献身と勘違い ◆Z5wk4/jklI
鬱蒼とした森の中を、メレは前へ前へと突き進んでいた。
脳裏をよぎるのは、目の前で、ロンの攻撃に倒れた理央の姿。
傷ついた姿にすがりつき、揺り起こそうとしている所で彼女の意識は途絶えた。
気が付くと、どことも知れぬ広間の中、
周囲の人間を掻き分け、見つけ出した理央の無事な姿に安堵していると、奴が現れた。
ロン。自分を騙し、理央を貶め、異形の姿―幻獣王に変えようとしている憎い敵。
理央を嘲笑うその姿に、せめて一矢報いてやろうと釵を構えたその時、
自分達より少し離れた場所にいた壮年の男が、姿を人から異形に変え、ロンに対して二刀を構えた。
少しの隙も無いその構えからは、相当の実力がうかがい知れる。だが・・・
ほんの一瞬静まりかえった会場に、悲痛な叫びがこだまする。
自らの吐き出した血にまみれ、倒れ伏す剣士を満足そうに見つめると、ロンはメレを一瞥した。
――お前が歯向かえば、お前の愛する者も同じ目にあう――
その目は、メレにそう告げていた。
それは、彼女の抵抗の意思を鈍らせる。
理央を守る為ならば、自分の命など捨てても構わない。刺し違えてでも、奴を倒す。
あの時も、今もそう思っていた。
だがこれでは、逆に彼を危険にさらす事になってしまう。
結局、彼女に出来たのは、門をくぐる時にロンを殺意を込めて睨みつける事だけだった。
振り払っても、振り払っても、なお脳裏をよぎる理央の傷ついた姿に悩まされながら歩みを進めると、少し開けた場所に出る。
メレは振り向き、手にした釵を構え直した。
――理央様。今しばらくお待ち下さい。すぐにお傍に馳せ参じて、今度こそお守りいたします。ですが、その前に――
「いい加減出て来なさい。さっきからあんたがついてきてるのは判ってんのよ」
声を上げると、少し離れた茂みが揺れた。
□
「誰も通らない・・・」
月明かり遮る森の中、じっと立ったまま前を見つめていた
シグナルマンは肩を落とした。
転送された場所から動かず、誰かが通りかかるのを待っていたが、いつまでたっても人が来ない。
これでは、夜が明けてしまう。
待つ事に見切りをつけると、シグナルマンは歩き出した。
向かうは、都市部。ペガサスの一般市民もきっとそこに居るだろう。
根拠の無い確信とともに、しばらく歩みを進めると、少し遠くの方で、夜空を焦がすような炎があがる。
誰かが闘っている
そう思うとシグナルマンは、炎のあがった方へ駆け出していた。
もし、闘っているのが一般市民なら、助けてやらなければいけない。
そうでないとしても、黙って見過ごす事などできない。
今の彼を突き動かしているのは、警官としての使命感だった。
□
「勘のいい女だな」
現れたのは、黒い装甲を身に纏った、いや、装甲と一体化した男だった。
一見して、普通の人間とは思えない。
自分達の獣人体とは少し違うようだが、同じようなものだろうとメレは見当をつけた。
その予想は、あながち外れてはいない。
彼はクエスターガイ。
ボウケンジャーに倒され、ゴードム文明の神官 ガジャによって、甦った。
リンリンシーと同じ様に、他者の手によって新たな命を得た者だった。
その手には、二丁の銃が握られている。
「上手く隠れてたみたいだけどね。殺気がこぼれてきてるのよ。あいつの考えに乗ったってわけ?」
「当ったり~。変なパツキン野郎に指図を受けるのは気に食わねえが、邪魔なボウケンジャーを片付けるついでに、優勝を目指すのも悪くねえ」
適当にいなして、立ち去るつもりだったが、仕方が無い。
他の者に手をかけるのは構わないが、理央に害を及ぼすような者を捨て置くわけにはいかないのだから。
「軽い男ね。いいわ。本当はあんたみたいな奴と関わってる暇は無いんだけど、相手をしてあげる」
胸の前で手を交差し、鳥の羽ばたきの様にゆるやかに腕を上下すると、瞬く間に不死鳥を模した姿になる。
「幻獣フェニックス拳のメレ」
例え、ロンが分け与えた力でも使う。あの時決めたのだから。何にでもなると。
メレに迷いはない。
「火将危願」
腕から放たれる炎が暗闇を照らす。
解き放たれた炎の鳥は、ガイを喰らおうとそのあぎとを開く。
「あっぶね!熱ッ」
からくも避けると、両手の銃から弾丸を放つ。
「甘いわよ」
放たれた弾丸を釵で払い落とす。
ガイは舌打ちすると、銃を短剣に組替える。
