サーガイン Is murder? ◆i1BeVxv./w
「てぇぇぇぇい!」
「うぉぉぉぉっ!」
雄叫びと共に四本の刃がぶつかり合い、火花が散る。
奇しくも二人の装備は一対の刃という共通点をもっていた。
巌流剣――佐々木小次郎が創始した流派の名を持つ一対の剣。
佐々木小次郎の名刀・物干し竿の如く、その刃は長く伸び、小次郎のライバル宮本武蔵の兵法・二天一流の如く、二刀を用いる。
扱うもののふは暗黒七本槍・五の槍サーガイン。
ツインベクター――30世紀の技術で創られた様々な機能を内包する一対の剣。
時計の長針の如き、長剣・スパークベクターと時計の短針の如き、短剣・アローベクターを合体させた両刃刀。
それを自在に扱うのは元グラップラー、タイムイエロー・ドモン。
巌流剣を袈裟懸けに振り下ろせば、ツインベクターでそれを受け止め、ツインベクターを横に薙げば、巌流剣はそれを受け流す。
まさに一進一退の攻防。その二人の戦いを見守るひとりの女性――小津深雪。
二人が何故、刃を交えることになったのか?
そして、何故、小津深雪はそれを見守ることになったのか?
それは数分前に遡る。
▽
支給品と状況の確認を終えたサーガインは今後の方針を練っていた。
自分はどう動くべきかを。
(まずはっきりさせておくことはあのロンとかいう男の言葉に従うか、従わないかだ。……考えるまでもないな)
優勝すれば願いを叶える。魅力的な申し出だ。それが本当なら『アレ』を入手することができるかも知れない。
だが、『アレ』の入手は自分の技術力があれば、いつかは叶えられることだ。
それにロンがそれだけの力を持っているのかにも疑問が残る。
仮に持っていたとしても、それならそれで、捕らえてジャカンジャの戦闘員にするもよし。その力の要因を調べる実験動物に使ってもよし。
(俺は従わない。この俺をこのような所に閉じ込めたことは褒めてやろう。だが、直ぐに俺をここに連れてきたことを後悔させてやる!)
サーガインの方針は打倒ロンで決まった。
そうと決まれば、次にやることも自ずと見えてくる。
自分がロンの命令に従わなければならない唯一の枷を解き放つこと。首輪の解除だ。
(自らの首輪を解析するわけにもいくまい。まずは解析用の首輪を手に入れることが先決だな)
その時、サーガインの耳に何者かが近づいてくる足音が届いた。
(ふふっ、なんともいいタイミングだ。やはり偉大なる科学者には天も味方する。
飛んで火にいる何とやら。早速、首輪が手に入るぞ)
サーガインは物陰から様子を窺う。
足音の主は白いワンピースを着た女性。年の頃は30代半ばぐらいだろうか。
随分と清楚な印象を受けるが、その足取りはこんな状況だというのに力強い。
(ふむ、まだ始まったばかりだというのに、あの力強い足取り。それなりの実力を持っている者と見た!
しかーし、如何に実力者といえども、このサーガインの敵ではあるまい!)
サーガインは両の肩に装着された巌流剣に手を掛け、襲撃を決意する。
(油断はしない。考えうる最高のタイミングで、完璧な不意討ちを行う!)
距離にしてサーガインと女性との間は10m。この距離が0になるまでおよそ5秒。
0になった瞬間を狙い、女性の頭部に巌流剣を叩き込む。女性は即死。後はゆっくりと首を切断すればいい。
(苦しまぬように殺してやるのがせめてもの情けよ。5……4……3……2……1……今だ!)
サーガインは物陰から飛び出した。その瞬間――
――ゴチン!
何かが彼の頭を直撃した。
(なにぃぃぃぃぃっ!)
