青い炎とレスキュー魂 ◆MGy4jd.pxY
――ちくしょ……落ちる!!
閃光、爆風、そして……
落ちて行く体を止めようと、瞬はぐんと手を伸ばす。
だが、何も掴める筈も無く、その手は空しく宙を泳いだ。
途端、もがく体を強い痛みが制す。
(痛ッ!)
痛みがあやふやだった頭を瞬時に現実へ引き戻した。
(なんだよ、これ……)
頬はジンジンと焼けるような熱さを放ち。
激しく脈打つ血流は、一拍ごとに痛みに拍車を駆け、ドクンドクンと皮下で暴れまわる。
顔面に入り混じる痛みと熱さ。
その源である、瞬の右頬に湿った生臭い『何か』が張り付いている。
濡れたタオルようにべたり、と隙間無く密着する感触。
(気持ち悪い……)
それを退けようと手を掛けると、筋張った男の手に触れた。
(誰だ、誰なんだ。まさか、さっきの黒装束!?)
サッと全身から血の気が引いた。
逃れようと、体を捩り仰け反る。
その度に腕に、足に、筋肉にビキビキと裂けるような激痛が走る。
苦痛を伴う抵抗も、無情なる手の主に許す気は無いようだ。
動けば動くほど、顔面はより強く押さえつけられていった。
(こいつ、頭を撃った仕返しにこのまま潰す気だ!)
生きたまま、意識のあるまま、潰される。
不当な行為の報復とはいえ最悪の結末、血の気が引く処では無い。全身が粟立った。
男は力を緩めぬまま、必死にもがく瞬の肩を押さえつけた。
「オイ、動くな!傷口が開いちまうだろっ」
瞬の耳元すぐの所で、男が怒鳴った。
続けて肩を叩かれる。
「しっかりしろ!もう出血も止まる」
その声と共に顔面を覆っていた物が反転した。
ふわっと優しく顔を包んだのは白いタオルだった。
切れ端は瞬の血液で赤く染まっていた。
自分を気遣う生身の感触に、瞬はやっと今の状況を理解した。
(助けてくれたのか?)
そう言ったつもりだったが、意志に反して言葉にならない。
「うぁ~~ッ」
苦しげな呻き声が、口から漏れただけだった。
「無理に喋らなくていい。頷くだけでいいんだ。自分が誰か解るか?何が起きたか覚えてるか?」
瞬は言われるがまま頷いた。そして、声を振り絞りやっとの思いで言葉を紡ぐ。
「あぁ……あの…黒い…奴は?」
「心配すんな。もう大丈夫だ!」
不安を打ち消す快活な声が返ってきた。その声に瞬は、目を覆っていたタオルを退けた。
白い十字で飾られた赤い仮面、バイザーの下で精悍な男が微笑んでいた。
安堵した瞬は、腹の底から大きく息を吐いた。
そして痛みに身を任せ再び意識を失った。
‡
意識を失っていた瞬は柔らかなソファーの上で目を覚ました。
暫く見慣れない天井を見つめていたが、天井から壁は、壁から室内全体へゆっくりと視線を動かした。
窓に吊されたロールブラインドの隙間から見える看板の文字でここが瞬の居たビルの一階であることが解った。
それ以外に、何も得る物はない。
絨毯敷きにソファーとテーブルがあるだけで『応接室』そう呼んで来客を迎えるには些か殺風景な部屋だった。
壁には絵画一枚飾られておらず、粗末な掛け時計が部屋の主のように鎮座していた。
掛時計の白い文字盤に浮かび上がる針が示すのはちょうど午前4時。
明け方が近いとはいえ、窓の外はまだ薄暗く、ロールブラインドで遮蔽された室内は、常夜灯と隙間から差し込む街頭の明かりがぼんやりと照らしていた。
ソファーと対で置かれたテーブルの上には、瞬を助けた男が用意しておいたのか、蓋の開いたミネラルウォーターのペットボトルがあった。
ゴクリ、瞬の喉が鳴った。
熱風で喉を焼かれたのか、口の中はカラカラだった。
喉の渇きを潤そうと、瞬はペットボトルに手を伸ばした。
ズキン!
