夢×命×未来 ◆i1BeVxv./w
並木瞬の人生は今までコンピュータのプログラムのように完璧に計画されていた。
しかし、成り行きでメガレンジャーとなったことにより、その人生は計画の変更を余儀なくされようとしていた。
冗談じゃない。俺の人生に無駄は必要ない。
左手に装着された変身ツール『デジタイザー』は、瞬にとって無用の長物。
今まで有耶無耶になっていたが、明日、メガレンジャーを降りることを正式に伝えよう。
瞬はそう決心し、床に着いた。
そして、起きるとそこは見知らぬ広間だった。
▽
一体、何が起こったのか。考えがまとまらない。
自分の部屋のベッドで寝ていたはずなのに、気がつけば広間。そして、今は誰のものとも知れない家の中だ。
何故か格好は学生服。左手にはしっかりデジタイザーが装着されている。
瞬は途端にデジタイザーに嫌悪を覚えた。
学生服という自分の日常生活の象徴に、既に溶け込んでいるかのように鎮座している異物がたまらなく不愉快だった。
「こいつの所為で、俺の人生は滅茶苦茶だ!」
瞬はデジタイザーを外すと、壁にたたきつけた。ゴンと音を立て、デジタイザーは床へと転がる。
手近な椅子に腰を下ろし、瞬はもう一度、考えをまとめようとする。
もしかしたら自分は夢を見ているのではないか。それなら納得が……。
……そんなわけないだろ。現実を見ろ。
解けない難問にぶち当たったときはアプローチの仕方を変えてみる。思考する上での鉄則だ。
何故こうなったかはいくら考えても結論など出ようはずがない。それなら、これから何をすべきかを考えるべきだ。
そして、何をすべきかを考えるなら、求めるべき結果を決めることが必要。
自分が求めるべき結果は――夢を叶えること。
瞬はコンピュータグラフィックスに夢をかけていた。
作品が次のコンクールに入賞すれば、アメリカ留学が可能になり、夢を叶えるための道がグッと近くなるのだ。
瞬はその夢をどうしても叶えたかった。そのためには、まずはここから脱出しなければいけない。
瞬の方針は決まった。
瞬は立ち上がり、デジタイザーを拾う。生き残るためには、これが必要だ。
考えて見れば、異形の怪物は何人かいたものの、ほとんどが人間だった。
彼らが相手ならば、メガレンジャーの力を使えば、圧倒できるはずだ。
名簿を見れば、幸か不幸か、瞬の知り合いは誰もいない。
メモ書きのような紙には殺し合いのルールが書かれている。
首輪には爆弾が内蔵してあり、主催者に逆らうようであれば爆破すると書かれていた。
つまり、緊急避難が成り立つ。
瞬の方針は決まった。
▽
瞬はビルの屋上へと昇る。
地図を見た限り、自分のいるエリアはG-7。中々、好都合な場所だった。
G-7エリアは海岸、採石場、砂漠の3つのエリアに隣接している。
3つとも定住するには適していないエリアだ。
捜索、調達、殺戮、隠匿、治療、理由は様々だろうが、このエリアにいる参加者たちが都市を目指す可能性は高い。
ならば、自分はここで待ち伏せして、このエリアに入る誰かを迎え撃つ。
身体が震える。当然だろう。瞬の人生計画の中に誰かを殺すという予定は入っていなかった。
その禁忌を犯そうとしているのだ。
出来れば誰も来て欲しくないと瞬は思う。勝手に殺し合って、全滅して、最後のひとりに自分がなることを願う。
だが、瞬の生来の真面目さがそれを許さない。何かを成し遂げようとする以上は黙ってみていることなど、瞬には出来はしない。
やがて、大地を駆ける足音が聞こえてくる。
誰かが来たのだ。
「インストール、メガレンジャー」
―3・3・5・Enter―
デジタイザーに囁き、変身コードを入力する。
青いメガスーツは瞬の身体を一瞬にして包み、彼をメガブルーにした。
「トマホークスナイパー」
メガトマホークとメガスナイパーを合体させ、狙撃銃を完成させる。
メガブルーは建物からわずかに身を乗り出し、目標を見やった。
闇に紛れるためか、標的は黒装束に身を包んでいる。
メガブルーの暗視能力により、狙うには問題ないが、何者かを特定するには至らない。
だが、それでいい。顔を見てしまうと判断が鈍る。
出来る限り、苦しませないように。狙うは頭部。
メガブルーは狙い、そして、撃った。
一筋の閃光となったその一撃は黒装束の参加者の頭部に見事命中した。
黒装束の参加者は崩れ落ち、その長身を大地へと横たわらせている。
あまりにも呆気ない。だが、人の命なんてそんなものなのかも知れない。
メガブルーは顔を伏せ、自らの行いを噛み締めた。
視線の先には漆黒の闇。自分の影が見分けられない。
そのことにメガブルーは何故か恐怖を感じ、背筋が寒くなるのを感じた。
刹那、メガブルーの影が濃くなる。いや、他の影が消え去る。
メガブルーは反射的に上を向いた。
「なっ!」
――ズガン!