サーガインはその何かを確認する間もなく、頭部を強打した衝撃に尻餅をつく。
サーガインの本体はりんご程度の大きさの蟻のような生物であり、普段の姿は彼が操縦するクグツに過ぎない。
よって、クグツの頭部が強打されても彼自身に痛みは伴わない。しかし、突然の尻餅は彼の後頭部を強かに操縦席に打ちつけた。
「痛い!痛い痛い!」
サーガインは頭を抱え、のたうち回った。
▽
一方、サーガインの頭にぶつかった何か。タイムイエロー・ドモンも地面に倒れると、おでこを抑え、痛みを堪えていた。
「一体なんだよ、これ」
ドモンの嘆きも尤もといえる。
凶悪犯罪者ブラスター・マドウとの戦いに勝利し、危機を乗り越えたと思えば、殺し合えと耳を疑うような命令。
そして、嫌々ながらも門を潜れば、いきなりおでこに強烈な一撃。
ドモンの心は絶望へと落ちていった。
(考えて見れば、俺はグラップラー。そんじょそこらの奴には負けない。いっそのこと、殺し合いに乗ってみるか)
自暴自棄に陥る
ドモン。そんな
ドモンのおでこに布が掛けられた。
「大丈夫ですか。さあ、これを」
冷たい。水を含んでいるようだ。その布と共に添えられた柔らかい手が徐々に痛みを消していく。
そして、痛みが消えいくと同時に
ドモンの心にも安らぎが戻ってきていた。
(ったく、殺し合いに乗るなんて、随分と馬鹿なことを考えてたぜ。俺はグラップラー。殺し屋じゃない)
やがて、痛みが気にならない程度に消えた頃、
ドモンは添えられた手をやさしく掴んだ。
「もう、大丈夫です。ご心配、お掛けしました」
上体を起こす
ドモン。布がはらりと落ちた。一瞬にして
ドモンの心は恋の炎に包まれた。
(……天使だ)
それはその女性が美人にカテゴライズされる程の容姿を持っていたためか、それとも吊り橋効果と言うべきか。
とにかく
ドモンは――
「俺は
ドモン。俺に、あなたを守らせてください!」
眼の前の女性。小津深雪に惚れた。
ドモンに突然、手をギュッと握られた深雪は年甲斐もなく、少し頬を染めた。
だが、眼の前の青年は彼女の息子らと何ら変わりのない年齢。
すぐに冷静さを取り戻し、
ドモンに声を掛ける。
「ありがとう。もう大丈夫そうですね」
深雪は微笑み、自然にその手を引く。
ドモンがまるで玩具を取り上げられた子供のように呆けた顔をしたが、あえて深雪はその顔を見ないように踵を返す。
深雪の視線の先には地面に倒れるサーガインの姿。先程からピクリとも動かない。
見た目はロボットのように見えるが、そういう造形の生命体の可能性もある。
深雪は彼の無事も確かめたかった。
「大丈夫ですか」
▽
「大丈夫ですか」
その声にサーガインは覚醒した。
痛みに悶えている間に、気がつけば標的は眼の前まで来ていた。
巌流剣は抜かれておらず、その手に武器は握られていない。
(ぬぉぉぉっ、不意討ちするつもりが、逆に不意を突かれるとは。いや、待て、落ち着け。
この女はなんと言った?大丈夫ですか?つまりこの女は俺の心配をしているということか。
……これは使える)
サーガインは漣立った考えをまとめると、言葉を紡ぐ。
「大丈夫だ。心配をお掛けしたようだなご婦人。礼を言う」
努めて紳士的に、サーガインは立ち上げると深雪に一礼した。
(不意討ちは失敗したが、それならそれで情報を仕入れるまでよ。情報を制するものこそ、戦いを制する。
所詮は女ひとり。利用しつくした後、隙を見て、殺せばいい)
サーガインはメカのボディの中で不適に笑い、深雪の手を取ろうとした。
「待て!」
制止する声と共に、
ドモンがサーガインと深雪の間に割って入る。
「なんだ、お前は」
「怪しいな、お前。何か企んでるんじゃないか?」
(ギクッ!)
