天の道を継ぐ者

 漆黒に染まった空を赤いカブトムシが翔ける。
 カブトムシの名はカブトゼクター。自らが選んだ存在を仮面ライダーへと変身させる力を持つ。
 別の時空から元いた時空への道を渡り、やがてカブトゼクターは新たな資格者を見つける。
 天道総司の遺志を継ぐ、新たな資格者を。


 1999年、地球に飛来した隕石により渋谷の街は崩壊した。
 だが、それは始まりに過ぎなかった。飛来した隕石から誕生した地球外生命体、通称ワームは人類に擬態し、侵略を開始する。
 ワームに対抗するため、人類は秘密組織ZECTを設立し、マスクドライダーシステムを生み出す。
 マスクドライダーシステムの適合者となった者、即ち、仮面ライダーたちの活躍により、一時は人類にも希望が生まれた。
 しかし、ザビーが消え、カブトが消え、ガタックが消え、種の生存を賭けた戦いはワームが勝利を治めようとしていた。

 ――エリアZ

 人類に残された希望。
 次世代のマスクドライダーシステム。コーカサス、ヘラクス、ケタロス、3つのゼクターが開発されている場所。
 ZECTはここに残存勢力の全てを結集させていた。
 既存のマスクドライダーシステムのほとんどが潰えた今、逆転のためには新たなマスクドライダーシステムを生み出す他ない。
 だが、当然その動きはワームに察知されていた。
「隊長、完全に方位されています!」
 ZECT隊員の悲痛な声が響く。エリアZを中心とした探知レーダーの画面には無数の反応が察知されていた。
 考えるまでもなく、それは全てワームの反応。数百はいるワームの群れにエリアZは完全に囲まれている。
 誰もがその膨大なワームの数に士気を衰えさせていた。
「うろたえるな!第2、第3小隊は西、第4、第5小隊は東からの進入を防げ。第1小隊は俺と一緒に正面からの敵を迎え撃つ!」
 否、ただひとり未だ士気を高い状態で保つ男がいた。
「りょ、了解」
 男の指示に従い、ZECT隊員たちは戦闘服を身に纏い、散開していく。

男はその様子を確認すると、自らも装備を整え、戦いの荒野へと繰り出した。

 男の名は影山瞬。
 ZECTの精鋭部隊、シャドウの現隊長である。


「ゼェクトォの諸君!遂に君たちと雌雄を決する時が来たようだね。今日は我々ワームにとって、特別な日となるだろう」
 無数のワームを掻き分け、杖を着きながら、眼鏡を掛けた長髪の男が姿を現す。
 見た目は人間だが、平然とワームの群れに解けこんでいる以上、人間のはずがない。
「お前がワームのボスか」
 影山は鋭い眼で長髪の男を睨みつける。対して、長髪の男は不適な笑みを浮かべ、言葉を返した。
「滑稽だね。もう勝敗は決しているというのに、まだなんとかなると思っている」
「……絶望なら既に味わいつくしている。底の底まで落ちれば、その程度の絶望は生温い」
 出撃前、絶望に沈むZECT隊員たちを叱責したが、影山とて絶望を感じていないわけではない。
 矢車が消えた後も影山は戦い続けた。矢車の後を継ぎ、シャドウの隊長となったが、ゼクターのない影山にとって、それは苦難の道だった。
 精鋭部隊といっても、所詮シャドウはザビーの補助に過ぎない。ゼクトルーパーの装備では、成虫となったワームには太刀打ちできず、影山は幾度となく死に掛けた。
 そんな中でも影山は信じた。矢車が帰還し、再びシャドウの隊長として、自分たちを率いてくれる日を。
 だが、そんな願いをあざ笑うかのように、矢車の行方は一向に知れず、それどころか矢車に続いて、加賀美が消え、天道が消え、風間も神代も消えた。
 もう影山が頼れる者は誰もいない。それは影山の左手に装着されたライダーブレスが語っている。
 いくらザビーゼクターを呼ぼうとも反応はない。それはザビーゼクターが、そして、矢車想がこの世に存在していないこと示していた。
 そのことを認識したとき、影山の心は絶望に包まれ、新たなゼクターの資格者となった。
「こい、ホッパーゼクター!」
 影山の声に反応し、何処からかバッタを模した姿をした、ホッパーゼクターが現れる。
 ホッパーゼクターは一際大きく跳ねると、影山の手へと収まった。
「変身!」

