単語。
(クライシス…?)
今しがた、
草加雅人に仕立て上げた乾巧という凶悪な人間について語っていたところだ。
なのに何故、このような結論に至るのか。
しかし、少しの間を置いて理解する。
(…成る程な。)
―…どういう経緯かは分からないが。
どうやら彼は、この騒動をクライシスとやらの仕業と思っているらしい。
好都合だ。
自分に有利な素材は決して見逃さず、草加は臨機応変に対応した。
「クライシスというのが何かは分からないが…」
「草加がそいつらと手を組んでいる可能性はある。奴は自分の為ならどんな悪事にも手を染める男だからな。」
相変わらず、微塵も疑いの様子は見せない。
力強く首を縦に振る光太郎。
そして草加は続ける。
「俺は神崎を倒し、この島に居る人達を守りたい。…南君、力を貸してくれないか?
恥ずかしい話だが、草加は腕が経つ。俺一人では勝てないかもしれない…。」
好青年と形容するに相応しい、真っ直ぐな表情。
この様を見て信用しない奴は居ないのでは無いだろうか。
そして、相手の心を擽る話術も心得ていた。
当然、光太郎の決断はこうなる。
「任せてください!一緒にクライシスの野望を打ち砕きましょう!!」
互いに噛み合わぬ決意を新たにした二人。
血で濡れた「巧」の手と、正義に燃える光太郎の手は力強く交わされた。
【
草加雅人@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地F-4 マンションの中。】
[時間軸]:ファイズ終盤
[状態]:全身に負傷。背中に切り傷。疲労。参加者全員への強い憎悪。
[装備]:カイザドライバー(カイザブレイガンのみ付属) 、ゼクトマイザー。
[道具]:ファイズアクセル、三人分のデイバック(佐伯、純子、草加)
ディスクアニマル(ルリオオカミ、リョクオオザル、キハダガニ、ニビイロヘビ)
マイザーボマー(ザビー、サソード、ガタック(小消費)、ホッパー)。
[思考・状況]
1:
南光太郎と手を組み、利用し尽して殺す。
2:ゲームの参加者の皆殺し。
3:回復を待つ。
4:
南光太郎から情報を聞きだす。
5:更に頼れる仲間を集める。
[備考]
※珠純子の死をヒビキか青いライダー(加賀美)に擦りつけようと考えています。
※自分のことを乾巧と偽っています。展開に応じて、臨機応変に対応。
※ゼクトマイザーは制限により弾数に限りがあります。
※会話の流れ的に、光太郎になんらかの力があると読んでいます。
【
南光太郎@仮面ライダーBLACK RX】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地F-4 マンションの中。】
【時間軸:第1話、RXへのパワーアップ直後】
【状態:健康。闘志全開、ぶっちぎるぜ!!】
【装備:リボルケイン】
【道具:カラオケマイク(電池切れ)、ハイパーゼクター】
【思考・状況】
1:乾巧(
草加雅人)と共にクライシスの野望を打ち砕く。
2:乾巧(
草加雅人)の回復を待つ。
3:打倒主催。その後、元の世界に戻ってクライシス帝国を倒す 。
4:乾巧(
草加雅人)と情報を交換する。
【備考】
※黒幕はクライシス帝国、神崎はその手の者であると勝手に確信しています。
※
参加者名簿は未確認。
※ガタックゼクターをクライシス帝国の罠だと勝手に確信しています。
※草加を巧、ファイズだと思い込んでいます。
※草加のことは全面的に信頼。
最終更新:2018年11月29日 17:23