雷光が閃いた。
たちまち、ビルの屋上は光に飲まれ、その全てが吹き飛ばされていく。
無論、メガブルーも例外ではなかった。
直撃でこそなかったが、その凄まじい爆風はメガブルーの身体の自由を奪い、隣のビルへと叩きつける。
あまりの衝撃に変身は解け、地面へと落下を始める瞬の身体。
「ちくしょ……」
そこで瞬の意識は途切れた。
▽
「人間だったのか」
黒装束の参加者は落下してきた瞬を受け止めると、その身体をマジマジと見た。
直撃は避けられたようだが、皮膚は破れ、肌は腫れ、服には血が染み込んでいる。
「すまないことをした」
突然の不意討ちに思わず反撃してしまったが、思えばこのようなことは充分予測できたはずだった。
自分の姿は人間からすれば化け物。怯えて、殺害を試みても何ら不思議はないのだ。
黒装束の参加者は自分の身体を見る。
毒々しい緑色をした体躯。頭と肩を覆う真っ白い獣毛。天に届きそうなほどの長身。
いくら黒装束で隠そうとしても、その奇怪な姿は隠しきれるものではない。
彼の名は冥府神ティターン。
地底冥府インフェルシアの伝説にある神々、冥府十神のひとり。
ティターンは命を奪ってしまったことを悔い、彼を葬るために適した場所はないかと周りを見渡す。
「ぐぅ」
「!、まだ生きているのか」
瞬の苦しげな呻きを聞き、彼の命がまだ失われていないことをティターンは素直に喜んだ。
だが、新たな難問にティターンは顔をしかめる。
「どうすれば治療できるのだ?」
考えてみれば、人間の身体の仕組みなど、ティターンはよく知らない。
どこに向かい、何をすれば治療できるのか、彼には検討がつかなかった。
「スフィンクス!」
ティターンは思わず、自分と同じ冥府神である女性の名前を呼んだ。
彼女がこの殺し合いに参加しているのは名簿で確認済みだ。
三賢人である彼女なら人間の身体に精通していてもおかしくない。
「スフィンクス!スフィンクス!!」
それは殺し合いが行われている状況では自殺行為に近かった。
だが、彼は腕の中の命が消え行こうとしているのを見ていると、叫ばずにはいられなかった。
その願いが通じたのか、やがて、その声を聞きつけて、ひとりの男が現れる。
幸運にも殺し合いに乗っていない男が。
「おい、あんた!そんなとこで大声上げて何やってるんだ」
だが、ただひとつ不運だったのは、やはりティターンが人間ではなかったことだ。
掛けられた声に振り返った勢いで、黒装束がずり落ちた。
「お前!」
血まみれの人間を抱える怪物。
この光景を見て、誰が怪物を殺し合いに乗っていないと思うだろうか?