 腰に巻いたZECTバックルを開き、ホッパーゼクターを右から左へと装填する。

―HENSHIN―

 ホッパーゼクターから変身を告げる音声が鳴り響くと同時に、影山の身体を銀色の装甲が包んでいく。
 全身に装甲が行き渡ると同時にホッパーゼクターはその戦士の名前を高らかに叫んだ。

―ChangePunchHopper―

「いくぞ」
 パンチホッパーへと変身した影山は一瞬にして挑発の男――乃木との間合いを詰めると、パンチを打ち込む。
 完璧なタイミングで打ち込まれた拳は乃木の頭蓋骨を砕く。影山はそう確信していた。
 だが、その拳は空しく空を切った。
「……っ!」
 避けられたことを影山が知覚するより早く、乃木の拳がパンチホッパーの頭部を捉えた。
 装甲を伝わり影山の頭へと届いた振動は脳を激しく揺さぶり、影山の意識を一瞬だけ飛ばす。
 だが、乃木にはその一瞬で充分。防御行動を取れない影山の頭に、胸に、腹に、次々と拳を打ち込む。
 ワームへの変貌を終えていないというのに、その拳は装甲を打ち砕くほどの衝撃をパンチホッパーへと与える。
「く、くそっ!」
 ようやく意識を取り戻した影山は、脳から信号を送り、足を動かす。
 しかし、乃木は再び、知覚できないほどの速度でそれを避けると、がら空きになった影山の背中に跳び蹴りを放った。
「ぐぁっ」
 苦悶の声を上げ、密集したワームの元へとその身体は吹き飛ばされる。
「他愛もない。……やれ」
 乃木の言葉に今まで静観していたワームの群れが動き出す。
 突っ伏した影山に止めを刺すべく、数十匹のワームは影山へと群がり、その他のワームはエリアZへと進軍していく。
「お、応戦しろ!」
 待機していたシャドウたちが右手につけたマシンガンブレードで一斉に攻撃を開始する。

 無数の弾丸が数匹のワームを無へと帰す。だが、数が違う。犠牲を出しながらも歩みを止めないワームの進行は続く。

―ClockUp―

 ワームの爪がZECT隊員に届こうとしたとき、最前列にいたワームたちが一斉に爆ぜた。
「しぶとい」
 乃木の姿が蜃気楼のように揺らいだかと思うと、一瞬にして、その姿は人からワームへと変貌を遂げる。
 甲殻類のような紫の装甲。右腕にはカブトガニを模したオブジェが装備され、その尻尾は敵を貫く鋭き針のフォルムを携えている。
 カッシスワーム。乃木の真の姿。
 変身すると同時に、カッシスワームはクロックアップを行い、超高速での移動を開始する。
 同じく超高速で移動する敵を捉えるために。
 カッシスワームの甲冑のような頭部の隙間から覗くその瞳にははっきりと敵の姿が映っていた。
 超高速で動き、シャドウたちに群がるパンチホッパーの姿が。
「ふん」
 カッシスワームが右腕に力を込めると、赤いエネルギーが電流の如く迸り、針に力を貯えていく。
 こちらの動きに気付いたパンチホッパーが防御を固めるが、カッシスワームはそのまま右腕を振り落とした。

―ClockOver―

 クロックアップの終わりが告げられると同時に、突き刺さるカッシスワームの一撃。
 それはパンチホッパーの右の掌を貫き、そのまま腕の内部を通っていく。
「ぐぁぁぁぁっ!」
 痛みと腕に感じる奇妙な異物感に堪えることが出来ず、思わず悲鳴を上げた。
 だが、残された腕でパンチホッパーはホッパーゼクターの足を上げる。

