橘朔也

 ピ~ン♪ポ~ン♪パ~ン♪ポ~ン♪
 不快な声とともに告げられるは、死者の名前。
 ギリッと歯噛みをする音を、パーフェクトゼクターは聞いていた。
 己の刃を支える柄が強く握り締められる。改造人間の握力は、並の剣なら砕いていただろう。
 だが伝説のヒヒイロカネの剣、パーフェクトゼクターには何の痛みももたらさなかった。
 むしろ、城茂が伝えるのは心の痛み。放送には彼の探し人、仮面ライダーキックホッパーがいた。
 そして風見志郎の名は、再び彼の心を抉っているだろう。
 鬼の形相を、茂は俯かせると、何かに気づいたらしく視線を移動させる。
「おやっさん!」
 茂の視線の先には初老の男の惨殺死体があった。駆け寄る彼の目に、悲しみと怒りを混ぜた色がある。
 しばらく身体を震わせていたかと思うと、茂は立ち上がり自分を使って穴を掘り始める。
 至宝の剣である自分がスコップの代わりにされるなど、本来なら怒って余りある行為だが、彼の必死な形相を見ると素直に協力をしたくなった。


 盛り上がった土に、パーフェクトゼクターで作った木の板を突き刺す。
 茂は手を合わせ、自分の父親代わりといっていい人物の冥福を祈った。
 誰がこんな事をしたかは分からない。だが、その殺戮者はこの島に必ずいる。
 そいつらから弱者を守る。仮面ライダーは揺るがなかった。
「おやっさん。俺が必ず、仮面ライダーとしてこの殺し合いを止めて光をもたらす。だから風見さんやユリ子と仲良くそっちにいてくれ。
いつか、俺もそっちに逝くから」
 土で薄汚れた黄金の剣を掴む。だが剣の持つ気高さは、一遍の曇りもなかった。
「悪い。でも俺には大切なことなんだ。だから、しばらくは俺に付き合ってくれ」
 短く伝えると、太陽光が反射して、茂に答えたような気がした。
 草を踏みしめ、地面の土を蹴ろうとしたとき、
「ムゥン!」
 緑の影が風となって茂を襲った。身を捻ってかわすと、後ろに存在していた木が砕かれ、轟音を立てて倒れていく。
「てめえ!」
 茂は身を起こし、影の正体を睨みつける。
 影は濃い緑の色を全身に纏っている。
 発達した胸部から腹の筋肉にあわせて、他と比べやや明るい緑色に身体の前面を彩っていた。
 胸の中央には宝石が太陽の光を反射している。
 肘から先は刃が伸びて、抉られた者の運命を簡単に推測させる。
 腹に据えられたベルトは、生物の瞳を模していた。
 顔は身体と同じく濃い緑色の仮面に、下顎はくすんだ銀。
 クラッシャーと角は金色、二つの瞳は血のように赤く、仮面ライダーを見つめる。
 オレンジのマフラーを風になびかせるその男に、茂は怒りを覚えていた。
 自分を襲ったそれは、
「仮面ライダー? 偽者か!?」
「違う。俺は闇を切り裂き、光をもたらす唯一の存在となる、仮面ライダーアギトだ!」
「そうか。それなら、何で俺を襲った?」
「仮面ライダーは俺一人でいい。それ以外の仮面ライダーは俺が殺す!」
 鬼気迫った声が告げられた。男の声には悲壮感がある。
 何らかの事情が彼を狂わせたかもしれない。先程の自分のように。
 だから……
「お前は仮面ライダーじゃない」
「うるさい」
「俺が教えてやる。本当の仮面ライダーをな。
後輩、お前を仮面ライダーに戻してやるから……」
 茂は傍に剣を突き刺し、グローブを脱ぎ捨てる。
 露になったコイルを巻かれた手をむき出しにして構えた。
「かかってこい! 変……ッ!」
「待ってくれ!」
 男の声に中断され、腕が途中で止まる。
 振り返ると、黒いジャケットの男が背後から現れた。