声を掛けた男――巽マトイはその怪物が殺し合いに乗り、人を傷つけたと判断した。
「その子を放せ!――着装!」
マトイの掛け声と共に、ゴーゴーブレスから排出されたアンチハザードスーツが瞬時にその身体を覆っていく。
彼の燃える救急魂を現すかのように、そのスーツの色は赤。
変身が完了すると共に、マトイは新たなる自分の名を名乗った。
「ゴーレッド!」
ゴーレッドはホルスターからファイブレイザーを抜くと、怪物に向けて威嚇する。
「やいやい!その子を早く介抱しろ!」
威勢良く啖呵を切ったはいいが、今の状況はゴーレッドにとって、厄介な状況だった。
怪物の手は人を抱えて塞がっているものの、逆に下手に攻撃すれば、人質に当たる可能性がある。
この場において、命を救うことが最も優先される事象。
どう動けば人質を無事に助けられるか。ファイブレイザーを向けながらもマトイの考えは纏まっていなかった。
「……手当てを頼む」
だが、その状況はあっさりと解決する。
ティターンの目的は元々、瞬の治療が目的。
言動を見れば、マトイが信用に値する人物であることは容易に判断することが出来た。
できれば瞬を傷つけた罪滅ぼしのために同行したいが、それは怪物の自分には過ぎた願いだろう。
瞬をゆっくりと地面へと下ろし、ティターンは踵を返す。
マトイはティターンを撃とうと引き金に手を掛けるが、直ぐにホルスターへと納めた。
背中を向けた相手を撃つほど、マトイは落ちぶれていない。それに――
「優先すべきは人の命だ」
マトイは瞬の近くに腰を下ろすと、瞬の介抱を始めた。
▽
ティターンはその身体を隠すため、深く黒装束を纏う。
それはなんとも便利な服だった。
元々、七色をしていた布だったというのに、身を隠すためにとその身体を覆えば、たちまち色は黒くなり、自分に合った服へと姿を変えた。
ティターンは怪物であることを隠すには気休め程度の役割しか持たないと考えたが、その姿はパッと見、人間にしか見えなかった。
確かに異様な巨漢ではあるが。
「よし、行くとするか」
ティターンは決意を新たに、街の中心へと歩き出す。
数分前から身体が急激な疲れに襲われ始めていたが、彼の歩みを止める理由にはならない。
自分の命は惜しくない。絶対神ン・マの依り代になり、一度は失った命だ。
だが、この殺し合いに参加を余儀なくされた人間たちの命は失いたくない。
しかし、怪物の姿をした自分が人間たちを守ろうとしても、怯えさせてしまうだけ。
冥府神である自分がこの場において出来ること。ティターンはそれを必死に模索していた。
その結果、ティターンはスフィンクスを探すことにする。
彼女なら、この殺し合いを止めさせる方法を導き出すことができるはずだ。
スフィンクスの居場所に宛てはなかったが、座していても始まらない。
「バウ」
突然、走るティターンのディパックから鳴き声が聞こえたかと思うと、銀色の影が飛び出した。
バウと吼えたそれは犬の姿をしていた。ただし、かなり硬質的な犬だが。
「戻れ、危ないぞ」
捕まえようとするティターンの手をすり抜け、犬は南西へと走り出した。
「おーい。ええい、仕方ない」
人間と同じく、ティターンには犬も大切なひとつの命。
ティターンは中心へ行く道を諦め、犬の後を追った。
【名前】並木瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:G-7都市 1日目 深夜
[状態]:全身打撲。気絶中。2時間変身不能。
[装備]:デジタイザー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:元の世界に戻って、夢を叶える
備考:瞬のディパックはG-7エリアのどこかに吹き飛ばされました。中身が無事かは不明です。
また、中身の内容は不明ですが、瞬は確認済みです。
【名前】冥府神ティターン@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage46(ン・マの依り代にされた)後
[現在地]:G-7都市 1日目 深夜
[状態]:健康。2時間戦闘不可。
[装備]:ウラノスとガイアの怒り、黒装束(虹の反物@轟轟戦隊ボウケンジャー)
[道具]:マーフィーK-9@特捜戦隊デカレンジャー、ディパック、支給品一式
[思考]
基本行動方針:命を守る
第一行動方針:犬(マーフィー)を追う。
第二行動方針:スフィンクスを探す
備考:ティターンは虹の反物の特別な能力に気付いていません。
【名前】巽マトイ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:未来戦隊タイムレンジャーvsゴーゴーファイブ後
[現在地]:G-7都市 1日目 深夜
[状態]:健康。変身中。
[装備]:ゴーゴーブレス、レスキューロープ
[道具]:確認済み。
[思考]
基本行動方針:みんなを救う
第一行動方針:瞬の手当て
最終更新:2018年02月11日 01:19