危険な遊び ◆EH/m9HHVFI



ガシャッ……ガシャッ……

暗闇の中、海沿いの廃工に、人ならざる者の足音が響く。
その音の主は、表次元の侵略を目論むバイラムの幹部の一人、グレイ
彼は裏次元の科学力が作り出した完璧なロボットである。
高い戦闘能力と演算能力。……そしてなにより、人間以上とも言える、高い感受性と自尊心の持ち主だった。

(マリア……)

彼の電子頭脳の中では、一人の女性の名前がリピートされていた。

(マリア……)

―――― それはロボットであるグレイが愛した女性の名 ――――――――

だがその女性はもうこの世にはいない。
グレイの、血の通わぬ冷たい腕の中で彼女は息を引き取ったのだ。

(マリア……)

マリアを失った時、グレイにはもはや自身の行動理念がなくなっていた。
彼にとって、マリアの存在はそれほどまで大きくなっていたのだ。
表次元の侵略も、バイラムの首領の座も、グレイにはもはやなんの興味も執着もない。
グレイは自覚していなかったが、彼はもはや戦士としての自分の死に場所を探している状態だった。
そして、その死に場所として無意識のうちに彼が決めていたのが、互いに認め合う宿敵
「ブラックコンドル・結城 凱」との戦いの場であった。
しかし、まさにその男と雌雄を決さんとしたその矢先、彼はこの悪趣味なゲームに巻き込まれた。

(ゲームか……)

ロンの説明を聞き終えた際、グレイの思考ルーチンには二つの選択肢が発生していた。
一つは、あのロンという男を始末すること。
もう一つは、ロンの提案に乗り、殺し合いを行うこと。

『勝ち残った者には、どんな願いでも一つ叶える権利を差し上げましょう』
『愛するものの復活でも、なんでもですよ』

ロンのその言葉を聞いたとき、グレイの脳裏に最愛の者の、マリアの姿がよぎったのは事実である。
……だが、グレイはマリアを蘇らせる事など最初から望んではいなかった。
マリアは自身がバイラムの幹部として人々を苦しめてきたことに耐え切れぬ罪悪感を感じ、
それゆえ、自らの命と引き換えにラディゲに一太刀を浴びせたのだ。
今更生き返ったところでマリアは幸せにはなれない。
ましてや、ロンという男の考えた悪趣味なゲームの優勝商品という形で蘇えらせるなど
彼女の魂に対する最大の冒涜としかグレイには考えられなかった。

……彼にはもはや望みすらない。
かと言って、殺し合いに抵抗があるわけでも、特別ロンを憎む気持ちがあるわけでもない。
結局の所、彼にとってはどちらの選択肢を選んでもさほど違いは無い事であった。
生きる事に意味を失ったグレイには、この状況は主催者のロン以上に「ただのゲーム」に過ぎない。

(ゲーム……)

スッ……
グレイはおもむろに一枚のコインを取り出した。
「所詮……遊びだ」
グレイはたった一枚のコインの表裏に、これからの自分の運命を託す事にしたのだ。
(……表ならこのくだらんゲームに乗る……裏なら、私のルールであの男を殺す)
しかし、その時グレイは気づく。

「……これは」

グレイの手には「両面とも表」のコインがあった。
それはかつて、自らがラディゲとの賭けの際、イカサマに使用したものである。
そんなものをなぜ今更自分が持ち歩いていたのか、グレイ自身も理解できなかった。

「………これも…運命の悪戯というやつなのか……?」
コインを宙に放るまでも無く結果は表。
そして、グレイにはそれを拒む理由も無かった。
「所詮……遊びだ」
再びその言葉をつぶやくと、その直後、彼は次なる行動を開始した。

キュィイーーーーン

グレイの内部から発せられる機械の作動音。
熱感知レーダーがグレイの周囲の探索を始める。
そして、間もなくして、レーダーは一番近くにある大きな生体反応を見つけた。
「最初の……獲物か」
そうつぶやくと、グレイはその方向へ歩き始める。

ガシャッ……ガシャッ……

暗闇の廃工に再び足音が響く。
ささやかながら新たな行動理由を見つけたスーパーロボットは「本当の意味で」再び動き出したのだった。


【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡)後
[現在地]:G-4都市 1日目 深夜
[状態]:健康
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:不明
[思考]:ロンのゲームに乗り、参加者全員と殺しあう。しかし彼の目的に遊び以上のものはない。

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最終更新:2018年02月11日 01:03