「ふん、いきなり不躾な奴だ。俺は宇宙忍群ジャカンジャ、暗黒七本槍のひとり。五の槍サーガイン。
俺の目的はロンの打倒。怪しい者ではない!」
内心動揺しながらも、それがまったく出ないのがメカのボディのいいところだ。
冷静を装い、名を名乗る。だが、
ドモンの眼つきは鋭いままだ。
「宇宙忍群?暗黒七本槍?ネーミングから言って、充分怪しいじゃないか。
大体、俺に頭突きして来たのお前だろ!いきなり攻撃してきて、何が怪しい者じゃないだ」
「頭突き?そうか、お前か。いきなり俺の前に飛び出して来たのは……」
後頭部が再びズキズキと痛み出す。
サーガインは両肩から巌流剣を抜いた。
ドモンも拳を握り締めて、構えを取る。
緊迫した空気が二人の間に流れた。
「やめてください!」
その緊張した空気を深雪が打ち破った。
「お二人の衝突は事故です。
ドモンさんが、移動していたサーガインさんの前に現れてしまっただけで故意によるものではありません。
お二人とも、殺し合うつもりがないなら、治めてください」
深雪の説得にサーガインは思案する。
殺し合いに乗ってはいないが、邪魔者を殺すことに躊躇いはない。
冷静に交渉できそうな深雪は生かしておいてもいいが、見た目といい、言動といい単細胞な
ドモンは後々、邪魔者になり兼ねない。
それに最低ひとりは殺さないと首輪は手に入らないのだ。
サーガインは巌流剣を握りなおし――
「お前は気に入らんが、ご婦人に免じて、ここは退くとしよう」
――両肩へと納めた。
ドモンもサーガインの様子を見て、構えを解いた。
(くっ、優先されるべきは情報だ。偉大なる科学者は無駄な戦いはしないのだ)
▽
その後、サーガイン、
ドモン、深雪の三人は簡単な自己紹介の後、互いの情報を交換する。
自分の知り合いの名前と特徴。その人物が殺し合いをするような奴かどうか。
サーガインは
ドモンから『
浅見竜也』と『
シオン』の情報を、深雪からは『小津勇』『小津麗』『ヒカル』『ドギー・クルーガ』『白鳥スワン』『ティターン』『スフィンクス』『バンキュリア』の情報を得る。
名簿に綴られているサーガインの知り合いは『フラビージョ』と『シュリケンジャー』のふたり。
サーガインもその名前と特徴を二人に伝えた。ただし、多少の歪曲は加えてだ。
「フラビージョは俺と同じ暗黒七本槍のひとりだが、思慮の浅いところがある。よって、殺し合いに乗る可能性もあるやも知れん。
だから、もし見かけるようなことがあれば、逃げた方がいいだろう。
あとはシュリケンジャーだが、こいつは要注意だ。変装の達人で普段どのような顔をしているのかはわからん。
性格は残虐非道。その変装技術を活かして、暗殺を行う危険な男だ。こいつは確実に殺し合いに乗っている」
サーガインが恐れるのはフラビージョとシュリケンジャーから自分の情報が漏れることだ。
情報の流出を避けるためには会わせないのが一番。危険人物ということにしておけば、おいそれと話し合うことはしないだろう。
(さて、聞きたいことは大体知れた。もうこの二人に用はないわけだが、どうしたものか)
サーガインが優先したいのは首輪の奪取。だが、2vs1になるのは出来るだけ避けたい。
負ける気はしないが、手傷を負っては今後に響く。それにどちらか片方に逃げられでもしたらそれこそ厄介だ。
(ならば、ここは……)
「さて、これからの行動について提案なのだが、何も三人一緒に行動することはあるまい。
ここは分かれて行動するべきだ。その方が意中の相手も早く見つかる」
「へぇー、お前にしてはいいアイディアだな」
サーガインの提案に
ドモンが同意する。
(ふふっ、馬鹿め。1vs1になればこちらのものよ。隙を見て、首輪を我が物に……)
「では、深雪さん、行きましょうか」
「って、ちょっと待てぇぇぇぇ!」
「ああ、待ち合わせ場所、決めなきゃな。 F5エリアにしよう。ここならわかりやすい目印もあることだし。
俺たちはここから東に行くから、お前は北に行け。それじゃあな」
深雪の手を取って、そそくさと歩き出そうとする
ドモン。このままだと、サーガインの予定が狂ってしまう。
思わずサーガインは深雪の空いた手を握った。
「待て、深雪殿とは俺が行く」
「ははぁ~、さてはお前、深雪さんに気があるな?残念だが、先に声を掛けたのは俺だ。
こういうのは速いもの勝ちって、相場が決まってるんだ」
その勝手な物言いに、サーガインのそれほど高くない沸点がついに振り切れる。
(わけのわからないことを言う奴だ。だが、それに乗ってやる!!)
