シオンの主義 ◆EH/m9HHVFI
「うっ……ここ……は?」
ドギー・クルーガーは意識を取り戻した。だが、酷く体が重い。
(オレは確か……黒いロボットと戦い、撃たれ……そいつは倒したが……そのまま)
地獄の番犬と恐れられたドギーだが、一瞬自分が本当に冥府へ来てしまったのかと錯覚した。
しかし、どうやらまだ命があるようだ。
全身を覆う苦痛を覚えるほどの倦怠感も、生きている証と考えれば、むしろ心地よく思える。
どうやらここは廃工の中らしく、電気はまだ通っていたのか、小さな豆電球が周囲を薄暗く照らす。
「あっ……目が覚めたんですね」
そんな彼に気づき、声をかける者がいた。
その者は参加者の一人、西暦3000年の未来から来たハバード星人の生き残りの少年
シオン。
外見は地球人と変わらないが、緑色に染まった髪が特徴的だ。
「でもまだ安静にしててください。貴方、銃で撃たれたんですから」
「これは……君が手当てをしてくれたのか?」
ドギーの腹には包帯が巻かれていた。
「はい、弾は貫通してたので、止血と消毒と軽い縫合をしただけですけど。近くに病院の跡があって、そこで使えそうなものは貰ってきたんですよ」
「そうか……助かった。礼を言う。ありがとう。私の名はドギー・クルーガーだ。君も……参加者なのか?」
「ええ。貴方の姿は参加者が全員集まってたあの時から覚えてました。……あ、僕はシオンって言います」
無邪気な笑みを浮かべながらシオンは言った。
「……俺を助けてくれた、という事は君もあのロンという男の企画したこの殺し合いに乗ずる気はないのだな」
「はい。僕は理由があれば戦いはしますけど、こんな形で……ましてや殺し合いなんてしたくないですよ」
そう言いながら、彼は何かをカチャカチャといじっていた。
「このヒトも確か参加者ですよね」
シオンが触っていたのは、先ほどまでドギーと死闘を演じた
グレイのボディだった。
「まさか!そのロボットを修理しているのか……!?」
意識がようやくはっきりしてきたドギーがその事に気づき驚愕する。
「はい、そうですよ。貴方を手当てしたのと同じです」
「待て!そいつは……うぐっ!」
思わず立ち上がろうとしたドギーの腹部に激痛が走る。
「駄目ですよ、大人しくしてないと」
「そいつは……危険だ!俺のこの傷もそいつにやられたんだ」
「でも貴方もこのヒトを壊したんでしょう?」
「それは……!そのロボットが襲ってきたからやむを得ず……!」
ドギーはそう弁明するが、シオンは再びグレイの修理を続けた。
「……貴方は多分嘘は言ってないんでしょうけど、貴方の言い分だけ聞くのはフェアじゃないです。
貴方を助けた以上、僕はこのヒトも放っておくわけにはいきません」
「駄目だ!君も危険に晒されるぞ!頼む、俺の言うことを聞いてくれ!でないと俺は無理矢理でも君を止めなければならない」
シオンは再び手を止め、ドギーに向き合った。
「貴方はさっき、殺し合いに乗ずる気はないって言いましたよね。でしたら、正当防衛の結果相手を殺してしまう事は仕方ないにしても。今、このヒトを助けようとしてる僕を止めまでするのは矛盾していませんか?」
「………」
凶悪犯は容赦なくデリートしてきたドギーとどんな凶悪犯も殺さずに圧縮冷凍して罪を償わせてきたシオンとの主義の違い。
ドギーはまだ納得はできなかったが、シオンに反論する言葉が浮かばなかった。
さらに彼に命を助けられ、身体が傷ついた状態という弱みもあり、これ以上強く言うことが出来ない。
「仕方ない……。だが、くれぐれも気をつけてくれよ……」
「はい。判ってくれてありがとうございます」
シオンは真剣な表情を崩し、再び笑みを浮かべた。
「しかし……考えてみると、君は本当にそのロボットを直せるのか?」
冷静になったドギーは疑問を投げかける。
「はい。かなり複雑なメカニズムですけどもう少しすれば直せます」
それはドギーにとって内心喜ばしくないな事実だったが、同時に別の事が頭に浮かぶ。
「君なら……この首輪を解体できるんじゃないのか?」
参加者全員の生殺与奪を握っているこの忌まわしき枷。
あれほどの高等なロボットを修理できる彼ならあるいは解体する事が出来るのでは、とドギーは考えた。
「はい。出来るかもしれません」
「ならば……っ!」
「でも、出来ないかもしれません」
シオンはそう続けてドギーの言葉をさえぎる。
「そして……もし後者だったらこの首輪、爆発しちゃいますよ。だから迂闊に試すわけにはいきません」
「そうか……」
ドギーは落胆した。
ただ単にシオンには外せない、という事だけではなく、彼がそう言ったからには、スワンも同じ事も言うかもしれないからだ。
「でも……もし、僕のほかにも」
「ん?」
「僕のほかにも機械知識に明るい人がいれば、その人と協力しあって安全にコレを外す方法が見つかるかもしれません」
さらにシオンは言葉を続ける。
「……実はこのヒトを直してるのは、そういう理由もあるんです……このヒト凄い技術で作られてますよ。
こんな凄いロボット31世紀にも……あ、いやなんでもないです」
少し慌てて口を噤むシオン。
「なるほど……そいつから知恵が借りられるかもしれない……そう考えたわけか」
このロボットが素直に協力するとは思えないが、その理由を聞くとますますグレイの修理を認めざるを得なくなった。
「それにしても、誰がこのヒトを作ったんでしょうね……こんな技術、僕が知る限りどの星にもないですよ
……まさか、異次元のヒトが作ってたりして。いや、これは冗談ですけど」
「ふっ……」
こんな状況だというのに、まるで小さな子どもが玩具で遊ぶかのように、楽しげに話す少年に、ドギーは思わず緊張が解け、苦笑してしまう。
「……今、君が言った機械に詳しい人間だが、このリストの中の俺の知り合いに、メカの技術と知識に関しては保障できる者がいる。