―RiderJump―

 たちまち足に貯えられるエネルギー。パンチホッパーは両足で大地を蹴ると、そのままドロップキックの要領でカッシスワームの胸を蹴った。

 カッシスワームを踏み台にパンチホッパーは横に跳び、その勢いを利用して、右腕の針を抜く。
 満足な受身を取れず、壁に打ち付けられるが、痛がっている暇はない。
 パンチホッパーは素早く立ち上がると、構えをとり、カッシスワームに突進していった。
 力の入らない右手に左手を添え、無理矢理、拳へと形成する。パンチホッパーの必殺技、ライダーパンチ。
 その破壊エネルギーが貯えられるのは右拳。そして、その破壊力は打力よりエネルギーに依存される。
 いつもより威力は落ちるが、ワームを倒すには充分。
「ライダーパンチ!」
 ライダーパンチのモーションに入り、ぎりぎりまで右手に添えていた左手をベルトへと移動させる。
 後は上げられたホッパーゼクターの足を下げれば、ライダーパンチは完成する。
「無駄だ」
 カッシスワームは左手を引き寄せ、ギュッと拳を握る。
 そのとき、まるで凍ったかのように全ての時が止まった。
 パンチホッパーがベルトに添えた手はまだ下ろされていない。
 カッシスワームはゆっくりとパンチホッパーへと近づくと、鉤爪状の腕を叩きつけた。
「ぐわっ!」
 時が動き出すと同時にパンチホッパーは大地へと沈んだ。
 パンチホッパーはの身体は限界に来ていた。
 その強固な装甲にはヒビが入り、致命傷にはなっていないが、肋骨の何本かは折れている。
 だが、それでも影山の心は折れない。
 腰のホッパーゼクターからは、攻撃を急かすように電子音が絶え間なく響き、まだ戦えることを示す。
「当たりさえすれば……」
 逆襲の目を探るため、歯を食いしばり、パンチホッパーは顔を上げた。

 ting―

 何事か、音声がカッシスワームとパンチホッパーの耳に届いた瞬間、青白き光がカッシスワームを包み込んでいた。
 不意討ちとも云える背後からの一撃に、カッシスワームの装甲は吹き飛ばされ、身体の一部が消失する。
「だ、誰だぁ!?」
 怒りの声を上げ、カッシスワームは反射的に振り向く。
 それはパンチホッパーが待ち望んでいた、カッシスワームの隙。
「うぉぉぉっ!」
 左手で地面を叩き、ハンドスプリングの要領でパンチホッパーは身体を宙に浮かせる。

 その動きにカッシスワームは気付き、左手を握ろうとするが、もう遅い。
 パンチホッパーはホッパーゼクターの後ろ足を下ろした。

―RiderPunch―

 たちまち左腕に蓄積されるエネルギー。左腕の拳に貯えられた力は、敵を打ち砕くべく緑の光を迸らせ、カッシスワームの胸へと打ち込まれた。
「ぐぉぉぉっ!」
 カッシスワームが断末魔の叫びを上げる。
 緑の光が胸から身体中に走り、カッシスワームの身体を塵へと変えていく。
「ぐわぁぁっ!」
 やがて一際大きな声を上げると、カッシスワームは爆発を起こし、無へと帰した。
「はぁはぁはぁ、うぅっ」
 右腕の痛みに顔をしかめる。負傷した状態で打った拳だ。無理もない。動きはするが、この腕で戦闘は無理だろう。
 だが、今のパンチホッパーにはそんなことはどうでもいい。
「さっきのは……」
 カッシスワームが青白き光に包まれる直前に聞こえた機械的な音声。
 はっきりとは聞こえなかったが、パンチホッパーにはそれがなんなのか予測できる。
 一撃が放たれた元を確認すると、カッシスワームの敗北に動揺するワームたちを狙い、次々と弾丸が撃ち込まれいる。
 そこにはZECTの汎用バイク、マシンゼクトロンに跨った水色のライダーの姿があった。
「やはり、ドレイク。風間大介か」 


 残ったワームを一掃し、パンチホッパーたちは施設の中へと戻った。
 ドレイクもそれに倣い、施設の中へと入ると、変身を解除する。
 その姿は影山の予想通り、仮面ライダードレイクの適合者、風間大介であった。
「お前、今までどこにいた」
「まずは助けてもらった礼を言うのが先だと思いますが」
「ふざけるな!」

