悪魔の剣

 ジェネラルシャドウは城茂と別れた後、遺跡に残り、ストロンガーとの決戦に向け、自分の能力の探求を開始した。
 まずは戦闘可能時間と戦闘不可時間の確認。
 能力を最大限に発揮できるのは10分間。この10分間の間は普段の自分の実力には劣るものの制限が掛かっているときとは比べ物にならない力を発揮できる。
 ただし、この10分が過ぎると、2時間ほとんどの技が使用できなくなってしまう。
 瞬間移動『トランプフェイド』や分身技『シャドウ分身』は使えなくなってしまうわけだ。
 それでもシャドウ剣や、トランプそのものに仕込みがある技『トランプカッター』『トランプパンチ』『トランプショット』は使うことが可能だ。
 これはジェネラルシャドウが他の参加者と比べて有利な点と言えよう。
 しかし、道具を使う肉体に制限が掛かっている以上、普段通りのキレは望めない。
(生き残るためには、自分の肉体に依存しない道具が必要ということか)
 次にジェネラルシャドウが確認したのは首輪だ。
 首輪について分かっていることは力を抑制することを除き3つ。
 無理矢理外すと爆発する。
 禁止エリアに入ると爆発する。
 神崎士郎が気に入らなければ爆発する。
 ただし、これらについては最初の1点を除いて、実際に確認したわけではない。ディパックの中にあったメモに書いてあっただけだ。
(最も、確認する術がないことも確かだがな)
 そして、ストロンガーと戦う上で解明しなければいけない問題。

『同じ手は食わない』

 トランプとシャドウ分身の合わせ技。切り札のひとつであるそれをストロンガーはあっさりと打破した。
 切り札と位置づけているだけあって、この技を知るものは皆無。
 そもそも仮に誰かから聞いたとしたら、同じ手は食わないという言葉は出てこない。
 真剣勝負の最中のストロンガーの言葉だ。ハッタリということも考えにくい。
 そのままの意味で取るなら、以前に受けているということだが、ジェネラルシャドウには覚えがない。
(ストロンガーの言葉の意味は分からんな。情報が少なすぎる。……誰かに接触するべきかも知れん)
 考え事を続けるジェネラルシャドウ。そのとき、定時放送の間の抜けたチャイムの音が鳴る。
(風見志郎は死んだか)
 自分の片腕である蛇女の仇であり、ストロンガーの先輩ライダー。
 戦闘中に突如響いた轟音を聞いてから、明らかにストロンガーは戦いを急いだ。
 状況から推察するに、あの轟音はV3が起こしたものであることは、ジェネラルシャドウには容易に想像することができる。
(仲間と恩師に続いて、先輩の死。ストロンガーめ、また奇械人になろうと馬鹿なことを考えなければいいが……?……俺は何を心配している?) 
 蛇女の仇が死んだことより、ストロンガーを心配していることに、ジェネラルシャドウは苦笑し、思考を次へと移した。

『さあて、今から皆さんがお待ちかねの、禁止エリアの発表を行いまーす。
 一時に市街地G5エリア。三時に遺跡F2エリア。五時に採掘場D10エリアです。』

 禁止エリア。
 今し方、追加された3つに、既に設定された3つ。この禁止エリアに何の意味があるのか?
 単純に考えれば、殺し合いを促進するため。
 逃げ場を奪い、他者と出会う確率を上げる。誰かが隠れていれば、それをあぶり出し、行動しないという選択肢を消す。
 恐らく市街地という位置から考えてG5エリアには何人か戦わないものが集っていたのだろう。
 他のエリアも同じ理由。最初の放送ではそう思っていた。
 しかし、今回の放送でその認識は少し変化した。