「その役目、俺に譲ってくれ」
「橘……」
 現れた男の名前に少し驚く。タチバナ、今しがた埋めた男と同じ名をしていた。
 その男が自分に並び、真摯な瞳をこちらに向ける。
「そういうわけにはいかない。俺は殺し合いに乗りかけた。
だからそのけじめとして、あいつを正気に戻す」
「俺は仲間に誓った。彼を仮面ライダーに戻すと!
それに、奴は俺に似ている。守るべきものを守れず、ただ力を求めた俺と!」
 その言葉に驚き、橘の顔を見つめる。真剣な眼差しは嘘を語ってはいない。
 やがて、一つの考えが茂の脳裏をよぎる。
(ああ、こいつらもか)
 ここにいる三人は大切な人を守れなかった。
 その後悔と狂気と力に惑わされ、あるいは自ら手放して、一時期は仮面ライダーを失いかけた二人。仮面ライダーを失っている目の前の男。
 何の因果だと、茂は笑った。
「頼む。この先に居る俺の仲間が殺人鬼に狙われている。彼らの力になってくれ」
「ずるいな。そう頼まれたら、断れないじゃないか」
「……すまない」
「いいさ。俺は仮面ライダーストロンガー、城茂。お前は?」
「仮面ライダーギャレン、橘朔也
 風が吹き、木々がささやかな祝福を男に送る。仮面ライダーと名乗る彼に迷いはなかった。
 胸を張って言い切る男に頷き返す。ここはギャレンの出番だ。
「死ぬなよ、ギャレン」
「お前もな、ストロンガー」
 茂は踵を返し、地面を蹴って丘へと目指す。ギャレンの仲間はそこにいるのだろう。
 希望は潰えてはいない。闇を切り裂く仮面ライダーはまだまだいる。
「変身!!」
 戦士の決意が背中より聞こえる。
(風見さん、おやっさん。俺たちは負けません。まだ、仮面ライダーは死んでいませんから!)
 胸を熱くして、城茂は駆け抜ける。
 丘に光が満ちている事を信じて。


 茂の足音が遠のいていく。アナザーアギトを通さんと、睨みつけた。
 アナザーアギトは茂を追いかけず、構えをとる。
 まずは自分を倒すことに決めたらしい。好都合だ。
 ギャレンバックルをかざして、カードが帯状に腹を回って固定する。
 左腕を前に突き出し、右手でバックルの端を掴む。
「変身!!」
 軽く開いていた左手を手前に軽き引きながら握り締める。
 右手を回転させ、端のスイッチを引っ張り、バックルを反転させ、青い光の壁を発生させる。

 ――Turn Up――

 光の先のアナザーアギトを見据え、潜っていった。
 その体躯を赤い強化スーツに纏い、銀の鎧を着込む。
 ダイヤの意匠は各所に配置されている。
 赤い兜にダイヤのマークを縦で二つに割った銀の仮面をつけた戦士。
 緑の瞳で哀れな男を見つめる彼の名前は、仮面ライダーギャレン。
 人類の自由と平和のため、仲間のために立ち向かう男だ。