 激しい戦いの直後ということもあり、呼吸を荒げる影山。右腕に巻かれた包帯が痛々しい。
 だが、風間はそれとは対照的に飄々と答える。
「風は気まぐれ。好きな場所に吹き抜けるだけです。風を捕まえることなど、誰にもできません。
 しかし、強いて言うなら……探してたんですよ。新たにカブトとなる者を」
「何!?」
「ある日、天道から手紙が届きました。運んできたのはカブトゼクターです。
 どうやら天道の身に何かあったとき、届けるよう指示されていたみたいですね。
 手紙には、神崎という男の企みにより、別の時空に連れさらわれたと書かれていました。
 そして、連れさらわれたのは天道だけでなく、加賀美、矢車……」
 その名前を聞いた瞬間、影山は我を忘れ、風間へと詰め寄る。
「矢車さんも一緒だと!それで矢車さんは生きているのか?」
「手紙には生死は書かれていませんでした。ただ、書かれている内容が本当なら、生きているとしても、ここに戻れるかどうか。
 今、この場にいないことが答えのような気がしますが」
「……ぅぅっ」
 ザビーゼクターが呼べない時点で予想されていたことではあったが、矢車の事実上の死は影山の心に大きく圧し掛かった。
 うな垂れる影山を尻目に風間は話を続ける。
「話を戻します。天道の予想では、天道がこの世界に戻れなくなったことが確定した時点で新たなカブトが誕生すると書かれていました。
 天道が消えても歴史は変わらず、新たに天の道を往く者がワームを倒すと。時空の復元力というらしいです。私にはわかりかねますが」
「それで……見つかったのか、新たなカブトは?」
「……見つかりませんでした。時空の復元力というものも大したことありませんね。
 世界をなんとかしたかったら、自分で何とかしろということなのでしょう。
 それともそもそもワーム側が勝利するのが本来の歴史なのか」
 風間は虚空を見詰め、何事か思いを馳せる。その時、施設の中にアラーム音が鳴り響いた。
「一体、何事だ」
 影山が疑問の声を上げると、それに答えるかのようにZECT隊員が声を張り上げた。
「再び無数のワームがこちらに接近しています!」
「くっ、退けたばかりだというのに」
「向こうも本気ということでしょう」

 影山は立ち上がり、腰にZECTバックルを巻く。再度、パンチホッパーとして、戦いに赴くためだ。
 だが、その動きを風間が制した。
「邪魔をする気か」
「その腕で戦いは無理です」
「新たなカブトが現れないのは当然だ。ワームを倒すのはカブトではなく、ZECTだからな。
 そして、ZECTを率いるのは完全調和、パーフェクトハーモニーの持ち主。矢車さんが死んだのなら、俺がそれを継承する。
 例え腕がもげようとも、眼が潰れようとも、戦い続け、そして、俺が死んだなら、別の誰かが受け継ぎ、必ずワームを倒す!」
 風間を押し退け、影山は施設を出て行った。
「ふっ、では、私も行くとしますか」


 外に出た影山が見たものは、無数のワームを率いる乃木という数時間前とまったく同じ光景だった。
「お前、生きてたのか」
「御機嫌よう。先程の戦いは見事だった。だが、今度はそうはいかない」
 カッシスワームの姿へと変わる乃木。しかし、その左腕には、以前はなかった大刀が装着されていた。
 明らかにカッシスワームは強化されている。その事実は影山の身を固くする。
 風間には、威勢のいい啖呵を切ったものの自分が今死ぬことは許されない。誰かが自分の想いを継ぐより早く、人類は滅亡する。
 自然と身体が震えた。
「どうしました、震えてますよ」
 後ろから掛けられる声。風間の声だ。
「うるさい!戦う気がないなら黙って見てろ」
「こちらとしてもあなたと共闘なんて真っ平なんですが、贅沢は言ってられません」
 風間は懐からドレイクグリップを取り出すと、ドレイクグリップを掲げ、ドレイクゼクターを呼ぶ。すると、奇妙な鳴き声を上げ、ドレイクゼクターが現れた。
 しかし、風間を中心に旋回するドレイクゼクターは1体ではなく、2体いた。
「ドレイクゼクターが2体。何故だ」
「影山、ザビーゼクターを呼んでみなさい。きっと来るはずです」
「何故、お前にそんなことがわかる」
「………」

 風間は何も答えない。
 だが、風間の言っていることが本当なら試してみる価値はある。
 影山は左手を天に翳し、その名前を叫んだ。
「こい、ザビーゼクター!」
 すると何処からか現れたザビーゼクターは左手に装着されたライダーブレスに根を下ろす。
 その光景に影山はわずかに笑みを浮かべ、ザビーゼクターをより強く押し込んだ。