「引っ込んでいろ。麗しい女性を守るのは"強い"男の務めだ!」
あえて『強い』という部分を強調する。
(単細胞な男なら次の言葉は……)
「ほぉ、俺よりお前の方が強いって言いたいのか?」
(そうなるだろう。そして、それに対しての俺の言葉は……)
「そう聞こえなかったか?」
ドモンの眼つきが鋭くなる。もうサーガインも退く気はない。
深雪も止めても無駄だと察したのか、制止の声は上げなかった。
「丁度いい、軽く腕試しといくか。勝った方が深雪殿と同行する」
「いいぜ。恨みっこ無しだ」
ディパックを深雪の前に置き、互いに一定の間合いを取ると、二人は戦闘の準備を始める。
サーガインは両肩から巌流剣を抜き、
ドモンは服を脱ぎ捨てる。
「なんだ、その格好は?」
服を脱ぎ捨てた
ドモンの格好は黄色い線の入った灰色のタイツという奇妙な姿に変わっていた。
「見てな!……クロノチェンジャー!」
腕をクロスさせ、左手首に装着されたクロノチェンジャーのボタンを押す。
大地を蹴ると、一瞬にして
ドモンの周りに亜空間が構成され、その中で
ドモンに黄色いスーツを装着させていく。
「貴様は!」
「タイムイエロー!」
左手に右手を添え、ポーズを決める。
「よもや、そのような力を隠していたとは。先程の情報交換では一切なかったはずだが」
「初対面の奴に自分の切り札を話すほど、俺も馬鹿じゃないってことだ」
「なるほど。言えているな。では、それが隠すに値する切り札かどうか、試させてもらうか!」
サーガインは巌流剣を構え、一直線に突進する。
「ダブルベクター」
タイムイエローの声により召喚される一対の剣。タイムイエローはその柄の部分を繋ぎ合わせると、両刃剣――ツインベクターに合体させた。
振り下ろされる巌流剣。タイムイエローはそれを一度受け止めると、重心をずらし、左へと受け流す。
「何!?」
バランスが崩され、身体の正面ががら空きになるサーガイン。
タイムイエローはそのがら空きになった胸に渾身のパンチを打ち込んだ。
「うりゃぁぁ!」
ふっ飛ばされるサーガインの身体。
だが、サーガインもただ受けたわけではない。
当たる瞬間に後ろに跳び、衝撃を最小限に抑える。
それに気付いたタイムイエローは追撃を行うため、既に駆け出していた。
「甘いわ!」
サーガインは巌流剣を打ち合わせる。すると、たちまち巌流剣は発光を始める。
思いっきり振ると同時に撃ち出される光線はタイムイエローの右肩に命中し、その足を止めた。
その隙を狙って、サーガインは体制を立て直し、間合いを取る。
(こいつ)
サーガインはタイムイエローを甘く見すぎていたことを反省すると、再び巌流剣を構えた。
▽
「てぇぇぇぇい!」
「うぉぉぉぉっ!」
雄叫びと共に四本の刃がぶつかり合い、火花が散る。
二人の一進一退の攻防は続く。最初こそ不覚を取ったが、剣術ならサーガイン方が上だ。だが、タイムイエローにはグラップで培った格闘術と経験がある。
結果、互いに相手に決定打となる一撃を与えられるまま、時が流れていた。
「ちっ、どうやら口だけじゃないようだな」
「当たり前だ」
