ワイルドスワン・クールブレイン ◆MGy4jd.pxY



冷たい夜風が吹き荒れる。
愛用の白衣と、美しい髪を風に靡かせ、森林を歩く女。
白い羽の髪飾りを、しなやかな手で庇いながら、軽やかに木々の間をすり抜けて行く。
もちろん、夜の散歩を楽しんでいる訳ではない。

(犠牲者を最小限に止め、尚且つここから脱出する為、私に出来る事)

白鳥スワンは、冷静に活動を始めていた。
この異常事態において、メカニックのスワンが成すべき行動は……
『人命救助の為、逸早く首輪を分析、解除する』事だ。
名簿と地図は、すでに確認を済ませている。
詳細によれば、スワンの支給品は三つ。
デイバックに入っていたのは、その内の一つ、琥珀色の香水『キラ・コローネの作った人間香水』だけだった。
手にした紙には、残りの支給品の『炎の騎馬』と『亡国の炎』の隠し場所が示されている。
隠し場所は、スワンが飛ばされた場所からさほど離れていない。
時折、地図を確認しながら、スワンは砂漠の方向へ歩を進めていた。
紙に書かれた通り、鬱蒼としていた森林の木々が、徐々に途切れ始めた。
目印代わりに置かれた、光炎を放つ土器。
そこから、数メートル先の一際大きなアカシアの木の下、闇と見紛う黒いシート。

「これね」

スワンは、シートを勢い良く剥いだ。
小型の土器で燃えている火が、おそらく『亡国の炎』
その炎が照らすのは、火炎形のフルカウルに包まれたマシン『炎の騎馬』だった。
細部を観察し、頭の中で展開図を開く。
構造さえ分かれば、乗りこなすのはさほど難しく無い。
地図から推し量ると1エリア四方は3、4キロ。
移動手段は必要だった。
そう、ドギーや地球署の仲間と、そして家族を殺された深雪達と、早く合流する為にも。

「……ドゥギー」

スワンは最愛の男であり、無二の親友であるドギー・クルーガーの名を呟く。
広間の様子からすれば、このバトルロワイヤルに嬉々として乗る者の存在は否めない。
図らずも、戦いに巻き込まれる事があれば、ドギーは危険を顧みずに立向かっていくだろう。
スワンはドギーの雄姿を思い浮かべた。
彼の心に燃える火は、悪人どもには地獄の業火。
ドギーが無益な殺し合いを目の前に尻尾を巻いて逃げる筈が無い。
だが、ロンには悪を裁く正義の戦いも、楽しみの一つに過ぎない。
このバトルロワイヤルの目的、それは退屈しのぎなのだから。
その対象は、参加者同士の『殺し合い』だけでは無い筈だ。
脱出を企む参加者の動向、そして、それが失敗に終わった時の失意や絶望、そのすべてを貪る気なのだ。
盗撮、盗聴、スパイ……見物を楽しむ為の用意を、きっと、周到に幾重にも張り巡らせている。
ランダムに支給される品も、余興を盛り上げる小道具。
もとより、スワンはそんな余興に付き合うつもりはさらさら無い。
ならば、殺し合いに利用される前に壊してしまえばいい。
人間で作った香水に興味など無い、一国を焼き尽くす亡国の炎もスワンには必要無いのだ。
スワンは、デイバックから琥珀色の小瓶を取り出し、亡国の炎へ投げ入れた。
そして、姿無き観察者へ向け『宣戦布告』した。

「これは、反撃の狼煙よ。首輪は必ず外して見せるわ。それが、私なりのバトルロワイヤルなの」

颯爽と白衣を翻し、炎の騎馬に跨った。
亡国の炎が螺旋を描き、琥珀色の瓶を覆う。
炎熱が中の液体の温度と圧力を上げる。
スワンが爆音を上げて走り去った時、瓶内部の圧力が限界点に達した。
液体が瓶を破砕する。
瞬時に気体と化した人間香水が大気に拡散した。
亡国の炎はそれを逃さない。
白煙を吐き散らし天高く舞い上がる火竜となって、すべて飲み込んだ。




追い風に乗って、白煙がスワンを追い越していく。
九十九折りの林道を抜けたその先には、砂漠が広がっていた。

「方向、変えたほうが良さそうね」

市街地の方角へ目を向けた時、視界の端に黒い人影が映った。
こちらへ近づいてくる、黒装束を纏ったその姿は見覚えがあった。
『理央』ロンにそう呼ばれていた青年。
理央が発したのはたった一言だけだったが、唸る様に搾り出された声がロンに対する怒りを露にしていた。
意味深なロンとの会話、二人の間には何か複雑な事情がある。
一見した所の印象はそうだった。
実はそう見せかけて、理央はスパイで、ロンとのやりとりが仕組まれた物だとしたら……

(ねぇ、ドゥギー。私一人で接触するのは無茶かしら?でも非常事態よ、仕方ないわよね。それに、無茶は地球署の専売特許だもの)

スワンは充分な距離をとり、炎の騎馬を止めた。
胸で心臓が早鐘のように鳴り響いていた。



【名前】白鳥スワン@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:第46話『プロポーズ・パニック』後
[現在地]:D-10砂漠 1日目 深夜
[状態]:健康 
[装備]:SPライセンス
[道具]:炎の騎馬、支給品一式
[思考]
基本方針: 首輪を解除する
第一行動方針:地球署の皆&深雪の家族と合流する

【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:D-10砂漠 1日目 深夜
[状態]:健康 ロンへの怒り
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:北西の森へ進む。

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最終更新:2018年02月11日 01:29