君にかけるおまじない ◆MGy4jd.pxY
「汝、小津麗。サンジェルことヒカル先生を、健やかなる時も、髭の数少なき時も、
マジトピアにおいても、地上界においても、ずっと愛し続けることを誓うニャ?」
「誓います」
ステンドグラスの綺麗な光に包まれて、お互いのレジェンドリングを交換した。
今日、私たちは永遠の愛を誓った。
真っ白なウエディングドレス。
はしゃいでる翼と魁。涙ぐんでるお兄ちゃんと芳香ちゃん。
そして、優しく見守るお父さんとお母さん。
見上げると大好きなヒカル先生が白いタキシードで微笑んでいた。
「ではでは、誓いのチューだニャ~」
神夫様の格好をしたスモーキーが囃し立てる。
少し恥ずかしかったけど、目を閉じてキスを待った。
なのに、誰かが扉を開く音がして、それから……
それから、意識が遠のいて、次に目を開けるとあの広間にいた。
その後は────
ロンの笑い声と共に、小津麗の父であるブレイジェルが血を吐きくず折れる。
数年ぶりの家族の再会、そして新しい家族との幸せな時が音を立てて壊れていった。
それからのことは、よく覚えていない。
ハッと気が付くと麗は深い森の中で突っ立っていた。
急にまざまざと沸き上がる、結婚式の光景と父の死に顔。
『麗と深雪を頼む。サンジェル』父からの最後の言葉が、打ち寄せる波のように何度も何度も頭の中に繰り返し聞こえてくる。
麗はただをこねる子供のように、頭を左右に振りそれを振り払おうとした。
余りにも早過ぎて悲しい別れを信じたくない。
そう思っても、目を見開き苦悶の表情で息絶えた父の顔を頭の中から消すことは出来なかった。
悲しみが心を満たし涙が溢れた。
体の力が抜けて行く。
「お父さん……」
膝をつき地を見つめたまま麗は呟いた。
長い間、離れていた父と母。
やっと家族が一つになった、人生最良とも言える日のはずだった。
兄弟達の顔が脳裏を過ぎる。
今、自分が置かれた状況よりも、残された家族が気掛かりだった。
一緒に連れて来られた母とヒカルも心配だ。
こうしている間にも、二人に何かあったらと思うと、心が張り裂けそうだ。
「嫌だ。絶対こんなの許せない」
もうこれ以上、大事な人達がいなくなってしまうのは耐えられないと思った。
だから、泣いてばかりじゃいけない。この『悪しき戦い』を止める。
お父さんの遺志は私が継ぐ。と強く心に言い聞かせた。
そのためにも、まず母とヒカルを捜す。
頬の涙を拭った麗の表情に強さが戻った。
膝の土を払い、デイバックに手に立ち上がった。
デイバックの中には、地図、食料、何かの鍵と青いサイの頭部を模した折りたたみ式の剣が入っていた。
こんなもの!投げ捨てようとしたその時、パッと辺りが明るくなった。
麗の前方、遥か先に火柱が上がっていた。
パチパチと木々が燃える音。
もう、戦いは始まったのだ。母やヒカルが襲われていないと言い切れる保証は無い。
麗は短剣をポケットのマージフォンに持ち替え、炎へ向かって駆け出した。
草木を掻き分け麗は走る。
火柱が上がっているのは、もうすぐそこだった。
一足遅かったのか、誰も争っている様子はない。
周りを注意深く見渡す。大木の影に、真っ白な服を着た年端も行かぬ少年がいた。
燃え盛る炎を呆然と見つめている。
麗はそっと少年に近づいて行った。
「君、大丈夫?」
声をかけると、少年の身体が強張った。
それと同時に、少年の瞳に炎が浮かび上がり火柱が勢いを増した。
「危ない!」
咄嗟に少年を抱き上げた。
麗の顔を少年が見つめる。
その瞳から炎が消えると、次第に火柱も勢いを無くしていった。
炎を作り出しているのは、この少年のようだ。
だが、そのことに驚いているようでもあった。
麗は少年の前にしゃがみ込み目線を合わせた。
不安なのだろう。
少年は俯いたままでいる。
麗は優しくゆっくりと語りかけた。
「私は小津麗って言うの。君の名前は?」
「……ドロップ。金色のお兄ちゃんに、そう言われた」
「金色のお兄ちゃんってロンのことだよね?もしかして、自分のことわからないの?」
「うん……」
「誰か知ってる人はいた?お母さん、とか」
「いない……でも、早くママに会わなきゃ」
ドロップは力無く言った。
無理もない。母親と引き離され、いきなり殺し合いなさいと言われ、目の前で人が殺されたのだ。
そうでなくともドロップぐらいなら母親にべったり甘えたい年頃だ。
「そうだよね……ねぇ、ママの所に帰るにはここから逃げ出さなきゃいけないのわかるよね。
それには勇気が必要なの。それもわかる?」
怖くて前に進めない、そんな時いつも母にしてもらったおまじない。
幼い頃、母を待つ弟にしたように、ドロップを勇気付けたかった。
「だから、勇気の出るおまじないしてあげる。そう、じっとしてて……勇気、出ろ!出ろ!」
そう言うとドロップの耳をつまみ横に二回引っ張った。
思いがけない行動にドロップが驚いた顔で麗を見た。
麗は満足そうにニッコリ笑う。
「勇気出たよね?ママが待ってるんでしょ。私も家族が待ってるんだ。一緒に行こう!」
麗はドロップの頭を撫でた。
そしてしっかりとその手を握った。
(この子をママの所へ、私もお母さんとヒカル先生と家族の元へ帰る。絶対に……)
そう強く心に誓った。
【名前】小津麗@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage47 結婚式の途中
[現在地]:C-3森林 1日目 深夜
[状態]:健康
[装備]: マージフォン
[道具]: 操獣刀 、何かの鍵、支給品一式
[思考]
第一行動方針:ヒカルと母を捜し、戦いを止める
第二行動方針:ドロップと共にみんなで元の世界に帰る
【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:C-3森林 1日目 深夜
[状態]:二時間は能力を使えません
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
第一行動方針:ママに会わなきゃ
最終更新:2018年02月11日 00:55