サーガインはタイムイエローの賛美に胸を張った。しかし、心中は穏やかではない。
(こいつ、予想外に強い。こんな奴がまだ数十名いるかも知れんとは)
「そろそろ決着をつけてやるぜ」
(それは同意したいところだが、後々のことを考えるとダメージは避けたい。何か方法は……)
タイムイエローの攻撃を受けつつ、サーガインは楽に目の前の敵を倒す方法を模索した。
そんなサーガインの眼に入ったのは、深雪の近くに置かれたタイムイエローのディパック。
「あれだ」
サーガインは左手の巌流剣を投げた。タイムイエローにはあっさりとかわされるが、構わない。
タイムイエローとの距離を広げるのがそもそもの目的だ。次の一撃に繋げるために。
サーガインは隠し持っていた自らの支給品を手にした。
「ドライガン」
サーガインにとっては憎き仇敵であるハリケンレッドの武装だが、使える道具であれば使うことに一点の迷いもない。
そして、今、このタイミングで最も適した武装がこれなのだ。
「くらえ」
銃の形状をしたそれに、タイムイエローは避けられるように銃口を見つめた。
瞬時にタイムイエローは気付く。その銃口が向けられた先が自分ではないことに。その銃口の先は――
「深雪さん!?」
放たれる熱風弾。一直線にその弾は深雪がいる方向に向かい、彼女の横に置かれたタイムイエローのディパックを焼いた。
「なっ!」
深雪が無事だった喜びと、自分のディパックが燃えている驚きにタイムイエローの頭は真っ白になった。
「隙ありぃぃぃぃぃ!」
それこそがサーガインの狙い。深雪に敵意を持たれず、
ドモンに驚愕をもたらす。完璧な作戦だった。
巌流剣がタイムイエローに振り落とされる。
ただ、サーガインの計算にもひとつだけミスがあった。人の感情を計算できなかったこと。
「マジュナ」
深雪のマージフォンから発生した冷気がたちまちサーガインの右腕を凍らせる。
「こ、これは」
「このぉ!」
気を取られていたサーガインに打ち込まれるタイムイエローの拳。
最初の一撃と同じ場所に打ち込まれたその一撃はサーガインを沈黙させるには充分だった。
▽
「何故だ!何故、邪魔をした深雪殿」
戦いを終えたサーガインは深雪に詰め寄る。
「私は二人の戦いの邪魔をするつもりはありませんでした」
「しかし、現にあなたは邪魔を」
「分かり合うためなら、拳を交えるのも時には必要だと思います。ですが、あなたの戦い方は決して勇気に変わるものではありません。
少しだけ考えてみてください。正しい心はきっと勇気に変わり、勇気は何者にも負けない力になります。
この残酷な殺し合いを生き抜くためにはそんな力が必要になる気がするんです」
「クッ!」
サーガインは苦悶の声を上げ、顔を伏せる。
「深雪さんとは俺が行く。文句はないよな。ディパックが焼けてしまって、地図がない」
「好きにしろ」
「ああ、好きにするさ。深雪さん行きましょう」
ドモンは深雪と共に歩き出す。
その後ろ姿を見て、サーガインは隙だらけだなと感じた。
(フッフッフッ、フッハッハッハッ。この俺に説教とは。こうなれば、あの二人を今ここで亡き者に!)