『そうそう、五時に禁止エリアになるD10エリアに便利な乗り物が放置されています。』

 参加者が集っているなら、便利な乗り物は放置されたままにはなっていないだろう。
 つまり、D10エリアを禁止エリアにした意図は殺し合いに便利なものを餌に参加者を集めることだ。
 制限が掛かっている今では、道具の有無は、戦いの明暗を分けかねない。
 その重要性に気付く者は確実に集まってくるはずだ。
 では、そうなると残る遺跡F2エリアの意図は何なのか?
 誰かが集っているのか?何か道具があるのか?ただの数合わせか?
(……すぐ近くだ。鬼が出るか蛇が出るか。行ってみるとするか)
 禁止エリアの意味を知ることは今後、行動する上での指針となる。
 そう考えたジェネラルシャドウはF2エリアを目指した。
 F3エリアから、G3、G2エリアと回り、1時間ほど経った頃、F2エリアへと辿り着く。
「ふむ、特に変わったようなところは……」
 その時、ジェネラルシャドウの足元からカチリと音がする。
 見ると、床の一部分はジェネラルシャドウの重みにより沈んでいた
(トラップか!)
 たちまち、ジェネラルシャドウが歩く通路の壁が迫ってくる。
 ジェネラルシャドウは潰されてはたまらんと、前へと駆け出した。
 徐々に迫ってくる壁。曲がり角まであと少し。ジェネラルシャドウは足の動きを上げる。
 そのとき、また足元で何かがへこむ感触がする。
 同時に前方の壁に穴が開いた。そこから放たれる2本の矢が空気を切り裂き、ジェネラルシャドウ目掛けて飛んでくる。
(ふん、くだらん)
 だが、ジェネラルシャドウは慌てず、懐から取り出した2枚のカードで、矢を撃墜した。
 それくらいの芸当は能力を使わずとも造作もない。
 ジェネラルシャドウは壁に潰されるより早く、曲がり角を曲がった。
 ズンという音を立て、完全に通路を閉ざす壁。
 ジェネラルシャドウは戻れなくなったかと嘆息するが、その壁はしばらくすると元の位置へと戻っていった。
(ふむ)
 通路を戻り、ジェネラルシャドウは矢が発射させる仕掛けを押す。だが、その罠は作動しなかった。
(なるほど、壁が迫ってくることが前提で作動する罠か。罠とは、人を行かせたくない方向に仕掛けるもの。この先には何かある)
 道沿いに歩みを進めていく。罠を発動させないように慎重に。
 そのおかげか、罠が発動することはなく、歩みは順調だった。
 曲がり角は幾度かあったが、途中に分岐点はなく、基本的に一本道だった。
 そこでジェネラルシャドウはあることに気付く。
(どうやら、俺はこの遺跡の中心部に向かっているらしいな)
 曲がり角は全て右、しかも通路の距離は徐々に短くなってくる。その道が描くのは螺旋。
(恐らくたどり着くのはこの遺跡の頂上。……どうやら見えてきたようだ)
 恐らく最後になるであろう角を曲がり、少し進むと行き止まりに行き着いた。だが、そこには何かあるようには見えない。
(単なる数合わせだったのか?)

