ザビー死す!
「……う、あっ」
苦悶の声を上げ、矢車は眼を開ける。
どれぐらい眠っていたのだろうか、黒塗りだった空はいつの間にやら青く晴れ上がっていた。
「俺は一体……痛ぅ」
起き上がろうとした矢車の身体に激痛が走る。その激痛が矢車の意識を急激に覚醒させた。
そうだ、俺は仲間を募ろうとして、紫色の蛇のライダーに。
思い出すにつれて本能的に体が震えた。それは純粋な恐怖。
初めてワームと対峙した時にもここまでの恐怖はなかった。あれはまさに悪魔。
倒せるのか俺に、あいつらが?剣崎となのるワームと蛇の悪魔、ここにきて矢車の心は大きく揺れた。
だが、矢車は首を振り、自分に芽生えた恐怖を振り払う。
大丈夫だ。俺にはパーフェクトハーモニーがある。このザビーゼクターがある。この二つが合わされば例え相手が悪魔だろうとも恐れることはない。
そうだ冷静さを取り戻せ。
矢車は大きく空気を吸い、そして、吐く。空気を取り入れることにより、脳がようやく正常に回り始める。
「よし、まずは現状の確認だ」
まず矢車は自分の体の確認からはじめた。紫のライダーより受けた傷は決して浅くない。だが、幸いなことに打撲ばかり。
バランスのより食事のせいか骨も折れている気配はない。多少の障害はあるが大丈夫だ。戦える。
次は今の時間だ。矢車はディパックから時計を取り出す。だが、その時計が指し示す時間に愕然とする。
「8時03分……」
矢車はスマートレディの放送は愚か、真理の命を掛けた放送すら聞き逃していた。矢車は急ぎ、ディパックに入っていたメモを確認する。
この場合、死亡したのは誰かとか、誰がどのような状況に陥ったとかは関係ない。今、矢車にとってもっとも重要なのは。
「やはりだ。放送後、禁止エリアが設定されるとある」
思わず矢車はメモが書いた紙を握りつぶす。だが、矢車の動揺も当然といえよう。メモには禁止エリアに入ったら、即首輪が爆発するとあった。
エリアは全部で100。その中の3つが矢車にとっては一撃必殺の地雷と化す。
「はやく仲間を見つけなければ」
この際、天道でも誰でもいい。どこが禁止エリアなのか把握しない限り、いつ首輪が爆発するとも限らない。しかも、3つの内の1つは既に作動しているのだから。
矢車は市街地に向けて走り出した。
誰か、誰かいないのか?
矢車は仲間を探して、疾走する。だが、誰ひとりとして、存在を確認できない。
馬鹿な、誰も市街地を目指さなかったとでもいうのか。それとも禁止エリアになる時間が差し迫っている?
言い知れない不安と戦いながらも、2つのエリアを過ぎ、G5エリアに着いたとき、矢車は異変を感じた。
「なんだこれは」
恐らく多くの建物があったのであろうそこは全てが粉々に崩され、廃墟と化していた。
初めからこうだったのか?いや、違う。確認した地図ではここには町があったはず、誰かに壊されたのだ。
だとするとここにいるのはまずい。まだ、これをやった奴は近くにいるかも知れない。とてもこんな奴と交渉できるとは思えない。
だが、矢車の判断は遅かった。
「何!?」
突如、頭上に現れた大きな火の玉は矢車を目指して、一直線に落ちてくる。
「くっ、ザビーゼクター!」
『ブーーーーン』
羽音を響かせ、ザビーゼクターは火の玉よりも早く矢車の右手へと到達する。
「変身」
ザビーゼクターを左手のライダーブレスへと装着する。
『HENSHIN』
電子音と共に矢車の身体を蜂を模した鉄壁なる装甲が包んでいく。
集団を統一する頂に相応しき蜂のライダー、仮面ライダーザビー。
ザビーが変身を完了したとほぼ同時に火の玉がザビーの元へと辿り着く。
キャストオフしている時間はない。ザビーはマスクドフォームのまま、急ぎ両腕で防御を固めつつ、火の玉を避けようとする。
紙一重。直撃は避けられたものの火の玉はザビーの装甲を掠め、火花を散らす。