利用してやろうという考えはサーガインの中で消えていた。ただ、恥をかかされた悔しさをここで晴らしてやることのみを考えていた。
サーガインは二人を焼き尽くすため、ドライガンを握ろうとする。だが、その手は虚しくも空をきった。
(ど、ど、ど、どうしたことだ、急に力が)
サーガインの身体から急速に力が抜けていく。クグツの故障ではない。サーガイン自身の力が抜けていた。
先程までに自在に動かせていたクグツはまたたくまに操縦不可能な状態に陥り、まるで燃料が抜けたかのように大地に突っ伏した。
具体的に書けば『orz』な格好だ。
(まずい、今、この状態で誰かに襲われたら)
「一部始終見させてもらったぜ」
「!!」
サーガインに声が掛けられる。
(な、なんというタイミングだ)
「あれはまずかったな。勝つためとはいえ、卑怯な戦い方は嫌われるもとだぜ」
(ぬぅ、戦いの最中から見ていたということか。だというのに、その視線に気付かんとは、不覚)
「だが、お前の気持ちもわからんでもない。どうしても勝ちたかったんだよな」
(当たり前だ。どんな手を使っても勝たねばそこで終わり、まさに今の状況がそれだ。ぐぅぅぅっ、身体さえ動けば……)
「わかる、わかるよ、お前の気持ち。変わりと言っちゃ何だが、お前とは俺が組んでやる」
「……なに?」
サーガインには意味不明の提案だった。
(こいつ、俺を殺しに来たのではないのか?)
サーガインは身体の力を振り絞り、その顔を上げた。
彼の眼の前には快活そうな銀色のジャンバーを着た男が立っていた。
男はサーガインの肩をポンっと叩く。
「何も言うな。わかってるって。失恋に心が折れそうになってるんだろ。だが、まだ諦めるには早いぜ。
名誉挽回のチャンスはきっと来る。まずはお前が出来る男って言うのを見せてやろうぜ」
(もしや、こいつ、俺があの女に惚れていて、それでショックを受けてると思っているのか?
ハッハッハッ、なんとも馬鹿な男だ。だが、勘違いしているなら、丁度いい。奴らの代わりに利用しつくしてくれるわ)
「願ってもない申し出、感謝する。俺はサーガインだ」
「俺は早川裕作、宜しくな」
疑惑を持たれた教訓から、ジャカンジャの部分を端折って自己紹介をしたサーガインに対し、裕作も最初の印象そのままにハキハキと自己紹介を返した。
(こいつも単細胞そうな奴だ。使える、使えるぞ)
サーガインはまだ知らない。早川裕作がI.N.E.T.特別開発班のチーフを務めるほどの聡明な人物であることを。
そして――
「おっ、燃え残りがあるぞ」
ドモンのディパックの燃えカスから、裕作は支給品を発掘する。それはある伝説の生物の鱗だった。
サーガインの前途は暗い。
【名前】五の槍サーガイン@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三中(ガインガイン敗北後、サーガインに敗れる前)
[現在地]:J-2港町 1日目 深夜
[状態]:健康。クグツの胸部に凹み。二時間戦闘不能。
[装備]:巌流剣、ドライガン@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:火竜の鱗@轟轟戦隊ボウケンジャー
[思考]
基本行動方針:ロンの打倒
第一行動方針:首輪を手に入れる。
【名前】早川裕作@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:34話後
[現在地]:J-2港町 1日目 深夜
[状態]:健康。
[装備]:ケイタイザー
[道具]:未確認
[思考]
第一行動方針:サーガインの力になる
備考:メガシルバーの変身制限時間は2分30秒のままです。
【名前】
ドモン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:Case File20
[現在地]:J-2港町 1日目 深夜
[状態]:右肩に軽症。二時間変身不能。
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:深雪を守る。
第一行動方針:仲間達の捜索のため、東へ進む
備考:
ドモンのディパックは燃え尽きました。
【名前】小津深雪@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:FinalStage後
[現在地]:J-2港町 1日目 深夜
[状態]:健康。
[装備]:マージフォン
[道具]:確認済
[思考]
基本行動方針:麗たちの捜索
第一行動方針:捜索のため、東へ進む
最終更新:2018年02月11日 01:28