奇縁 ◆i1BeVxv./w



 地図を見ればわかることだが、彼らが殺し合いを行う会場は10×10のエリアからなっている。
 1エリアの広さは5km×5km。つまり、会場の面積は2500平方km。これは佐賀県とほぼ同等の広さだ。
 これほどの広さだと同エリア内にいたとしても、合流できる確率は決して高くない。それが別エリアともなればなおさらだ。
 しかし、出会いは奇縁。巡り会う者は意図せずとも必ず巡り会う。
 明石暁とヒカル。彼らは別のエリアに飛ばされながらも、F-1エリアにて出会った。


 二人が最初に抱いた感想は異なるものだった。
 明石は安堵。一方のヒカルは疑惑だ。
 明石は以前、ヒカルと共にスーパー戦隊の一員として戦ったことがある。
 共に戦った仲間を疑う理由など明石には微塵にもない。
 だが、ヒカルは違う。ヒカルは明石と出会う前の時間軸から召喚されている。よって、明石とは初対面だ。
 ロンに啖呵を切る様を見てはいたが、それだけで明石が殺し合いに乗っていないとは判断しきれない。
「久しぶりだな、ヒカル」
「久しぶり?」
「どうした?まさか、俺の顔を見忘れたか」
 ヒカルはまるで旧知の間柄のように話す明石に違和感を覚える。
 どんなに記憶の引き出しを開けようとも、明石と会った記憶は出てこない。
 ならば、何故、明石は自分のことを知っているのか?
 明石の策略か?それならば何故、自分と会ったことがあるかのように話す必要があるのか?
 それとも冥獣人コボルトの魔法にかかって、本当に自分が記憶を失っているとでもいうのか?
 ヒカルの頭の中は疑問符が埋め尽くされていた。
「本当にどうしたんだ?顔色が悪いようだが」
「……キミはボクのことを知っているようだが、ボクはキミのことを覚えていない。
 一体キミは誰なんだ?何故、ボクのことを知っている?」
 混乱の末、思わずヒカルは馬鹿正直にも自らの疑問をそのまま明石にぶつけた。相手によっては疑惑を持たれかねない行為だ。
 だが、聡い明石はヒカルの真剣な表情から、ヒカルが嘘を吐いているわけでも、操られているわけでもないと見抜いた。
「わかりました。俺が何故あなたのことを知っているか、順を追って説明しましょう」
 明石は手近な出っ張りに腰を据える。少し長い話になることを理解したヒカルも合わせて、腰を据えた。
 明石は語る。
 時の魔人クロノスに、異空間に閉じ込められ、その中でヒカルと出会ったこと。
 力を合わせ、異空間からの脱出に成功したこと。
 結集したスーパー戦隊の魂をぶつけ、三人の巫女を取り込んだクロノスに勝利したこと。
「にわかには信じがたい話だ」
「そうか……」
 ヒカルの疑念はやはり晴れない。ヒカルの時間軸からすれば、全てが後の話。信じろと言うのが無理な話だ。
 しかし、明石がヒカルが嘘を吐いていないと悟ったように、ヒカルもまた、明石の人柄を見抜いていた。
「だが、キミが嘘を吐いているとは思えないのもまた事実。創作にしてはあまりにもリアリティがありすぎるしね」
 柔和な笑みを浮かべたヒカルに明石もほっと胸を撫で下ろした。
「ならば、ここで疑問とするべきは何故それほどの戦いをボクは覚えていないのかだけど……」

――カタリ

 突如、聞こえた物音に明石とヒカルは警戒する。
「誰だ!」
 明石が叫ぶと同時に、駆け出す足音が聞こえた。
「逃がすか!」
 反射的に明石はその足音の主を追った。ヒカルもそれに続く。
 懸命に追う二人。だが、その差は縮まらない。
 逃亡者の走力が明石たちと遜色のないこともあるが、一番の要因はこの場所だ。
 不運にもここは広い遺跡エリアの中でも迷宮部に当たる場所。入り組んだ複雑な地形は逃亡者に味方する。
 一流の冒険者の明石といえども、初めての場所では逃亡者の確保も容易ではなかった。
「ちっ、逃したか。一体誰だったんだ?」
「明石くんだったね。疑問の解答を求めるのはとりあえず後回しにしよう。
 何故、ボクと君の記憶が食い違うのか、気にはなるが、こうしている間にも被害は出ているかも知れない。
 ボクの目的は死んだブレイジェルの遺志を継ぎ、殺し合いを止めること。
 時間は一刻を争う。協力してくれるね」
 明石はヒカルの問いに迷わず頷く。
「当たり前だ。仲間と合流し、ここから脱出する。それが今回の、俺のミッションだ」
 力強い言葉にヒカルは明石が信じるに値する人物であることを確信した。