 ゆっくりと、ギャレンは歩み続ける。それはアナザーアギトの射程に入っても変わらない。
 やがて構えているだけだったアナザーアギトに変化が起きた。
 空気の壁を破って、音速の拳が突き出された。アギトもかわせなかった必殺の一撃。
 ギャレンを貫かんと迫る。しかし、拳は空を切り、逆に懐にギャレンがもぐりこんでいた。
 赤い拳がアナザーアギトの脳を揺さぶり、よろめかせながら後退させる。
 追撃をするために、ギャレンは地面を蹴る。その彼を迎撃するためだろう、アナザーアギトが蹴りを放つ。
 蹴りが避けられるが、慌てていない。これはフェイントだったのだ。
 右肘を曲げて腕を振りぬく。肘より突き出された刃が太陽の光を反射して、弧を描く。逃げ場は蹴りが断っていた。後退は不可能。
 だがその刃もギャレンを捉えることはなかった。
 ギャレンは突き出された脚を引っ張り、自身は前に突き進むことによって懐に深く入り、身体を刃の射程の内に入れたのだ。
 肘を左手で止め、アナザーアギトの腹に銃を押し付ける。
 引き金が引かれ、火花が飛び散りアナザーアギトが離れていく。
 ギャレンの銃口は動かず、一発、二発、三発とアナザーアギトの発達した筋肉を抉る。
「ハァッ!」
 アナザーアギトが気合を入れ、四発目と五発目を刃で弾き飛ばした。
 ギャレンは微動だにせず、六発目と七発目を銃より放った。
「無駄だ!」
 再び、アナザーアギトが弾こうと腕を上げる。しかし、銃弾は刃の先端を弾いた。
「何のつもりだ?」
 ギャレンは答えず、連射を続けている。やがて、アナザーアギトが焦り始めた。
 刃の付け根にひびが入ったのである。
「狙ったのか!?」
 答えは返さない。普通なら、動く標的の武器を狙い続けるなど不可能だろう。
 しかし、ギャレンの装着者は橘朔也
 射撃の腕は神業を極めている男である。
 かつて、レンゲルとなった桐生に、カードを引き抜き、ラウズするという狙いをつけにくい状況から、一発も外すことなく銃弾を当て続け、必殺技を放ったことがある。
 その彼の腕を持ってすれば動く標的を射抜くなどたやすい。
 アナザーアギトが危険を感じて接近しようとすると、胸が三度爆ぜる。
「この判断力、この強さ! さっきとはまるで別人だ! キサマ、何者だ!」
「仮面ライダーギャレン。それ以上でも、それ以下でもない!」
 再度放たれた銃弾に、ついにアナザーアギトの右肘の刃・バイオクロウが乾いた音をたて、折れた。
 銃口から煙が上がり、そのままアナザーアギトへと近付いていく。
「木野、もうやめろ。そんな事をしても、お前の弟は喜ばない」
「お前に何が分かる! 雅人のことなどを!」
 アナザーアギトは立ち上がり、クラッシャーを開く。
 スゥーっと空気を吸い込む音が聞こえ、腰を落として構えている。
 光を吸い込み、脚に力が満ちていく。それを阻止せんと銃弾を放つが、アナザーアギトは痛みを無視して跳躍を始めた。
「ハッ!」
 だが、ギャレンはその行為に備えていた。
 自分がくらい、この殺し合いで仲間となったアギトの技であるため、対策はたてている。
(睦月、北岡。お前たちの力を借りる!)
 左腕を前に突き出し、中のスイッチを押す。左腕に装着されたひょうたんに似た機械からロープが放たれ、アナザーアギトを木に縛り付けた。
「なに!」
 アナザーアギトから驚きの声が聞こえる。バーニングディバイドを使えない彼の作戦だ。
 正面から打ち合ってはどうしても威力負けをしてしまう。
 そして、バーニングディバイドでも彼のアサルトキックに対抗できるかは微妙だ。
 それなら、動けなくしてからこちらの技を当てる。そのため隙のできる瞬間を狙ったのだ。
 これは、アギトを相棒にし、アナザーアギトと戦ったギャレンだからできた芸当だ。
 おそらく、今のこの瞬間なら、この作戦を成功させる者は他にはいない。
 ギャレンはGA-04・アンタレスを外し、二枚のカードをラウザーに通す。
 青い光が空中に浮き上がり、身体に吸い込まれる。顔が赤く発光し、電子音が樹海に響く。

 ――Drop――
 ――Fire――
 ――Burning Smash――

「ウオォォォォォォォォォゥォゥッ!!」
 ギャレンが飛び、脚に炎をまとって、オーバーヘッドキックをアナザーアギトに迫らせる。
 だが、アナザーアギトは焦った様子が見えない。
「オオッ!」
 力を溜めた右足を木に叩きつけ、根元が折れる。
 アナザーアギトは木を背負ったまま、身を捻ってギャレンへと木を叩きつけた。
 木と人の身体がぶつかり、骨が折れる嫌な音が響く。銀の仮面の左半分が割れ、破片がパラパラと落ちる。
 ギャレンはその身を空へ躍らせ、

「木野゛オ゛オオオ゛オオオオォ゛ォォォォォォ゛ォォォ!!!!!!」

 ない。大木を叩きつけられ、左腕が折れながらも踏ん張り、炎の蹴りをアナザーアギトに浴びせた。
 アナザーアギトは吹き飛び、やがて勢いよく地面に叩きつけられる。
 木が砕かれアナザーアギトの拘束を解いている。威力を削られたバーニングスマッシュではまだ動けるだろう。
 事実、アナザーアギトはふらつきながらも立ち上がってくる。
 アバラを二、三本折っただろうか。血を吐いて自分の前に立ちはだかる。
「俺は……負けない。雅人、俺が救う!!」
「救いが必要なのはお前だ。木野」
「いらない! 俺は救いなど、報いなどいらない!
必要なのは俺がただ一人の仮面ライダーであること! 俺が闇を切り裂いて光をもたらすことだけだ!」
「闇にとらわれているのはお前だ。俺も、そうだった。
俺にお前の弟の気持ちは分からない。だが、今のお前の気持ちなら分かる。そして、その未来も!」
 ギャレンは銃を投げ捨て右拳を固める。
 目はひたすらアナザーアギトを見据え続けた。