電撃が走ったように体が痛んだ。
体を縮めた拍子に、手がペットボトルを弾いた。ペットボトルは床に転がり絨毯に水が染み込んでいく。
喉に染みこみ、唇を潤すはずだった水。
見る内に水溜まりが広がった。
(ちくしょう!一人戦うたびに、こんなにリスクを負ったんじゃ洒落にならない)
手を伸ばす、体を起こす、何でもない日常の動作さえも鈍痛が伴う。
施された応急処置が良かったのか出血こそ止まっていたが、全身に出来た痣は腫れて熱を持っていた。
喉の渇き、生まれて初めて味わう苦痛、それは沸々とやり場のない怒りへ変わる。
苦痛に耐える支えはただ一つ。
『夢を叶える』
それだけだった。
「気が付いたか?」
ペットボトルとタオルを手に、さっきの男が奥のドアから出てきて瞬に声を掛けた。
オレンジ色のレスキュー隊服の男、彼はゴーレッド、巽マトイと名乗った。
(レスキュー隊か。俺たちの税金で働いてるんだから助けて当然だよな)
そう、瞬は当然、自分を襲った黒装束をゴーレッドなるマトイが倒し、その後、助けてくれたのだろうと思った。
(俺をこんな目に合わせたんだ。倒されて、いや、殺されて当然、ざまあみろだ)
参加者を殺すことを考えても、良心の痛みなどもう感じなかった。
マトイは床に転がった空のボトルを見て察したのか、瞬にもう一本のミネラルウォーターを差し出した。
瞬は両手で受け取りゴクゴクと喉を鳴らし一気に飲み干した。
人心地付いた瞬は、マトイをジッと見つめた。
(とりあえず礼ぐらい言っとくか)
「あの、俺、並木瞬です。助けてくれて、ありがとうございました」
「あぁ、瞬、よろしくな。だが俺はお前を助けたんじゃねぇ、お前の世界の未来を助けたんだ。
見た所、学生みたいだが、左手に着けてる『それ』見てピンと来たぜ。お前も平和を守るために戦ってんだろ?」
マトイは瞬の左手に装着されたデジタイザーを指差した。
(世界の未来を助ける?平和を守るために戦う?そんな事に使うんじゃない。俺の夢を叶えるために使うんだ)
瞬はデジタイザーに視線を落とし、フッと鼻で笑った。
「俺は、メガレンジャー、メガブルーでした」
「でしたって何だよ?あぁ、平和が戻ったのか」
「いえ、降りるつもりだったんです。だからこれは、もう俺にとってここで身を守るための道具でしかないんです」
「はぁ?」
訳が分からないと言った様子のマトイに、瞬は成り行きでメガレンジャーになった事、そしてこのバトルに巻き込まれ、黒装束に襲われるまでの経緯を話した。
無論、自分から狙撃した事は伏せておくことにした。
「俺の知り合いはいないし、どうしたものかとビルの屋上で様子を探ってたんです。その時、襲われて」
「わかんねぇな」
それまで黙って聞いていたマトイが眉を顰め口を挟んだ。
「何がですか?」
今度は瞬が眉を顰める。
「お前を襲った意味がだよ。あいつはお前の手当を頼むと言っていたぜ」
マトイの言葉は瞬にとって意外な一言だった。
(手当を頼むだって?どうなってるんだ。あいつを倒したんじゃないのか?)
先程の黒装束が生きていて、しかも殺し合いに乗っていないとすれば、瞬が狙撃したことを隠しているのは、後に自分の首を絞めることになりかねない。
(こんな事に巻き込まれたんだ。わざとじゃない、威嚇のつもりだったと言えば責めはしないだろう)
瞬は後悔しているように俯いたまま重々しく低い声で言った。
「身を守ろうと、銃を構えていたんです」
「構えて……へぇ。それで急に向かってきた奴が怖くなっちまって銃口を向けたってのか?あいつがお前を殺す気だったならわからねぇでもねえがな……本当にそれだけか?」
マトイの声が微妙に変化した。
瞬は焦った。言うべきではなかった。頭に命中したのは隠しておいた方がいいだろう。
「威嚇のつもりで一発撃ったのが、狙われているように思ったのかもしれません」
突然、マトイの右手が瞬の胸ぐらに伸びた。
庇おうと出した腕を掴まれ、体ごとマトイの顔のすぐ近くまで引き寄せられた。
「殺し合いに乗っていようが無かろうが、誰だっていきなり銃で撃たれたら反撃するだろうよ!」
「ここは、殺し合いの場なんだ。自分の命を守ろうとするのがいけないんですか!」
その答えに激高したマトイは勢いよく手を突き放す。
瞬は冷たい水の染み込んだ絨毯の上に尻餅を付くような格好で無様に転倒した。
荒い息をしたマトイが上から瞬を睨み付けた。
「自分のことばかり言ってるんじゃねぇ!まるで解ってねぇようだな。いいか、たとえお前がいやいやメガネなんとかって奴になったとしてもなぁ!