―HENSHIN―

 ザビーゼクターから電子音が流れ、影山にザビーの鎧を装着していく。
「キャストオフ」

―CASTOFF―

 続いて、ザビーゼクターを180度回転させることで外装の鎧は吹き飛び、ザビーはマスクドフォームからライダーフォームへと変身を遂げた。
 同じく変身とキャストオフを行い、ライダーフォームになったドレイクがザビーに並び立つ。
「いきますよ」
「言われなくてもわかってる」
 ザビーは一直線にカッシスワームへと向かい、ドレイクはドレイクゼクターでアウトレンジから銃弾を撃ち込んでいく。
 一方のカッシスワームはその重厚な装甲を利用して、銃弾は避けず、ザビーにそのまま対峙する。
 負傷した右腕を庇い、左腕で攻撃するザビー。だが、元々利き腕でない方の拳だ。ラッシュのいくらかは命中するが、ダメージというには程遠い。
「弱いな。弱い奴は俺の餌になるといい」
 右腕の鉤爪でザビーの装甲を削り、左腕の大刀でその装甲の傷を広げる。
「ぐうっ」
 怯んだザビーを羽交い締めにすると、首に腕を回し、そのまま首の骨を折ろうとする。
「その手を離しなさい」
 カッシスワームの背中にドレイクは銃弾を何発も撃ち込むが、カッシスワームは怯まない。
「そんな攻撃では俺は倒せない。もっと強い一撃で来なさい」
「なら、これならどうです」
 カッシスワームはドレイクがライダーシューティングの体制に入ったと予測した。

 再生進化したカッシスワームの特殊能力は敵必殺技を吸収し、自分の技とすること。
 長距離射撃であるライダーシューティングはカッシスワームにとっても欲しい技だった。
 しかし、予想を裏切り、ドレイクはカッシスワームの元へと走りだした。
「何のつもりだ」
 ドレイクの行動を確認するべく、後ろを振り向くカッシスワーム。
 その手にはドレイクゼクターではなく、カッシスワームにも負けないほどの大刀が握れていた。
 ドレイクはそれを振るい、カッシスワームの背中を切り裂く。
 強烈な一撃に、思わずザビーの拘束が緩められる。
「ラ、ライダースティング」

―RiderSting―

 ザビーはザビーゼクターの背中にあるスイッチを押し、左腕にライダーパンチに匹敵する破壊エネルギーを蓄えた。
 拘束から抜け出し、そのままステップを踏んで回転すると、カッシスワームの胸目掛けて、針を突き上げた。
 最高のタイミングでの最大の一撃。勝利を確信して、カッシスワームを見上げる。
 だが、カッシスワームは身動ぎはしたものの、その一撃に耐える。それだけではない、ザビーの一撃は泡沫状の光となり、カッシスワームの胸へと取り込まれていく。
「ライダースティング!」
 カッシスワームの言葉に反応し、左腕に集積する光。それはまるでライダースティングのように鋭き針の光を取った。
 それを自分がやられたかのようにザビーに撃ち込んだ。
「うわぁぁぁっ!」
 空中高く吹き飛ばされていくザビー。いや、もうザビーではない。ザビーの変身は解除され、影山の姿へと戻っていた。
 影山は人間の状態で落下し、大地へと叩きつけられた。
 その様を満足気に見ると、カッシスワームはドレイクへと視線を移す。
「お前で最後だ」
 ドレイクは大刀――パーフェクトゼクターを、銃の形に変え、カッシスワームを狙っていた。だが、引き金を引きかけていたその指は止まっている。
「どうした早く撃て」
 ドレイクがドレイクゼクター以外の武器を持っていたことには驚いた。だが、それだけ。
 カッシスワームの能力はどんな武器のどんな技だろうとも、吸収する。
「いいでしょう」
 迷っていたドレイクだったが、覚悟を決めた。

 ドレイクの意思に呼応して、もう1体のドレイクゼクターがパーフェクトゼクターと合体する。

―DrakePower―

 柄にある水色のボタンを押し、エネルギーをチャージする。

―HyperShooting―

「ふん」
 ドレイクゼクターがコンバインされたパーフェクトゼクターから赤い光弾が発射される。
 だが、その一撃はカッシスワームを掠めることさえせず、その横を通り過ぎていった。
「ふひゃはっ?怖くて外れたか?」
 ドレイクは大刀を投げ捨てると、一気に間合いを詰め、ドレイクゼクターをカッシスワームの腹に着ける。
 そして、ドレイクゼクターの後部のスロットルを引く。

