EPILOGUE AFTER
窓から朝日が差し込む、とある弁護士事務所。
その傍にある机には高級そうな椅子といくつかの書類が備えつけられていた。
中央のテーブルに、おそらく作りたての食事が置かれている。
だが――――その料理を食べるべき人間がいない。
全て、その一点を除いて何もかもがそのままだというのに。
その料理を持ってきた男は、ソファに腰掛ける。
「……ハァ……」
思わず口から溜息がこぼれる。
男は自分の主人の最後を知らなかった。
だが、ある程度の予想は彼にもついていた。
大方、ライダー同士の戦いで死んだのだろう、と。
予想がついているが故に、彼の心は不安に苛まれて行く。
どうして気付けなかったのか。どうして自分じゃなかったのか。
同じような疑問が浮かび、消えて行っては、また反芻する。
やがて日が完全に昇り、光が男の体を照らしつける。
だが男は軽く窓の外を見た後、また頭を抱えた。
ふと、テーブルの食事に目を向ける。
本来この料理を食べる人が脳裏を掠めていく。
あの顔、あの声、あの仕草。
ひとたび目を閉じれば、すぐにでも浮かんでくる。
「うん、うまい!今日もやるねぇ。」
すぐに男は反応し、周りを見渡す。
しばらくした後、それが幻聴だったと気付く。
手付かずのままの食事が、それを物語っていた。
再び項垂れ、溜息をつく。もう何度目になるだろう。
そんな事を考えながら、何処か寂しげに、そして悲しげに男は呟いた。
「先生……一体どうして……」
―――――同刻、OREジャーナル。
「……ハァーッ」
椅子の背もたれに寄りかかりながら、社長兼編集長の大久保は大きな溜息をつく。
城戸真司が無断欠勤してからもう一瞬間が経とうとしている。
だが、一向に真司は現れない。それどころか、行方さえ知れない状態だ。
「真司の奴、今何処で何してやがる……」
頭を抱え、いかにも苛立っているように呟く。
真司が休み始めてからずっとこの状態、島田や令子も、真司のことを心配していた。
前に大久保は真司に言ったことがある。
「お前は馬鹿だが、理由もなく仕事を休むような奴じゃない」、と。
だからこそ、今真司の身に何かしらの事が起こっているのは明白だった。
「ったく……さっさと帰って来い馬鹿真司ーッ!!」
天井を見上げ、大久保は出せるだけの大声で叫ぶ。
「ん……編集長!」
突如パソコンを弄っていた島田が騒ぎ出す。
「……どーした島田?」
首だけを動かし、島田の方を向く。
対する島田はディスプレイを大久保の方に向け、言った。
「送信トレイのところに妙なメールが入ってます!」
「……誰かがここのパソコンから送ったんじゃねえのか?」
多少呆れながら返し、大久保の首が元の位置に戻る。
「それにしたって内容が……「あー、もういい。後で見とく!」……はい。」
島田の発言を遮り、大久保が声を荒げる。
その声からは、ストレスが溜まっているのがまざまざと見て取れた。
そんな二人のやり取りを見つめ、令子は窓の外を眺めながら呟いた。
「真司君……本当に何処行っちゃったのかしら。」
その夜、大久保は珍しく一人で残っていた。
部屋の中にはキーボードを叩く音だけが聞こえ、明かりも大久保の机だけに灯っていた。
「ハァーッ」
昼間とそう変わらないほどの溜息をつき、大久保は腕を伸ばす。
明かりを消そうと手を伸ばすと、ふと島田の発言を思い出した。
「……あー、そういや島田の奴なんか言ってたな」
面倒くさそうに、メールボックスを開く。
マウスカーソルを送信トレイまで持って行き、何気なく開いた。
「……何だよコレ……」
その中には、とても妙な物語が綴られていた。
神崎士郎という男によって集められた数多くの人間。
およそ真実とは思えない道具や、見慣れない名前。
―――――――――そして、随所に出てくる「仮面ライダー」という言葉。
このメールの内容を信じるには、内容が余りにも常識から外れていた。
『消せはしない。此処で戦い死んで行った者達、そしてその想いと絆が確かに存在した事は……
決して否定することは出来ない。誰であろうと、俺達の存在を破壊する事は出来ない』
この数奇な物語は、そこで途切れていた。
結末が描かれていないのは、このメールの主が思いつかなかっただけなのか。
それとも………これから終わらせに行ったのか。
どちらにせよ、普通ならこのメールを信じようとはしなかっただろう。
―――――普通、なら。
「おいおいおい、嘘だろ……ッ!」
そのメールの中には、城戸真司の名前が記されていた。
もしそれだけなら、性質の悪い悪戯で済むかもしれない。
だが、現に城戸真司は失踪している。そうなると話はまるで変わってくる。
それに……大久保自身、この物語に不思議なものを感じ取っていた。
ジャーナリストとしての感だろうか。何かの匂いを嗅ぎ取ったのだろう。
故に、大久保はこのメールを「信じる」事にした。
「……よしっ、そうと決まれば!」
両の頬を軽く叩き、コーヒーを飲もうと席を立つ。
そのままコーヒーカップを手に取ると、ふと妙な感覚を覚える。
視線を落とすと、中には何故か植物の苗が入っていた。
大久保は何も言わず、水をやった後カップを元の位置に戻した。
そして席に戻り、キーボードを再び打ち始める。
その夜、OREジャーナルからは明かりが絶えなかったという。
◆
数週間後、OREジャーナルにとある記事が掲載された。
その記事のタイトルは――――――――。
【仮面ライダーバトルロワイアル@仮面ライダー龍騎 完】
最終更新:2021年02月03日 22:44