ミッドナイト・ドッグファイト ◆EH/m9HHVFI



(スワン……無事でいてくれ……)
参加者の一人、ドギー・クルーガーの頭からは友人の女性の名前が離れなかった。
参加者リストの中にドギーの知っている者の名は3人。
自らの部下である江成仙一(通称セン)と胡堂小梅(通称ウメコ)。そして、同僚のニーチョ星人、白鳥スワン。
センとウメコの事は気がかりではあった。
しかし、同時に自分が育ててきたあの二人ならそう簡単にくたばるわけがない。ドギーはそう自負し、信じる事が出来た。
だが、スワンに対してはドギーはその身を案じずにはいられなかった。
危機が迫った時には変身こそ出来るものの、彼女の本職は戦闘ではない。
もし、このふざけたゲームに乗るようなヤツと遭遇してしまったら……
そう考えると、ドギーは一刻も早く彼女と逢い、保護しなければならない、と感じていた。
それだけではない、地球署が宇宙に誇るメカニックである彼女ならばこの爆破装置がついた首輪を外す事が出来るかもしれない。
この首輪さえ外せれば、あのロンという男を倒す事に確実に近づくことになる。
そのためにも彼女を絶対に死なせるわけにはいかなかった。
(スワン……!)
ドギーは自然と歩を早めた。

そんな彼を数百メートル離れた所から見つめる者がいた。
つい先ほど、ゲームに乗るという意思を固めた、漆黒のロボット。グレイだった。
グレイは廃工の屋根の上に登り、港沿いを歩くドギーの姿を自身に内蔵された望遠スコープを使い、発見した。

(感知した体温が少々高いと思ったが……なるほど、あいつは地球人ではないな……)

しかし、宇宙人であるという事よりも、グレイはその男の一部の隙もない佇まいに驚かずにはいられなかった。
スコープごしにも伝わってくる、その者の放つ紛れも無き兵(つわもの)としてのオーラ。
おそらく直接の戦闘となれば参加者の中でもトップクラスの実力を有している事が容易に予想できた。
だが、一部も隙がないとはいえ、それは存在すら知られていない数百メートル先の狙撃者には関係のない事であった。
グレイは、彼が手にしたライフルの引き金を引けば、次の瞬間、ドギーの体を確実に貫く事が出来た。

「……まず、一人」

パンッ!

暗闇の静寂を切り裂く銃声がした。
グレイの放った銃弾はその音を置き去りにし、ターゲットに向かって猛スピードで飛んでいく。
標的となったドギーはその銃弾に気づくよしもなかった。

……もし仮に、ドギーを狙っていたのがグレイ以外の参加者であったなら。
彼が持つ地球人の数千倍の嗅覚と、この状況において極限にまで研ぎ澄まされた戦士としての感覚が、
狙撃主の匂い、あるいは殺気を読み取ったかもしれない。
しかし、今ドギーを撃ったのは「人」ではなかった。
臭いも気配も全てが人間。否、生命のそれとは違うものを発していた。
そのため、ドギーは結局銃弾が発射され、それが間際にまで迫ってもその存在を察知する事ができない。

ビュッ!

ポタタッ……
暗闇の中、鮮血の滴る音。
「つっ!!」
突如襲った痛みにドギーは眉を顰める。
(っっっ……!! 撃たれたのか……!? 一体誰が……!?)

弾丸はドギーの鼻先をかすめていた。
グレイはドギーの急所ではなく鼻先を狙ったのだ。
もし、頭か心臓を狙われていればその場でドギーは確実に命を落としていただろう。
だが、グレイはあえて狙いを外した。
それは彼の戦士としてのプライドのためか、それとも単純にゲームを楽しむためか、グレイ本人にすら判っていなかった。
とにかくグレイはドギーを自分の存在にすら気づかせず殺してしまうのではなく「戦って殺す」事を選択したのだ。
ドギーは銃弾の飛んできた方向を見据える。
距離が遠いうえ、漆黒のボディが暗闇にまぎれているためグレイの姿は目視できない。
しかし、硝煙の匂いがグレイの位置を教えてくれた。

「……っ!エマージェンシー!……デカマスター!」

ドギーはSPライセンスを掲げる。形状記憶粒子が彼の身体を覆い、彼はデカマスターへと変身した。
「……向こうかっ!」
決め台詞を発する事も無く、ドギーはすぐさまグレイのいる方向に向かって走り出す。
彼はロンのゲームに乗るつもりなど毛頭無かったが、しかし、自分を狙撃した相手の説得を試みるほどの平和主義者ではない。
「来るか……!」
一方グレイの方も、先ほどは狙いをあえて外したものの、相手が接近してくるまで待ってやるほどお人よしではない。
参加者用の武器として配布された遠距離ライフルから、自らの腕に内臓されたマシンガン、「ハンドグレイザー」
に武器を切り替え、今度は容赦なくドギーへ発砲を行う準備を整える。
数百メートルの距離を挟んで、グレイとドギー。両者の戦いは始まった。