――ミシリ

 嫌な音がした。地面を見ると自分を中心に広がっていく多数のヒビ。
(しまった!)
 目的地に辿り着いた嬉しさと、何もなかった虚しさ。そのふたつが重なり、ジェネラルシャドウを油断へと導いた。
 急いで逃げ出そうとするが、踏み出した足が、床を踏み貫く。
 それが止めだった。ジェネラルシャドウの重みに耐えられなくなった床は一瞬にして崩壊した。
 当然、ジェネラルシャドウはそこから真っ逆さまに落下していく。
(まずい、能力の制限がどうのと気にしている場合ではない)
 能力を使う決心をしたジェネラルシャドウはまず四方へとカードを投げる。
 一瞬の静寂の後、壁にぶつかる音が右手からした。
(しめた!近い)
 身体を右方向へと逸らし、素早くシャドウ剣を抜くと、壁があるであろう方向へと突き刺した。
「ヌォォォォォォ!」
 シャドウ剣を刺し込み、固定しようと力を込める。
 壁を上から下へと抉っていくシャドウ剣。摩擦が生まれ、煙が立ち昇る。
 崩れ落ちた床の破片が見えるほど、あとわずかで床に叩き付けられるところで、ようやくジェネラルシャドウの身体は止まった。
(危ないところだった。戦いもせず、死亡など洒落にもならん)
 ジェネラルシャドウは床を確認する。特にトラップらしきものは見当たらない。
(だが、シャドウ剣はあきらめるしかあるまい)
 しっかりと壁に突き刺さった剣は、宙に浮いた状態ではとても取れない。
 愛剣に別れを告げ、ジェネラルシャドウは手を放し、下へと降りた。
 降りた場所にはしっかりとした地面と瓦礫たち。そして、いずこかへと通じる洞穴。
(怪しいな。だが、どのみち、道はひとつしかない。進むしかあるまい)
 ジェネラルシャドウは洞穴へと入る。するとそこには妙なものが浮いていた。
 直径30cmほどの、白い布のような形をした幽鬼たち。見ると、こちらを観察しているようにも見える。
 しかし、ジェネラルシャドウは魔人の国からやって来た改造魔人。幽鬼など恐れるに足りない。
 気にも止めず、スタスタと進んでいく。そんなジェネラルシャドウの姿に呆れたのか、幽鬼は少しずつ、数を減らしていき、ついには0になった。
 その瞬間、ジェネラルシャドウを炎が襲った。いずこからか発生した炎はたちまちジェネラルシャドウを覆い、燃やし尽くそうとする。
(ぬぅ、熱い。早く脱出しなければ、焼け死んでしまう)
 急ぎ、ジェネラルシャドウは出口を探す。その炎の中に、ジェネラルシャドウは見た。眩き剣の姿を。
 黄金と宝石があしらわれた鞘に、鞘と同様に黄金の柄を持ち、Sを模した鍔が付いた剣。
 その剣の美しさに、ジェネラルシャドウは一瞬にして、心を奪われた。
 同時にその剣を欲する欲求が、思いっきり振って開けた炭酸飲料のように溢れてくる。
 だが、その剣のある場所は、今の炎が灯火に感じられるくらい、炎が渦巻いていた。
(シャドウ剣を失った今、あの剣は是非とも欲しい。しかし、剣を取ろうとすれば、大火傷は免れない。……決断しなければなるまい!)
 死を恐れず武器を取るか、生を取るため撤退するか。ふたつにひとつ。
 炎に巻かれながらのわずかな熟考。ジェネラルシャドウは決断すると歩みを始めた。
 掲げられた剣のある方向へと。
(シャドウ剣を失った今、俺が生き残るためには新たな武器が必要だ。それにあの剣はどうしようもなく、俺の心を惹きつける!)
 激しくなる炎、じりじりと燃えていく体。だが、ジェネラルシャドウは歩みを止めなかった。
 それほどまでにその剣は、ジェネラルシャドウの心を強く、強く、惹きつけた。
「負けん!負けんぞ!」
 マントが燃え尽き、白きタイツが焦げて黒く染まった。顔を包む、透明のマスクは上昇した体温により、曇っている。
 だが、身体の痛みにも負けず、ジェネラルシャドウはその剣を手にする。
「フハハハハッ、手にいれたぞ!!!」
 歓喜のあまり、つい大声を上げる。自分のキャラではないと理解していながらも、あまりの嬉しさに笑いが止まらない。
 ジェネラルシャドウは早速、剣を抜く。刀身は血のように禍々しい赤さとルビーのように美しき光を放っていた。
「ウォォォォォォ」
 力を込め、それを炎に向けて振るう。剣から放たれた強力な衝撃波があれほど自分を苦しめていた炎を一気に吹き飛ばす。
「凄まじい威力だ。次は……」 
 続いて、ジェネラルシャドウが狙ったのは壁。剣に手を添え、力を込める。すると、剣は赤き光を放ち始める。
 その溜めた力を壁に向かって打ち出すように振る。
 たちまち赤き閃光は壁に向かい進んでいき、壁を一瞬にして破壊し、大穴を開けた。
「フッ、フッ、フッ、ハーハハハッ。すばらしい力だ。これさえあればどんな奴が来ようとも恐れるに足らん。例えジョーカーといえどもな!」
 ジェネラルシャドウは破壊された壁から遺跡を脱出した。目指すは市街地。狙いはジョーカーだ。
 いや、剣の力さえ試せれば誰でもいいというのがジェネラルシャドウの本音だった。
 ジェネラルシャドウは完璧にその剣に魅入られていた。自分の主義も、重くのしかかる制限も、今は見えない。ただ、その剣を使いたいがために走った。
 ジェネラルシャドウが魅入られたその剣の名前は、創生王の剣――サタンサーベルという。
【ジェネラルシャドウ@仮面ライダーストロンガー】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:遺跡F-2】
[時間軸]:37話前後
[状態]:多少の打撲と大火傷。但し、それも気にならないほど気分はハイ。2時間戦闘不能。
[装備]:サタンサーベル、トランプ内蔵ベルト
[道具]:ラウズカード(ハートの10、J、Q、K)
[思考・状況]
1:誰でもいいから戦う。
2:ジョーカーを倒す。
3:明日、ストロンガーと決着をつける。
4:ストロンガーの言葉(同じ手は食わない)に疑問。情報収集のため、他の参加者に接触する。
5:スペードのA、クラブの8が暗示するものを探す。
※シャドウ剣はF2エリアの壁に刺さっています。

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最終更新:2018年11月29日 17:34