―RiderShooting―

「あれは囮。これを狙っていたというわけか。だが、距離など問題ではない。どんな技が来ようとも返してあげよう!」
 ドレイクの額の中心にあるOシグナルからエネルギーがチャージされる。
 カッシスワームはそれを邪魔することもせず、余裕で見守っていた。
 確かにカッシスワームの能力はどんなに強力な攻撃であろうとも吸収する。
 しかし、弱点がないわけではない。

―カチッ

 引き金が引かれ、ドレイクゼクターから光弾が放たれる。そして、それと同時にカッシスワームの背中に赤い光弾が着弾した。
「何ぃ!!!」
 カッシスワームの身体はそのふたつの攻撃を吸収しようと体内に取り込む。
 だが、まったく同時に放たれた攻撃のエネルギーは、ひとつの技として、還元することが出来ず、結果、体内で拒否反応が起こり、爆発となった。
 その衝撃に地面へと派手に転がるカッシスワーム。
「な、何故だ!」
 息も絶え絶えに、伏兵を確認するがどこにもそれらしい姿はない。

「やはり同時攻撃には対応しきれないみたいですね。確かに最初の一撃はわざと外しました。
 しかし、ハイパーシューティングは誘導弾。外れても必ず当たります。あとはそれが当たる瞬間にあわせてライダーシューティングを撃つだけです。
 この技を放つ前にあなたの能力に気付けて助かりました。パーフェクトハーモニーも捨てたものではない」
 ドレイクはシャドウに回収される影山に視線を向け、わずかに笑みを浮かべると、大地に刺さったパーフェクトゼクターを再び手にする。
 そして、もう一度水色のボタンを押した。

―DrakePower―

 ドレイクゼクターの羽根から赤い光が剣に沿って立ち昇り、まるで斧を形作るかのようにパーフェクトゼクターの両脇で光刃となる。

―HyperAx―

「はっ!」
 ドレイクは両の腕でしっかりと握ると、カッシスワームへと振り下ろした。
「うぐわぁぁっ!!!」
 真っ二つにされるカッシスワーム。緑色の塵となり、カッシスワームは消滅した。
 カッシスワームの消滅を確認し、風間は天を見上げる。
「どうですか、カブトは不要です。この世界に天の道を往く者は必要ありません。私たちだけで充分です」
 天にはいつの間にかカブトゼクターの姿があった。
 風間の言葉に何を思ったのか。カブトゼクターは一回くるりと回ると、去って行った。


 戦いが終わり、夜の帳が下りる。
 影山は重症を負いながらも、一命を取り留めた。
 いい気味だと思いつつも、今回の勝利は影山の働きが大きい。
 ワームのリーダー格だと思わしきカッシスワームを倒し、数百匹に及ぶワームを倒したとはいえ、まだワームとの戦いは終わっていない。
 ワームを全滅させるためにはやはり必要なのだ。

 風間は懐から天道からの手紙を取り出す。

 風間大介、俺は神崎という男の企みにより、別の時空にいる。加賀美、矢車、神代、そして、ひよりも一緒だ。
 お前の手にこの手紙が届いているということは俺の身に何かあったということだろう。
 だが、何も心配することはない。俺が戻れなくなったことで世界は新たに天の道を往く者を選ぶ。
 天の道を往く者が世界を救うという事実は変わらない。それが時空の復元力というやつだ。
 唯一気がかりなのは樹花のことだ。世界は変わらなくても、人ひとりの人生は人ひとりの力で変わる。
 本当はお前などに頼みたくはないが、贅沢は言っていられん。樹花を頼む

「まったく、これが人にものを頼む態度ですか。しかし……」
 この手紙を風間へと渡したカブトゼクターはすぐさま、新たな資格者を選ぶため、飛び去っていった。
 風間にとって、カブトが誰になろうとも知ったことではなかった。天道の死は多少悲しいものの天道が心配無用といっている以上、関与する気はない。
 だが、樹花のことは別。天道に多少の情はあるし、何より樹花は女だ。
 風間は樹花の元へと向かった。しかし、そこには招かれざる客がいた。
「戦いましょう。女は花。天道の言う通り、世界は放っておいてもなるようにしかならない。
 だが、私が戦うことで、ひとりの少女の運命が代わるというなら」
 風は気まぐれ。時に天の道にも吹き荒ぶ。

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最終更新:2020年06月29日 21:44