狂人
「おばあちゃんが言っていた。散り際に微笑まぬものは、生まれ変われないとな」
最後に聞こえたのはその声。同時に砂山が崩れ去るような音。
そして、チカチカと白く点滅していた光は、赤い点滅へと変わった。
それは首輪を付けた者が死んだことを示すもの。
「死んだか」
神崎士郎はその男の死に安堵する。
この戦いの唯一のイレギュラー『ハイパーゼクター』を使いこなす男。
ライダーバトルの開催の邪魔をした男と、同一の存在。
天道は神崎にとって、計画成功のための最大の障壁となっていた。
首輪の機能に気付き、他の参加者たちを纏め上げ、自らも五本の指に入る戦闘力を誇る。
奴がドラスとの戦いに勝利し、研究所を手中に治めていれば、オーディンの投入も考えていた。
だが、奴は死んだ。呆気なく、他の参加者たちに何も残せぬまま。
仲間たちを守るためと言えば聞こえはいいが、死ぬまでの時間がわずかに伸びただけ。事実上の無駄死にだ。
「無駄死に……?」
そこで神崎はふと疑問を持った。
わずかな時間ではあったが、天道がいかに聡明かは理解できた。
そんな男が何の考えもなしに無駄死にという選択肢を選ぶのだろうか。
「神崎さ~ん、そろそろ放送の時間ですよー!」
スマートレディの声が神崎の思考を遮る。
(……考えすぎだ。あの状況で、天道が策を弄する暇があったとは思えない。首輪は天道の死を明確に示している。
奴は死んだ。その事実だけでいい。奴が何を考えていたかなどどうでもいいことだ)
神崎は原稿に、
天道総司の名前を書き加え、スマートレディへと渡した。
「は~い。ああ、天道くん死んじゃったんですね。お姉さん密かに応援してたんだけどな☆
じゃあ、頑張って行ってきま~す♪」
脳天気な声を上げ、スマートレディは部屋を出て行った。
神崎士郎はその様を確認すると、椅子に座りなおす。
天道は死んだが、ハイパーゼクターは残っている。
カブトゼクターも健在だ、新たなカブトが現れないとも限らない。
まだ油断はできない。
神崎は機械を操作し、全体図をモニターに出す。残る生存者は27人。
(あと半分だ、優衣)
神崎はモニターを見ながら、3回目の放送を待った。
神崎は気付かない。
天道の行動は誰よりも、何よりも、妹を守るためだったことを。
それはいつかの神崎士郎ももっていた想い。『愛』という人の想い。
だが、妹の復活という願いに取り付かれた狂人は気付かない。
もう彼の心には、その純粋な願い以外に残っているものなど何もないのだから。
ただ、彼の傍らに置かれた鏡の中からは、黄金の鳥を模した一人のライダーがその様を見つめていた。
最終更新:2018年11月29日 17:42