「くっ、なんて威力だ」
掠められた装甲は飴のように溶け、ぐにゃりと変質した。掠めただけでもこれならのだ。直撃を受ければ、マスクドフォームの装甲といえどひとたまりもあるまい。
避けた火の玉は空中で方向転換すると再度、ザビーへと向かう。
「だが、いくら威力のある大砲といえども当たらなければ意味がない」
ザビーゼクターの羽を上げる。その動きに反応し、マスクドフォームの装甲が機械音を上げ、開いていく。
「キャストオフ」
羽の中央に位置するリングに指を掛け、回転させる。回転したザビーゼクターは悪を貫く、針となり、同時にザビーの身体をより蜂に相応しい戦闘フォームへと変える。
『CASTOFF』
吹き飛ばされる装甲。『Change Wasp』の声が響くと共にザビーはマスクドフォームからの脱皮を終え、ライダーフォームへと姿を変えた。
向かってくる火の玉。だが、先程と違い、慌てる必要などない。ぎりぎりまでひきつける。命中まであと数cm。そこでザビーはベルトの脇を叩いた。
『CLOCKUP』
ザビーの周り、全ての時間が遅くなる。本来の加速より数段劣るが、それでも避けるには充分。ザビーはその場から瞬時に逃げ出した。
刹那、今までザビーがいたところに火の玉が落下する。
ズガーン!
盛大な音と共に火の玉が爆発した。もし命中していたら、ザビーとてひとたまりもない。命中していればだがな。
「しかし、一体誰が?」
ザビーは慎重に辺りを見回す。この火の玉を放った相手がいるはずだ。
だが、その声は思わぬ場所から発せられた。
「やっと見つけたぞ」
ザビーが振り向く。声が聞こえた場所は火の玉が落下した場所。
「ふふっ、市街地を襲えば、大勢の悲鳴が聞こえるかと思えば、猫の子一匹見当たらん。
正直、飽き飽きしてたところだが、ようやく少しは楽しめそうな奴に会えたな」
そこから現れたのは紫色の硬質的な体と爬虫類的な容貌をもつ怪物。なるほど火の玉自身が怪物だったというわけか。
「何者だ、貴様」
「我はクライシス皇帝の使者、RXを抹殺し、この世界の全てを破壊尽くすために仕わされし者。グランザイラス!
貴様、RXではないようだが、仮面ライダーという輩のひとりか?」
「仮面ライダー?」
なるほど、マスクドライダーシステムだから仮面ライダーか。怪物のわりにはネーミングセンスがある。
「そうだ、俺は仮面ライダーザビーだ」
「くくっ、肩慣らしには丁度いい。皇帝陛下の名の下にお前を処刑する」
言うが早いや、グランザイラスはザビーに突進していった。グランザイラスはザビーを倒そうと、右腕に内臓された電磁ハンマーを何度も打ち込む。
だが、ザビーはそれを的確に避けるとグランザイラスの身体に拳を打ち込んでいく。
当たればひとたまりもないだろうが、グランザイラスの攻撃は直線的、避けれない攻撃はひとつもない。
「おのれ」
「ふっ!」
振り下ろされた右腕を避け、それを軸にして、裏拳を打ち込む。しかし、その一撃もグランザイラスはよろめきさえしない。
「かゆいわ」
すかさずザビーは右手をザビーゼクターに添え、ライダースティングの準備をする。
タフな奴だ。だが、例えどんなにタフだろうとも、蜂の一突きには一溜まりもあるまい。
「最後にひとつだけ聞いておく。今回設定された禁止エリアはどこだ?」
「禁止エリア?先程女が何か言っていたやつか。そんなもの知らん。いちいち聞いていられるか」
「馬鹿が」
ザビーはザビーゼクターのスイッチを押した。
『RiderSting』
ザビーゼクターから発せられる声と共にライダーシステムが反応し、左手に全ての力が集まる。
「くらえ!」
大地を蹴り、グランザイラスに向かってザビーは飛んだ。そして、左手のザビーニードルを胸へと力の限り打ち込む。
ピシュゥゥン!