『橘くん』
 一瞬だけ、音も風景も消え、白衣の長い黒髪の女性が微笑む過去の映像が浮かぶ。
『分かっている。小夜子』

 ギャレンは地面を蹴って、数メートルの距離を一瞬で詰める。
 仮面ライダーの力を込めた拳と、アギトの力を込めた拳が腕を交差させて二人の頬を貫く。
 たたらを踏みながら、踏ん張る。
 最早瞳はお互いしか映していない。
 今度はアナザーアギトが突っ込んでくる。打ち込まれる拳を右手だけで捌き、鳩尾に膝を叩き込んだ。
 身体をくの字に曲げるアナザーアギトに裏拳を放った。
 しかし、敵の右腕で防がれ、掴まれて投げ飛ばされる。木に叩きつけられ咳き込む。
 左腕の激痛が蘇り始めた。痛みに気を失いそうになるが、それでも立ち上がる。
「なぜだ? なぜ立ち上がる?」
 騙され、力を求めた結果、小夜子を喪い、力を手放そうとして桐生をも亡くしてしまった。
 その自分と、弟を失ったため頑なに人を守ろうとし、彼を案じる仲間をも殺しかねない木野。
 正直、彼と比べるには自分は情けないかもしれない。
 だからこそ、木野を止めるのは自分でありたい。自分に訪れた未来を木野に与えたくない。
 その想いを込め、ギャレン、橘は露になった瞳でアナザーアギトとなった木野を見つめる。
「木野……お前の心はボロボロだ!」
「…………お前は何を言っている?」
「お前は自分の状態に気づいていないだけだ。勝手に自分で自分を追い詰め、周りとともに心を傷つけている。
今のお前は、小夜子を、桐生さんを喪う目になったときの俺と同じ、心がボロボロだ! そう言っている!!」
「黙れ……」
「黙らない。俺のときは仲間のおかげで立ち直った。
だからお前の仲間の俺が止める! 行くぞ!! 木野!!!」
「黙れといっている!!」
 アナザーアギトが怒りに震え、拳をこちらに向けている。
 殺気と怒気がギャレンを襲うが、そよ風のように流して迎撃の準備をする。
 空気が凍り、二人は動きを止める。木の葉がざわめき、太陽がまぶしい光を天から注がせる。
 穏やかな陽気に相応しくない、死合の瞬間が刻一刻と近付く。
 雀が二人の間にある木の枝に止まる。しばらくさえずるが、獣の本能に異様な空気を感じて萎縮する。
 二人の睨み合いに耐えれずに、雀が飛び去る。
 その瞬間、土が飛び散り、二人の戦士が風となって迫る。
 二人は地面にかがみ、ギャレンはデイバックを取って、アナザーアギトは手に取ったものを掌に隠して、進行を再開した。
「ムン!」
 アナザーアギトの右手が振られ、ギャレンの右目が焼けるような痛みが走る。
 折れたバイオクロウが片目を奪っていた。
「馬鹿な! なぜ動きが止まらない!!」
 ギャレンの進軍は止まらない。
 呻き声一つ上げずに地面を蹴り続ける。

「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぅぅぅぅ!!」

 知らずに叫び、デイバックを投げ捨てる。右手には剣が握られていた。
 アナザーアギトはその剣を左肘のバイオクロウで受け止めた。
 しかし、ギャレンの握る剣はただの剣ではない。ディスカビル家に伝わる、宝剣。
 ひびの入った刃を切り裂き、咽元に刃を迫らせる。
 アナザーアギトは拳を唸らせ、自分を狙ってきた。
 だが、剣の方が早い。この戦い、仮面ライダーギャレンの勝ちだ。
 血飛沫が一本の木を赤に染め上げた。

「なぜだ? なぜ剣を途中で止めた?」
 アナザーアギトが問いかけてくる。その事実を示すように、刃は紙一重で止められていた。
「言……っただろ……う。木野は……俺の仲……間だと。俺は仲間を……殺さ……ない」
「腹に……腹に穴を開けた俺が仲間だとッ!!」
 アナザーアギトの言葉を肯定するように、ギャレンの銀のアーマーを貫いて拳に血が滴っている。
 一滴、二滴が指を伝い、土に覆われた地面に血の池を作っていく。
「そんな……こと、気……にする……な」
「橘ァァッ!」
 崩れるギャレンを支え、アナザーアギトが叫ぶ。
 その声にギャレンは満足して、一つの事実に気づいた。
(ああ、こういうときに言うんだ)
「木野、お前は……真面目すぎる。もっと馬鹿……になれ」
「橘、待っていろ! 今すぐ治療を……」
「いい……んだ、木野。ただ、頼みがあ……る。北岡と津上に……すまないと伝えて……くれ。
睦月……に、闇に捕らわ……れるなと伝え……てくれ」
 言い終えると同時に、青い光がアナザーアギトを吹き飛ばし、人の姿へと戻った。
 傷口に収まっていた腕を失い、更なる血が流れ出る。橘は血の池に倒れ、体温を失っていく感覚を感じた。
「橘……」
 木野に笑いかけ、口を開く。酷く瞼が重たいが、放っておくわけには行かない。
「これ……は事故……だ。そう……だろう? 木野」
 木野が悲痛な表情をする。表情を変えない男だと思ったが、意外な顔を持っていたらしい。
 木野がいい奴なのは確認した。睦月も、北岡も、津上も、城茂も、ファイズもいる。
 自分が死んでも、代わりに戦ってくれる仲間が、青い空の下にいてくれる。
 それが、橘にとっては代えようの無い喜びだ。