俺たちは武器を持つ限り、それを持つ怖さと命を守る責任だけは、絶ッ対に忘れちゃいけないんだよ!」
マトイは言い放つと、瞬に背を向ける形で、反対側のソファーの端へどかりと腰を下ろした。
瞬ものろのろと体を起こし、ソファーへずり上がった。
瞬にだって、マトイが言うことが正しいのは心の隅で解っている。
だがマトイに掴まれた右腕が痛み、 濡れた学生ズボンの裾からジワジワ這い上がってくる冷たさと不快感は払拭しきれない。
それは更なる怒りに変わり、瞬の心で留まる。
(右手が使えなくなったら、CGが描けなくなったらどうしてくれるんだよ!)
瞬はマトイの背を見つめ、左手のデジタイザーに手を掛けた。
(その背中にメガトマホークを突き立ててやろうか?)
けれど、何とかその衝動を抑えた。
激情に駆られて変身コードを押したところで、この体ではまともに戦える筈が無いのだから……
項垂れた瞬の心を見透かしたようにマトイが振り返った。
「瞬、一つ言っとくがな。やたらむやみに変身するなよ」
心中を気付かれたかと思ったが、マトイの表情に怒りは微塵もなかった。
マトイは冷静な口調で言葉を続けた。
「お前を助けてる途中、いきなり着装前の姿に戻ったんだ。その後、何度か試したんだが着装できなかったぜ。
まさか一回こっきりしか変身できねぇ訳ねぇし。朝には元に戻ってると思うがな。多分首輪のせいだろうな」
瞬は何も言わず黙ったまま、マトイから視線を外した。
マトイの視線は、いたわるように瞬の傷の上を流れ、溜息と共に床に落ちた。
気まずさと空気の重さに耐えきれなかったのか、マトイが口を開いた。
「お前が銃を構えたって、確かに無理はねえかもな。俺だって、まだ何がなんだかわかんねぇよ」
マトイは頭を掻きむしると、デイバックから名簿を出して何人かに印を付けた。
「俺の知り合いは印の通りだ。○は信頼できる奴だ。×のドロップ、こいつはだめだ。△は……俺の知ってるジルフィーザなら話のわからねぇ奴じゃないが」
マトイは人差し指でトン、トンとドロップとジルフィーザの文字を叩いた。
「俺もよくわからねんだよ。この二人は本当なら存在するはず無いんだ。 このジルフィーザとドロップは確かに俺たちが倒したんだからよ」
「……何で俺に話すんですか」
マトイの意図が飲み込めず瞬は問い返した。
「何でって作戦だよ、作戦。二人で同じ正義の戦士を捜し出してロンって奴を倒すんだよ。そうだ、さっきの奴はお前の知り合いって事にしとくから」
どうやら、マトイは瞬と行動を共にする気でいるらしいが……
「顔も見てないし名前も知らないのに何で俺の知り合いなんだよ」
「いちいちうるさいね、瞬は。お前は他に知り合いいないんだからいいじゃねぇか」
何だよ、それ。
訳の分からないマトイ節に瞬は軽く吹き出しそうになった。
腹は立ったし痛い思いもした。夢を叶える目的のためには正義の戦士など不必要だが傷付いた体だ。
回復するまではマトイを利用する。それが一番ベストだ。
「……まぁ、いいか」
「あぁ、い~んだよ。気合いで乗り切ればさ、気合いで。まっ、とりあえず朝まで休憩としようぜ」
そう言うとマトイはソファーにゴロンと横になった。
お気楽なその姿に、瞬も一気に肩の力が抜けた。
(気合いとか正義だとか勝手に言ってるけど、俺は夢を叶える事は絶対に諦めない。
これからの事は悪いけど、傷の具合と成り行き次第で決めさせてもらうよ。それまで頼んだよ、マトイさん)
ちらりとマトイの横顔に目をやり、瞬は再び柔らかいソファーに身を委ねた。
【名前】並木瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:G-7都市 1日目 早朝
[状態]:全身打撲、応急処置済み
[装備]:デジタイザー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:元の世界に戻って、夢を叶える
備考:瞬のディパックはG-7エリアのどこかに吹き飛ばされました。中身が無事かは不明です。
また、中身の内容は不明ですが、瞬は確認済みです。
瞬はマトイから、×ドロップ、△
冥王ジルフィーザ、○
浅見竜也、○
シオン、○
ドモンの情報を得ました。
変身制限があることを知りました。
【名前】巽マトイ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:未来戦隊タイムレンジャーvsゴーゴーファイブ後
[現在地]:G-7都市 1日目 早朝
[状態]:健康、仮眠中
[装備]:ゴーゴーブレス、レスキューロープ
[道具]:確認済み。
[思考]
基本行動方針:みんなを救う、気合いで乗り切る
第一行動方針:仲間を見付けてロンを倒す
備考:変身制限があることに気が付きました。
最終更新:2018年02月11日 01:42