「ふっ!」
 高台から飛び降り、素早く物陰へと身を隠す。耳を澄ませ、注意を集中するが、追っ手の足音は聞こえてこない。
「どうやら巻いたようね」
 そう呟いたのは真咲美希。彼女もまた、思わぬ邂逅を果たしたひとり。
 彼女が明石とヒカルを発見した時、彼らは会話の最中だった。
 様子を探っている内に聞こえてきた会話に夢中になり、思わず身を乗り出してしまった。
 反射的に逃げてしまったが、その判断は正解だろう。
 美希が今求めるのは、苦もなく殺せる参加者か、自分の手足のように利用できる参加者。
 明石もヒカルもその条件は満たしていない。もっとも、条件に当てはまる参加者自体が少ないのだが。

 初めは何の嫌がらせかと思った。
 詳細付名簿を読めば読むほど、強く、聡く、殺し合いに乗るとは思えない面子ばかり。
 これでは遅かれ早かれ、参加者たちは団結し、ロンの打倒を目指すだろう。
 しかし、見方を変えれば、ある推論が成り立つ。
 それこそがロンの目的で、そのための自分なのではないかと。
 これはゲーム。
 自分のような者を駒とし、いかに参加者たちの団結を防ぎ、殺し合いを行わせるか。
 殺し合いを成功させ、最後のひとりにすることができれば、ロンの勝ち。団結を許し、企みを看破されれば、ロンの負け。
「そうなんでしょ、ロン。そのために私にはこの名簿を与えたんでしょ?この重要な情報が書かれた名簿を」
 明石とヒカルの会話から、美希は名簿に書かれている項目が真実であることを確信した。
 項目に時間軸と書かれ、刻まれる日付。参加者それぞれに欄があり、ほぼ全てがバラバラに記載されている。
 最初はこれがどういう意味を持つのか解らなかったが、何のことはない。書かれた意味そのままに読めばいい。
 日付は参加者が連れて来られた時間。
 その証拠に自分の記憶にある"今日"の日付と名簿の自分の欄に書かれている日付とが一致し、明石の欄にはヒカルの欄に記載されている日付より、後の日付が記載されている。
 勿論、ロンが意味あり気な日付を記載することで、荒唐無稽な推理をさせ、楽しんでいる可能性もある。
 だが、それは次に接触できた相手に確認すればいい話だ。
 美希は名簿をパタンと閉じた。
 再び耳を澄ますが、やはり足音は聞こえない。幸運にも明石たちは別の道を歩んだようだ。
「さて、行くとしましょうか!」
 気炎を揚げ、自らを鼓舞し、美希は駆け出した。
 時間軸の違い。これを利用できる時間は限られている。
 ならば、早く見つけ出さねばならない。
 利用できる愚者を。


【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:F-1遺跡 1日目 深夜
[状態]:健康
[装備]:アクセルラー
[道具]:不明(確認済)
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:遺跡から脱出する。
第二行動方針:ヒカルとの記憶の齟齬を解決する。

【名前】ヒカル@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage35後
[現在地]:F-1遺跡 1日目 深夜
[状態]:健康
[装備]:グリップフォン
[道具]:不明
[思考]
基本方針:ブレイジェルの遺志を継ぎ、殺し合いを止める。
第一行動方針:小津麗の安全を確保する。
第二行動方針:スフィンクス・ティターンに対して警戒。
第三行動方針:明石との記憶の齟齬を解決する。


【名前】真咲美希@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:物語中盤
[現在地]:F-1遺跡 1日目 深夜
[状態]:健康
[装備]:闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:支給品一式×2、拡声器、詳細付名簿
[思考]
基本方針:なつめを救うために勝ち残る
第一行動方針:利用できる者は利用する、そうでない者は殺す。

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最終更新:2018年02月11日 08:41