接近戦を挑もうとしているのを見て取ると、メレはカメレオン拳の臨技を使い、姿を消すと懐に入り込み、短剣を跳ね上げる。
そのまま、ぐるりと後ろに回りこむと首にぴたりと刃を沿わせる。
「終わりよ。油断したわね」
「・・・っ、待てよ。俺を殺したら分からなくなるぜ。理央って野郎の居場所」
「・・・知ってるの?」
一瞬、メレに隙が生まれる。
それを見逃すガイではなかった。
「うっそ~」
動揺し、ガードの甘くなっていた鳩尾に肘をしたたかに叩き込む。
たまらず倒れこむメレの手から、釵を奪い取ると地面に縫い止めるように、左肩に突き刺した。
「形勢逆転」
メレは、痛みに呻き、薄らいでいく意識に足掻きながら、死を間近に感じていた。
思い浮かぶのは、たった一つの面影。
――理央様、申し訳ありませ・・・――
それっきり、彼女の意識は闇に沈む。
ガイは止めをさそうと、もう一方の釵を振り上げた。
その時・・・
「本官の許可無く勝手に戦うんじゃない!!」
いっそ、場違いとさえ感じる声が響きわたると、ガイの視界が真っ白に染まった。
「くっそ。何だこれはよー」
充満していた煙が晴れ、周りが見渡せるようになった時、すでにガイの目の前から、メレは消え去っていた。
□
「・・・ここまで、逃げれば大丈夫だろう」
シグナルマンは手近な木の側に、抱え上げていた女性を横たえる。
ぐったりとして、意識はないようだ。突き刺さったままの武器が痛々しい。
せめて手当てをしようと、傷口を圧迫しながら、引き抜く。
不思議な事に、血は一滴もついてはいなかった。
いぶかしみながらも、首筋で脈を取る・・・
「・・・脈が無い」
慌てて、鳩尾より少し下、心臓のある辺りに耳を押し当てる。
・・・鼓動は聞こえてこなかった。
シグナルマンはがっくりと肩を落とした。
「・・・間に合わなかったのか」
まだ止めはさされていないと思い、助けに入ったが、その時にはもう手遅れだったのだ。
シグナルマンは、無力感に苛まれながら、シグナイザーを電磁警棒状態に変形する。
それをスコップ代わりに、穴を掘り出した。
後、自分に出来る事といえば、彼女を弔う事だけだと感じながら。
□
「さーて、どうすっかな」
火傷を負った腕をさすりながら、ガイは考え込む。
止めをさしたい所だったが、どこのどいつか知らないが、助けに入って逃げたようだ。
探し出そうかとも思うが、火傷はそれなりに痛んだ。
ガイにとって幸いだったのは、広間で比較的近くにいたメレが自分と同じ場所に転送された事だ。
メレの方は、ロンを警戒するので手一杯のようだったが、ガイは、得体の知れない金髪と面識のある様子の二人を覚えていた。
その事が、あの瞬間の勝敗を分けたのだった。
「まっ、いっか」
他にも、参加者は沢山いる。
そう思い直すと、ガイは水場を求めて歩き出した。
【クエスター ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.23以降
[現在地]:B-5 森林 1日目 深夜
[状態]:腕にそれなりに痛む程度の火傷 2時間戦闘不可
[装備]:
グレイブラスター 釵一本
[道具]:不明
[思考]
第一行動方針:とりあえず、川でも探すか
第二行動方針:ボウケンジャーを片付けて、ついでに優勝を目指す
【シグナルマン・ポリス・コバーン@激走戦隊カーレンジャー】
[時間軸]:第36話以降
[現在地]:B-5 森林 1日目 深夜
[状態]:健康
[装備]:シグナイザー
[道具]:けむり玉(1個使用済み)数は不明、その他は不明。
[思考]
第一行動方針:ペガサスの一般市民を保護しなくては
第二行動方針:戦っているものがいれば、出来る限り止める
【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:B-5 森林 1日目 深夜
[状態]:鳩尾に打撲、左肩に深い刺し傷、2時間獣人体への変身不可、気絶中
[装備]:釵 現在は、1本だけシグナルマンが持っています。
[道具]:不明
第一行動方針:早く、理央様の元に行かなくては
第二行動方針:理央様に害を成す者は始末する
備考:リンリンシーの為、出血はありません。
脈や心臓の鼓動も元々ありません
最終更新:2018年02月11日 01:33