 彼は仮面ライダーになって、多くの逆境に出会った。
 恐怖に身体を蝕まれ、戦うことができなくなった。
 敵に騙され、利用された。
 自分の短絡的な思考で、大事な女を喪った。
 仮面ライダーを拒んで、先輩である桐生に叱咤激励された。
 その彼は、自分のために亡くなってしまった。
 正直、碌なことが無い。
 だが、それでも、

「俺は、仮面ライダーになってよかった」

 その言葉が、『橘朔也』の最期の言葉になった。


 冷たくなり、死が訪れた橘を前に、木野は自身への怒りで身体を震わせていた。
「何が最強の称号だ。何が雅人のためだ。俺は雅人の死を理由に、罪の意識から逃げただけじゃないか! 橘……礼を言う」
 彼は穴を掘り始め、死体を抱える。激闘を終えた身体に堪えるが、文句は言えない。
 盛り上がった土を見つめ、隣のような板を探すが見当たらない。
「俺は闇を切り裂き、光をもたらすとしよう。無力な人間だけじゃない。仮面ライダーにもだ!」
 重い身体を引きずって、橘の荷物を回収する。
 これは、津上たちに返さなければならない。
「二度とアギトの力に、仮面ライダーの闇などに飲まれはしない。
闇を受け入れたのが俺の『意思』なら、闇を抜け出したのは橘の『遺志』だ。
俺の心にお前がいる限り、医師の使命を、仮面ライダーの宿命を忘れはしない。橘、お前は俺の『仲間』だ!」
 墓に告げて背を向ける。振り返りはしない。
 彼は仮面ライダー。罪を背負って戦いに向かいに、丘へ進み続けた。


 白い部屋に、橘はいた。ドアが開き、一人の女性が立っている。
 癖の無い綺麗な長い黒髪の、整えられた顔に笑顔を浮かべている。
 白衣が穏やかさと知性を強調させた佇まいをさせていた。
『お疲れ様。橘くん』
 橘は笑顔で返し、女性の手を握ってドアへ向かった。
 ドアの傍には、いつの間にか表れた男がいた。
『よくやったな。橘』
 白いスーツに厳つい顔の男は、満足気に言葉をかけてくる。
 義手であった右腕は、生身の腕に戻っていた。
 彼に満足だったという頷きをする。
 三人はやがて、光に満ちた部屋へと消えていった。


橘朔也 死亡】
残り33人
【城茂@仮面ライダーストロンガー】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:樹海B-5】
[時間軸]:デルザー軍団壊滅後
[状態]:胸の辺りに火傷。
[装備]:V3ホッパー、パーフェクトゼクター
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:仲間を探す(丘のメンバー優先)。
2:殺し合いを阻止し、主催者を倒す。
3:明日、ジェネラルシャドウと決着をつける。
4:自分に掛けられた制限を理解する。
※首輪の制限により、24時間はチャージアップすると強制的に変身が解除されます。
※制限により、パーフェクトゼクターは自分で動くことが出来ません。
 パーフェクトゼクターはザビー、ドレイク、サソードが変身中には、各ゼクターを呼び出せません。
 また、ゼクターの優先順位が変身アイテム>パーフェクトゼクターになっています。

木野薫@仮面ライダーアギト】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:樹海B-3】
[時間軸]:本編38話あたり
[状態]:辛うじて歩ける。重症(打撲、火傷、刺し傷、骨折など)、疲労(大)、2時間変身不可。
[道具]:救急箱。精密ドライバー。ギャレンバックル。ラウズカード(ダイヤのA、2、5、6)
    ディスカリバー、GA-04・アンタレス。配給品一式×2(睦月、木野)
[思考・状況]
1:橘の遺志を継ぎ、闇を切り裂いて光をもたらす。
2:丘のメンバーと合流。
3:無力な人たちを守る。
4:医師の使命を忘れない。
5:自分の無力さを痛感している。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2018年11月29日 17:34