ぱらららら

グレイの右腕のマシンガンから多数の弾が発射され、ドギーを襲う。
「うおぉぉぉっ!!」
キャキャキャキャキャンッ!!
しかし、ドギーはその全てを、自らの愛刀、「D・ソードベガ」で叩き落す。
その見事な反応と剣さばきには、グレイは敵ながら関心せざるを得なかった。
「……やるな」
ドギーは見る見るうちにグレイとの距離をつめているが、グレイは全く慌てる様子は無い。

そして、両者はついに、互いを目視出来る距離まで接近した。
「これはどうだ!?」
ドォン!
グレイが背負う必殺砲、グレイギャノンが火を噴く。

ドォォンンッッ!!

「くっ!」
グレイギャノンの火球により生じた爆風から身をかわすドギー。

ぱらららら

その瞬間、再びグレイはドギー目掛けてマシンガンを乱射した。
「なにっ!!」
グレイの連続攻撃に、ドギーは体制を整えられず、不意を付かれる形となった。

「ぐああっ!!」

ポタタッ……!

先ほど鼻先を霞めたのとは比較にならない量の血が、地面に落ちた。
グレイから放たれた銃弾の一発がが無情にもドギーの脇腹を打ち抜いていた。
「ぐっ!」
打たれた箇所を押さえ、膝を突いてその場に崩れるドギー。

「その傷ではもうかわせまい……終わりだ」
勝利を確信したグレイはとどめをさすべく、再びグレイギャノンをドギーに向けた。

ドォン!
強烈な火球が、ドギーを焼き尽くさんと猛スピードで突進していった。

「……っ!!……勝負はまだ終わっていないぞ!!」
ドギーは自分の愛刀を、力強く握ると構えの姿勢をとった。
「うぉおおおっ!!」

ギャアアアン!!

D・ソードベガが、グレイギャノンから打ち出された火球を受け止め……そしてそれを、撃ち出したグレイ本人の方に跳ね返した。
「なんだとっ!」
グレイの口から驚愕の声が漏れる。

ドォオオン!!

「ぐうぅっ!!」
グレイは自らの火球の直撃による爆発で、大ダメージを喰らう。
そして次の瞬間、グレイの目の前には一瞬で間合いを詰め、屋根の上まで登って来たドギーの姿があった。

ザシュッ!!

「ぐあぁっ!!」
グレイが呻き声を上げる。
ドギーの刀がグレイの腹部を貫いていた。
その瞬間、グレイは思った。

(なぜだろう……まるで私は………どの道こうなる……運命だった……ような………気が……する……)

「見事だ……」
自分を貫いた男に、そう賛辞の言葉を送ると、グレイはそのままバランスを崩し、倒れる。

ドシャアアンッ!!

廃工の屋根から、グレイと、そのボディを貫いたまま剣を握っていたドギーが二人揃って落下した。

「…………」
戦闘不能となったグレイは天を仰ぎ、夜空を見上げた形で倒れていた。

「ぐっ……はぁ……はぁ……」
一方ドギーも、うつ伏せに倒れたまま、立ち上がれずにいた。
グレイを倒しはしたものの、彼の腹部の傷はさらに広がり、体の下には血溜まりが出来ていた。
(やばい……目が……霞んで……)
ドギーは死を予感した。だが、死ぬわけにはいかなかった。彼にはまだしなければならない事があった。
(スワン……!!)

一方のグレイは……どこか満足げに星空を見上げていた。
薄れ行く意識の中、彼の頭にはいつか聞いた美しいピアノの音が流れていた。
(マリア……)

もうすでに死を受け入れたものと、それでも必死に生にしがみつこうとする者という差はあったがグレイとドギーの意識は、共に大切な女性の事を思いながら、その場でほぼ同時にブラックアウトした。

一つの死闘が終わりを告げ、辺りは再び夜の静寂に包まれた。

ザッ……

「なんだろう……なんか凄い音がしたけど……」
倒れているグレイとドギーに近づく、一つの影。

「うわぁ……このヒト達……ここで闘ってたのかな……」
そこには緑色の髪をした少年が立っていた。

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最終更新:2018年02月11日 01:05