俺はなんとか彼女に接触したいと考えているんだ。俺は彼女の匂いを追って探しているんだが……君も付き合ってくれるか?」
「はい!喜んで!」
シオンは即答すると。ますます嬉々として作業を続けた。
そして、それからしばらく時間が過ぎた時……グレイの瞳に再び光が宿った。
ギュイイイン……
グレイの電子頭脳が再起動する。
そして次の瞬間グレイは言葉を発した。
「小僧……貴様が私を直したのか?」
生物の脳のそれとは違い、グレイの記憶回路は混乱を起こす事はなく、瞬時に状況を理解していた。
「ええ、そうです。おはようございます」
「気をつけろ!一旦離れるんだ!」
ドギーが身構える。
「ふん……落ち着け。今、貴様とやりあうつもりはない。私はこいつと話をしているのだ」
先ほど殺し合いを演じた仲であるドギーを一瞥し、グレイの文字通り機械質な瞳がシオンを見据える。
「助かります。……じゃあ、いくつか質問させていただいていいですか?」
「……なんだ」
「貴方のお名前は?あ、失礼。僕はシオンです。よろしく」
ニコニコ微笑む目の前の少年にグレイは少し戸惑っていた。
「……グレイ」
「グレイさん。……改めて、はじめまして」
「……聞きたい事はそれだけか」
「あ、いえ、本題はこれからです。
グレイさん、貴方は……あちらのドギーさんを撃ったと聞きました。貴方は殺し合いに乗ったと言うことですか?」
「いかにも」
その返事にシオンの表情が少し曇る。
「なぜです?あのロンという男の言った願い事が目的ですか?それとも単純に他のヒトに殺されるのが怖くて?」
シオンのその質問に対してグレイは少し笑うかのような仕草を見せた。
「……私には望みもなければ死も恐れてはいない。単純にゲームを楽しみたかっただけだ」
その言葉を聞いて、これまで黙って二人のやり取りを伺っていたドギーが激昂する。
「ふざけるな!そんな理由で殺し合いに乗ったというのか!」
「そうだ……そしてそのゲームは先ほどで終了したはずだった……なぜか頼んでもいないのに助けられたがな」
「それはすみません。余計なお世話でしたかね」
「ふん……」
「……じゃあ、グレイさん。一度死んでやりなおしたと思って、今度は僕たちと協力して、あのロンを倒すゲームをやりませんか?」
シオンの言葉にドギーが驚きの声をあげる。
「おい!何を言っている!?今こいつの言った事を聞いていなかったのか!?」
ドギーがただのゲームとして殺し合いに乗ったグレイを危険視する一方で、シオンはグレイが殺し合いに大した理由をもっていないのならば、逆に自分達に協力する方にも転んでくれると考えていた。
「指図は受けん……」
しかし、グレイはシオンの提案を一蹴した。
「………それは残念です」
本当に言葉通り、シオンは「残念」という仕草と表情をした。
「……だが、お前に借りを作ったままでは私のプライドがそれを許さない」
「えっ?」
「小僧、私は私のやり方で、お前に借りを返す。その時までお前を死なすわけにはいかん」
「えーとそれって。もしかして僕についてきてくれるって事ですか?」
シオンの顔が再びうれしそうにほころぶ。
「ふん……勘違いするな。私の納得する形でお前に借りを返すだけだ。全面的な協力はせん」
「おい、勝手に話を進めているがその子は俺と行動するんだぞ?」
二人のやり取りに思わずそう口を挟むドギー。
「貴様は貴様で勝手にこの小僧と組めばいい。私はあくまで借りを返すためにしばらくこいつについて行くだけだ」
「チィッ……人を狙撃したかと思えば……勝手なヤツだ……!」
ドギーは舌打ちをする。グレイの同行は決して歓迎出来る事ではないが、現状では受け入れざるを得なかった。
「なにはともあれ、これからしばらく3人一緒に行動するんですから、ケンカはやめましょうよ。ね」
(はは……なんだか最初のころの
ドモンさんとアヤセさんみたいだ)
二人の間にシオンが入り込み、笑いながら交互に両者を見た。
この瞬間、少し奇妙な3人組の連帯行動が始まる事となった。
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡)後
[現在地]:G-4都市 2日目 明け方
[状態]:健康?
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル 支給品一式
[思考]
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す
その後の方針は未定。上記の目的を果たした後は殺し合いを再開するのか、それとも……
【名前】シオン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:50話、タツヤと別れる瞬間(20、21世紀の記憶、知識は全て残っている?)
[現在地]:G-4都市 2日目 明け方
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
第一行動方針:首輪を解除するために、機械知識のある人間と接触したい。
第二行動方針:グレイとドギーの仲が険悪なので、なんとか懐柔したい。
【名前】ドギー・クルーガー@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:最終回時点
[現在地]:G-4都市 2日目 明け方
[状態]:負傷、暫く戦闘不能(無理をした場合命に関わる)
[装備]:マスターライセンス
[道具]:不明
[思考]
第一行動方針:傷が癒えるまでの安全の確保、グレイへの警戒は解いていない。
第二行動方針:スワンを探す。
最終更新:2018年02月11日 01:07