炸裂音が鳴り響いた。だが、グランザイラスは倒れない。
「なっ!?」
「これがお前の必殺技か?そんなもので俺を倒そうとは舐められたものだ」
グランザイラスは両腕でがっちりとザビーの左腕をホールドする。そして、持ち上げると地面に叩きつけた。
ガシン!
「ぐぁっ!」
ガシン!
「がっ!」
ガシン!
「ぎぐぁ!」
グランザイラスは何度も何度もザビーを地面へと叩きつける。最初は叩きつけられる音と共に苦悶の声を上げていたザビーも何度も叩きつけられていく内にやがて声を発しなくなる。
「止めだ」
グランザイラスはザビーを投げると、ザビーに向かって火炎弾を放った。
ザビーが地面に叩きつけられると同時に爆炎が巻き起こる。ザビーの体を炎が焼く。
「ラ、ライダースティングが効かないとは」
いくら避けられても決め手がなければ相手を倒すことはできない。つまりザビーでは奴に勝つことはできない。
どうする逃げるか?……いや、まだ方法はある。
変身することができる時間は10分程度。それなら、奴のように元から怪人の場合はどうなる。
そのままか?そんなはずはない。必ず奴らにも同様の制限時間を設けているはずだ。
そして、こいつは禁止エリアの重要性も考えない馬鹿だ、この制限に気づいているとは考えづらい。
ならば制限が掛かった瞬間を狙って、ライダースティングを打ち込めば、あいつは倒せるはずだ。
あの火の玉での攻撃から俺の変身までの間はわずか数秒。だが、クロックアップを使えば、その数秒を狙うのも不可能ではない。
これが俺のパーフェクトプラン。そうと決まれば。
ザビーは立ち上がり、再びファイティングポーズをとる。
「それでこそ殺し甲斐がある。ふん」
グランザイラスは再び右腕より火炎弾を発射する。ザビーはグランザイラスとの間合いを一定に保ったまま、それを次々と避けていく。
奴の火炎弾が止まる時がきっとくる。狙うのはその一瞬。
無数の火炎弾が放たれながらもザビーには当たることがない。
「またもチョコマカと」
グランザイラスに苛立ちが募る。だが、イライラが溜まるにつれ、逆にグランザイラスの頭は妙に冴えていった。
こいつの狙いは……
まだか。そろそろ10分経つぞ。
時計を見れるほど余裕があるわけではない。グランザイラスの眼には楽々避けているように見えるだろうが、これでも必死なのだ。
浅倉に受けた打撲によるダメージとグランザイラスから受けた火傷によるダメージ。クロックアップはその瞬間まで使うわけにはいかず、今、ザビーは気合で戦っていた。
まだか、まだか。
ザビーに焦りの色が滲みはじめる。
その時、火炎弾による攻撃が止んだ。見るとグランザイラスは、火炎弾が出なくなったころに驚き、動揺しているように見えた。
「今だ!」
『CLOCKUP』
自分以外の時の流れが変わる。グランザイラスの動きはゆっくりとなり、その驚愕の色がはっきりと確認できた。
「ライダースティング!」
『RiderSting』
「うぉぉぉぉぉっ!」
ザビーはグランザイラスに一直線に向かう。体に残っている全ての力を振り絞り、この一撃に込める。
「はぁぁっ!」
放たれた蜂の一撃はプラズマを絡ませ、グランザイラスの心臓へと……決まらなかった。
グランザイラスの左手は心臓を貫こうとするザビーの左手をしっかりと握っていた。
「なっ!?」
先程とまったく同じ言葉を吐く、ザビー。プランはパーフェクトだったはず。それなのに何故。
だが、次のグランザイラスの攻撃で、それが間違いだと気付く。
「くらえ」
グランザイラスの右腕から尽きたはずの火炎弾が零距離で放たれる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!」
直撃。あまりの威力にザビーへの変身は解け、ザビーは
矢車想の姿へと戻った。
「10分経っていなかったのか……」
矢車のプランは全てが狂っていた。
第1に、10分を正確に刻めなかったこと。普段は正確な体内時計も極度の疲労と焦りにより、気が急い、10分を短くカウントしていた。
第2に、グランザイラスの実力を正確に計れなかったこと。グランザイラスは制限には気づいていなかった。
だが、火炎弾の隙を狙っていることぐらいは察知していた。そのため、あえて隙を作ったのだ。あたかも火炎弾が放てなくなったかのように。
第3に、自分の能力への過信。制限が加わったクロックアップはグランザイラスに見切られないものでもなかった。真正面ならなおさらだ。
何より、集団戦闘でこそ能力を発揮する矢車がひとりで挑もうとしたこの戦いそのものが自殺行為。
ひとつひとつはわずかな狂い。だが、そのわずかな狂いがひとつの大きな狂いを生み出したのだ。
「ふむ、なんだこれは」
倒れ伏した矢車はグランザイラスの言葉に反応し、顔を上げてそれを見た。
「ザビーゼクター!」
グランザイラスの手にはしっかりとザビーゼクターが握られていた。変身解除の瞬間、放たれたザビーゼクターを捉えたらしい。
ブーンと羽音を響かせ、ザビーゼクターは必死にグランザイラスの手から脱出しようとするが、しっかりと握られており、動くことができない。
「それを……返せ」
息も切れ気味に、矢車はグランザイラスへザビーゼクターの返却を要求する。
その必死の要求にグランザイラスはにやりと笑った。
「どうやらこれはお前の大切なものらしいな。それならば……こうだ」
ピシッ!
ザビーゼクターにひびが入る。グランザイラスがそれを握りつぶそうと力を入れているのだと理解したとき、矢車の心は絶望に包まれた。
「やめろぉぉぉっ!」
だが、それを聞く、グランザイラスではない。よりいっそうの笑みを浮かべると更に力を込めた。
ブーンブーンブーーーー……バキンッ!
「ああっ」
ザビーゼクターは粉々に砕け散った……
「ふん。ほら返してやる」
ザビーゼクターの欠片を矢車に振り掛ける。矢車の体を伝って、ザビーゼクターの破片がひとつ、またひとつと地面へと滑り落ちていった。
「さて、お前も同じ目にあわせてやろう」
グランザイラスは矢車を無理やり起き上がらせると頭を叩きわろうと腕に力を込めた。
「うっ、どうしたことだ。腕に力が入らん」
「今頃、制限がきたのか」
矢車の言うとおり、グランザイラスの力は首輪による制限により、大幅に落ち込んでいた。
本来ならスイカを割るようにやすやすと頭を粉砕できるはずができない。
その事実はどうしようもなくグランザイラスをイラつかせる。
「ははっ、ははっ」
矢車が笑う。その態度にグランザイラスの苛立ちは頂点に達した。
「笑うな人間ごときが。ウォォォォォッ!」
雄叫びを上げ、電磁ハンマーで矢車の身体を思いっきり、幾度も打ち据える。そして、止めとばかりに電磁ハンマーの先端で矢車の身体を貫いた。
「思い知ったか」
グランザイラスの右腕には血が伝わり、ポタッ、ポタッと地面へと雫が垂れる。
グランザイラスは動きを止めゴミとなった矢車をポイと捨てると更なる殺戮のため、その場を後にした。
身体を貫かれ、捨てられた矢車はピクリとも動かず、声も満足に発することも出来なかったが、
(っ……はっ……ははっ)
なぜか自虐的な笑みだけは浮かべていた。
【矢車想@仮面ライダーカブト】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地G5エリア】
【時間軸:8話 ザビー資格者】
【状態:重症。全身打撲&火傷&刺傷】
【装備:ライダーブレス(ザビーゼクター破壊)】
【道具:アドベントカード(サバイブ)】
【思考・状況】
1:???
※矢車はBOARDという名前に嫌疑(ワームの組織では?)
【グランザイラス@仮面ライダーBLACK RX】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地G5エリア】
【時間軸:地球到着直後】
【状態:健康】
【装備:なし】
【道具:なし】
【思考・状況】
1.力が回復するまで休憩。その後、また破壊と殺戮を始める。
2.RXを殺す。
3.ジャーク将軍は後回しにする。
最終更新:2018年11月29日 17:24